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第十五章 レニとユーリの神隠し
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レンさんを先頭に岩山の中へ入る前に、キリウさんは
私達の乗って来た馬を繋ぎ止めたところへまた
ガリガリと円形状に地面に線を引いて結界を張って
いた。
薄暗い岩山の中を歩きながらそれを思い出してなぜか
と聞けば、
「あれは外側に結界、内側に転移魔法陣を敷いた
二重結界だよー」
とキリウさんが教えてくれた。何のために?と思えば
「外に繋いだ馬が魔物に襲われないようにするのと、
採った魔石を先に王宮に送ろうと思って。帰りの
荷物が重いのはイヤなんだよね。」
そう笑っている。
「じゃあ馬ごとキリウさん達も王宮へ転移する方が
早いんじゃないですか?キリウさんみたいにすごい人
ならそれくらい簡単そうですよね。」
不思議に思った私の後ろから、嬉しそうに弾んだ
キリウさんの声がする。
「ユーリちゃんに褒めてもらえるとは嬉しいね!
でもオレ達、帰りは行きとはまた違ったルートで王都
まで戻る予定なんだよ。だから魔石だけを先に送って
おくわけ。」
レンさんも説明を補足する。
「帰りはここへ来るまでに寄れなかった別の地域も
巡回してその地方のこまごました魔物討伐をしながら
王都に戻るんだ。大物は見なくなったけど、さっき
みたいにハーピーや炎狼みたいなそこそこの魔物は
まだ残っているからね。」
王様になる即位式も近いと言っていたのに、レンさん
はルーシャ国のあちこちを平和にするためにまだまだ
活動する気満々だ。さすが勇者様。
レニ様もそんなレンさんを、
「カッコいい・・・だからルーシャ国の皆は安心して
暮らせるようになったんだな・・・」
とまた憧れの目で見つめている。だけどレンさんは
褒められるのが居心地悪そうに謙遜した。
「デンさんからの頼みで授かった力だからね。その
期待に応えられるように、やれることをやってるだけ
だよ。それに行ったことのない場所に温泉を見つけて
入るのも楽しみだし!」
あ、そういえば勇者様は行く先々で温泉を見つけては
入っていたとか何とか習ったな。
「今日も魔石を採ったこの後は温泉がどこか近場に
湧いてたら入りたいんだけどな~。どうキリウさん、
いい魔石はありそう?」
ランプを持つ手を掲げて周りを見渡しながら、
レンさんはそう声をかけた。
暗い岩山の中、ほのかなランプの灯りだけでは魔石が
あるかどうかよく分からない。
ノイエ領で私が加護をつけた魔石のある場所はもっと
明るくて、魔石そのものも大きな水晶の塊になって
いたし岩のあちこちから突き出していた。
光にも反射して魔石のある場所はわかりやすかった
けどここは全然違うのだ。
レンさんのかざすランプに反射する青い物は何も
ないし、ノイエ領の魔石みたいに分かりやすく岩から
水晶状に飛び出しているわけでもない。
背後からキリウさんが、ちょっと止まってくれる?
と言ってきたので立ち止まる。
「魔石はあちこちに小さいのが埋まっているね。
ほら、こんな感じ。」
話しながらキリウさんは自分のすぐ横にある岩山の
壁を触った。
魔力を流したのか、薄く青い光がその指先から
岩の壁へと伝えれば壁が一瞬、夜空の星のように
あちこち輝いた。でもその光はすぐに消えてしまう。
「見た?今の光ったところが魔石なんだけど、どれも
爪の先ほどの小ささなんだよね。見本で切り出して
きて見せてもらったような大きいのはもっと奥深く
まで行かないと無理だな。」
ここにあるような小さいのだと見映えのする装飾品は
作れなそうだな。とキリウさんは言っている。
「ちなみに魔物の気配は感じます?」
レンさんの言葉にそれがね、と珍しくキリウさんは
渋い声を出した。
「ここの魔石の特性が悪い方に働いているっていうか
さっきから薄く魔力をのばして探ってるんだけど、
オレの魔力を乱反射されてるみたいな状態になって
しまっててさあ。おかげでよく分からないんだよ。
何か大物っぽいものがいるのは分かるんだけど。」
「大物?」
「土竜じゃないといいんだけど、ここよりもまだ
奥の方・・・いや違うな、下か?とにかく離れた
ところに一つ、魔物っぽい気配は感じるかな。」
やっぱり何かいるんだ。
「あと魔石なんだけど、ある程度の大きさのものが
取れないと魔石鉱山としての価値は低いかな。いくら
珍しい魔石でもクズ鉄みたいに小さい物だけあっても
それを取り出す手間と売り値が釣り合わないし」
そう言ったキリウさんは壁をコンと叩いた。
「じゃあもう少し奥に行ってみますか。」
キリウさんの説明に頷いて、レンさんはまた歩き
出した。レニ様も私に、魔物がいるか分かるか?と
聞いてきたけど全然分からない。
ただ、奥に行くほど魔物っぽい気配がするとかそれが
一つっていうのが気になる。
エル君が言ってたみたいに、土竜なら二頭一緒に
いることが多いはずだから。
大きな魔物の気配が一つならそれは土竜なのかな?
もっと別の魔物の気配かも知れない。
もしそうならあまり強くない魔物ならいいなあ、
なんて考えていたら突然立ち止まったレンさんの
背中にぶつかった。
「ご、ごめんなさい!」
私の後ろを歩いていたレニ様に何してるんだと
呆れられたけど、レンさんは気にせずに
「・・・見て、ユーリちゃん。すごいよ」
そう言ってランプを掲げた。
そこは今まで歩いてきた場所より大きく開けた、
まるでホールのようなところだった。
その真ん中に、地面から突き出した六角垂型の大きな
魔石の結晶が一つあった。
その周りにはその魔石から割れ落ちたのか陸上の
リレー競技で使うようなバトンと同じような大きさと
太さの魔石がいくつか散らばっている。
「どうやらこれが俺達の探してた魔石みたいですよ
キリウさん。」
レンさんはそう言って落ちている魔石を一つ取り上げ
確かめた。
青くて綺麗な魔石はランプの光にかざされると、
その青さを深めながらもきらきら輝いていてすごく
綺麗だ。
キリウさんは大きな塊の魔石をあちこち触って、
「これ、一回で運ぶの大変そうだなあ。イケるか?
うーん・・・」
とぶつぶつ呟いている。この大きな魔石の塊を一回
で運ぶ?
不思議に思っていたら、キリウさんはとりあえず
やってみるか、と懐から金色のアイスピックみたいな
物を取り出した。
それを魔石の下の方に突き刺せばキーン、と
澄んだ音色が辺りにこだまする。
「分離」
ハーピー達を魔法で攻撃した時みたいに言えば、
差し込んだアイスピック状のものの切先から小さく
ピシピシ言う音がしたかと思うと魔石はゴロンと
私達の立っているのとは反対側にあっさりと転がって
地面から切り離された。
「おー取れた取れた!」
綺麗に切り離せたなとキリウさんは喜んでいるけど
今のも何かの魔法だろうか。
「でもこんなに大きい魔石、どうやって持って帰る
んですか?」
そう聞けば、キリウさんはまた懐から何かを
取り出した。
「紙?」
それは風呂敷みたいに大きな紙を畳んだ物だった。
ばさりと広げたそれには何か魔法陣みたいな物が
書いてあって、それを魔石の上に被せる。
「このまま外に繋いでいる馬のところに転送する
んだよ~、そしたら後は手ぶらでここを出るだけ!」
そう言って魔石の上に被せた紙に手をかざせば、
まるで手品みたいに次の瞬間にはあの大きな魔石の
塊は消えてしまった。どうやらそれだけで外に転移
してしまったらしい。
よし終わったと喜ぶキリウさんの横でレンさんが、
「レニ君達はこれを持って帰るといいよ。」
そう言って下に落ちていたあのバトンサイズの魔石を
いくつも私やレニ様に持たせてくれた。
「炎狼の魔石ももらったのに、貴重な魔石まで
こんなにたくさんいいんですか?」
カバンみたいな入れ物を持っていない私達は服の
ポケットがパンパンだ。
「こんな危険なところまで来たんだから当然だよ!」
レンさんがそう笑った時だった。
グオォォ‼︎と言う怒った獣の叫び声のような大声が
私達のいるところより奥の暗がりから聞こえてきた。
その声がぐわんぐわん反響する中、何事かと呆気に
取られていたら、ズシンと大きく地面が揺れた。
私達の乗って来た馬を繋ぎ止めたところへまた
ガリガリと円形状に地面に線を引いて結界を張って
いた。
薄暗い岩山の中を歩きながらそれを思い出してなぜか
と聞けば、
「あれは外側に結界、内側に転移魔法陣を敷いた
二重結界だよー」
とキリウさんが教えてくれた。何のために?と思えば
「外に繋いだ馬が魔物に襲われないようにするのと、
採った魔石を先に王宮に送ろうと思って。帰りの
荷物が重いのはイヤなんだよね。」
そう笑っている。
「じゃあ馬ごとキリウさん達も王宮へ転移する方が
早いんじゃないですか?キリウさんみたいにすごい人
ならそれくらい簡単そうですよね。」
不思議に思った私の後ろから、嬉しそうに弾んだ
キリウさんの声がする。
「ユーリちゃんに褒めてもらえるとは嬉しいね!
でもオレ達、帰りは行きとはまた違ったルートで王都
まで戻る予定なんだよ。だから魔石だけを先に送って
おくわけ。」
レンさんも説明を補足する。
「帰りはここへ来るまでに寄れなかった別の地域も
巡回してその地方のこまごました魔物討伐をしながら
王都に戻るんだ。大物は見なくなったけど、さっき
みたいにハーピーや炎狼みたいなそこそこの魔物は
まだ残っているからね。」
王様になる即位式も近いと言っていたのに、レンさん
はルーシャ国のあちこちを平和にするためにまだまだ
活動する気満々だ。さすが勇者様。
レニ様もそんなレンさんを、
「カッコいい・・・だからルーシャ国の皆は安心して
暮らせるようになったんだな・・・」
とまた憧れの目で見つめている。だけどレンさんは
褒められるのが居心地悪そうに謙遜した。
「デンさんからの頼みで授かった力だからね。その
期待に応えられるように、やれることをやってるだけ
だよ。それに行ったことのない場所に温泉を見つけて
入るのも楽しみだし!」
あ、そういえば勇者様は行く先々で温泉を見つけては
入っていたとか何とか習ったな。
「今日も魔石を採ったこの後は温泉がどこか近場に
湧いてたら入りたいんだけどな~。どうキリウさん、
いい魔石はありそう?」
ランプを持つ手を掲げて周りを見渡しながら、
レンさんはそう声をかけた。
暗い岩山の中、ほのかなランプの灯りだけでは魔石が
あるかどうかよく分からない。
ノイエ領で私が加護をつけた魔石のある場所はもっと
明るくて、魔石そのものも大きな水晶の塊になって
いたし岩のあちこちから突き出していた。
光にも反射して魔石のある場所はわかりやすかった
けどここは全然違うのだ。
レンさんのかざすランプに反射する青い物は何も
ないし、ノイエ領の魔石みたいに分かりやすく岩から
水晶状に飛び出しているわけでもない。
背後からキリウさんが、ちょっと止まってくれる?
と言ってきたので立ち止まる。
「魔石はあちこちに小さいのが埋まっているね。
ほら、こんな感じ。」
話しながらキリウさんは自分のすぐ横にある岩山の
壁を触った。
魔力を流したのか、薄く青い光がその指先から
岩の壁へと伝えれば壁が一瞬、夜空の星のように
あちこち輝いた。でもその光はすぐに消えてしまう。
「見た?今の光ったところが魔石なんだけど、どれも
爪の先ほどの小ささなんだよね。見本で切り出して
きて見せてもらったような大きいのはもっと奥深く
まで行かないと無理だな。」
ここにあるような小さいのだと見映えのする装飾品は
作れなそうだな。とキリウさんは言っている。
「ちなみに魔物の気配は感じます?」
レンさんの言葉にそれがね、と珍しくキリウさんは
渋い声を出した。
「ここの魔石の特性が悪い方に働いているっていうか
さっきから薄く魔力をのばして探ってるんだけど、
オレの魔力を乱反射されてるみたいな状態になって
しまっててさあ。おかげでよく分からないんだよ。
何か大物っぽいものがいるのは分かるんだけど。」
「大物?」
「土竜じゃないといいんだけど、ここよりもまだ
奥の方・・・いや違うな、下か?とにかく離れた
ところに一つ、魔物っぽい気配は感じるかな。」
やっぱり何かいるんだ。
「あと魔石なんだけど、ある程度の大きさのものが
取れないと魔石鉱山としての価値は低いかな。いくら
珍しい魔石でもクズ鉄みたいに小さい物だけあっても
それを取り出す手間と売り値が釣り合わないし」
そう言ったキリウさんは壁をコンと叩いた。
「じゃあもう少し奥に行ってみますか。」
キリウさんの説明に頷いて、レンさんはまた歩き
出した。レニ様も私に、魔物がいるか分かるか?と
聞いてきたけど全然分からない。
ただ、奥に行くほど魔物っぽい気配がするとかそれが
一つっていうのが気になる。
エル君が言ってたみたいに、土竜なら二頭一緒に
いることが多いはずだから。
大きな魔物の気配が一つならそれは土竜なのかな?
もっと別の魔物の気配かも知れない。
もしそうならあまり強くない魔物ならいいなあ、
なんて考えていたら突然立ち止まったレンさんの
背中にぶつかった。
「ご、ごめんなさい!」
私の後ろを歩いていたレニ様に何してるんだと
呆れられたけど、レンさんは気にせずに
「・・・見て、ユーリちゃん。すごいよ」
そう言ってランプを掲げた。
そこは今まで歩いてきた場所より大きく開けた、
まるでホールのようなところだった。
その真ん中に、地面から突き出した六角垂型の大きな
魔石の結晶が一つあった。
その周りにはその魔石から割れ落ちたのか陸上の
リレー競技で使うようなバトンと同じような大きさと
太さの魔石がいくつか散らばっている。
「どうやらこれが俺達の探してた魔石みたいですよ
キリウさん。」
レンさんはそう言って落ちている魔石を一つ取り上げ
確かめた。
青くて綺麗な魔石はランプの光にかざされると、
その青さを深めながらもきらきら輝いていてすごく
綺麗だ。
キリウさんは大きな塊の魔石をあちこち触って、
「これ、一回で運ぶの大変そうだなあ。イケるか?
うーん・・・」
とぶつぶつ呟いている。この大きな魔石の塊を一回
で運ぶ?
不思議に思っていたら、キリウさんはとりあえず
やってみるか、と懐から金色のアイスピックみたいな
物を取り出した。
それを魔石の下の方に突き刺せばキーン、と
澄んだ音色が辺りにこだまする。
「分離」
ハーピー達を魔法で攻撃した時みたいに言えば、
差し込んだアイスピック状のものの切先から小さく
ピシピシ言う音がしたかと思うと魔石はゴロンと
私達の立っているのとは反対側にあっさりと転がって
地面から切り離された。
「おー取れた取れた!」
綺麗に切り離せたなとキリウさんは喜んでいるけど
今のも何かの魔法だろうか。
「でもこんなに大きい魔石、どうやって持って帰る
んですか?」
そう聞けば、キリウさんはまた懐から何かを
取り出した。
「紙?」
それは風呂敷みたいに大きな紙を畳んだ物だった。
ばさりと広げたそれには何か魔法陣みたいな物が
書いてあって、それを魔石の上に被せる。
「このまま外に繋いでいる馬のところに転送する
んだよ~、そしたら後は手ぶらでここを出るだけ!」
そう言って魔石の上に被せた紙に手をかざせば、
まるで手品みたいに次の瞬間にはあの大きな魔石の
塊は消えてしまった。どうやらそれだけで外に転移
してしまったらしい。
よし終わったと喜ぶキリウさんの横でレンさんが、
「レニ君達はこれを持って帰るといいよ。」
そう言って下に落ちていたあのバトンサイズの魔石を
いくつも私やレニ様に持たせてくれた。
「炎狼の魔石ももらったのに、貴重な魔石まで
こんなにたくさんいいんですか?」
カバンみたいな入れ物を持っていない私達は服の
ポケットがパンパンだ。
「こんな危険なところまで来たんだから当然だよ!」
レンさんがそう笑った時だった。
グオォォ‼︎と言う怒った獣の叫び声のような大声が
私達のいるところより奥の暗がりから聞こえてきた。
その声がぐわんぐわん反響する中、何事かと呆気に
取られていたら、ズシンと大きく地面が揺れた。
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