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第十四章 手のひらを太陽に

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両手の下の土が盛り上がって来たのを感じたので、
そこから手を離せば小さな若芽が顔を覗かせたと
思うとそれはみるみる小さな木になり、太い幹へと
成長して鮮やかな濃い緑の葉を茂らせた。

枝についた黄色いサクランボみたいな大きさの実も
どんどん大きくなっていき、いくつもの立派な果実
を実らせる。

まるで早送りするみたいに芽吹きから実るまでを
あっという間に終えたのを私以外の全員が呆気に
取られて見ていた。

「あれ?シェラさんも見たことなかったですか?」

「オレはマールの金のリンゴについてはユーリ様の
功績が記された文献でしか知りません。ですが書面
で読んでいても、実際目にすると圧倒されますね。
今はこの一本だけですが、マールの時は30本もの
木に加護を与えたのですよね?なんという途方もない
尊いお力なのでしょう。」

「大袈裟ですよ。あの時は全部の木がこんな風に
一気に育ったわけじゃないですから。」

そう言う私にミオ宰相さんが

「いえ・・・たとえ一輪の花を咲かせるだけでも
何かの成長速度を早める魔法でこんなにもすぐに
結果は出せません。これほどのお力をお持ちであれば
薬花を救っていただくためにもやはりユーリ様の助け
が必要なことを改めて確信致しました。」

深々とお辞儀をした。ミリアム殿下は

「なんていうか凄まじい能力だな。神から授けられた
力って言うのがここまでのものだとは思わなかった。
これ、味はどうなんだ?」

そう言って早速その果実を一つ手に取った。

ミミ兄様、僕も食べて見たいです。とねだった
フィー殿下にも半分あげて、自分も残りを口にした
ミリアム殿下は目を見張っている。

「甘い!いつもの庭園から取ってくるやつよりも
ずっと甘味が強くて瑞々しいな!癒し子が加護を
つけると味まで変わるのか⁉︎」

「本当ですね!すっごくおいしいです!」

フィー殿下も大喜びだ。

甘いのは多分、日本で食べていたリンゴや梨、ミカン
の甘さが印象に残っていてそれが無意識に反映された
んだと思う。

シェラさんやミオ宰相さんもそれを口にしてこんなに
甘いのは食べたことがないと話している。

あ、そうだ大事なことを言ってなかった。

「マールのリンゴみたいに、軽い怪我や病気程度なら
治るような効能もつけました!なので、もし良ければ
エーリク様にもぜひ食べさせてあげて欲しいです。」

先日エーリク様には私が癒しの力を使ったけど、
この先もずっと元気でいて欲しい。

そしてフィー殿下が立派に成長して跡を継ぐのを
見て欲しいと思う。

そう思いながら話した私にミオ宰相さんはまた深く
頭を下げた。

「大公閣下に代わり感謝申し上げます。フィリオサ
殿下の治癒だけでなくこのようなお心遣いまで
いただくなど本当に、何と言って良いか・・・」

「ありがとうございますお姉様。今度この東屋に
父様も招待して、これを食べながら一緒にお茶を
してみたいです!」

フィー殿下もニコニコしている。そんな殿下の頭を
俺も呼べよ、とミリアム殿下が優しく撫でる。

よし、フィー殿下はすっかり元気になったしまた体調
を崩した時のための果樹も植えた。

あとは薬花に加護を付ければ本来の目的は果たすこと
が出来る。

「薬花の群生地についてですけど・・・昨日の
フィー殿下のお話から場所は分かりましたか?」

ミオ宰相さんに聞けばいいえ、と首を振られた。

「ロイス殿下は昔から供の者をつけずに狩りに出る
事も多かったのですがどうやら群生地を見つけたのも
その時のようで。誰に聞いてもその話は知りません
でした。」

「地図で見れば大体の場所は分かったりとかは?」

「バロイ国とこの国を隔てる大河が流れ込む支流は
上流の方にいくつかあり、その近くに薬花の育つ条件
を備えたような崖や荒れ山はないのです。どこも
鬱蒼とした森林や山ばかりで・・・」

もちろん山の片側や一部が崖のようになっているとか
そういう所もあるらしいけど、全体でみればどこも
薬花が生えそうな乾燥した樹木のない山には見えない
という。

「念のため狩人や山草採りで生計を立てている者達
にも聞いてみようとは思っておりますが・・・」

そんな私とミオ宰相さんのやり取りをそれまで
黙って聞いていたシェラさんがそこで初めて声を
上げた。

「そのロイス殿下は単独で狩りに出られる際は、一応
狩りが単独であることとその帰城予定も告げられて
から出かけられていますよね?」

「ええ、万が一何かあってはいけませんから当然
宮殿を出た時間と戻られた時間も記録に残して
ありますし、単独の際は必ず日帰りでの狩りをお願い
しておりました。」

ミオ宰相さんの頷きにシェラさんはにこりと微笑む。

「それならば群生地の場所の大まかな目安はつけられ
ますね。日にちの特定は難しくてもフィリオサ殿下
が寝込んでおり、お兄様の殿下方が病に倒れた直近の
日で更にロイス殿下が単独で狩りに出た日となれば
数日に絞られるでしょう?」

そして、とシェラさんは続けた。

「その狩りに出た日の帰城時間からここと狩場の
往復時間の予測ができ大体の行動範囲が掴めますね。
薬花の群生地はその行動範囲内のどこかのはずです。
ロイス殿下の今までの狩りの成果やその時の帰城時間
も分かる限り教えていただければ、その行動範囲を
予測して地図に印を付けますよ。」

後はその予測出来る範囲内からそれらしい場所を
探せば良いでしょう、となんでもなさそうに言う
シェラさんにミオ宰相さんだけでなくミリアム殿下
まで驚いている。

「いや・・・そりゃそうかも知れないけどよ。ロイス
の狩りの腕前からその行動範囲とか特定なんて出来る
のか?そんな話聞いたことがないんだけど。」

「急に狩りの腕前が上がって成果が変わっていれば
無理ですが、そうでなければ人間大体の行動範囲は
決まっておりますから。ましてや殿下は単独の際は
毎回必ず日帰りでの狩りとのこと。それなら尚のこと
ロイス殿下の狩りの成果とその時の帰城時間を数日分
オレに教えていただければある程度ここから群生地
までの距離の計算はできますよ。」

「言ってることは何となく理解出来るけどそんなに
簡単なものでもないだろ・・・。本当に何者だよ
お前。それともルーシャ国ほどの大国の王子に同行が
許される商人ともなればその位出来て当たり前なの
か?」

シェラさんを見るミリアム殿下の目が訝しげだ。

「オレは特にその手の計算が趣味で数字が好きなの
です。ですから商人としても大成したとも言えます
ね。」

しれっとした顔でウソをついているけどそれって
きっと今までに小隊任務で経験があるから出来る事
なんじゃないのかな?

物言いたげな私の視線に気付いたシェラさんは
こっそり私に囁いた。

「本来は悪党どもの追跡や居場所を探すために使う
方法ですのでその応用です。」

やっぱり。

「では私の執務室に来ていただければその手の記録や
資料は全て保管してありますので、ご足労おかけ
しますがよろしいでしょうか?」

ミオ宰相さんの申し出に喜んで頷く。

薬花の群生地が分かれば私の力がより役立てる。
喜んでフィー殿下の部屋を後にして執務室へと
向かった。
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