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第十三章 好きこそものの上手なれ

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「君、俺の顔に弱いだろう」

うららかな初冬の午後、新しく出来た結界石を
受け取りに来た魔導士院の団長室で、テーブルを
はさんだシグウェルさんは突然私にそう言った。

ズバリと図星をついた不意打ちみたいなその言葉に
お茶を持つ手が震えて顔が熱くなる。

私がイケメンに弱いことがバレていた⁉︎

動揺したそんな私をシグウェルさんは面白そうに
見つめていた。

「なっ・・・何言って」

「何言ってんすか団長‼︎」

私より先にユリウスさんが声を上げた。

室内には私とシグウェルさんの他は少し離れて
団長室の扉の前に立つエル君と今声を上げた
ユリウスさんだけだ。

シェラさんもついて来たがったけど、リオン様が

『今日のユーリは結界石を受け取る件だけでなく、
グノーデル神様から預けられたユールヴァルト家の
魔石についてなどあまり他人が入らない方がいい
話が多いからね。』

そう言ってエル君だけを護衛に付けたのだ。

ちなみに一緒に来たマリーさんはリオン様が持たせた
他の魔導士の人達への差し入れの受け渡しのために
今ここにはいない。

いなくて良かった、シグウェルさんのこんな言葉は
とてもじゃないけど聞かせられない。私が恥ずかし
過ぎる。

いや、一番聞かれたらめんどくさそうなユリウスさん
にはもう聞かれちゃったんだけど。

「団長、今までずっと自分の顔の良さには無頓着
だったくせにいきなり何言ってんすか⁉︎」

「今までの俺に対するユーリの態度をある程度考察
した結果、結論付けられた事実を本人に確かめて
いるだけだ。」

「そんなのユーリ様だけじゃなく、その辺の女性なら
みんな団長の顔には弱いでしょうが!なのに今突然
そんな事を言い出す意図が分からないっす‼︎」

わあわあ言うユリウスさんにもシグウェルさんは
平然として動じない。

まるで魔法の実験をした結果を淡々と述べるみたいに
話しているけど、あれ?

この話の流れだとシグウェルさん、ユリウスさんに
私のことをどう思っているかまで話すことになりそう
な感じ・・・?

そう思ったその時、まさにシグウェルさんがまたもや
ズバリ核心をついた言葉を放った。

「ユーリが俺の顔に弱いなら、俺を意識してもらい
今の関係を進展させてお互いの仲を深めるのに有効
だし、それを最大限活用しない手はないと思ったまで
だ。今まで自分の顔の良さに利用価値や意味がある
のか疑問だったが、どうやら意味も価値も大いに
ありそうだ。」

そう言いながら満足そうに目を細めてまだ私を
見つめている。それどころか、

「見ろユリウス。やっぱりユーリは俺の顔に弱い
らしい。」

そう言って赤くなっている私を見るようにと
ユリウスさんを促す始末だ。何してんのこの人。

そしてユリウスさんはといえば

「何言ってんすか、そんなこと本人の目の前で
言ったら恥ずかしくてかわいそうでしょうが!
て言うか、え?今以上に仲を深めるとか意識して
もらうとか、ホント何言ってんすか団長?」

若干混乱気味だ。

「ユーリは俺がユーリと友達になりたいと誤解して
いるようだったから、そんなことは思っていないと
先日話したんだ。俺とユーリの間に、お互いに
対する認識の差があるようだからそれを埋める為
ユーリが俺を意識するのにこの顔が使えるなら
使うべきだろう?」

なあ?と私に聞かれても困る。ユリウスさんは
そんなシグウェルさんをぽかんとして見ている。

「え?なんかそれって、まるで団長がユーリ様の
こと好きみたいに聞こえるんすけど?」

その言葉にシグウェルさんは嫌そうな顔をして
舌打ちをした。

「おい、それはユーリに出した課題だ。お前が先に
答えてどうする。」

「はあぁ⁉︎何すかそれ‼︎ユーリ様⁉︎」

この状況で私に話を振らないで欲しい。本当は
もっと落ち着いて話したかったのに。

「えーと・・・はい、そうですね。シグウェルさんの
出した課題をよーく考えた結果、私が間違っていた
のに気付きました・・・」

「ほう」

それで?と先を促すような視線をシグウェルさんに
投げかけられて言葉に詰まる。

ユリウスさんはそんな私達二人を息を潜めて見守って
いる。これは一体どういう状況なのかを整理しよう
としているみたいだ。

「それで、えーと・・・シグウェルさんは私と友達に
なりたいんじゃなくて、好意を持っていてお付き合い
したいとかそういう・・・?」

「なぜそこでまだ疑問系なのかが不思議だが、概ね
合っている。もう少ししっかりと俺の言動を分析
できればあともう一歩踏み込んだ結論が出ていても
いいんだが惜しいな。だがまあ、そこそこ及第点と
いったところか。」

課題の答え合わせをしたシグウェルさんがまるで
魔法の指導をしているかのようにふむ、と頷いた。

そこそこの及第点、と言われた私はついむきになって

「わ、私の伴侶を望むとか夫に申し出たいとか
そういう事まで考えてます・・・⁉︎」

ユリウスさんもいるし言おうかどうしようか迷って
いたことまで思わず口に出してしまった。

するとそれまでいつも通りの氷の彫像みたいな顔
だったシグウェルさんは、一瞬だけ目を見開くと
満足そうに微笑んだ。

「伴侶でなければ俺の人生の隣に君がいて、これから
先も面白い事に出会えないだろう?」

ダーヴィゼルドの鏡の間で話した事を私が良く覚えて
いないと思ったからか、あの時と同じようなことを
シグウェルさんはもう一度言った。

その顔に浮かぶのはごく稀にしか見ない、氷の
溶けたようなイケメンオーラ全開の麗しい笑顔だ。

普段のシグウェルさんの顔にも動揺させられる事が
あるのに、たまにしか見せないその笑顔の破壊力
たるや私はひとたまりもない。

しかも今回は私の答えに自分の気持ちが通じたとでも
言うように嬉しげにこちらを見ているその紫色の瞳の
奥に、リオン様やレジナスさんが私を見つめてくる
時と同じ甘い色があったので意識せずとも思わず
心臓が跳ねた。

あ、あれ?おかしいな。今まで一度もシグウェルさん
のことをそういう風に意識したことなかったのに。

イケメンが私のことを好きだと分かった途端に
意識するとかちょっとチョロ過ぎないか自分。

トクトクと脈打ってまだ落ち着かない自分の心臓に
戸惑っていると、

「うわ、うわあぁぁ~~っ‼︎」

シグウェルさんのいつにない微笑みとそれに動揺した
私のせいで妙な雰囲気になりかけた空気を壊すように
ユリウスさんの大声がした。

「マジですか、何なんですかそれ!団長が人並の
恋愛感情を⁉︎いやっ、ていうか交際の申し出を
ぶっ飛ばしていきなり求婚とかやっぱりちょっと
おかしいっすけど‼︎」

まるで悪夢だとでも言うように恐ろしいものを見る
目でシグウェルさんと私を交互に見ていた。

「う~、でもこれでなんとなく離宮で二人が
イチャついてた訳が分かった気がするっす。おかしい
と思ってたんすよ、団長が自分の上に乗っかった
ユーリ様を放置したり腰に手を回してたり。あれは
ただユーリ様の魔力に酔っ払ってただけじゃなかった
んすね。」

なんだそれは。全然記憶にない。

「えっ?シグウェルさんの上に乗ってたって私が?
どうすればそんな風になるんです⁉︎」

驚いた私にユリウスさんも驚いている。

「あれを覚えてないんすか⁉︎長椅子に座る団長の
手から紙を取ろうとして迫った挙句に、団長を
押し倒して組み敷いてたじゃないすか‼︎」

「おっ、押し倒し・・・‼︎組み敷いて・・・⁉︎」

そんな痴女みたいな真似を?だってシンシアさん、
私は誰にも迷惑はかけてないって言ってたのに。

思いも寄らない衝撃の事実をユリウスさんに
教えられて愕然とした。
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