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第十四章 手のひらを太陽に

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私と離れていた間にリオン様がバロイ国のお姫様から
アプローチをされていたらしいと聞いて複雑な気分で
いると、当のリオン様は何でもなさそうにしている。

「僕のことが好きというよりルーシャ国に繋がりを
持ちたかったんだろう。それで少しでも僕とその
同行者の間に割って入りたかったみたいだね。」

そう言って抱き締めたままの私をちらりと見下ろして
嬉しそうな顔をした。

「焼きもちを妬いてくれたの?嬉しいな、僕も
寂しかったよ。ユーリに会いたかった。」

シェラさんは私のことをすぐ顔に出ると言っていた
けど、今も私は複雑な気分のまま難しい顔をして
いたらしい。

かわいいねと言ってリオン様の私を抱き締める力が
強まり、髪の毛に頬擦りをされた。

だけどぴたりとその動きを止めたリオン様が、

「・・・ところでユーリ、さっきから思っていたけど
その服どうなってるの?下着とかちゃんとつけている
んだよね?」

そんなことを言ってきた。

その言葉に体を固くする。

いや、下着は付けてますけど?ものすごく薄くて
レースだらけのやつだけど。それってやっぱり
抱き締めた時に分からないくらい薄手で体に一体化
しているってことだろうか。

肩に手を置かれ少し離れてまじまじと見つめられる。

「そ、そんなに見ることないんじゃないですかね⁉︎」

肩に手を置かれて身動きできないけど、そうで
なければ今すぐリオン様の顔に手を当てて私を
見ているその目を塞ぎたい。

「よく見ればすごいドレスを着ているね。え?
どうなってるのこれ。」

ちょっと見せて、と胸元にくいと指をかけてその
隙間から覗かれた。

「リオン様⁉︎」

王子様らしからぬ痴漢行為だ。手を動かせなくて
そこを隠せないから咄嗟にリオン様に胸を押し当てる
ようにしてその隙間を覗けないようにする。

その行為と、胸の谷間から覗いた私のあの黒いレース
の下着にリオン様の顔がさっと赤くなった。

「何でこんなの着てるの⁉︎」

珍しくリオン様が大きな声を上げた。

・・・うん、何ででしょうね。私にもよく分からない
けどシェラさんに言われるがままにした結果だ。

「えーと、この大きさの私がその時着れるものが
これしかなかったんです・・・」

ウソは言っていない。本当にあの時はこれしか
なかったし。

「こんな格好で外を歩いてたの⁉︎襲われたらどうする
つもり⁉︎」

通りでいつもよりも生身のユーリの感触がすると
思った、と呟いたのが聞こえて私も赤くなる。

それってやっぱり付けていないも同然の下着ってこと
だよね?それなのに、いくらローブ姿とは言え帰りの
馬上はかなりシェラさんに密着していた。

しかも行きよりは確実にゆっくり時間をかけて
お喋りをしながら戻って来たし、その間はずっと
シェラさんにくっついていた。

まさかそれもわざとなのかな⁉︎シェラさんの確信犯な
仕業だろうか。

「ご安心下さいリオン殿下。その姿のユーリ様を
オレが人目に晒すわけがございません。頭の先から
つま先まで、しっかりとローブにお包みして移動して
おりましたし、何事もないようオレが目を光らせて
おりました。」

胸に手を当ててにっこりと微笑むシェラさんだけど
実行犯が何を言っているんだろうか。

「はぁ・・・綺麗だけど心臓に悪いね。シンシアに
言って別のドレスに着替えた方がいいんじゃない?
そういう姿は僕やレジナスの前だけにして欲しいよ
・・・それならいつでも歓迎だから。」

ため息をつくようにそう言われた。

「いえ、二人の前でも遠慮しますから!本当にあの時
はこれしか着る物がなくて仕方なくですからね⁉︎
・・・え?ちょっとリオン様、聞いてます?」

私との会話の途中からリオン様が部屋の中のある
一点を見つめている。

視線の先にあるのは例のサークルベッドだ。

「これがユーリの入っていたベッドなの?」

私を連れ立ってその横に立ち、まじまじとそれを
見た。

「そうですよ、着いたら珍獣と間違えられてこの
ベッドを用意されました。」

ふーんと言ったリオン様は、私とサークルベッドを
交互に見比べている。

「そんな姿でいるユーリはとてもじゃないけど人前に
出すことは出来ないね。これをもっと大きくして中に
クッションや毛皮を敷き、座り心地も良いものに
変えて柵も・・・そうだね、豪奢な金の大きな鳥籠
みたいにしたらユーリにとても似合うと思う。
そうしたら僕がユーリにご飯を運んであげるから、
手ずから食事を取ってもらうのもいいね。」

どう思う?一度やってみない?輝くような笑顔で
リオン様がそんな事を言って来た。

山から帰ってくる途中でシェラさんの言ってたような
事を口にして微笑むその姿に呆気に取られる。

離れていたのとバロイ国のお姫様からのアプローチが
ストレスになって、寂しくておかしくなってしまった
んだろうか。

「素晴らしい考えです」

当然ながらシェラさんは肯定しかしない。

「正気に戻って下さいリオン様!」

そんな事を本当にされてはたまらないので声を
上げた時、部屋の扉をノックされた。

そして返事をする間もなくガチャリと開けられて
フィー殿下のかわいい顔がそこから覗く。

「失礼します、ユーリお姉様はいらっしゃいます
か?」

「ばか、フィー!そういう時は返事を待たないと
失礼だろ!」

ミリアム殿下がその後ろから慌てて追いかけてきて
フィー殿下の肩を掴んだ。

「悪い、フィーが早く会いたいって言うから・・・」

謝りながらリオン様の傍らに立つ大きい姿の私を
見た目が丸く見開く。フィー殿下もわあ、と言って
頬を紅潮させた。

「ユーリお姉様ですか⁉︎え?急に大きくなっちゃった
んですか、どうして⁉︎」

そう言って部屋の中へ駆けてくる。ミリアム殿下は
フィー殿下の肩に置いた手をそのままの形で口も
ぽかんと開けたまま扉のところで固まっていた。

しまった、見られてしまった。ルーシャ国でも私が
大きくなれる事を知っている人は少ないのに、一度に
二つの国の王族の人達にバレてしまった。

フィー殿下は駆け寄って来てからリオン様に気付いた
ようだ。さっきはどうも、とリオン様が話している
からもう二人とも挨拶は交わしていたらしい。

でもまだ扉のところに佇んでいるミリアム殿下は
初対面らしく、リオン様は微笑んでそちらに
向き直った。

「君がバロイ国の第五殿下、ミリアム・オステルド・
バロイ王子だね。僕はリオン・エークルド・アルマ・
ルーシャだよ、会えて光栄だ。」

よろしく、と言いながら手を差し出したその背中で
さりげなく私を隠す。

するとハッとしたように目を瞬いたミリアム殿下が

「あ、ああ。初めましてミリアムです。俺の方こそ
ルーシャ国第二王子殿下にお目にかかれて光栄に
思います。」

そう言って礼を取ってからリオン様と握手をした。

その様子に、私と手を繋いだフィー殿下が

「ミミ兄様、ユーリお姉様に見惚れてましたね!」

とこっそり耳打ちしてきた。

リオン様は挨拶を交わしたミリアム殿下に、

「バロイ国では君の兄上に世話になったよ。彼が
いるならこれから先のバロイも安泰だね」

なんて話をしている。

「ありがとうございます、兄は俺の誇りです。その、
バロイでは何事もなく過ごせましたか?他の身内が
ご迷惑をかけていなければ良いのですが・・・」

ミリアム殿下が少し言い淀みながらそんな事を言うと
微笑むリオン様のその笑顔の質が若干変わった。

あの何か企んだり私に意地悪をする時の黒い笑顔だ。
なんで?と不思議に思っていたら、

「君の兄上である皇太子殿下には大変良くして
もらったが、第二殿下にも別の意味で世話になった
よ。なかなか面白い人だね。」

そんな事を言ったものだから、ミリアム殿下の顔色が
変わった。
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