上 下
331 / 699
挿話 突撃・隣の夕ごはん

6

しおりを挟む
タラコスパゲティにクリーム煮のパイ包み焼き、
シーフードサラダ、魚介類がたっぷり入っている
トマトスープ。

マリーさんが前もって注文しておいてくれたお料理が
どんどん私達のテーブルに運ばれてきた。

それを運んでくれたのはニックさんと、これまた
久しぶりに会えたウェンディさんだ。

「あー、ホントにリリちゃんだ!会えて嬉しい‼︎
あれ?今日はあの色男さんは一緒じゃないの⁉︎」

華やかな笑顔でお皿を置いてくれたウェンディさんが
きょろきょろする。

ウェンディさんもシェラさんが私の恋人だって
誤解してるのかな。

「あの時はウェンディさんにもお世話になりました!
急にいなくなってごめんなさい。」

そうお礼と謝罪をすれば、

「いいのよ!事情は聞いたから。こっちこそ、
リリちゃんの話をちゃんと聞かずに勝手に働かせて
しまってごめんねぇ。ていうか、リリちゃんを
連れ戻しに来たあの色男さんとその後進展は⁉︎」

ワクワクした顔でウェンディさんが私を見てくる。

進展・・・?やっぱり何か誤解している。

「シェラさんとはなんでもない仲ですよ。迷子に
なった私を探し出してくれただけですから!」

「え、ホントに?それニックにも言った?」

「シェラさんはただの護衛だってことは言いました
けどそれが何か?」

そう答えれば、なぜかウェンディさんの顔が
笑み崩れた。

「なんだ、そっかあ!そうなのね~。リリちゃんの
恋バナ、聞きたかったのになあ。」

「恋バナするような相手はいませんよ?」

まさかリオン様達の話をするわけにもいかないし。

そう思いながら話せば、ウェンディさんは楽しそう
にテーブルの上のお皿をてきぱきと並べる。

「あらそうなの!そういうお相手はまだいないと。」

あの色男さん、かわいそうだわーと言っているから
やっぱりウェンディさんは何か誤解している。

「じゃあごゆっくり!またニックがお皿を下げに
くるから相手をしてやってね!」

そうウィンクをしてウェンディさんは下がって
しまった。

「・・・はっきり言ってやる方が彼にとっても
良くないですか?」

私とウェンディさんの会話を聞いていたデレクさんが
またエル君にこそこそと話している。

「そうですね。まさか周りの人間も彼を煽っている
とは思いませんでした。マリーさん、後でこっそり
彼に話をしてもらってもいいですか?」

「承知しました。なるべくニックを傷付けないように
見込みはないという事を伝えますね。」

エル君達のこそこそ話に巻き込まれたマリーさんも
頷いているけど、私だけ話が全く見えない。

「みんなしてなんの話ですか?」

なんか教えてくれなさそうだけど一応聞いてみた。

思った通りマリーさんは

「いえ、こちらの話です。そんな事よりリリ様は
今度こそお食事を楽しんで下さいね。ほら、こちらは
熱いうちがおいしそうですよ。」

やっぱり教えてくれなかった。気になるけど一度
食事を口にすれば、すぐにそのおいしさに夢中になり
エル君達の話を忘れてしまう。

その間も何度かニックさんがお皿を下げに来たり
デザートを持って来てくれたりして、その度に何か
言いたそうにしていた。

何だろう?と思っていたけどお会計をするマリーさん
を残して外で待っていたら、わざわざ見送りに出て
来てくれたニックさんの様子がさっきまでと違って
ヘンだった。

私をじっと見てため息をつくと、

「・・・こんな歳からもう将来が決まってるなんて
貴族のお嬢様は大変なんだなあ。」

そう言われた。何のことか分からなかったけど、
ご飯がとてもおいしかったことを笑顔で伝えれば
そんな私を見つめたニックさんは嬉しそうにまた
ほんのりと頬を染めた。

「リリちゃんの所で厨房に人を募集はしてないの?
もし空きがあったら行きたいからその時はぜひ声を
かけてもらえれば・・・」

「往生際が悪いですよニックさん。」

名残惜しそうなニックさんをマリーさんがピシャリと
遮った。

「え?ニックさんうちで働きたいんですか?」

マリーさんを見上げれば、

「リリ様にお仕えしたいという人は護衛騎士から庭師
に至るまでたくさんいますからね。わざわざそんな
採用枠の狭いところに将来有望なニックさんが来る
のは勿体無いです。」

そんな事を言う。なるほど、こんな人気店をやって
いるニックさんを奥の院に採用するのはここの食事を
楽しみにしている街の人達がかわいそうだ。

ていうか、奥の院で働きたい人達がたくさんいる
なんて話も全然知らなかった。

「また王都に遊びに来る時は立ち寄りますから。
その時はぜひまたお話して下さいね!」

マリーさんに断られてなんだか少し気落ちしている
ニックさんを励ますように笑いかける。

そうすればじっと見つめられ、待ってるよ。と
ニックさんに見送られた。

「・・・ユーリ様のお姿でないのに人を惹きつける
のはさすがというか何というか。しかしあれでは
いつまで経っても『リリ様』を忘れられないのでは
ありませんか?」

また私と手を繋いで歩いているデレクさんがそんな
ことを言って、マリーさんは苦笑いしている。

「いっそ正体を打ち明けた方が諦めがついて良かった
のかも知れませんね。」

それは困る。せっかく仲良くなったのに、私が
癒し子だと知って変に恐縮されては悲しい。

「あそこへはまた気軽にご飯を食べに行きたいし、
ニックさん達ともおしゃべりをしたいのでそれは
困ります!絶対に私の正体は明かさないで下さいね」

お願いします!と二人を見上げれば、マリーさんと
デレクさんには一瞬言葉に詰まった後にため息を
つかれてしまった。

「・・・このお姿でも充分可愛らしいのに、さらに
そんな風にかわいくお願いをされると困ってしまい
ますね。」

そう笑ったマリーさんにデレクさんも

「隊長とレジナス様が心配する気持ちも分かります、
こんなに愛嬌のある方が街で目立たないわけが
ありません。絶対に手を離さないように、護衛にも
改めて身を入れます。」

そんな事を言って私と繋ぐ手をしっかりと握り
直した。

そうしてニックさんの食堂を後にしてからは、
ユリウスさんの家へ持っていく手土産を選びそれを
夕食会の前日に奥の院に届けてもらうようにしたり
プリシラさんのお店に寄ったりした。

・・・プリシラさんが新しく出した例の執事喫茶
もどきはすごく繁盛していた。

働いている人達はアンリ君達がおすすめしてくれた
トランタニア領の孤児達で、採用後はさらに講師を
雇ってより貴族の侍従らしさに磨きをかけさせた
らしい。

みんなキラキラした笑顔の素敵な人達で、アイドル
みたいにかわいい感じから格好いい人、孤児という
には年嵩で渋い雰囲気の落ち着いたイケおじ風の人
まで従業員のラインナップに隙がない。

そしてみんな丁寧かつ親切な押し付けがましくない
接客で、こちらの気分を良くさせつつもイケメンに
弱い私でも緊張することのない雰囲気作りにも
長けている。

さすが、全ての女の子の夢を叶えるのよー!と
気勢を上げて奥の院から帰っていったプリシラさんが
張り切って作ったお店だけある。

「これ、好みの人がいたら指名できるとか貢いで
しまう人が出てこないか心配になりますね・・・」

周りを見渡せば、目をハートマークにして接客を
受けているご婦人方も少なくない。

デレクさんは

「俺みたいな男がいていいのかちょっと戸惑って
しまいますね。見事に女性ばかりで男の客があまり
見えないので」

と少し居心地悪そうだ。確かに男性客は少ない。
お客さんに護衛でついて来たらしい男の人達も何人か
いるけど、その人達もデレクさんみたいに少しだけ
都合悪そうにしているようにも見える。そこへ、

「貢がれたり愛人に引き抜こうとされたりしない
ようにその辺りの待遇には気を使っていますし、
元からそんな軟弱な人は採用しないようにしています
から大丈夫ですわ!私、人を見る目と商売のカンには
自信がありますの‼︎」

自信に満ちたプリシラさんの声が後ろからした。

振り返ればプリシラさん本人がにこにこしてそこに
立っていた。

「それに、女の子達を丁寧に扱う様子はぜひ世の
男性達にも参考にしていただきたいですわ。
そうすればお付き合いしている方の心を更にグッと
掴む事間違いなし!・・・ようこそ、リリ様。
お立ち寄りいただき大変光栄ですわ。」

力説したプリシラさんはとても綺麗な仕草で私達に
礼をして歓迎してくれた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

皆で異世界転移したら、私だけがハブかれてイケメンに囲まれた

愛丸 リナ
恋愛
 少女は綺麗過ぎた。  整った顔、透き通るような金髪ロングと薄茶と灰色のオッドアイ……彼女はハーフだった。  最初は「可愛い」「綺麗」って言われてたよ?  でも、それは大きくなるにつれ、言われなくなってきて……いじめの対象になっちゃった。  クラス一斉に異世界へ転移した時、彼女だけは「醜女(しこめ)だから」と国外追放を言い渡されて……  たった一人で途方に暮れていた時、“彼ら”は現れた  それが後々あんな事になるなんて、その時の彼女は何も知らない ______________________________ ATTENTION 自己満小説満載 一話ずつ、出来上がり次第投稿 急亀更新急チーター更新だったり、不定期更新だったりする 文章が変な時があります 恋愛に発展するのはいつになるのかは、まだ未定 以上の事が大丈夫な方のみ、ゆっくりしていってください

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...