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第十章 酒とナミダと男と女

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よしよし、大成功だ。上機嫌に頷いた私は王都の
景色を確かめて、くるりとリオン様達の方へ両手を
広げながら振り返った。

「じゃーん‼︎どうですか、うまくいきましたよ?
私も具合は悪くないし眠くもありません‼︎
大成功ですっ‼︎」

胸を張ってそう言ったら、なぜか私を見たリオン様に
レジナスさん、ユリウスさんにシグウェルさん・・・
エル君やシンシアさん、つまりはその場にいた
全員が固まった。

次の瞬間、

「ユーリ、透けてる!それはまずいよ⁉︎」

リオン様の慌てた声がしてレジナスさんが物凄い
早さで私を抱き抱えると部屋の中へ移動させた。

ん?透けてるって何が?訳が分からないでいたら
肩にふわりと何かがかけられた。見ればリボンと
同じ色の青い上衣だった。

「シンシアさん?」

それをかけてくれたのはシンシアさんだった。
私が地図を見せてもらったりユリウスさんに肩車を
してもらっていたその間に、いつの間にか離宮の中で
布を手に入れて簡単だけどこの場で羽織るだけの
簡易的な上衣を縫ってくれていたらしい。

「ユーリ様、その色のお召し物で逆光の中を不用意に
歩かないで下さい、中まで透けて見えてしまいます!
ただ申し訳ございません、私としたことがこの
お色味のご衣装は最初からこのような事まで想定して
上衣を用意しておくべきでした、ユーリ様に
恥ずかしい思いをさせるなど私の不手際です・・・」

そう言ってシンシアさんは私とリオン様へ、
申し訳ございませんでしたと頭を下げた。

え?さっきの透けてるっていうのはつまり、
逆光の中を薄い色の服装で立っちゃったから私の
体の線が透けて見えちゃったってこと?

「それはまた、お見苦しいものを見せちゃって
すみません・・・。でも大丈夫、気にしなくて
いいんですよ、シンシアさん!どうせ見えても
減るもんじゃないし私には見えてませんからね‼︎」

しょんぼりと気を落としたシンシアさんを励ます。
別に裸を見られたわけでもあるまいし。

大丈夫大丈夫!そう言ってシンシアさんを抱きしめた
私を見たリオン様はなんだか呆れているようだ。

「いや、減るもんじゃないって・・・。少しは
気にしようよ、かなりきわどい姿だったよ?」

「ユーリは今の自分の姿に自覚がなさ過ぎる!」

レジナスさんにまでそう言われた。いやいや、
私だってちゃんと分かってますよ。今の姿が
イリューディアさん渾身の作の体だってことは。

ただ、みんな気にし過ぎだと思う。ノイエ領の
夕食会の時は今の私よりも肩や胸元を出した
ドレス姿の綺麗な人がいっぱいいたよ?

今の私なんてかわいいものだと思うけど・・・。

「そんなに言うんなら仕方ないですねぇ。
シンシアさん、大きくなった私の服って他にも
ありますか?もっと透けない色で、露出が少ない
感じので、あとえーと・・・お腹がすきました‼︎」

力を使ったせいだろうか、話しているうちに
なんだか急にお腹が減ってきた。

ハッとしてそう言ったら、

「なんなんすか、話に脈絡がなさ過ぎますよ。
やっぱりこれ、酔ってるんじゃないっすか?」

ユリウスさんがエル君の影に隠れながら私を見てた。

「何してるんですかユリウスさん。エル君みたいに
小さい子に頼るなんてどうしたんですか?」

恥ずかしくないのかな?小首を傾げてそう尋ねれば、

「そんなかわいい仕草をしても、もう騙されないっす
からね!酔っ払ったユーリ様が危険だって言うのは
よく分かったっす!ここはエル君みたいに冷静に
対処できる人が必要なんですよ‼︎」

なんて叫ばれた。だから酔ってないってば。
エル君は自分の背後のユリウスさんを綺麗に無視して
私に話しかける。

「ユーリ様、お腹がすいたならさっきのお菓子がまだ
あります。どれか食べますか?お茶も淹れます。」

さすがエル君、話が分かる。

「それならさっきのパウンドケーキが食べたいです!
今の状態でもまだ酔ってないので、少しくらいお酒の
きいたケーキを食べても大丈夫だと思うんです!」

何しろさっきは一口しか食べれてないからね。
にこにこしてそう言ったらリオン様達がええっ⁉︎と
驚いていた。あれ?何か変なことを言っただろうか。

「ユーリ様・・・自分がまだ酔ってないと思ってる
なんて信じられない・・・。」

エル君まで呆れたようにかぶりを振った。

「いいじゃないか。ユーリが酔ってないと言うんだ、
好きにさせてみろ。」

シグウェルさんだけが面白そうにそう言っている。
長椅子に足を組んで腰掛け、ひじをついた片手を
その形の良い額に当てている。頭痛でもするのかな?
あんまり具合は悪そうに見えないけど。

「団長、あんたまたそうやって他人事だと思って!
・・・っていうか、どうかしました?何か変じゃ
ないですか?」

文句を言おうとしたユリウスさんもシグウェルさんが
なんだかいつもと様子が違うのに気付いたみたいだ。

「多分ユーリの魔力に影響を受けたんだろうな。
少しめまいがする。さっきユーリが王都に結界を
張った時に俺の魔力も持っていかれたような感じが
して、頭がくらくらしている。こんなことは初めての
経験だ、実に興味深い。」

実はさっきまで手も少し痺れていた。

そんな風にユリウスさんに話しながらこの現象も
書き留めておけと言っているから、シグウェルさんに
とってはこんな事まで観察対象らしい。

「え、なんかごめんなさい・・・。回復魔法を
使いましょうか?」

なんとなく責任を感じてそう言ったら、気にするなと
首を振られた。この状態からどの程度の時間をかけて
どの部分から自然に回復していくのかも知りたいと
シグウェルさんは言う。

本当に筋金入りの魔法バカだよ。大丈夫かな、
なんだかいつもよりもあの冷たく光る紫の瞳が
潤んでいる気がする。私なんかよりもずっと
酔っていそうな雰囲気だ。

そう思ってシグウェルさんを見ていたんだけど、
そこでシンシアさんが私を呼んだ。

「ユーリ様、もしよろしければ先程ユーリ様が
ご希望されたようなドレスが一着ありますが、それに
着替えられますか?ただそちらは首元が詰まっている
かわりにお背中があいているのですが・・・」

そう言ってちらりとリオン様の方を見た。

夜着みたいな薄着で胸元があいている、透けるかも
しれないドレスと首元まで詰まっていて透けない
かわりに背中が空いているものと。

どっちがましなのかリオン様の判断に委ねられた。

「・・・とりあえず着替えたら?多少背中があいて
いても、少なくとも今の格好よりも刺激が強いって
ことはないだろうし。」

少し迷ったようだったけどリオン様が許可をした。

「じゃあ着替えたらケーキ食べさせて下さいね!」

本当にお腹が減ってきたのだ。急いでエル君の
淹れてくれた甘いお茶を一口だけ飲むと、
シンシアさんと一緒にもう一度衝立の向こうへ戻る。

そこでシンシアさんが出して来たのは濃く深い
赤い色・・・臙脂色えんじいろの大人っぽい素敵な
ドレスだった。

「すごい!大人っぽくてカッコいいですねこれ‼︎
こんなものまで作ってくれていたんですか⁉︎」

「大きなお姿に戻られたユーリ様ならこれくらい
大人っぽいドレスでもお似合いになるかと。」

いつかリオン殿下とお二人で夜会に出る時にでもと
思いまして。なんてシンシアさんは話してドレスを
撫でた。確かに、リオン様はキラキラしたいかにも
王子様って感じの格好いい人だから隣に並ぶなら
見劣りしないようこれくらい素敵なドレスが必要だ。

さっそくそれを着せてもらう。と、身に付けていた
総レースの下着を剥ぎ取られてまたパンイチに
された。寒い。そしてなんで⁉︎

「シ、シンシアさん⁉︎」

「このお召し物は背中が開いておりますでしょう?
そのため胸を覆う下着はドレスの前身ごろと一つに
してあるんです。透けることはないのでご安心を。
さきほど測らせていただいたユーリ様のお胸の
サイズに調整もしましたから、ぴったりと体に
沿うはずですよ。さあどうぞ、袖を通してみて
ください。」

確かに胸の部分は厚めの生地でしっかりしている。
でもそのかわり、背中がかなり開いていた。

U字型にぱっくりと、腰の近くまで。まさか着替える
ように言ったリオン様もこんなドレスだとは思って
いないだろう。ただ、私の髪がお尻まで届くほど
長いおかげで背中の開きはそれほど目立たないかも
しれない。大丈夫、イケるかな?

鏡の前に立ってしげしげと眺める。前から見ると
ノースリーブのビスチェ風で、胸元から足元までを
綺麗なマーメイドラインを描くそのドレスは、
胸元から首元まではレース地で覆われている。
そう、前から見ると肩が出ている以外は露出が
少なく見えるのだ。

でも後ろは背中がぱっくり開いていて、体に沿った
マーメイドラインのスカート部分も実は動きやすい
ように膝上まで隠しスリットが入っていた。

「シンシアさん、これ、着てみたら思った以上に
大人っぽいですね・・・?リオン様に怒られたり
しないですか?」

「どうでしょうか・・・。一応こういう路線の
お召し物もどうかと殿下の意見も一度聞いてみたいと
思いまして。」

なるほど。もしかしたらリオン様、意外とこういう
セクシーなのが好きかもしれないしなあ。

もしこういうのが好きで喜んでもらえるなら
恥ずかしいけど我慢して着てあげてもいいかな。

ふむ、と頷いて衝立に手を掛けた。

「じゃあさっそくリオン様達に見てもらいましょう!
お腹もすいたし早くケーキが食べたいです‼︎」

そう言ってみんなにこの姿を見せようと衝立から
出てにっこり笑いかける。

「どうですか、着替えましたよ?ドレスの色も
濃いですし、これなら透けないです!さあケーキを
食べさせて下さい‼︎」

一応両手を広げて、くるりと一回転して全体を
見せた。今度は慎重に回ったのでよろめかないし、
レジナスさんにもぶつからない。

そうしたらみんなぽかんとして私を見ていた。
・・・あれ?さっきのデジャヴだ。

「いや、ユーリ。それ背中が開きすぎなんじゃ
ないかな。」

リオン様が戸惑いながら言った。

「どうしてさっきよりも足が見えるんだ?
歩くだけで太ももまで見えてしまってるぞ⁉︎」

レジナスさんの顔がまた赤い。

「ヤバいっす・・・え?露出が低く見えていながら
実は胸と腰の形が強調されてるとか、お尻が
見えそうなくらい背中が開いてていやらしいって
どういう仕様なんすかそれ?誰を誘ってんすか?」

ユリウスさんが人のことを痴女扱いした。

「ユーリ様、自重って言葉を知ってますか?」

またエル君の赤い瞳が冷たく私を見ている。

「まあ似合ってるんじゃないか?本人は満足そう
だし気に入ってるならいいんじゃないのか?」

シグウェルさんだけ褒めてくれた!いや、これは
まだ調子が悪くてもしかして投げやりなだけかも。

「もー‼︎何なんですかみんなして!透けるって
言うから着替えたんですよ⁉︎文句ばっかり
言わないで下さいっ!いつになったら私は
ケーキを食べられるんですか⁉︎」

お腹がすき過ぎて我慢出来なくなり、テーブルの
上にエル君が切り分けて置いたパウンドケーキに
サッとフォークを刺した。

「待ってユーリ!」

リオン様が声を上げたけど、とりあえず一切れだけ
食べさせて欲しい。話はそれから聞こう。

そう思って口にしたそれは、やっぱりお酒が
きつかったけど、でもとってもおいしい。幸せ!

ほくほくしながらそれを味わっていたら、
ヒック、としゃっくりが一つ出た。





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