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第十六章 君の瞳は一億ボルト

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「やっと終わったぁ、気疲れしました!」

オーウェン様推薦の伴侶候補的な青年達とのお茶会を
終えて部屋に戻り、行儀が悪いと分かりつつも
ベッドへとダイブした。

うつ伏せで布団の柔らかさを堪能していれば、
お疲れ様でしたとシェラさんがベッドサイドの
テーブルへ紅茶を置いてくれる。

それを枕を抱きしめながらちらりと見る。

「シェラさん、私を使ってあんな怪しい催眠術
みたいな事するなんて扱いが酷くないですか?」

まあそのおかげで過剰接触はまぬがれたみたいな
ところはあるけれども。

「申し訳ありません、あの場ではああするのが
場を納めるのには最適でしたもので。」

「勇者様の結界がある場所を見て、いい温泉が
あったら入って後は神殿があればそこにちょっと
加護を付けて帰るだけのゆっくりした休暇だった
はずなのに、こんな風に変なところで気を使うことに
なるとは思いませんでした。」

ふうとため息をつく。

今回は個人的に興味があるものを見に来ただけで、
何かの要請があっての視察じゃない完全な私的旅行
なのだ。

だから非公式訪問、ということで盛大な晩餐会も
なければコーンウェル領のあちこちに加護をつけて
回る予定もない。

まあ、それだとさすがに悪いので神殿に立ち寄って
いつものパン籠を納めたり、帰る前にこのお城のある
町だけにでも癒しの力を使って行こうとは思っている
けど。

温泉と勇者様の結界付きの場所の見学とおいしい
ご飯。それを楽しむつもりで来たらまさかお見合い
が待ち構えているなんて。

とりあえず温室では当たり障りのない会話をして
愛想良く振る舞っておいた。

みんなに平等に、誰かに気を持たせることもなく
対応出来ていたと思うんだけど。

そう思っていたらユリウスさんが騒々しく戻って
来た。

「あーもう疲れた!まったく、何が悲しくて団長も
いないのにこき使われなきゃいけないんすかねぇ⁉︎」

「お帰りなさいユリウス副団長。首尾はどうです?」

「アンタのお望み通り、明日の昼前にオーウェン様と
殿下の会談を取り付けたっす!さすが俺‼︎」

その言葉にシェラさんは満足そうに頷いているけど
ユリウスさんはぐったりしている。

「お疲れ様ですユリウスさん。リオン様、機嫌が
悪くならなかったですか?」

リオン様も、まさかゆっくりしておいでと送り出した
先で私のお見合いがセッティングされているなんて
思っても見なかっただろう。

そうしたら、それを伝えた時の様子を思い出したのか
ユリウスさんの顔色が悪くなった。

「話を聞いて開口一番『・・・へぇ、そうなんだ。』
って言って微笑んでましたけどその間がめちゃくちゃ
怖かったっす!どう考えてもあれは怒ってるっすよ。
まあだからこそ明日の話し合いではユーリ様に余計な
事はしないようにって強めにオーウェン様には言って
くれそうっすけど。」

と、ユリウスさんは言いながらシンシアさんが淹れて
くれたお茶を口にした。

「そういえばレジナスは?あいつ、ユーリ様を置いて
一体どこにいるんすか?」

そういえば私がレジナスさんと離されてお茶会に
行ったのをユリウスさんは知らないんだっけ。

さっきはシェラさんに追い立てられるみたいにして
リオン様と連絡を取るように部屋から出されてた。

だからユリウスさんがここから出た後にあった話を
したら、

「それでレジナスの奴はクソ真面目に騎士の演習に
行っちゃって今もまだ戻って来てないんすか?
大丈夫っすかあいつ、なんならここに滞在中はずっと
護衛じゃなくユーリ様の伴侶として振る舞ってもらう
方がいいんじゃないすか?」

そんな事を言い出した。それにシェラさんは、

「今夜の晩餐会ではそのつもりです。ですが滞在中
ずっとそのような立場でいろと言ってもあの男は 
緊張してしまって護衛騎士以下の働きしか出来ない
役立たずに成り下がる恐れがありますよ。」

なんかすごく手厳しいことを言った。いやまあ、
さっきオーウェン様の前での対応が一歩遅れたのを
見てもそんな気はするけどさあ・・・。

「相変わらずユーリ様が絡むと辛辣っすねぇ。」

「当然です。とりあえずユーリ様をお守りするために
伴侶としてのレジナスが必要なのは明日の殿下と
オーウェン様の会談まで。ユーリ様、それまでの
間レジナスと二人でオーウェン様の前では仲の良い
姿を見せて下さいね。他の者達がユーリ様をお誘い
する隙を見せてはいけませんよ。」

そう言いながら物悲しそうな目で私を見つめる。

「本当はオレがずっとお側にいてお世話をしたい
ところですが・・・こういう時に伴侶という肩書きの
重さを実感しますね。」

そんな事まで言って、まだベッドの上にいる私の
服の裾に口付ける。

それを見たユリウスさんは「いや、アンタだって
普段から並の護衛騎士以上の事してると思うっすよ」
と呟いていたけどシェラさんは聞こえないふりだ。

「ユーリ様、晩餐会では多少の恥ずかしさは我慢して
レジナスの隣であの大男をリードしてあげて下さい。
あの男、賭けてもいいですが自分だけでは付け焼き刃
では伴侶らしい振る舞いは出来ないはずです。」

「え?何ですか、そんなに固くなるって事ですか?」

「王都のカフェでユーリ様にケーキを食べさせようと
して出来なくなっていたではありませんか。そういう
事です。」

ああ、そういえばあの時は食事介助するみたいに
私がレジナスさんの手を取って自分でケーキを口に
したっけ。

確かにあんな風になったら、仲が良いはずの伴侶と
しては不自然かも知れないけど・・・。

「私の隣の席に座ってご飯を食べるくらいのこと、
レジナスさんが出来ないわけないですよ!私を
膝の上に座らせてお昼寝までさせることができる
んですよ?」

心配するシェラさんにそう笑う。それを聞いた
ユリウスさんは

「なんつー盛大な前フリっすか・・・」

とか言っているけど大丈夫だって。レジナスさんは
頼りになる、やる時はやる男なんだから。



・・・と、そう思っていた時もありました。

「大丈夫ですかレジナスさん。」

私を縦抱きにして晩餐会の開かれる広間へと向かう
レジナスさんを見つめる。

私と目が合ったレジナスさんは目尻を赤くして
目を逸らした。

「大丈夫だ、問題ない。」

いや、問題あるから声を掛けてるんですけど。

レジナスさんが着ているのはいつもの黒い騎士服
じゃない。

私のドレスや装飾品に色や模様を揃えてあるお揃いの
貴族らしい服だ。

『こんな事もあろうかと、念のためにレジナス様の
御衣装も用意しておいて良かったです』

そんな風にシンシアさんは微笑んでいたけど、まさか
お揃いコーデの夜会服まで持って来ているとは
思わなかった。有能過ぎる。

だけどそれを見て、更に「お揃いの服でこういう場に
出られるのは初めてですね!頑張って素敵に見える
ようにしますね!」と張り切ったマリーさんの言葉を
聞いたレジナスさんはそこでぽかんとして

「お揃い・・・?」

と呟いて動きが止まった。固まるのが早過ぎる。

そのレジナスさんを何とか再起動させて・・・
正確にはシェラさんが鞭で縛り上げて移動させて
着替えを手伝って今に至る。

「なぜオレがユーリ様でなくこんな男の着替えを
手伝わなければいけないんですかね?ユーリ様、
せめてユーリ様の髪だけはオレに整えさせて下さい。
今日最後に触れたのがレジナスの体などでは悪夢も
いいところです。」

そんなレジナスさんには聞かせられないひどい事を
切々と訴えられたので、私の髪型はマリーさんでなく
シェラさんが作ってくれた。

しかも気分転換になるならと好きにさせたら猫耳だ。

モリー公国で謎の珍獣少女に間違えられたし、
もう当分の間は猫耳はいらないと思っていたのに。

だけどそれに抗議する暇もない。なぜならそんなこと
よりも、今目の前のレジナスさんをどうにかしないと
いけないから。

こんな調子で隣同士の席に座って、にっこり仲良く
ご飯を食べるなんて出来るのかな。

晩餐会が始まる前から心配しかない。

一抹の不安を抱えながら、お城の従者さんに案内
されて私達は席に着いた。
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