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閑話休題 北の国では
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癒し子ユーリ様はリオン第二王子殿下とその護衛騎士
であるレジナスの二人から求婚され、それを受け
入れたという話は僕も聞いている。
ヒルダ達と三人でどんな結婚祝いを贈ろうか?いや、
もしかするとあの可愛らしいユーリ様のことだから
もっと求婚者が現れてまだ伴侶が増えるかもしれない
から祝いの品を贈るのはもう少し待とうかと話して
いたこともある。
その話題の中でシグウェル宮廷魔導士団長の話も
出ていた。なぜなら・・・
「先日ドラグウェル殿と話した時は勿体ぶるように
それらしい事を言っていたがやはりそうか・・・!」
シグウェル宮廷魔導士団長の父親、ドラグウェル様は
先日ここダーヴィゼルド領を訪れていた。
ユーリ様がグノーデル神様の加護をつけたあの山を
確かめるためだ。
その際ヒルダと話した時に自分の息子がユーリ様の
伴侶になるらしい事を匂わせていたのだ。
ドラグウェル様が帰られた後に何事も白黒はっきり
つけたがる性分のヒルダは「はっきりしないか
紛らわしい!」と怒って八つ当たりのようにドスドス
と氷柱を帰ったその馬車跡に突き立てていたっけ。
「その上シェラザード隊長もだと?あの色気だけは
無駄にあって羽虫がたかるが如く男女を問わず人を
惹きつけるくせに、絶対他人には心を開きそうには
ない輩までをも虜にするとはさすがユーリ様!」
「ヒルダ、それはちょっとシェラザード様に失礼
じゃないかな・・・さすがに言い過ぎ」
国の特殊部隊の隊長に対してなんて言い草だ。
中央の人間に聞かれたら処罰されないだろうか。
心配した僕に何が?とヒルダは意に介さない。
「アイダ、それは確かな情報か?」
問われた女官長はしっかり頷く。
「ええ。話によればユーリ様の方から魔導士団長様に
伴侶になるかどうか迫られたとか。シェラザード
隊長様については続報待ちですが、こちらに滞在して
いた時のお二人はとても良い雰囲気でお似合いでした
し、朗報が聞けるのも時間の問題かと。」
「そうか!それはまあ、なんとめでたい話だ!」
「ユーリ様はただいま西のコーンウェル領に滞在中
でして、どうやらそこでも何やらシェラザード隊長様
と少し進展があったようでございますよ。」
「さてはコーンウェルのジジイ、自分の孫をユーリ様
に薦めようと何か余計な事をして逆にあの二人の仲を
近付ける羽目になったな?」
ヒルダと女官長の二人はえらく話が盛り上がっていて
実に楽しそうだ。
そんな彼女たちを前に、僕とバルドルは互いに目を
見合わせてやれやれと苦笑する。
・・・ドラグウェル様から先に聞いていたから
魔導士団長の求婚の件はまだ理解できるけど、
密偵の噂話にもまだ登って来ないシェラザード隊長
の話・・・しかも中央も通り越した遠いコーンウェル
の話まですでに把握している侍女の情報網って一体
何なんだ。
ひょっとして各関所に潜ませている密偵よりも
ある意味情報収集能力に優れてるんじゃないか?
そんな風に思っていたら、
「こうしてはいられない!」
ザバッ、と勢いよくヒルダが湯から上がった。
「え、急にどうしたの⁉︎」
驚いた僕に振り向いたヒルダはサッと軽い口付けを
一つ落とすと、湯上がり用のローブを身に纏いながら
ニヤリと笑う。
「ドラゴン狩りだ。確かはぐれの一匹竜が山脈の
東端で目撃されたと報告を受けていたな。すぐに
出掛けてユーリ様のご結婚祝いに献上しよう。
ただの竜でもいいが、もし氷瀑竜ならその骨から
素晴らしく美しい杯も作れるぞ。姿を隠す前に早く
行って捕まえて来なければ!」
「一人で⁉︎ダメだよ、危険だし今日は午前中から
近隣の諸侯たちを集めた会議が」
「それはまかせた!狩りは一人じゃない、来い
バルドル‼︎」
ええ・・・。
「言い出したら聞かないんだから・・・」
「こちらはまかせろカイゼル。そのかわりすまないが
フレイヤの朝食は頼む。」
やれやれとバルドルは僕の肩をポンと叩いてヒルダに
続き湯から上がるとその後を追った。
しっかりと筋肉のついて均整の取れているがっしりと
したその体躯は、細身で肉の付きにくい僕から見ると
羨ましいほどだ。
そんな体格に恵まれている彼だからこそ、ヒルダを
任せても安心だけど・・・。
「あんなにはしゃいじゃって・・・。ユーリ様に
突然竜の骨やら何やらを送りつけて驚かれなければ
いいけれど。」
せめてダーヴィゼルドで一番の彫刻師にそれは美しく
加工してもらってから贈ろう。
ヒルダ達が出掛けている間にフレイヤに朝食を
食べさせて、会議の準備と仕切りをして、それから
彫刻師を呼び竜の骨や鱗を加工した杯やアクセサリー
のデザインを決めて・・・?
急に忙しくなりそうだ。
ああそうだ、それからついでに一応念のため
ヘイデス国の聖女の話も報告書に入れて中央には
教えておこう。
「それにしても三人・・・いや、四人の伴侶かあ。」
しかもいずれ劣らぬ国の中心人物達ばかりだ。
彼らがしっかりとユーリ様をお支えしてくれるなら、
ルーシャ国はこれからも安泰だろう。
ヒルダの喜びようも分かる気がする。
「僕はただこの北の国からその幸せをお祈りする
だけだけど。」
またいつか、ここを訪れてくれるならその時は
恩返しも兼ねて手厚くもてなさせてもらおう。
ヒルダ達がいなくなり、僕一人になった湯船は広く
静かで少し寂しい。
けれど、これからの忙しさを考えるとせめて今だけ
はゆっくりしようと僕は口元まで温かな湯の中へ
静かに体を沈めると目を閉じた。
であるレジナスの二人から求婚され、それを受け
入れたという話は僕も聞いている。
ヒルダ達と三人でどんな結婚祝いを贈ろうか?いや、
もしかするとあの可愛らしいユーリ様のことだから
もっと求婚者が現れてまだ伴侶が増えるかもしれない
から祝いの品を贈るのはもう少し待とうかと話して
いたこともある。
その話題の中でシグウェル宮廷魔導士団長の話も
出ていた。なぜなら・・・
「先日ドラグウェル殿と話した時は勿体ぶるように
それらしい事を言っていたがやはりそうか・・・!」
シグウェル宮廷魔導士団長の父親、ドラグウェル様は
先日ここダーヴィゼルド領を訪れていた。
ユーリ様がグノーデル神様の加護をつけたあの山を
確かめるためだ。
その際ヒルダと話した時に自分の息子がユーリ様の
伴侶になるらしい事を匂わせていたのだ。
ドラグウェル様が帰られた後に何事も白黒はっきり
つけたがる性分のヒルダは「はっきりしないか
紛らわしい!」と怒って八つ当たりのようにドスドス
と氷柱を帰ったその馬車跡に突き立てていたっけ。
「その上シェラザード隊長もだと?あの色気だけは
無駄にあって羽虫がたかるが如く男女を問わず人を
惹きつけるくせに、絶対他人には心を開きそうには
ない輩までをも虜にするとはさすがユーリ様!」
「ヒルダ、それはちょっとシェラザード様に失礼
じゃないかな・・・さすがに言い過ぎ」
国の特殊部隊の隊長に対してなんて言い草だ。
中央の人間に聞かれたら処罰されないだろうか。
心配した僕に何が?とヒルダは意に介さない。
「アイダ、それは確かな情報か?」
問われた女官長はしっかり頷く。
「ええ。話によればユーリ様の方から魔導士団長様に
伴侶になるかどうか迫られたとか。シェラザード
隊長様については続報待ちですが、こちらに滞在して
いた時のお二人はとても良い雰囲気でお似合いでした
し、朗報が聞けるのも時間の問題かと。」
「そうか!それはまあ、なんとめでたい話だ!」
「ユーリ様はただいま西のコーンウェル領に滞在中
でして、どうやらそこでも何やらシェラザード隊長様
と少し進展があったようでございますよ。」
「さてはコーンウェルのジジイ、自分の孫をユーリ様
に薦めようと何か余計な事をして逆にあの二人の仲を
近付ける羽目になったな?」
ヒルダと女官長の二人はえらく話が盛り上がっていて
実に楽しそうだ。
そんな彼女たちを前に、僕とバルドルは互いに目を
見合わせてやれやれと苦笑する。
・・・ドラグウェル様から先に聞いていたから
魔導士団長の求婚の件はまだ理解できるけど、
密偵の噂話にもまだ登って来ないシェラザード隊長
の話・・・しかも中央も通り越した遠いコーンウェル
の話まですでに把握している侍女の情報網って一体
何なんだ。
ひょっとして各関所に潜ませている密偵よりも
ある意味情報収集能力に優れてるんじゃないか?
そんな風に思っていたら、
「こうしてはいられない!」
ザバッ、と勢いよくヒルダが湯から上がった。
「え、急にどうしたの⁉︎」
驚いた僕に振り向いたヒルダはサッと軽い口付けを
一つ落とすと、湯上がり用のローブを身に纏いながら
ニヤリと笑う。
「ドラゴン狩りだ。確かはぐれの一匹竜が山脈の
東端で目撃されたと報告を受けていたな。すぐに
出掛けてユーリ様のご結婚祝いに献上しよう。
ただの竜でもいいが、もし氷瀑竜ならその骨から
素晴らしく美しい杯も作れるぞ。姿を隠す前に早く
行って捕まえて来なければ!」
「一人で⁉︎ダメだよ、危険だし今日は午前中から
近隣の諸侯たちを集めた会議が」
「それはまかせた!狩りは一人じゃない、来い
バルドル‼︎」
ええ・・・。
「言い出したら聞かないんだから・・・」
「こちらはまかせろカイゼル。そのかわりすまないが
フレイヤの朝食は頼む。」
やれやれとバルドルは僕の肩をポンと叩いてヒルダに
続き湯から上がるとその後を追った。
しっかりと筋肉のついて均整の取れているがっしりと
したその体躯は、細身で肉の付きにくい僕から見ると
羨ましいほどだ。
そんな体格に恵まれている彼だからこそ、ヒルダを
任せても安心だけど・・・。
「あんなにはしゃいじゃって・・・。ユーリ様に
突然竜の骨やら何やらを送りつけて驚かれなければ
いいけれど。」
せめてダーヴィゼルドで一番の彫刻師にそれは美しく
加工してもらってから贈ろう。
ヒルダ達が出掛けている間にフレイヤに朝食を
食べさせて、会議の準備と仕切りをして、それから
彫刻師を呼び竜の骨や鱗を加工した杯やアクセサリー
のデザインを決めて・・・?
急に忙しくなりそうだ。
ああそうだ、それからついでに一応念のため
ヘイデス国の聖女の話も報告書に入れて中央には
教えておこう。
「それにしても三人・・・いや、四人の伴侶かあ。」
しかもいずれ劣らぬ国の中心人物達ばかりだ。
彼らがしっかりとユーリ様をお支えしてくれるなら、
ルーシャ国はこれからも安泰だろう。
ヒルダの喜びようも分かる気がする。
「僕はただこの北の国からその幸せをお祈りする
だけだけど。」
またいつか、ここを訪れてくれるならその時は
恩返しも兼ねて手厚くもてなさせてもらおう。
ヒルダ達がいなくなり、僕一人になった湯船は広く
静かで少し寂しい。
けれど、これからの忙しさを考えるとせめて今だけ
はゆっくりしようと僕は口元まで温かな湯の中へ
静かに体を沈めると目を閉じた。
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