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第十四章 手のひらを太陽に

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すごい。シグウェルさんは天才だ。本物のお酒じゃ
ない某栄養ドリンクみたいな合成飲料で私の姿をあの
元の大きさに戻してしまった。

眩しさのなくなった後の自分の体を確かめて驚く。

シグウェルさんは離宮での合成飲料の失敗をきっちり
修正してきた。

ローブから伸ばした腕も、その裾から少しだけ覗いて
いる長く伸びた足も、あのいつもの大きくなった姿
だ。

しかも酔っていないから私の意識もしっかりして
いる。

よし、あとは早く着替えて加護の力を使おう。

宮殿に早く戻れればモリー公国に来るリオン様の
出迎えも出来るかも知れない。

天幕の中をぐるっと見て布がかけられた籠を見る。

それを探れば赤い色のドレスが出て来る。

今朝選んだそれはオフショルダー型だけど背中は
それほど出ていないし、ぱっと見は胸元もそんなに
開いていないように見える。肩と鎖骨のあたりまでが
出ているのはまあ譲歩しよう。

だってこれでも他のドレスよりは露出が少なく見えた
んだもの。

シェラさんも、これならそんなに恥ずかしいと
思わないのでは?って言ってくれたから選んだ。

それなのに。

「騙された・・・!」

いざ手に取ってみたら、確かに背中は開いていない。

でもよくよく見れば、そのドレスは普通の布地じゃ
なくて細やかな刺繍が施されたごく薄手のシースルー
みたいな布地が何枚も重なり合っている。

内側が黒で表にいくほど鮮やかな赤い布地が重なる
それは、明るい昼間に不釣り合いなほど不健全な色気
があった。

まるで夜のお店のお姉さんだ。

今朝、室内で見た時は少し離れたところでシェラさん
が柔らかなゆったりめの作りで着心地がいいですよと
手に取って見せてくれた。

その時は真っ赤じゃなくて落ち着いた赤い色味で
スカートの広がり方もふわふわで可愛いと思った。

落ち着いた色に見えたのは赤と黒のセクシーな
グラデーションのせいで、ふわふわに見えたのは
薄い布地が何枚も重なっていたからか。

しかもいくら下地が黒で布が何枚も重なっていると
言っても、シースルーっぽい布地だしこれ絶対
どこかしら肌が透けて見えないかな⁉︎

胸元も背中も開いてないけど全身がシースルーの布地
の服ってどういう事だ。

こうなると、今朝私にこれを見せた時のシェラさんが
少し離れた所で手に取っていたのも確信犯な気がして
きた。

「まさか他のドレスはフェイクでこれを着せたかった
とか・・・⁉︎」

シェラさんのことだからあり得る。わざと私の近くに
露出過多なドレスばかりを置いて何を着ようか迷った
ところで、すかさず自分のおすすめを出して来た
のかもしれない。

「じゃあこんな服の下に着る下着って一体・・・」

籠の中をごそごそする。あった。

手にしたそれはレース編みで花柄があしらわれた
上下セットのものだった。しかも黒。

昨日あれだけもっと可愛らしいものが・・・とか、
フリルのあるものを・・・って言っていたのは一体
何だったのか。

黒のレースで花柄、大事なところがちゃんと隠れるか
どうかも怪しいセクシー下着とか昨日の発言と真逆の
方向に振り切っている。

おかしい。これは何かの間違いでは・・・?

そう思って籠をひっくり返したけど、入っていた下着
はこれ一対だけだ。予備すらない。

「シェラさん⁉︎」

思わず下着を握りしめて声を上げてしまった。

「いかがされましたか?もう着替えはお済みで?」

ごく普通にシェラさんは返事をして来た。

「しっ、下着が!黒なんですけど⁉︎それになんか
レースで透けてるし!これ、着る意味あります⁉︎」

「勿論です。ユーリ様のお体の美しさを隠すなど
勿体無い。手編みレースの薔薇模様は極限までその
お体の美しさを余すところなく見せ、かつその色は
薔薇模様と相まって下着としての優雅さも損なう事は
ありませんでしょう?」

堂々と私の手にある下着の必然性を主張された。

「それに薄手のその下着は上に着るドレスの形の
美しさも邪魔しませんし、加護の力を使うユーリ様の
動きも妨げないようぴったりと体に沿う着心地の良さ
があるはずです。」

まだお召しになっていないのですか?それならぜひ
早く身に付けてその着心地の良さを確かめて下さい。

そんな事まで言ってくる。本当に、物は言い様だ。

「うう・・・」

どんなに文句を言っても、今ここに私の体に合う
下着はこれしかない。

これを着なければノーパン再びである。そんな姿で
落ち着いて加護なんか付けられるわけがない。

渋々それを身に付ければ、確かにぴたりと私の体に
沿う。上も下も、大事なところはちゃんと隠れた。
いやホント、大事なところ隠れてないけど
・・・。

こんな黒のセクシー下着、人生で初めて着た。
しかも男の人が選んで買ってきたものとか。

恥ずかしくてたまらないけど、いつまでも下着姿で
狼狽えているわけにはいかない。

あの赤いドレスも着る。

袖を通せば何枚も重なった布地なのに一枚一枚が
薄いせいか羽根のように軽くて柔らかな着心地の
良いドレスだ。

だけどやっぱり、背中とか胸の横の方とか太ももの
辺りとか、動いて布が貼り付くように押し付けられた
部分はうっすらと素肌の肌色が赤いドレスから透けて
見えている気がする。

「着替えられましたか?中に失礼しても?」

声をかけて許可を得たシェラさんが天幕の入り口の
布を上げて顔を見せた。

そうして落ち着かない気分の私を目にすると頬を
染めてすごく嬉しそうに微笑む。

「とてもよくお似合いです。やはりそのドレスにして
良かった。ドレスのお色はユーリ様の艶やかな色気を
余すところなく伝えてくれますし、下着ももし万が一
ドレスから覗いてもその一部のように見えること
でしょう。」

「加護の力を使うのにこんな色っぽい服を着る必要が
どこにも見当たらないんですけど・・・?」

至極真っ当な疑問だと思ったのに、

「何をおっしゃいます。ユーリ様にはいつ如何なる時
も常に最高の状態でいていただきたいのです。これは
その一環です。しかも今回はユーリ様の身に纏う物
全てをオレが準備して、オレの見たかった姿をオレに
だけ見せて頂けたのです。ありがとうございます。」

何故かこの服装の正当性を主張された上にお礼まで
言われた。

えーと、つまりまんまとシェラさん好みに着せ替え
られた、しかも下着から何から全部って事だよね。

何だかなあ、とため息が出たけどこれしかないなら
仕方がない。昨日押しの強さに負けたのは私だし。

「・・・早く加護を付けて帰りましょう。」

こうなったら一刻も早くやる事をやって宮殿に戻って
着替えた方が早い。

もしかすると力を使えばすぐにまたいつもの姿に
戻ってしまうかも知れないし、そうなればシェラさん
には悪いけどこのセクシードレスとも早々におさらば
だ。

「その切り替えの早さもオレは好きですよ。おかげで
オレだけのユーリ様の美しいお姿を堪能することが
出来ます。さあ、お手をどうぞ。」

「別にシェラさんのために着替えたんじゃないです、
これしか着る物がないから仕方なくですからね⁉︎」

本当の事を言ったのに、なぜかそれがツンデレ風の
返しになってしまってむしろそれがシェラさんの為に
この格好を受け入れたかのように聞こえる。あれ?

「なんて可愛らしいことを仰るのでしょう。他にも
その姿のユーリ様のためのご衣装はたくさんあります
し、宮殿に戻ったらまた別の物に着替えましょうね」

天幕から外へとエスコートするシェラさんの、私の手
を握るその手にきゅっと力が込められた。

なんかもう、何を言ってもシェラさんには自分に
都合の良いようにしか聞こえてない気がする。

いや、いつもの事だけども。

「ユーリ様はいつもの姿でいてもこの姿になられても
オレの目も心も奪い夢中にさせますね。さすがオレの
女神。心の底から敬愛し、お慕い申し上げております
よ。・・・どんな時も、いつまでも、こうしてこの
美しい手をオレが取っていたいものです。」

そんな熱のこもった言葉を投げかけて私を見つめ
ながら繋がれたシェラさんの手は、まるでその
気持ちの熱さを伝えるようにいつもより熱い気が
したのは私の気のせいだろうか。



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