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挿話 突撃・隣の夕ごはん

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「夕食会への招待ですか?」

とある日、奥の院を訪ねて来たユリウスさんに私は
一枚の招待状を手渡された。

封蝋にピンク色の小花の押し花が付いた封筒を渡して
くれたユリウスさんはそうっす!と笑う。

「なんかうちの親父がぜひともユーリ様を夕飯に
招待したいって言うんす。この間、レニ王子殿下と
一緒に勇者様のいる時代に飛ばされたらしいじゃ
ないっすか?その話も聞きたいって言ってました。
陛下にもちゃんと許可は得ているそうっすよ。」

「陛下に?」

どうして私がユリウスさんちの夕食に招待されるのに
陛下の許可がいるんだろう?

不思議に思いながら、

「でもわざわざ夕食会だなんて、何かお祝いごとでも
あるんですか?」

そう聞けば

「実は他国に合同軍事演習に出ていたうちの一番上の
兄貴が帰国するんす。久しぶりに家族が揃うんで、
ぜひとも皆をユーリ様に紹介したいとか何とか
言ってました。すんません、うちのクソ親父が急に
変なこと言い出して」

申し訳なさそうに頭を下げられる。

「それは別にいいんですけど、そんな久しぶりの
家族水入らずのところに私がお邪魔するのはかえって
申し訳ないような・・・」

ゆっくり家族だけで食事を楽しむ方がいいんじゃ
ないかな?と言えばユリウスさんが都合悪そうに
口を開いた。

「えーと、実はですね。先日街歩きに出たユーリ様の
姿をうちの親父の希望でリリ様にしましたよね。」

そういえばそうだった。

マディウス様たっての希望で、バイラル家の末っ子
リリとしての姿に幻影魔法をかけてもらった。

「その姿をどうしても家族の他の連中・・・うちの
お袋や長兄、次兄にも見せるんだって親父が言うんす
よ・・・。ユーリ様には本当に申し訳ないんですけど
そんな訳で、ちょっとの間でいいんで夕食会では
あの姿になってもらってもいいっすか?」

なんだそんな事か。それくらいお安いご用だ。

「全然いいですよ!それ位のこと、喜んでやります
とも。」

おいしいご飯の招待を受けたのだ、そんな事でいい
ならいくらでもやろう。

そう思って頷けば、ユリウスさんはほっとしたような
顔をした。

「ありがとうございます!おいしいご馳走をたくさん
準備するっすからね、食べたいものがあればぜひ
言って下さい!」

そんなやりとりをしてユリウスさんを見送れば、
おうちにお邪魔するのに手ぶらはないだろうと
ふと気付いた。

さっそくその日の夜、リオン様にユリウスさんから
夕ごはんの食事会に招待されたこととその手土産を
買いに王都へ降りたいことを伝えた。

「いいけど街へは気を付けて行って来てね。ユーリに
対する関心はだいぶ落ち着いたとはいえ人気者なの
には違いないからね。」

お小遣いは足りている?そんな事も聞かれたけど
いつものポシェットにはまだ金貨がいくつか入って
いるし、リオン様のお手伝いで王宮の文官さん達と
一緒に働いた時にもらった銀貨も入っている。

「ありがとうございます!お金は充分足りると
思いますよ。」

その後、リオン様とあれこれ話しながら明日さっそく
マリーさんと相談してお店を決めて、ユリウスさんの
ところへ行く前に事前に手土産の購入は済ませて
おいた方がいいだろうという話になった。




「それならこの間はゆっくりお食事出来なかった
あの海鮮料理のお店でお昼を取りながら、手土産の
焼き菓子を買ってついでにプリシラのお店にも寄って
みませんか?」

翌日、何を買って行こうかとマリーさんに相談したら
そう提案された。

プリシラさんというのはマリーさんのいとこで最近
王都へ女性向けの物を売るお店を出した綺麗な人だ。

なぜプリシラさんのお店へ?と不思議に思えば、

「夕食会へはマディウス騎士団長の奥様も同席なさる
のでしょう?プリシラならセンスの良い物を色々と
取り揃えているので奥様への手土産を買うにも
間違いありませんから!ついでに先日プリシラが
新しくオープンさせたユーリ様からヒントをもらった
お嬢様気分を味わえるカフェにもよりましょう。
そちらもプリシラからは招待を受けておりましたし、
まだ出来たばかりですがとても話題だそうですよ!」

それはあれだ、私の余計な一言でこの世界に爆誕して
しまった執事喫茶とメイドカフェを足して二で割った
ようなところだね?

こうして王都での立ち寄り先は決まった。

海鮮料理屋さんに焼き菓子屋さん、プリシラさんの
お店だ。

リオン様へはこれらのお店に行くということで一旦
お伺いを立ててみよう。オーケーが出ればいいな。

あとは街歩きの護衛だけど、エル君は当然として
あとはシェラさんだろうか。

街歩きの相談をしながらシェラさんにはついでに
出来上がった組紐のチョーカーも渡したい。

あれこれ考えながらさっそくシェラさんを呼んで
奥の院に顔を出してもらった。

するととても悲しげに首を振られた。

「残念ながら、今回はお供ができません。」

「えっ、何故ですか⁉︎」

あんなに私のお出掛けへの同行について行こうと
していた人が。

「もしかしてキリウ小隊のお仕事が入りましたか?」

「いえ、先日モリー公国より戻ってからレジナスと
また模擬試合をしまして。それに負けたのです。」

・・・まさかまた私のことを二人は勝手に賭けて
いたんだろうか。

そう思って見つめれば当たり前のようにシェラさんは
頷いた。

「先行条件なしでのユーリ様の次のお出掛けへの
同行を賭けた一本勝負でした。不覚にも開始早々、
こちらの魔道具を封じられて完敗しまして。ですので
今回だけ同行出来ないのです。代わりにデレクを
付けましょう。」

全くこの二人は。呆れながらも了承する。

「残念ですけど仕方ないですね。・・・あ、そうだ、
そういえばシェラさんに作ってあげていたあの組紐の
チョーカーが出来ましたよ。」

アンリ君に小箱を持ってきてもらう。

ぱかりと開けたその中身はシェラさんのための
組み紐チョーカーだ。

落ち着いた紫色の中に艶を消した金色の糸を織り
交ぜ、真ん中には先日レンさんのところに飛ばされた
時にもらったあの魔石鉱山の魔石を付けた。

「持って帰って後で付けますか?それとも今ここで
付けていきますか?」

「今付けます。というかぜひユーリ様の御手でオレに
付けて下さい。」

即答だった。その目がいつになく輝いているのが
恐ろしい。

「え?私がシェラさんに?」

「飼い犬の首に首輪を付けるのは主人の役目です
からね。当然のことです。」

おかしな事を言い出した。自分で自分のことを
私の飼い犬と言うだなんて。

「ユーリ様のお作りになられた物をその手で付けて
いただいてこそ、全ての工程が完了するのです。
お願いいたします。」

家に着くまでが遠足です。

そんな感じの事を色気を滲ませた笑顔で言われて
しまった。しかも有無を言わせないあの謎の圧が
ある。

仕方ないなと渋々チョーカーを手に取ると、私を
見つめるシェラさんの微笑みはより一層深まった。

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