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第十三章 好きこそものの上手なれ

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「どうして魔導士院じゃなく、貴族街の郊外にある
シグウェルさんのお屋敷でもないユールヴァルト家の
ちゃんとした王都のおうちに呼ばれたんでしょう?」

不思議に思って隣に座るレジナスさんを見る。

場所は王都にあるユールヴァルト家のタウンハウス、
その応接室だ。

「ユーリの持つ魔石はユールヴァルト家の家宝だから
丁重に扱うためだろうが、その他に考えられるのは
ここでなければ会えない家格の者が今日は同席するか
だな。・・・それにしても落ち着かん。」

そう言ってレジナスさんは身じろぎした。

「いつもは護衛騎士で後ろに控える方ですもんね。」

あはは・・・と私も照れ笑いをする。

今日のレジナスさんは服装や帯剣している姿はいつも
と変わらないけれど、立場としては護衛騎士ではなく
私の将来の伴侶としての同行者扱いだ。

そのため、いつものように後ろに立ったりせずに
私の隣に座ってシグウェルさんが現れるのを
待っている。



先日、魔導士院から帰ってきてシグウェルさんに
会った際のあれこれをリオン様に聞かれた時の事だ。

私はごく簡単に、シグウェルさんの気持ちには
気付いたけどまだどうするべきか決めてないと本人
に伝えたらめちゃくちゃ迫られて恥ずかしかった
です、と説明した。

そしたらリオン様はエル君を見て

「今のユーリの話に、君から何か補足はある?」

と聞いた。するとエル君、

「魔導士団長は自分の強みでありユーリ様の弱点でも
ある顔の良さを活かして、ユーリ様が自分を伴侶に
選ぶまではこれから先もずっとその顔を使った上に
言葉責めで口説くつもりです。」

と身もフタもないことを言った。

いや、私がイケメンに弱いのは事実だけども!
でももうちょっとこう、言い方が・・・言葉責めって
なんだ、あれは言葉責めって言うのかな?と
思い返してたらリオン様がふうん、と呟いた。

「ユーリの将来に関わる話だし、選択に影響を
与えてはいけないと思って護衛をエルだけにした
のに、それが裏目に出てシグウェルは思ったより
随分と積極的に打って出たんだね。」

そしてそのまま何故か膝の上に座らされると
ぎゅうぎゅうに抱き締められた。

抱き締めたそのまま、私の肩口に顔を寄せた
リオン様は耳元で

「顔の良さで言えばシェラも同じようなものなのに、
ユーリの好みはシグウェルみたいな顔なんだ。」

と囁いた。

「誤解ですよ⁉︎シグウェルさんは初対面での距離感が
おかしくてビックリさせられたので、それ以来急に
近付かれると落ち着かないだけです!」

別にシグウェルさんの顔が好みとかそういう訳では、
と言ったけどリオン様がどこまで納得してくれたかは
分からない。

ただその時、距離が近いと落ち着かないなら僕も
そうなの?どれくらい近い距離感ならユーリは僕に
ときめいてくれるのかな?と言って私の頬や瞼、鼻先
など顔のあちこちにレジナスさんが止めに入るまで
口付けの雨を降らされた。

そうして気が済むまで私を構い倒した後にリオン様は

「レジナス、次にユーリがシグウェルに会う時は君も
伴侶として同席して。」

突然そう言った。驚いたのはレジナスさんだ。

今まで一度もそういう立場で私と一緒に行動した
ことはないから戸惑っていた。

「なぜ俺が⁉︎それならリオン様でも」

「グノーデル神様のお言葉で君がユーリの伴侶だと
皆が認識したんだし、いい機会じゃないか。
ダーヴィゼルドのバルドル殿だって騎士団長を
しながらヒルダ殿の伴侶として行事に参列する事も
あるんだし、いずれは君もそうなるんだ。今から
色々と慣れておいた方がいいよ。」

そう言われれば納得するしかない。

ちなみにリオン様、シグウェルさんが私を好きらしい
ということはいつの間にかレジナスさんにも話して
いたみたいだった。

だからなのか、護衛ではなくあくまでも伴侶として
レジナスさんを同席させてシグウェルさんの私に
対する態度を牽制させようとリオン様は考えて
いるようだった。

・・・そういえば、もしシェラさんが同席した場合は
事態が悪化しかねないとの判断でまたもやシェラさん
の私への同行は却下されたので、それだけはちょっと
かわいそうになった。

でもそれを言ったらレジナスさんには騙されるな!と
注意されたけど。

そんなわけでユールヴァルト家のタウンハウス訪問は
同行者のレジナスさんに侍女のシンシアさん、護衛の
エル君という組み合わせになった。

「それにしても誰も来ないですねぇ・・・」

お屋敷の侍女さんがお茶を淹れてくれたけど、
それきりまだ誰も来ない。どうしたんだろう。

とその時部屋の外でバタバタと慌ただしい気配が
したと思ったら、勢いよく扉が開いた。

「お待たせして申し訳ございませんユーリ様!」

「セディさん?」

入って来たのは郊外にあるシグウェルさんのお屋敷に
勤めているはずのセディさんだった。

「先日はユーリ様の放たれた金の矢の恩恵を、
卑しくも我々屋敷の者一同も承りまして大変感謝
しております。屋敷の者を代表し、わたくしセディが
厚く御礼を申し上げます。」

そう言って深々と腰を折ってお辞儀をされた。

「そんな大袈裟な。大したことのない加護だし
そこまでお礼を言われるものじゃないので、気に
しないで下さい!」

何しろただの無病息災祈願だ、風邪をひきにくくなる
とかちょっとしたかすり傷程度ならすぐ治るとか、
そんな感じの軽いものだからそこまで大袈裟に
感謝されるとこちらが申し訳なくなる。

だけどセディさんは、

「とんでもございません!癒し子様の魔力を身の内に
感じられるなど、そう出来る経験ではありません。
坊ちゃまのみならず我々まで気にかけていただき
ありがとうございます!」

そう言うとそれに、となぜかキラキラした何か期待を
込めた目で私を見つめてきた。

「坊ちゃまとも変わりなく親しいお付き合いをして
いただいている上に、今回もわざわざ招きに応じて
いただきまして、御礼を申し上げます。本日は
坊っちゃまだけでなく旦那様もご一緒する予定です
ので、それはもう言うなればユールヴァルト家公認の
仲・・・‼︎ぜひわたくしにもそれを見届けさせて
下さいませ!」

なんだか色々先走ったことを話しているセディさん
だけど・・・旦那様?それはもしかして。

そう思ったら、セディさんの背後に背の高い人が
現れた。

「騒がしいぞセディ。ユーリ様を驚かすな。」

シグウェルさんのお父様、ドラグウェル様だ。

シグウェルさんそっくりの冷ややかな紫色の瞳で
セディさんを制すると私に向き直り、丁寧に挨拶を
してくれる。

「お久しぶりですユーリ様。辺境の町アドニスでの
出来事は私も聞き及んでおります。その場にいて直接
グノーデル神様のご神威を体感出来なかったことが
魔導士のはしくれとして残念でなりません。」

そう言ってドラグウェル様は本当に残念そうに首を
振った。シグウェルさんほどではなさそうだけど、
ドラグウェル様も魔法やそれに関する事象は自ら
体感したい人らしい。

そういえばわざわざ遠くダーヴィゼルドまで、私が
グノーデルさんの加護を降ろした山を見に行ったり
したんだっけ。

そう思っていたら歩み寄ったドラグウェル様に

「シグウェルの奴は今参ります。その前に僭越ながら
親しみを込めた挨拶をさせていただいても?」

そんなことを言われた。なんの事だろうと思いつつ
頷けば、失礼致します。という断りの言葉と共に
すいと抱き上げられた。

「えっ⁉︎」

「ふむ、まだまだ軽い。今日は昼食を用意させて
おります。ぜひともたくさん召し上がり栄養をつけて
お帰りください。」

驚く私を無視してそう言ったドラグウェル様は
久しぶりにお会い出来て光栄ですと縦抱きした
まま、器用に私の手の甲に挨拶の口付けを一つ
落とした。

そして視線を上げるとこの間シグウェルさんに貰った
新しい結界石に目を留める。

「これがアントンが吟味して切り出した石から
作られた結界石ですか。」

なるほど、と呟いてまるでシグウェルさんのように
目を細めてそれを見つめている。

「・・・あのものぐさな息子にしては随分と丁寧に
手間をかけて作ったものだ。」

そう感心していた。シグウェルさんそっくりの顔で
そう言われるとつい、こういう物を作るのは私に
対してだけだと耳元で囁かれたことを思い出して
しまってまたうっすらと赤面してしまった。

そんな私に、どうかしましたかな?とドラグウェル様
は不思議そうな顔をして、レジナスさんには

「ユーリ・・・やっぱりその手の顔に弱いんだな。」

と複雑そうな顔で呟かれた。

いや、そういう訳ではないよ!・・・多分。

何のことだろうと不思議そうな顔のドラグウェル様に
見つめられたまま、何となく都合が悪くなって私は
うろうろと視線を彷徨わせた。
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