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閑話休題 親父同盟 2
1
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「なんでだよ、おっかしいだろうが‼︎なんでお前は
見たのにオレはまだ大きくなったユーリちゃんを
見れてないんだよ⁉︎」
王都を一望する国王陛下の離宮にその主の泣き言が
響き渡る。
「お前の日頃の行いの悪さも私の日々の苦労も
イリューディア神様はしっかりご覧になっていると
いうことだ。」
ユールヴァルト家当主のドラグウェルは知ったことか
と冷たく突き放して酒を煽った。そしてふと何かを
思い出したように機嫌良さげに微笑む。
「とにかく、実際目の当たりにした本来の姿の
ユーリ様は素晴らしく美しかった。どこの国を
見渡してもあれほど美しい姫君はいないという
ほどの美姫だ。豊かな黒髪といいまるで夜の
女神、・・・いやいつもと違う金色の瞳も相まって
まるで月か星の女神のような艶やかさであったな。」
上機嫌に言葉を連ねるドラグウェルに、同じく酒に
付き合っていた騎士団長のマディウスは目を丸く
した。
「なんだ、人の容姿に無関心なお前がそこまで褒める
とは珍しい。そんなに美しいと聞けばさすがに俺も
見てみたくなるぞ。」
その様子に上機嫌のドラグウェルは更に言葉を
重ねた。
「しかも前に息子やユリウスから聞いていた話では
金色の瞳のユーリ様はいつもと違いグノーデル神様の
御力がその身に降りた状態だという。だからなのか、
奮うその力は体術に優れたあのレジナスですら目で
追うのがやっとなほどだったのだ。そんな貴重な場に
立ち会えるなどやはり召喚者様とユールヴァルト家の
間には並々ならぬ縁の深さを感じる。」
自慢げにそう言ってチラリとナジムートを見やれば、
ぐぬぬと歯を食いしばってその話に黙って耳を傾けて
いた。
その様子に満足したドラグウェルは更に続ける。
「それに私の息子の求婚にもユーリ様はまんざらでも
ないご様子だった。下手にそのことに触れて身を
引かれては困るので、あえてそれには触れずに今回は
領地に帰るが、あのご様子では我が息子がユーリ様の
伴侶に選ばれるのもそう遠い話ではないだろう。」
その言葉になんとまあ、とマディウスは驚く。
「あのシグウェルが求婚だと?すごいなユーリ様は。
今まで誰にもなびかなかったお前の息子の心まで
動かしたのか!」
「セディも喜びの余りすぐさまアントンに伝令を
飛ばして知らせていたが、さっそく近日中にも
アントンの遣わした職人達がタウンハウスへ来て
ユーリ様の為に部屋を改装する予定だ。アントンの奴
ユーリ様の部屋の隣にシグウェルの部屋も新しく作り
部屋同士を繋げる扉までつけると張り切っていたが」
そこで言葉を切ったドラグウェルは再びナジムートを
ちらと見た。
「おん?何だよ?」
まだ自慢を続けるつもりかと不満そうな顔を見せる
ナジムートにドラグウェルはふっと笑った。
「陛下はユーリ様に羊のぬいぐるみを贈られたよう
だが、ユーリ様がお好きなのは手触りも柔らかな
ウサギだ。アントンは極上の本物のウサギの毛を
使った可愛らしいウサギのぬいぐるみもどうやら部屋
に置くらしいから、それを抱きしめて喜ぶユーリ様の
お姿を見るのが今から楽しみだ。」
「お前、そこまでしてユーリちゃんを囲い込むつもり
なのか・・・!」
「残念だったな、お義父様と呼ばれるのはお前だけ
ではない。私もそう呼ばれる事になるのだ。」
「あ、そういえば俺もこの間ユーリ様にそう呼ばれた
んだったな、あれはいいぞ。お父さまって言うお顔が
すごく愛らしくて、思わずユーリ様の鞄に小遣いを
ねじ込んでしまったわ。」
マディウスが思い出したように声を上げた。
その言葉に二人は目を剥く。
「はァ⁉︎なんでだよ、ユリウス坊は関係ねぇだろ!」
「なぜ私を差し置いて貴様がユーリ様にそう呼ばれる
のだ。相手は誰だ?ユリウスでなければゲラルドか、
それともまさか跡取りのダリウスか?」
「何言ってんだ、んな訳ねぇだろ。ゲラルドは
マイペースな独身主義者だし、ダリウスに至っては
まだ軍の合同演習で他国にいてユーリ様に会った事
すらねぇよ。」
二人の勢いにそこまで目の敵にしなくても、と
呆れながらマディウスは干し肉にがぶりと噛み付く。
「そうじゃなくて、先日王都へ降りるために幻影魔法
で変装したユーリ様が、なんと俺のリリの姿になって
くれたんだよ!その時に俺のことをお父さまって
呼んでくれて、ユリウスにもお兄様って話しかけた
んだ。いやぁ、あれは良かった・・・」
その時のことを思い出したのかしみじみと顎ヒゲを
なでるマディウスにナジムートが首を傾げる。
「俺のリリ?何だよそりゃ。」
「話が全く見えんな。夢の話でもしているのか
お前は。」
ドラグウェルの辛辣な言葉もマディウスはどこ吹く風
でどん、と酒瓶を置いて力説した。
「リリは俺の娘の名前だ!三番目が男じゃなくて
女の子だったらそう名付けるつもりだったんだよ!」
そこまで言われてなるほど、とドラグウェルが
納得した。
「つまり、幻影魔法でユーリ様はお前が欲しかった
娘の姿に変装したのだな?そのユーリ様に無理やり
お父さまと呼ばせてユリウスの事も兄と呼ばせたと
言うことか。しかしユーリ様を架空の娘の名で呼ぶ
とは図々しいな。」
「無理やりじゃねぇよ!ユーリ様は俺のお願いを
快く聞いてくださってそう呼んでくれたんだ!それに
リリって名前も気に入ってくれて街に降りた時もそう
名乗ってくれてたんだからな!」
ドラグウェルとマディウスのそんなやり取りを
聞いていたナジムートが頭を抱えた。
「何でだ・・・この三人の中だとオレが一番
ユーリちゃんに近しいはずなのに何でマディウスが
お父さま呼びされててドラグウェルはおっきい姿の
ユーリちゃんを見てるんだ・・・⁉︎おかしいだろ、
いつの間にかオレが一番遅れてるような気がする!」
そんなナジムートをまあまあ、とマディウスが
慰める。
「いやしかし陛下は、アドニスの町に降臨された
グノーデル神様にその名を呼んでいただけたでは
ありませんか。神の口よりその名を語られた王など
陛下だけですぞ。」
「そんなんユーリちゃんの為の口上のついでだから!
ちょっと時期がずれてればオレはもう隠居してて、
そうしたらナジムート王の御世じゃなくイリヤ王の
御世って言われたからな!」
くそ、とツマミの炒り豆を口に放り込んでガリゴリと
それを噛み砕いていたナジムートが
「・・・こうなったら」
豆をごくんと飲み込んで呟いた。
「孫だ。」
「「は?」」
その呟きにマディウスとドラグウェルは何を言って
いるのかと聞き返した。
「孫だよ!オレは孫にかける‼︎リオンとユーリちゃん
の間に出来る子におじいちゃまって呼ばせる!」
「いや陛下、それは当たり前の事では・・・」
「むしろ爺以外にどんな呼び名があると言うんだ」
「うるせぇ、そーいうことを言ってるんじゃねぇ
んだよ!ユーリちゃんに他に何人伴侶が出来ようが
一番先に生まれるのはリオンの子だ!そしたら
自動的に誰よりも早く合法的にオレがおじいちゃま
って呼んでもらえるだろ⁉︎」
その言い分にドラグウェルは呆れ、マディウスは
ぽかんとした。
「ええと、陛下。そういうのは得てして思い通りに
ならないものというか神の御心のままですから、
必ずしもリオン殿下のお子様が先にできるとは
限らないのでは・・・?」
「そうだ、ひょっとすれば私が先に自分の孫の顔を
見る事になるかも知れんだろうが。」
そうなればユールヴァルト家はますます安泰だな、と
ドラグウェルは頷いている。
「くそ、そもそもリオンの奴がユーリちゃんをオレに
なかなか会わせてくれねぇからお前達が抜けがけする
ことになるんだよ・・・!だからせめて孫は、孫の
顔だけはオレが先に見たい!」
「リオン殿下がお前をユーリ様に会わせたがらない
のはその鬱陶しい構いっぷりのせいではないのか?
そんな事ばかり言っているとますますユーリ様に
会わせてもらえなくなるぞ。ただでさえ奥の院の
改装で大袈裟なくらい大きなベッドを寝室に備え付け
させたと聞いている。」
ドラグウェルの言葉にナジムートがピクリと反応
する。
「は?だってどうせならより大きいベッドの方が
何かと使い勝手がいいだろ?伴侶だって何人増えるか
分かんなかったし。え?何か間違っていたか?」
「そういうところだぞ・・・」
なるほど、このデリカシーのなさがイリヤ殿下に
引き継がれているのかとドラグウェルは一人密かに
納得した。
そしてそこでドラグウェルは話を切り出した。
「・・・とにかくだ。今日私が家宝の杖を早く自領へ
持ち帰りたいのを堪えてまでお前の飲みに付き合った
のは、お前が前回決めたあのくだらぬ同盟の規約を
変えさせるためだ。」
「なんだとぉ⁉︎」
「当然だろう。あれはユーリ様に対する一般的な
扱いについてだがことここに至っては私はユーリ様の
義理の父になるのだ。であればもっと親しい親交を
持って当然なのだから、お会いした時に抱き上げる
のは一回につき一度だけなどあり得ない。ユーリ様
にお会いした際はその度に最低でも一度は夕食を
共にしたいし、タウンハウスにも泊まっていただき
たいのだ。」
それをお前に無断で行い後で何か言われては敵わん
からこうしてわざわざくだらん同盟規約の変更を
申し出てやっているのだぞ、と言うドラグウェルは
どこまでも尊大で人に物事を頼む態度ではない。
「くっそ~、だからシグウェルがユーリちゃんの事を
好きなのはお前に黙っていたのに・・・」
ぶつぶつ文句を言うナジムートにドラグウェルは目を
見張った。
「息子の気持ちを知っていたのか?それなのに先日は
知らないふりで私にあんな同盟を持ちかけたと?」
咎められてやべっ!と言う顔をしたものだから
ドラグウェルのナジムートを見る目がますます
冷たくなる。とてもじゃないが臣下が国王に向ける
視線ではない。
「ではなおさら規約の変更を求める。故意に不利益を
与えられたのだ、今度はこちらに有利な条件を与えて
もらおう。」
鋭くみつめるドラグウェルに、場の雰囲気にまるで
馴染まない呑気な声をマディウスが上げた。
「おう、それなら俺もユーリ様を一度我が家の夕食に
ご招待したいな。知らんうちにゲラルドの奴も世話に
なったようだし、俺もリリの姿のユーリ様をうちの
家内にも見せてやりてぇ!」
「マディウス、それとこれとは話が違うだろう。
まずは私がこのいい加減な男から良い条件を引き出す
からそれを待て、それから・・・」
「それならオレだってユーリちゃんと親子水入らずで
食事を取りてぇよ!何だよお前らばっかり‼︎」
ナジムートも我慢出来ずに声を上げた。
「では食事についてもこの際きっちりと条件を
盛り込ませてもらうぞ。」
「よし来た、そしたら続きは飲みながらと行こう!」
嬉々としてそれにナジムートは応じる。
・・・こうしてユーリ本人の知らないところで、
いい年をした大人が三人頭を突き合わせて勝手な
決まり事が増えていき、後でそれを知った自分の
息子達に怒られることになってしまう。
しかし今は誰もそれを知らないまま、王都の夜は
更けていくのだった・・・。
見たのにオレはまだ大きくなったユーリちゃんを
見れてないんだよ⁉︎」
王都を一望する国王陛下の離宮にその主の泣き言が
響き渡る。
「お前の日頃の行いの悪さも私の日々の苦労も
イリューディア神様はしっかりご覧になっていると
いうことだ。」
ユールヴァルト家当主のドラグウェルは知ったことか
と冷たく突き放して酒を煽った。そしてふと何かを
思い出したように機嫌良さげに微笑む。
「とにかく、実際目の当たりにした本来の姿の
ユーリ様は素晴らしく美しかった。どこの国を
見渡してもあれほど美しい姫君はいないという
ほどの美姫だ。豊かな黒髪といいまるで夜の
女神、・・・いやいつもと違う金色の瞳も相まって
まるで月か星の女神のような艶やかさであったな。」
上機嫌に言葉を連ねるドラグウェルに、同じく酒に
付き合っていた騎士団長のマディウスは目を丸く
した。
「なんだ、人の容姿に無関心なお前がそこまで褒める
とは珍しい。そんなに美しいと聞けばさすがに俺も
見てみたくなるぞ。」
その様子に上機嫌のドラグウェルは更に言葉を
重ねた。
「しかも前に息子やユリウスから聞いていた話では
金色の瞳のユーリ様はいつもと違いグノーデル神様の
御力がその身に降りた状態だという。だからなのか、
奮うその力は体術に優れたあのレジナスですら目で
追うのがやっとなほどだったのだ。そんな貴重な場に
立ち会えるなどやはり召喚者様とユールヴァルト家の
間には並々ならぬ縁の深さを感じる。」
自慢げにそう言ってチラリとナジムートを見やれば、
ぐぬぬと歯を食いしばってその話に黙って耳を傾けて
いた。
その様子に満足したドラグウェルは更に続ける。
「それに私の息子の求婚にもユーリ様はまんざらでも
ないご様子だった。下手にそのことに触れて身を
引かれては困るので、あえてそれには触れずに今回は
領地に帰るが、あのご様子では我が息子がユーリ様の
伴侶に選ばれるのもそう遠い話ではないだろう。」
その言葉になんとまあ、とマディウスは驚く。
「あのシグウェルが求婚だと?すごいなユーリ様は。
今まで誰にもなびかなかったお前の息子の心まで
動かしたのか!」
「セディも喜びの余りすぐさまアントンに伝令を
飛ばして知らせていたが、さっそく近日中にも
アントンの遣わした職人達がタウンハウスへ来て
ユーリ様の為に部屋を改装する予定だ。アントンの奴
ユーリ様の部屋の隣にシグウェルの部屋も新しく作り
部屋同士を繋げる扉までつけると張り切っていたが」
そこで言葉を切ったドラグウェルは再びナジムートを
ちらと見た。
「おん?何だよ?」
まだ自慢を続けるつもりかと不満そうな顔を見せる
ナジムートにドラグウェルはふっと笑った。
「陛下はユーリ様に羊のぬいぐるみを贈られたよう
だが、ユーリ様がお好きなのは手触りも柔らかな
ウサギだ。アントンは極上の本物のウサギの毛を
使った可愛らしいウサギのぬいぐるみもどうやら部屋
に置くらしいから、それを抱きしめて喜ぶユーリ様の
お姿を見るのが今から楽しみだ。」
「お前、そこまでしてユーリちゃんを囲い込むつもり
なのか・・・!」
「残念だったな、お義父様と呼ばれるのはお前だけ
ではない。私もそう呼ばれる事になるのだ。」
「あ、そういえば俺もこの間ユーリ様にそう呼ばれた
んだったな、あれはいいぞ。お父さまって言うお顔が
すごく愛らしくて、思わずユーリ様の鞄に小遣いを
ねじ込んでしまったわ。」
マディウスが思い出したように声を上げた。
その言葉に二人は目を剥く。
「はァ⁉︎なんでだよ、ユリウス坊は関係ねぇだろ!」
「なぜ私を差し置いて貴様がユーリ様にそう呼ばれる
のだ。相手は誰だ?ユリウスでなければゲラルドか、
それともまさか跡取りのダリウスか?」
「何言ってんだ、んな訳ねぇだろ。ゲラルドは
マイペースな独身主義者だし、ダリウスに至っては
まだ軍の合同演習で他国にいてユーリ様に会った事
すらねぇよ。」
二人の勢いにそこまで目の敵にしなくても、と
呆れながらマディウスは干し肉にがぶりと噛み付く。
「そうじゃなくて、先日王都へ降りるために幻影魔法
で変装したユーリ様が、なんと俺のリリの姿になって
くれたんだよ!その時に俺のことをお父さまって
呼んでくれて、ユリウスにもお兄様って話しかけた
んだ。いやぁ、あれは良かった・・・」
その時のことを思い出したのかしみじみと顎ヒゲを
なでるマディウスにナジムートが首を傾げる。
「俺のリリ?何だよそりゃ。」
「話が全く見えんな。夢の話でもしているのか
お前は。」
ドラグウェルの辛辣な言葉もマディウスはどこ吹く風
でどん、と酒瓶を置いて力説した。
「リリは俺の娘の名前だ!三番目が男じゃなくて
女の子だったらそう名付けるつもりだったんだよ!」
そこまで言われてなるほど、とドラグウェルが
納得した。
「つまり、幻影魔法でユーリ様はお前が欲しかった
娘の姿に変装したのだな?そのユーリ様に無理やり
お父さまと呼ばせてユリウスの事も兄と呼ばせたと
言うことか。しかしユーリ様を架空の娘の名で呼ぶ
とは図々しいな。」
「無理やりじゃねぇよ!ユーリ様は俺のお願いを
快く聞いてくださってそう呼んでくれたんだ!それに
リリって名前も気に入ってくれて街に降りた時もそう
名乗ってくれてたんだからな!」
ドラグウェルとマディウスのそんなやり取りを
聞いていたナジムートが頭を抱えた。
「何でだ・・・この三人の中だとオレが一番
ユーリちゃんに近しいはずなのに何でマディウスが
お父さま呼びされててドラグウェルはおっきい姿の
ユーリちゃんを見てるんだ・・・⁉︎おかしいだろ、
いつの間にかオレが一番遅れてるような気がする!」
そんなナジムートをまあまあ、とマディウスが
慰める。
「いやしかし陛下は、アドニスの町に降臨された
グノーデル神様にその名を呼んでいただけたでは
ありませんか。神の口よりその名を語られた王など
陛下だけですぞ。」
「そんなんユーリちゃんの為の口上のついでだから!
ちょっと時期がずれてればオレはもう隠居してて、
そうしたらナジムート王の御世じゃなくイリヤ王の
御世って言われたからな!」
くそ、とツマミの炒り豆を口に放り込んでガリゴリと
それを噛み砕いていたナジムートが
「・・・こうなったら」
豆をごくんと飲み込んで呟いた。
「孫だ。」
「「は?」」
その呟きにマディウスとドラグウェルは何を言って
いるのかと聞き返した。
「孫だよ!オレは孫にかける‼︎リオンとユーリちゃん
の間に出来る子におじいちゃまって呼ばせる!」
「いや陛下、それは当たり前の事では・・・」
「むしろ爺以外にどんな呼び名があると言うんだ」
「うるせぇ、そーいうことを言ってるんじゃねぇ
んだよ!ユーリちゃんに他に何人伴侶が出来ようが
一番先に生まれるのはリオンの子だ!そしたら
自動的に誰よりも早く合法的にオレがおじいちゃま
って呼んでもらえるだろ⁉︎」
その言い分にドラグウェルは呆れ、マディウスは
ぽかんとした。
「ええと、陛下。そういうのは得てして思い通りに
ならないものというか神の御心のままですから、
必ずしもリオン殿下のお子様が先にできるとは
限らないのでは・・・?」
「そうだ、ひょっとすれば私が先に自分の孫の顔を
見る事になるかも知れんだろうが。」
そうなればユールヴァルト家はますます安泰だな、と
ドラグウェルは頷いている。
「くそ、そもそもリオンの奴がユーリちゃんをオレに
なかなか会わせてくれねぇからお前達が抜けがけする
ことになるんだよ・・・!だからせめて孫は、孫の
顔だけはオレが先に見たい!」
「リオン殿下がお前をユーリ様に会わせたがらない
のはその鬱陶しい構いっぷりのせいではないのか?
そんな事ばかり言っているとますますユーリ様に
会わせてもらえなくなるぞ。ただでさえ奥の院の
改装で大袈裟なくらい大きなベッドを寝室に備え付け
させたと聞いている。」
ドラグウェルの言葉にナジムートがピクリと反応
する。
「は?だってどうせならより大きいベッドの方が
何かと使い勝手がいいだろ?伴侶だって何人増えるか
分かんなかったし。え?何か間違っていたか?」
「そういうところだぞ・・・」
なるほど、このデリカシーのなさがイリヤ殿下に
引き継がれているのかとドラグウェルは一人密かに
納得した。
そしてそこでドラグウェルは話を切り出した。
「・・・とにかくだ。今日私が家宝の杖を早く自領へ
持ち帰りたいのを堪えてまでお前の飲みに付き合った
のは、お前が前回決めたあのくだらぬ同盟の規約を
変えさせるためだ。」
「なんだとぉ⁉︎」
「当然だろう。あれはユーリ様に対する一般的な
扱いについてだがことここに至っては私はユーリ様の
義理の父になるのだ。であればもっと親しい親交を
持って当然なのだから、お会いした時に抱き上げる
のは一回につき一度だけなどあり得ない。ユーリ様
にお会いした際はその度に最低でも一度は夕食を
共にしたいし、タウンハウスにも泊まっていただき
たいのだ。」
それをお前に無断で行い後で何か言われては敵わん
からこうしてわざわざくだらん同盟規約の変更を
申し出てやっているのだぞ、と言うドラグウェルは
どこまでも尊大で人に物事を頼む態度ではない。
「くっそ~、だからシグウェルがユーリちゃんの事を
好きなのはお前に黙っていたのに・・・」
ぶつぶつ文句を言うナジムートにドラグウェルは目を
見張った。
「息子の気持ちを知っていたのか?それなのに先日は
知らないふりで私にあんな同盟を持ちかけたと?」
咎められてやべっ!と言う顔をしたものだから
ドラグウェルのナジムートを見る目がますます
冷たくなる。とてもじゃないが臣下が国王に向ける
視線ではない。
「ではなおさら規約の変更を求める。故意に不利益を
与えられたのだ、今度はこちらに有利な条件を与えて
もらおう。」
鋭くみつめるドラグウェルに、場の雰囲気にまるで
馴染まない呑気な声をマディウスが上げた。
「おう、それなら俺もユーリ様を一度我が家の夕食に
ご招待したいな。知らんうちにゲラルドの奴も世話に
なったようだし、俺もリリの姿のユーリ様をうちの
家内にも見せてやりてぇ!」
「マディウス、それとこれとは話が違うだろう。
まずは私がこのいい加減な男から良い条件を引き出す
からそれを待て、それから・・・」
「それならオレだってユーリちゃんと親子水入らずで
食事を取りてぇよ!何だよお前らばっかり‼︎」
ナジムートも我慢出来ずに声を上げた。
「では食事についてもこの際きっちりと条件を
盛り込ませてもらうぞ。」
「よし来た、そしたら続きは飲みながらと行こう!」
嬉々としてそれにナジムートは応じる。
・・・こうしてユーリ本人の知らないところで、
いい年をした大人が三人頭を突き合わせて勝手な
決まり事が増えていき、後でそれを知った自分の
息子達に怒られることになってしまう。
しかし今は誰もそれを知らないまま、王都の夜は
更けていくのだった・・・。
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