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閑話休題 ちいさな恋のものがたり

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黒髪の、少し生意気でかわいいあの女の子。
もう二度と会うことはないんだろうなと諦めて
その存在を少し忘れかけていた頃にまた会った。
しかも今度は叔父上の執務室で。

その日は確か、叔父上に地政学の本を借りに
執務室を訪れた。

繁忙期で忙しいのに申し訳ないなと執務室の扉を
叩いて、深くお辞儀をしたら見慣れない小さな革靴が
視界の端に入ってきたんだ。

子供?オレみたいな子供がこの部屋にいるなんて。

不思議に思ってそいつの顔を確かめた。

目に飛び込んできたのは、猫の耳みたいなのが
頭についた黒髪の女の子だ。どきっとした。

オレの顔を見るその瞳に見覚えがある。何故か
あの時よりもちょっと大人びた顔立ちになって
背も少し高くなっていたけど、かわいいと思って
覚えていたあの顔だ。

思いもよらない再会にびっくりする。

というか、ちょっとだけ成長してるけど相変わらず
かわいいなこいつ・・・。

そう思ったら自分の顔が熱くなって、赤くなって
きたのが分かった。

巫女や魔導士じゃなかったのか?ここにいるって
ことは叔父上の侍女なのか?

そう思ってその姿を上から下まで確かめる。

うーん・・・侍女か?格好は侍女っぽいけど、
なんであんなに足が出ていてスカートが短いんだ?

足の形にぴったり沿った長靴下が、その子の
ほっそりしてすらりと伸びた足の長さを目立たせる。

その長靴下とスカートの隙間から白い肌がちらっと
見えているのが、見てしまったこっちがなんだか
落ち着かない気持ちにさせられた。

そんな風に真っ赤になっていると叔父上とその後ろに
立っている護衛のレジナスが不思議そうにオレを見て
いるのが分かった。

それがなんとなく気恥ずかしくて、ついその子に
憎まれ口を叩いてしまったけど、そんなオレを
相手にすることなくその子はオレから逃げるように
執務室から出て行ってしまった。

「叔父上、あの子は何ですか⁉︎」

そう聞けば

「ユーリかい?この1週間だけ僕の手伝いを
お願いしているんだよ。・・・レニはユーリを
知ってるの?」

逆に叔父上に聞かれてしまった。

だから、王宮で遊んでいてケガをした時にたまたま
通りがかったあの子にそれを治してもらった事と
お礼を言おうと思っていたけどそれ以降全く
出会えなかったことを話した。

そんなことを話していたらちょうどあの子・・・
ユーリが戻って来た。

叔父上に手招きされてこちらに歩み寄って来た
あの子を、ごく自然に当たり前のように叔父上が
その膝に乗せる。

短いスカートの裾がめくれそうになってあの子は
慌てていたけどオレはそれ以上に叔父上がそんな事を
したのに驚いた。

あの上品で礼儀正しい叔父上が来客の目の前で
女の子を膝の上に乗せるなんて。

一体どうしちゃったんだ⁉︎それなのに、驚いて
声を上げたオレに平然として叔父上はオレの事を
あの子に教えて、あの子の事もオレに紹介した。

召喚の儀式で呼ばれた癒し子。それがあの子の
正体だった。だからオレのケガを治せたんだ。

でも、召喚者って言うのは話に聞く勇者様みたいに
すごくてカッコいいものじゃないのか?

目の前で頬を赤らめながら叔父上に猫の子みたいに
大人しく撫でられているこいつはカッコいいとか
じゃない。ただかわいくて・・・かわいいだけだ。

呆気に取られていたら、さらに叔父上はオレに
すごいことを言ってきた。

こいつ・・・ユーリの伴侶は二人もいて、しかも
それが叔父上とその護衛のレジナスだという。

えっ、だってユーリはオレと同じくらいの年だぞ⁉︎

こんなチビで、叔父上とレジナスに挟まれて三人
仲良く座る姿とか伴侶だとかは全然想像できない。

身長差とか。歳の差とか。まだオレの方がユーリの
隣に並ぶ方がしっくりくる。

貴族なら少しくらいの歳の差なんて関係ないことは
分かっていたけど、その時は思わずそんな事を
つい口にしてしまった。

そしたらそれを聞いたユーリが眉を顰めた。

「チビとかこんなとか言うのは良くないです!
周りの人に嫌われちゃいますよ、めっ!です。」

なんだそれ。めっ!って。オレは幼児か。
そんな叱られ方、母上にも乳母にもされたことない。

ふざけるなよ、かわいすぎか。

注意されたのになぜか心の中がむず痒くなって
ユーリの顔をまともに見られない。

顔が赤いまま、周りの人に嫌われるってことは
こいつも俺のことを嫌いになるのかな、なんて
言われた事を反芻していて気が付いた。

あれ?こいつ、オレのこと名前で呼んだことないな?

叔父上のことは嬉しそうに名前で呼んでるし、
レジナスに話しかける声音も優しい。

あのおっかない顔のレジナスがユーリに名前を
呼ばれると明らかに雰囲気が柔らかくなるし。

オレもそんな風に名前で呼ばれてみたい。

そう思って、特別に名前で呼ぶ許しをやったのに
全然嬉しそうじゃないしむしろめんどくさそうに
している。なんなんだよ。

オレのことは名前で呼びたくないのか?そんな
気持ちと、叔父上と結婚したユーリを将来は
叔母上って呼ぶのはなんかすごくイヤだな、
その呼び方はなんか腹立つな。って言うのが
ごちゃ混ぜになって、つい強い口調でユーリに
オレのことは名前で呼ぶように言ってしまった。

怒るかな、とちょっと後悔したけどユーリは
渋々ながらもオレのことを名前で呼んでくれた。

それが思ったよりも嬉しい。でもまたこいつは
オレのことを子供あつかいした。

オレだって、あと何年かすればもっと背が高くなって
父上みたいに堂々としたカッコいい男になるのに。

今の叔父上みたいにこいつを膝の上に座らせる
ことだってわけないはずだ。

そうだ、そうしたら綺麗に着飾ったユーリの
手を取って夜会にもエスコート出来る。

そんな事を話したけど本人は全然ピンと来ていない。

「ありがとうございます・・・?」

って、キョトンとして小首をかしげられた。

またかわいいし。やることなす事全部かわいいって
なんだそれ。意味が分からない。

・・・でも叔父上と一緒になるんだよな。
それって本当のことか?

まだなんとなく信じられなくてもう一度確かめて
みれば叔父上はすごく嬉しそうに、証明して
欲しいなら今ここでユーリに口付けてもいいよと
びっくりするようなことを言う。

誰にでも公平に優しいけど、令嬢やご婦人には
一定の節度を持って接している・・・っていうか、
一種の線引きをして誰にも心を傾けたことのない
叔父上がそんなことを言うなんて。

ユーリを見つめる叔父上の目も、オレに向けるのとは
また違う種類の見たことのない優しい目だ。

叔父上、そんなにもこいつの事が好きなんだ。

そう思っていたらユーリも自分ではっきり叔父上と
レジナスの二人と将来を約束していると言った。

それを聞くと、どうしてか胸が痛む。

そんなオレとは対照的に、叔父上はすごく嬉しそうに
笑っている。その後ろに立つレジナスも、何も
言わないけどほんの少しだけ口元が緩んで微笑んで
いるみたいだった。あのおっかない顔が笑うところ
なんて初めて見た。

でもそれっていつだろう?オレが大きくなるまでに
ユーリは結婚しちゃうんだろうか。

もしかして、おめでたいことだから父上の戴冠式と
一緒とか?気になってつい聞いてしまった。

そしたら顔を真っ赤にしたユーリに

「そんなすぐにじゃありません!」

って言われた。叔父上は今すぐにでも式を挙げても
構わないって笑っている。

そっか。まだ先のことで何も決めてないんだ。 

じゃあこの先オレが大きくなったら、ユーリはそんな
オレを子供あつかいしないで叔父上みたいにちゃんと
一人前の男としてあつかってくれるのかな。

「それなら大きくなったらオレも・・・」

ちゃんと男として見て、って言おうと思ったけど
それを口に出すのはなんだか急に恥ずかしくなった。

それに・・・あれ?これって言ってもいいのかな。
言ったら叔父上との間がすごく気まずくなる気が
する。

なんとなくそう思ったらその先を続けられなく
なってしまった。

そしたらユーリは何を勘違いしたのか知らないけど
自分の結婚式とオレの結婚式は一緒に挙げられない
なんてよく分からないことを言ってきた。

完全にオレのことは自分の結婚相手の勘定に
入れてない。

それがなんか悔しくなった。いや、別にユーリと
結婚とかそこまで考えたわけじゃないけど・・・

うん、考えてないよな?自分で自分のことが良く
分からなくなってきた。

でもユーリが言ったことが自分の言いたかった事と
全然違うことは分かる。それを言おうとした時に、
廊下で待っていたゲラルドが突然入室して来た。
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