【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera

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第十一章 働かざる者食うべからず

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広げて見た、食堂の制服だというそれに私は
困惑した。ブラウスの形やスカートのデザインが
先日トランタニアで着せられたお仕着せに似て
いなくもない。え?偶然かな?

他の一式も確かめる。揃いの白い長靴下に紺色の
靴。フリルのついた白いエプロン。スカートの
下に履くらしい、同じくフリルがたっぷりついた
インナー用スカート。

・・・いやいや、かわいい服だけどこれを着てここで
働くわけにはいかないでしょう。どう考えても人違い
だもの。

早く戻らないとレジナスさんが心配する。
エル君は近くにいるのかな。

キョロキョロして、窓辺に寄ると窓を少し開けて
エル君、と呼びかけてみる。

でもしんとしていて返事はない。あれ?いないの⁉︎

その時、部屋の扉がけたたましく叩かれた。

「ちょっと新人ちゃん!もう着替えた⁉︎早く来て
くれないと困るんだけど⁉︎まだだったら急いで、
もうお客さんが開店を待ってるよ!」

若い女の子の声だ。従業員だろうか。

ここ、開店を待つ人がいるくらい人気のお店なんだ。

耳をすませば、建物の中もガヤガヤと活気がある。
これはとてもじゃないけど抜け出せるスキが
なさそうだ。

「おーい、いい?着替えた?」

開けちゃうよ、と言う言葉と共にガチャリと扉が
開いて、金髪でポニーテールのかわいい女の子が
入ってきた。

そして制服を手に持ったまま立っている私をみて

「ウソでしょ⁉︎まだ着替えてないとか!頼むよ~」

そう言うと私を脱がしにかかった。

「わわっ!」

「ほら早くして!お店が開いちゃうよ‼︎」

問答無用で着替えさせられる。パフスリーブの
袖にブラウスは真ん中に青いリボン付きだ。

そしてスカートはジャンパースカートのように
両肩からサスペンダーで吊り下げているみたいに
見える形状で、みぞおちのあたりからウエストを
きゅっと引き絞りその下のスカートはふんわりと
広がっている。あのトランタニアの侍女服のように。

あっという間に着替えさせられてしまった。
そして思う。

「スカートが短い・・・‼︎」

膝の少し上程度だけど、この世界の一般的な
ものとしては結構短い部類に入る。

一応、長靴下は履いてるけどそれが膝小僧の少し
上くらいまでで、スカート丈と長靴下の間に
絶妙に一、二センチほど僅かに素肌が覗いている。

いわゆる絶対領域である。

こ、この世界で絶対領域を理解してそれを計算づくで
制服に起用するとか、一体どんな人がこんなのを
考えたのか。

そして着てみて分かった。

この白いブラウスをU字型に囲う、胸が強調されて
みえる形の洋服・・・元の世界の今はなきファミレス
ア○ナミラーズのものにそっくりだ・・・‼︎

まあ私のささやかな胸だといくら胸を強調する
服でも全然強調されてないんだけどね・・・。

スカートが短いと言った私に、着替えを手伝った
女の子はまあね、と頷いた。

「慣れるまではちょっと恥ずかしいかも知れないけど
かわいいでしょ?それに、下にはフリルのたくさん
ついたスカートも履いてるから下着が見える心配は
ないよ。あと、店が忙しくてすぐにそんなことを
気にしてるヒマはなくなるから大丈夫!」

さあ行くよ、頑張ろー‼︎そう言って手を引かれて
部屋から出された。

歩きながら

「こういう食堂で働いた経験はある?経験者だと
助かるんだけどなー」

そう聞かれた。飲食店でのバイトは学生時代に
やったことはあるけど、遥か昔の記憶だ。

「一応・・・。でもずっと前なんで、あんまり
あてにならないかも知れません。」

「上等上等‼︎そんなの動いてるうちに思い出すし。
とりあえず、全部じゃなくていいから店内の一角
だけでも座席番号覚えてちょうだい。そうだなあ、
7卓だけ覚えてもらおっか。それに慣れたら徐々に
卓数を増やして、いずれは店内全部を担当して
もらうから!」

店内分担制か。それなら新人でもやりやすいかも。
昔のバイト先ではテーブル番号を覚えられなくて
間違えて料理を別のテーブルに運んだこともあった
なあ、懐かしい。

ていうか、私がここに間違えて連れてこられたのなら
そのうち本当にここで働くはずだった人もさすがに
おかしいと気付いてここに訪ねて来ないかな。

人手不足だって言うし開店前なのにもうお客さんは
待ってるしで、忙しそうなのにここで私が黙って
消えたらどうなるんだろう。

とりあえず、その本当に働くはずだった人がここに
訪ねて来るかレジナスさんが迎えに来てくれるまで
頑張って働いて手伝ってみようか。

そう腹を括って食堂に出た。

店内には私と同じ格好のウェイトレスの女の子や
スカートと同じ青い色のベストを着たウェイターなど
10人程度の従業員が打ち合わせをしていた。

その輪の中へにこやかに迎え入れられる。

「おー、来た来た!待ってても全然来ないから
事故にでも遭ったのかと心配したよ!ウィルさんが
迎えに行って正解だったな、いやー良かった‼︎」

バイトリーダー的な男の人にそう言われた。
嫌味でもなんでもなく、本当に心配していた
みたいだ。

「す、すみません。」

悪くないのに何故か反射的に謝ってしまう。

「さて、それじゃこれでみんな揃った事だし後は
今日の注意事項だけ。この店、基本的に予約は
取らないのはみんな知ってると思うけど今日は
特別だから。昼の少し前辺りに3名で予約が
入ってる。ウィルさんから頼まれてるんだけど、
大柄な男性に連れられた女の子と小さい少年の
3人連れが来たら奥の目立たない席に案内して。
大切なお客様がお忍びで来るらしいから、名前は
大きな声で呼ばないこと。一応、席にも目隠し
がわりに植物や衝立をそれとなく配置してあるから。
その人達が来たのを厨房に伝えれば、あらかじめ
決めてあるメニューを出すから注文も取らなくて
いいってさ。」

・・・ん?それってまさか。

「あ、あの・・・」

はい、と小さく手をあげる。

「その人達の名前は・・・」

「あれ、何だっけ?あっ!ウィルさん肝心の名前を
俺に言ってないじゃん‼︎大事なとこでそそっかしい
んだよな~あの人‼︎えーと、とりあえずその時間に
訪ねてくる3人連れを案内すれば大丈夫だと思う。
男性に連れられた子供との3人連れなんて、いくら
ここが人気店でもそうないから!特別な客ってことは
身なりもそれなりだろうし。・・・っと、もう
時間か。よし、今日も頑張っていいサービスして
チップをたくさん貰おうな‼︎」

おー!と明るいノリでみんなが気勢をあげた。

ええ、そんな適当な・・・。
話からしてまさかとは思ったけどここ、マリーさんが
私のために予約してくれたお店じゃ・・・。

覚えろと言ってテーブルの卓番号を書いた紙と一緒に
渡されたメニュー表を開く。

煮込み料理にアヒージョみたいなもの、ムニエル。
もちろん肉料理もあるんだけど、メニュー表の中身の
大半を占めているのは魚料理だ。

しかも特別メニューで時価、と書いてあるそこに
サシミという文字を見つけた。

それに店内の装飾も係留用ロープや操舵稈、船に
つけるランタンなんかも飾ってあっていかにも
港の居酒屋、みたいな雰囲気を出している。

海水浴場や海を連想させる店構えにこのメニュー。

やっぱりここはマリーさんの言っていた、港町に
本店がある今日のお昼に私達が来るはずだった店だ。

そういえば、名前を言うと騒ぎになるかもしれない
から名前は名乗らずに、マリーの紹介ですって言えば
大丈夫ですからね、ってマリーさんは言っていた。

だから予約してるのに名前が伝わっていないんだ。

てことは、予約していた時間までに本来働くはず
だった人がここに来てくれるか、レジナスさんと
エル君がここに来るかしてくれないと、せっかく
マリーさんが予約してくれたお刺身を食いっぱぐれて
しまう!それだけは避けたい。

メニュー表を見ながらあせる私の耳に波止場の汽笛
みたいなブォーッと言う音が響いた。

いらっしゃいませー、と言う声も聞こえたから
どうやらあの音は開店の合図らしい。

こうして街に買い物に出ただけの私は何故か
自分が昼食を取る予定の店で働き始めた。

自分の昼食代は自分で稼ぐスタイルだ。

ウィルさんという人が言っていた、パンを得たければ
自ら歩けという言葉が私の頭の中をぐるぐる
巡っていた。
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