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第十二章 癒し子来たりて虎を呼ぶ
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まるで水面から顔を覗かせるように地面の中から
頭を持ち上げて土竜が現れた。
鉤爪のついた前足が地面を鷲掴むようにしてぐんと
身体を持ち上げると私達の前に立ち塞がる。
それを見上げて体が強張ってしまった。
お、大きい・・・。
昔、上野の博物館でティラノサウルスの骨格標本を
見たことがあるけどそれをもうふた周りくらい大きく
したみたいだ。
全身が濃い茶色で、ごつごつした岩みたいな鱗に
覆われたその土竜は不機嫌そうにばしりばしりと
長い尾で地面を打つ。
その度に物凄い土煙が舞い上がって周りの視界を
塞いだ。
土煙の向こうから、マグマみたいに赤く燃える目が
私達をジッと見つめている。
喉の辺りからはゴロゴロと岩が転がるような音が
聞こえてきた。
「お、怒ってるんですかね⁉︎」
「つがいが傷付いているからね。もう少し距離を
取らないと危険だから下がるよ。」
土竜の目を見つめたまま、リオン様は静かに馬を
動かした。
その動きに土竜がピクリと反応する。
喉のゴロゴロが大きく響いたと思うと、がばりと
口を開けた。
まずい、とリオン様は一言言ってぐいと手綱を引くと
反転して一気に馬を走らせ駆け出した。
後ろから何か大きな空気の塊みたいなものが
押し出されてくるような圧力を感じる。
もしかして、これが石化の息吹だか咆哮だかって
やつを吐き出そうとしてる前兆⁉︎
ズシンと地面が揺れたから、多分あの土竜は私達を
追いかけて来ている。
走りながらリオン様が地響きに負けないような
大声で私に聞く。
「僕は平気だけどユーリも石化は弾くのかな⁉︎」
「わ、分かりません!」
少なくとも私は自分にそんな加護は付けていない。
ひょっとして石化しちゃうんだろうか。
それにこの馬も。さっきまでは翼が片方ない手負いの
土竜だけだったから馬でもなんなく対処できていた
けど、この大きな土竜に追ってこられたらすぐに
追いつかれて石化させられてしまうかも。
馬を失ったりしたら土竜と距離も取れない。
ゴオ、と一際大きな音が後ろから迫って来た。
ユーリ様、と言うエル君の声がかすかに聞こえて
思わず私を抱き締めているリオン様の腕の中から
振り向いた。
大きく開いた土竜の、まるで真っ赤な洞穴みたいな
口の中と、鋭く尖ったたくさんの白い牙が見えた。
石化させられるというより食べられてしまいそうな
迫力だ。
あ、ダメかも。
そう思った一瞬、突然真横から灰色の何か大きな
塊が私達と土竜の間に飛び込んで来た。
途端にその灰色のものがビシビシと石化を始めて
ゴトンと転がる。
リオン様はそれに気付くと、少し距離を取ってから
馬のスピードを緩めてもう一度土竜へと向き直った。
どうやら土竜は連続で石化の攻撃は出来ないらしく、
またゴロゴロと唸ったまま石化したものを挟んで
私達を睨みつけている。
一体何が起きたのかと転がったものを見れば、それは
石になったラーデウルフだった。
「ありがとうレジナス、助かったよ。」
リオン様の言葉に慌ててラーデウルフの飛んで来た
方を見れば、エル君と一緒にレジナスさんが立って
いた。
片足を蹴りの姿勢で少し上げたままなのは・・・
もしかしてこのラーデウルフを蹴り飛ばしたって
ことだろうか。
よく見れば石化したラーデウルフは二頭だ。
え?二頭一緒に蹴り飛ばしたの?
しかも私達と土竜の間に石化の息が吐き出される
タイミングで正確に。
「・・・レジナスさんの足は大丈夫なんですかね?」
あんな大きくて重そうなものを二つも蹴り飛ばす
なんて。
「あれくらいどうってことはないはずだよ。」
なにしろレジナスだからね。理由になっているようで
なっていないリオン様の言葉になんだか妙に納得
してしまった。
レジナスさんの隣にいるエル君もホッとしている
ように見えるけど、あの細い糸がぼろぼろだ。
土竜の石化にやられたらしい。
「リオン様、ユーリはなぜここに⁉︎」
レジナスさんは難しい顔をして両手を剣にかけた。
「土竜は俺が相手をしますから、ユーリを安全な
場所へお願いします。」
そんな事を言っている。
「まだダメです!グノーデルさんを呼ばなきゃ!」
また神殿の中へ連れ戻される前に慌てて声を上げれば
リオン様やレジナスさんだけでなくエル君にまで、
緊迫したこの場にそぐわないぽかんとした顔を
されてしまった。
「え?グノーデル神様を?呼ぶってここに?」
リオン様が信じられないことを聞いたという風に
私に確かめた。
そういえばリオン様には夢の中でのグノーデルさん
からの頼まれごとの話はしたけど、まさか本当に何か
起こるとは思っていなかったので万が一の時に
グノーデルさんを呼べるという話はしていなかった
気がする。
「呼べるはずです!勇者様の小刀に剣、その血をひく
リオン様までここにはいますから。グノーデルさんに
お願いして、この土竜も残っているラーデウルフも
みんなまとめて祓ってもらいます‼︎」
何の根拠もないけど出来る気がする。
強気で言った私にエル君も、それがユーリ様の
やりたかったことなんですねと呟いて納得している。
その時、そんな私達に焦れたように土竜が声を
上げた。
尻尾を激しく地面に叩きつけると、抉れた地面から
岩石が飛んで来る。
器用に馬を駆ってそれを避けたリオン様に、
「こいつは俺が相手をします。その間にリオン様は
ユーリを連れてグノーデル神様を呼ぶ準備を!」
レジナスさんは素早く双剣を抜いて土竜に対峙した。
土竜は私達とレジナスさんのどちらに狙いを
定めようかとあの大きな赤い目で品定めしている。
そこへまた地響きがした。
もう一頭の、リオン様がとどめをさそうとしていた
土竜が私達のところへ追いついてきたのだ。
「まずいね。囲まれたかもしれない。」
リオン様が馬をぐるりとその場で巡らせて周囲を
確かめた。
数は少ないけどラーデウルフのまだ残っていた群れも
少しずつ集まって来ている。
「ユーリ、グノーデル神様はどうやって呼ぶの?」
リオン様に改めて聞かれると困る。どうすれば
いいのかな?ダーヴィゼルドの時みたいに、空に
向かって大声で語りかければいいんだろうか。
「ええっと・・・」
私が握りしめている勇者様の小刀はまだ薄く輝いて
いる。
「リオン様、私と向かい合わせになれますか?」
馬上で後ろを振り向きながら言うと、
「馬の上で?こう?」
一度手綱を離したリオン様はそのまま私をひょいと
持ち上げて向かい合わせになるように座らせて
くれた。
「あと、勇者様の剣も下さい!」
さっきエル君から受け取って腰に差していた剣を
鞘ごと預かって、小刀と一緒に抱えるとそのまま
ぎゅっとリオン様に抱きつく。
「ユーリ?」
「ちょっとこれでやってみます!しっかり掴んで
ますから、このまま馬を走らせて土竜の攻撃を
避けてもいいですよ‼︎」
剣と小刀を間に挟んでリオン様の胸元に額をつけて、
リオン様の胸の内に語りかけるように心の中で
グノーデルさんへと話しかける。
もしもこれで私の声が届くのなら。
どうかここに現れて私達を助けて欲しい。
大きな土竜もずる賢いラーデウルフもみんな祓って、
町の人達を安心させて欲しい。
ここにはグノーデルさんの神殿がある。ここに住む
人達はみんなグノーデルさんのことを敬ってくれて
いる人達だ。だからどうか、その人達のためにも。
グノーデルさんの加護を受けた勇者様の、その血に
連なるリオン様を通してどうか私の声が届きます
ように。お願いだからどうか、
「来てください」
声に出して小さく呟いた時だった。
「俺を呼んだなユーリ‼︎」
その場いっぱいに、大きな雷が鳴り響くように
びりびりと、空気を震わせてグノーデルさんの声が
轟き降り注いで来た。
頭を持ち上げて土竜が現れた。
鉤爪のついた前足が地面を鷲掴むようにしてぐんと
身体を持ち上げると私達の前に立ち塞がる。
それを見上げて体が強張ってしまった。
お、大きい・・・。
昔、上野の博物館でティラノサウルスの骨格標本を
見たことがあるけどそれをもうふた周りくらい大きく
したみたいだ。
全身が濃い茶色で、ごつごつした岩みたいな鱗に
覆われたその土竜は不機嫌そうにばしりばしりと
長い尾で地面を打つ。
その度に物凄い土煙が舞い上がって周りの視界を
塞いだ。
土煙の向こうから、マグマみたいに赤く燃える目が
私達をジッと見つめている。
喉の辺りからはゴロゴロと岩が転がるような音が
聞こえてきた。
「お、怒ってるんですかね⁉︎」
「つがいが傷付いているからね。もう少し距離を
取らないと危険だから下がるよ。」
土竜の目を見つめたまま、リオン様は静かに馬を
動かした。
その動きに土竜がピクリと反応する。
喉のゴロゴロが大きく響いたと思うと、がばりと
口を開けた。
まずい、とリオン様は一言言ってぐいと手綱を引くと
反転して一気に馬を走らせ駆け出した。
後ろから何か大きな空気の塊みたいなものが
押し出されてくるような圧力を感じる。
もしかして、これが石化の息吹だか咆哮だかって
やつを吐き出そうとしてる前兆⁉︎
ズシンと地面が揺れたから、多分あの土竜は私達を
追いかけて来ている。
走りながらリオン様が地響きに負けないような
大声で私に聞く。
「僕は平気だけどユーリも石化は弾くのかな⁉︎」
「わ、分かりません!」
少なくとも私は自分にそんな加護は付けていない。
ひょっとして石化しちゃうんだろうか。
それにこの馬も。さっきまでは翼が片方ない手負いの
土竜だけだったから馬でもなんなく対処できていた
けど、この大きな土竜に追ってこられたらすぐに
追いつかれて石化させられてしまうかも。
馬を失ったりしたら土竜と距離も取れない。
ゴオ、と一際大きな音が後ろから迫って来た。
ユーリ様、と言うエル君の声がかすかに聞こえて
思わず私を抱き締めているリオン様の腕の中から
振り向いた。
大きく開いた土竜の、まるで真っ赤な洞穴みたいな
口の中と、鋭く尖ったたくさんの白い牙が見えた。
石化させられるというより食べられてしまいそうな
迫力だ。
あ、ダメかも。
そう思った一瞬、突然真横から灰色の何か大きな
塊が私達と土竜の間に飛び込んで来た。
途端にその灰色のものがビシビシと石化を始めて
ゴトンと転がる。
リオン様はそれに気付くと、少し距離を取ってから
馬のスピードを緩めてもう一度土竜へと向き直った。
どうやら土竜は連続で石化の攻撃は出来ないらしく、
またゴロゴロと唸ったまま石化したものを挟んで
私達を睨みつけている。
一体何が起きたのかと転がったものを見れば、それは
石になったラーデウルフだった。
「ありがとうレジナス、助かったよ。」
リオン様の言葉に慌ててラーデウルフの飛んで来た
方を見れば、エル君と一緒にレジナスさんが立って
いた。
片足を蹴りの姿勢で少し上げたままなのは・・・
もしかしてこのラーデウルフを蹴り飛ばしたって
ことだろうか。
よく見れば石化したラーデウルフは二頭だ。
え?二頭一緒に蹴り飛ばしたの?
しかも私達と土竜の間に石化の息が吐き出される
タイミングで正確に。
「・・・レジナスさんの足は大丈夫なんですかね?」
あんな大きくて重そうなものを二つも蹴り飛ばす
なんて。
「あれくらいどうってことはないはずだよ。」
なにしろレジナスだからね。理由になっているようで
なっていないリオン様の言葉になんだか妙に納得
してしまった。
レジナスさんの隣にいるエル君もホッとしている
ように見えるけど、あの細い糸がぼろぼろだ。
土竜の石化にやられたらしい。
「リオン様、ユーリはなぜここに⁉︎」
レジナスさんは難しい顔をして両手を剣にかけた。
「土竜は俺が相手をしますから、ユーリを安全な
場所へお願いします。」
そんな事を言っている。
「まだダメです!グノーデルさんを呼ばなきゃ!」
また神殿の中へ連れ戻される前に慌てて声を上げれば
リオン様やレジナスさんだけでなくエル君にまで、
緊迫したこの場にそぐわないぽかんとした顔を
されてしまった。
「え?グノーデル神様を?呼ぶってここに?」
リオン様が信じられないことを聞いたという風に
私に確かめた。
そういえばリオン様には夢の中でのグノーデルさん
からの頼まれごとの話はしたけど、まさか本当に何か
起こるとは思っていなかったので万が一の時に
グノーデルさんを呼べるという話はしていなかった
気がする。
「呼べるはずです!勇者様の小刀に剣、その血をひく
リオン様までここにはいますから。グノーデルさんに
お願いして、この土竜も残っているラーデウルフも
みんなまとめて祓ってもらいます‼︎」
何の根拠もないけど出来る気がする。
強気で言った私にエル君も、それがユーリ様の
やりたかったことなんですねと呟いて納得している。
その時、そんな私達に焦れたように土竜が声を
上げた。
尻尾を激しく地面に叩きつけると、抉れた地面から
岩石が飛んで来る。
器用に馬を駆ってそれを避けたリオン様に、
「こいつは俺が相手をします。その間にリオン様は
ユーリを連れてグノーデル神様を呼ぶ準備を!」
レジナスさんは素早く双剣を抜いて土竜に対峙した。
土竜は私達とレジナスさんのどちらに狙いを
定めようかとあの大きな赤い目で品定めしている。
そこへまた地響きがした。
もう一頭の、リオン様がとどめをさそうとしていた
土竜が私達のところへ追いついてきたのだ。
「まずいね。囲まれたかもしれない。」
リオン様が馬をぐるりとその場で巡らせて周囲を
確かめた。
数は少ないけどラーデウルフのまだ残っていた群れも
少しずつ集まって来ている。
「ユーリ、グノーデル神様はどうやって呼ぶの?」
リオン様に改めて聞かれると困る。どうすれば
いいのかな?ダーヴィゼルドの時みたいに、空に
向かって大声で語りかければいいんだろうか。
「ええっと・・・」
私が握りしめている勇者様の小刀はまだ薄く輝いて
いる。
「リオン様、私と向かい合わせになれますか?」
馬上で後ろを振り向きながら言うと、
「馬の上で?こう?」
一度手綱を離したリオン様はそのまま私をひょいと
持ち上げて向かい合わせになるように座らせて
くれた。
「あと、勇者様の剣も下さい!」
さっきエル君から受け取って腰に差していた剣を
鞘ごと預かって、小刀と一緒に抱えるとそのまま
ぎゅっとリオン様に抱きつく。
「ユーリ?」
「ちょっとこれでやってみます!しっかり掴んで
ますから、このまま馬を走らせて土竜の攻撃を
避けてもいいですよ‼︎」
剣と小刀を間に挟んでリオン様の胸元に額をつけて、
リオン様の胸の内に語りかけるように心の中で
グノーデルさんへと話しかける。
もしもこれで私の声が届くのなら。
どうかここに現れて私達を助けて欲しい。
大きな土竜もずる賢いラーデウルフもみんな祓って、
町の人達を安心させて欲しい。
ここにはグノーデルさんの神殿がある。ここに住む
人達はみんなグノーデルさんのことを敬ってくれて
いる人達だ。だからどうか、その人達のためにも。
グノーデルさんの加護を受けた勇者様の、その血に
連なるリオン様を通してどうか私の声が届きます
ように。お願いだからどうか、
「来てください」
声に出して小さく呟いた時だった。
「俺を呼んだなユーリ‼︎」
その場いっぱいに、大きな雷が鳴り響くように
びりびりと、空気を震わせてグノーデルさんの声が
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