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閑話休題 親父同盟
2
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「ところで」
カン、と人数分のグラスを音を立てて円卓に用意した
ドラグウェルが口を開いた。
「今回はなぜ私を呼び付けた?」
きらりと冷たく輝く紫の瞳を物ともせずナジムートは
うむ、と頷く。
「いや、ダーヴィゼルドでの件はお前も聞いたろ?
セビーリャ族がうちの国に余計なモノを持ち込んで
エラい事になったあれだ。幸いにもユーリちゃんが
いてくれてまさかのグノーデル神様の加護の力で
魔物祓いをしてくれたから良かったが、それが
なければ今頃ダーヴィゼルドは大変なことになって
いただろうなあ。その前にも、王都で騒ぎを起こした
窃盗団もヨナス神の力が関わっていたし、どうにか
出来ねぇのかと思ってな。」
「丸投げか」
ドラグウェルが呆れた。
「だってそんなのお前らの専門分野だろ。ちょうど
ダーヴィゼルドに行くっていうからついでに王都に
寄ってもらって話が聞きたかったんだよ。
偶然にもアントンまで王都にいるっていうし、
お前ら兄弟が王都に揃うなんて何かの行事でも
なきゃなかなか無いしな。」
「私はグノーデル神の加護がついた山と言うのを
早く見に行きたいのだが。そもそもヨナス神の力が
こもった祭具や祠、神殿などそう簡単に見つけられる
ものではない。この国がどれだけ広いと思って
いるんだ貴様は。」
「無理かー、とりあえず危なそうなのを片っ端から
封印とかなんかねぇの?」
「悪神もまた神だ。下手に手を出せばこちらが
呪われる。ユーリ様の首にあるチョーカー、
あれがヨナス神の力に関係していてうちの息子が
解呪をしようとして呪われかけた話を聞いて
いないのか?」
ドラグウェルの話に他の3人が驚く。
「なんだそりゃ!いや、ユーリちゃんのチョーカーが
ヨナス神に関係してるってのは聞いてるよ?
だからシグウェルの奴が結界石を作ってやったって、
そういう話だったよな?」
同意を求められたアントンが頷く。
「ノイエ領でユーリ様が身につけていた結界石は
ヨナス神の力を抑えるためと聞いております。
それが割れたと言うので、シグウェルの要望で
今回私自らがより上質の石を届けるために
久々に王都まで来たのです。しかし、解呪を
しようとして呪われかけたとは私も初耳です。」
「うちの倅が奥の院に最初の頃ユーリ様を訪ねた時
何を聞いても守秘義務がどうのと言って教えて
くれなかったのはそれもあるのか?」
相変わらずシグウェルの奴は魔法が絡むと無茶を
しやがる、とマディウスは顎ひげを撫でた。
「息子がそれについて何も報告していないという事は
あいつの中でそれほど大したことではなかったのかも
知れないな。私に対しても、そんな事象があったが
似たような事が過去にもあり文書にでも残っていれば
それを読みたい、と言うようなあっさりした手紙が
一度来たきりだったからな。」
「やっぱりあの子は変わっているな・・・。
解呪をしてヨナス神に呪われかけたなど、
他の者なら大騒ぎしているところなのに。」
面白がっている姿が目に浮かぶようだとアントンは
ため息を一つつき、結界石を渡す時にあまり
危ない事をするなと釘を刺そうと決めた。
彼にとっては、どんなに変わり者でもシグウェルは
かわいい甥っ子だから心配なのだ。
「下手に積極的にこちらから手を出すのも難しいとか
厄介だな・・・。結局何かコトが起こるまで待って
それに備えるしかねぇのか。」
うーん。と悩む国王にドラグウェルが口を開く。
「唯一手を打てるとすれば、イリューディア神の
加護を持つユーリ様だろう。ダーヴィゼルドで
ヨナス神の力に操られていたカイゼル殿を解放した
ように、その力であればヨナス神の力を抑えることが
出来るかも知れない。」
「でもユーリちゃん、まだ小さいからなあ。
そんなこと出来るのか?」
「本来のユーリ様のお姿はもっと大きく成長している
らしいな。そのお姿ならば、あるいは可能なのでは
ないか?何しろ幼い姿でこの王都全域を癒して
しまったのだ、本来の姿ならば国を覆い尽くすほどの
力を持っているのかも知れない。」
「そういやお前の息子ですら何年か前に国中の
魔導士が魔法を使えないように出来たもんな。
ならユーリちゃんも似たようなことができるか。」
何気なくそう言ったナジムートにドラグウェルは
その端正な顔を歪めて嫌そうな顔をした。
「その事は言うな」
自分の息子がしでかした事の大きさに、いまだに
恥だと思っているらしい。ナジムートにしてみれば
迷惑をかけられたというよりも、すごい才能だとしか
思っていないのだが。
「じゃあ引き続き、今まで通りヨナス神に関係
ありそうな場所や物は探しつつ、もしそれを
見付けた時は手を出さずに見守る。それに対して
何か動きがありそうな時はユーリちゃんに祓って
もらうよう頼むって感じか。」
ドラグウェルが頷く。
「そのためにも、出来ればユーリ様にはいつでも
必要な時には大きいお姿になってもらえれば
良いのだが。酒でその姿は変化すると聞いているが
ユーリ様本人には制御できないらしいな?」
「オレんとこに上がってる報告でもそう聞いてる。
酒で頭がふわふわして力の制御が出来ないから、
ダーヴィゼルドでも山一つ分の雷を落としたらしい。
酔っ払いユーリちゃんとかちょっと見てみたいけど
リオンの奴に怒られるしなあ。」
「ヨナス神の力による被害を防ぐためにも、
ある程度は力の制御が出来た方がいい。一度きちんと
王命を下して現状どの程度の酒が入った状態なら
力を制御できるのか把握しておくように言った
方がいいと思うが。」
「まあなー、それもそうだよなあ。ちょっと
リオンの奴にも言ってみるかな。」
よし!と大きく頷いたナジムートはそれまでの
真面目な思案顔からパッと切り替えて明るく笑った。
「じゃあマジメな話はここまでっつーことで!
あとは飲もうぜ‼︎マディウス、例の酒はどれだ⁉︎」
「ユーリ様が加護をつけたやつだな。この2本だ、
うちの倅が馴染みの居酒屋に卸す前にこっそり
くすねてやったわ!」
ナジムートの問いかけに、うはは!と豪快に笑った
マディウスは両手にワイン瓶をかかげた。
「もしかして、例のパン籠の応用ですかな?
いくら飲んでもなくならないとは興味深い。」
アントンもしげしげとその瓶を眺める。
そうだと頷いたマディウスが、人数分のグラスに
それを注ぎながら話す。
「うちの倅が言うにはユーリ様、必死になって
200本もの容れ物にその加護をつけたらしいぞ。」
「200⁉︎」
注がれたグラスを手に取ったアントンが目を見開く。
「シグウェルの奴がそうさせたらしいが、健気にも
ユーリ様はそれに従い黙って加護を付け続けて、
その日のうちに更に星の砂にも加護の力を
使ったらしい。それでもぶっ倒れるでもなく腹が
減ったとケロッとしていたらしいから、いやあ
癒し子ってのはエラいもんだ。」
笑うマディウスはそれが魔導士の使う力として
どれほどとんでもない事なのか分かっていない。
「・・・セディが変わった星の砂をやたらと
熱のこもった長い手紙と一緒に送ってきたことが
あったが、それを作る前にユーリ様はそんな事を
していたのか。というか、あいつは加減という
ものを知らんのか。」
呆れたように言ったドラグウェルはワインに
口を付けるとほう、と目を細めた。
その顔がシグウェルに瓜二つで、物の言い方といい、
本当によく似た親子だと思いながらナジムートは
酒を煽った。
「アントン、飲んでみろ。これは面白い。」
兄に勧められてそれを飲んだアントンは
「ああ、なるほど。これは面白い、まるで自分の
魔力の質が良くなったかのようですね。」
そう言った。
「なんだよお前ら、酒が面白いとかあんのかよ、
酒は美味いか不味いかだけだろ。」
首を捻ってナジムートはもう一口味わう。
うん、普通に美味い。
ドラグウェルは弟の言葉に頷き、
「二口目からはそう感じないが、これは微かに
ユーリ様の加護の力がついているな。恐らく今
魔法を使えばいつもよりもその効きは良くなって
いるだろう。」
飲んだ人間の能力値を僅かに底上げさせる効果が
これにはあるようだ。そう説明されても、
ナジムートとマディウスはへぇ、と思うだけだ。
全然ピンと来ない。
「感じられるのは本当にごく僅かな変化だ。
その効果がどれほど続くかは知らんが、確実に
飲んだ人間の活力を活性化させるだろう。
これはもう街中に出回ってしまっているのか?」
「王都の数軒の居酒屋にもう出ちまってるな。
回収させた方がいいか?」
マディウスの言葉にいや、とドラグウェルは
首を振った。
「うちの息子がこの効果に気付かないはずはない。
それでも放置しているという事はこれを飲んだ
人間の観察をしているか、あいつの興味を惹くほどの
効果ではないから放っておいているかのどちらかだ。
そのままで良いだろう。もしかするとこの先
王都の労働力の生産性が僅かに上がるかも
しれないが、それは良いことだしな。」
なるほどねぇ、とグラスを揺らしたナジムートは
ふと気付く。
「あれ?そういやダーヴィゼルドに行く前にオレが
ここにお前を呼んじまったから、もしかして
ついでに息子やユーリちゃんにでも会って行くか?」
「さてな。初めての目通りを願うにも、元より
王都へは寄るつもりがなかったからユーリ様へ
献上する碌な品物も持ち合わせておらん。
手ぶらで会う訳にも行かないだろう。かと言って、
王都にいるのに挨拶もしないのは失礼にも当たる
だろうし。つまるところ私は今大変頭を悩ませて
いるがそれは全て貴様のせいだ。」
ジロリと冷たく紫の瞳が国王を射すくめる。
「では兄上、私と一緒に王宮へ上がりませんか?
今回ノイエ領より持参した結界石は極上の品です。
それならばユーリ様にお目通り願うにも相応しい
品物ですから。」
アントンの提案にふむ、とドラグウェルは考える。
「なるほど、考えておこう。それで?ユーリ様に
お会いしたとして、私はどこまでの接触を
許される?アントンは縦抱き、マディウスは食事を
与えた上で肩の上に乗せて、陛下は頬ずりを
したんだったか?」
冷静かつ物凄く真面目な顔でドラグウェルが
思いもよらないことを言った。
「何言ってんだお前。」
ナジムートがぽかんとする。他の二人も口にこそ
出さないものの同じ気持ちだ。
「私一人だけ出遅れているのが我慢出来ない。
ただでさえ王家に召喚者を取られて腹立たしいのに
お前達はさっきからやれユーリ様に食事を与えただの
頬ずりをした、ウサギと戯れる姿が愛らしかった、
騎士服姿も良かったと自分達だけでユーリ様との
交流自慢をしていたではないか。急に王都に
呼び付けられた上にそんな自慢話を聞かせられる
私の身にもなってみろ。不公平ではないか。」
つまりは羨ましいと、そういうわけか。
3人はそう理解した。
さっき何故呼び付けたのかと冷たい目で聞かれたのも
もしかして飲み会をダシにユーリ様自慢を
されるために呼ばれたとでもこの男は思って
いたのだろうか。
「いや・・・なんかゴメン。まさかお前がそんな風に
思ってるとは。え?自慢してるみたいに聞こえた?」
一国の王だと言うのにナジムートはあっさり
頭を下げた。むすりとした表情でドラグウェルは
文句を言う。
「自慢以外の何物でもないだろう。本来ならば
ユールヴァルト家に入られていてもおかしくない
ユーリ様を、独占されているんだからな。
ここは公平に、お目通りした際には少なくとも
頬への口付けの挨拶と縦抱きはさせてもらうぞ。」
もしユールヴァルト家へ入っていたらと考えると
それでもまだ足りない位だ。
そう言う自分の兄にアントンは、自分もユーリ様
自慢をした一人なのを棚に上げ、まだ会っても
いない段階でこれでは実際ユーリ様に会いあの
愛嬌の良さと可愛らしさを目にしたら、自領へと
攫って帰りそうな勢いだと少し心配になった。
「いや、待て待て。公平とか不公平とか何を
言ってんだ、お前のことだからそんな事を言って
絶対オレたち以上の何かをやらかすつもりだな⁉︎
抜け駆けは許さねぇぞ⁉︎」
ナジムートの勘ぐりも相当だ。そんな二人に
マディウスは呆れている。
「いい年した親父が二人、何をやってるんだか。
ユーリ様を取り合う役目はお前達じゃなくてお前達の
息子だろうがよ。よし分かった、ユーリ様に抜け駆け
しないようにいい機会だからお互い色々と決めとけ。
勝手に会わないとか高いプレゼントはしないとかな。
なんか指標があれば喧嘩しないで済むだろ?」
俺とアントンが証人だ。そう言ったマディウスに、
「何言ってんだ、それならお前とアントンもそれに
加われよ!オレとドラグウェルだけが制限されて
その間にお前達に抜け駆けされたら堪らねぇよ‼︎」
ナジムートが噛み付いた。癒し子保護同盟だ、
などと言っている。
「・・・陛下はもう酔いが回っているんでしょうか」
こっそりそう聞いてきたアントンに、
「残念ながらあれで正気だ。しかも本気で
言ってるぞ、なんだよ同盟って。オヤジが4人で?
意味が分からねぇよ。俺たちの息子には到底
見せられない姿だな。」
マディウスが首を振った。すでにドラグウェルは
どこからか取り出したペンを手に何やら書き出して
いて、それに対してナジムートは酒を片手に
なんやかんや言っている。
「おい、お前らもそんな所に突っ立ってないで
早くこっちに加われ!」
国王陛下にそう言われれば逆らう訳にもいかない。
こうしていい年をした大人が四人、酒を飲みながら
顔を突き合わせてああでもないこうでもないと
癒し子への接し方の取り決めを話し合い、それは
深夜にまで及んだ。
カン、と人数分のグラスを音を立てて円卓に用意した
ドラグウェルが口を開いた。
「今回はなぜ私を呼び付けた?」
きらりと冷たく輝く紫の瞳を物ともせずナジムートは
うむ、と頷く。
「いや、ダーヴィゼルドでの件はお前も聞いたろ?
セビーリャ族がうちの国に余計なモノを持ち込んで
エラい事になったあれだ。幸いにもユーリちゃんが
いてくれてまさかのグノーデル神様の加護の力で
魔物祓いをしてくれたから良かったが、それが
なければ今頃ダーヴィゼルドは大変なことになって
いただろうなあ。その前にも、王都で騒ぎを起こした
窃盗団もヨナス神の力が関わっていたし、どうにか
出来ねぇのかと思ってな。」
「丸投げか」
ドラグウェルが呆れた。
「だってそんなのお前らの専門分野だろ。ちょうど
ダーヴィゼルドに行くっていうからついでに王都に
寄ってもらって話が聞きたかったんだよ。
偶然にもアントンまで王都にいるっていうし、
お前ら兄弟が王都に揃うなんて何かの行事でも
なきゃなかなか無いしな。」
「私はグノーデル神の加護がついた山と言うのを
早く見に行きたいのだが。そもそもヨナス神の力が
こもった祭具や祠、神殿などそう簡単に見つけられる
ものではない。この国がどれだけ広いと思って
いるんだ貴様は。」
「無理かー、とりあえず危なそうなのを片っ端から
封印とかなんかねぇの?」
「悪神もまた神だ。下手に手を出せばこちらが
呪われる。ユーリ様の首にあるチョーカー、
あれがヨナス神の力に関係していてうちの息子が
解呪をしようとして呪われかけた話を聞いて
いないのか?」
ドラグウェルの話に他の3人が驚く。
「なんだそりゃ!いや、ユーリちゃんのチョーカーが
ヨナス神に関係してるってのは聞いてるよ?
だからシグウェルの奴が結界石を作ってやったって、
そういう話だったよな?」
同意を求められたアントンが頷く。
「ノイエ領でユーリ様が身につけていた結界石は
ヨナス神の力を抑えるためと聞いております。
それが割れたと言うので、シグウェルの要望で
今回私自らがより上質の石を届けるために
久々に王都まで来たのです。しかし、解呪を
しようとして呪われかけたとは私も初耳です。」
「うちの倅が奥の院に最初の頃ユーリ様を訪ねた時
何を聞いても守秘義務がどうのと言って教えて
くれなかったのはそれもあるのか?」
相変わらずシグウェルの奴は魔法が絡むと無茶を
しやがる、とマディウスは顎ひげを撫でた。
「息子がそれについて何も報告していないという事は
あいつの中でそれほど大したことではなかったのかも
知れないな。私に対しても、そんな事象があったが
似たような事が過去にもあり文書にでも残っていれば
それを読みたい、と言うようなあっさりした手紙が
一度来たきりだったからな。」
「やっぱりあの子は変わっているな・・・。
解呪をしてヨナス神に呪われかけたなど、
他の者なら大騒ぎしているところなのに。」
面白がっている姿が目に浮かぶようだとアントンは
ため息を一つつき、結界石を渡す時にあまり
危ない事をするなと釘を刺そうと決めた。
彼にとっては、どんなに変わり者でもシグウェルは
かわいい甥っ子だから心配なのだ。
「下手に積極的にこちらから手を出すのも難しいとか
厄介だな・・・。結局何かコトが起こるまで待って
それに備えるしかねぇのか。」
うーん。と悩む国王にドラグウェルが口を開く。
「唯一手を打てるとすれば、イリューディア神の
加護を持つユーリ様だろう。ダーヴィゼルドで
ヨナス神の力に操られていたカイゼル殿を解放した
ように、その力であればヨナス神の力を抑えることが
出来るかも知れない。」
「でもユーリちゃん、まだ小さいからなあ。
そんなこと出来るのか?」
「本来のユーリ様のお姿はもっと大きく成長している
らしいな。そのお姿ならば、あるいは可能なのでは
ないか?何しろ幼い姿でこの王都全域を癒して
しまったのだ、本来の姿ならば国を覆い尽くすほどの
力を持っているのかも知れない。」
「そういやお前の息子ですら何年か前に国中の
魔導士が魔法を使えないように出来たもんな。
ならユーリちゃんも似たようなことができるか。」
何気なくそう言ったナジムートにドラグウェルは
その端正な顔を歪めて嫌そうな顔をした。
「その事は言うな」
自分の息子がしでかした事の大きさに、いまだに
恥だと思っているらしい。ナジムートにしてみれば
迷惑をかけられたというよりも、すごい才能だとしか
思っていないのだが。
「じゃあ引き続き、今まで通りヨナス神に関係
ありそうな場所や物は探しつつ、もしそれを
見付けた時は手を出さずに見守る。それに対して
何か動きがありそうな時はユーリちゃんに祓って
もらうよう頼むって感じか。」
ドラグウェルが頷く。
「そのためにも、出来ればユーリ様にはいつでも
必要な時には大きいお姿になってもらえれば
良いのだが。酒でその姿は変化すると聞いているが
ユーリ様本人には制御できないらしいな?」
「オレんとこに上がってる報告でもそう聞いてる。
酒で頭がふわふわして力の制御が出来ないから、
ダーヴィゼルドでも山一つ分の雷を落としたらしい。
酔っ払いユーリちゃんとかちょっと見てみたいけど
リオンの奴に怒られるしなあ。」
「ヨナス神の力による被害を防ぐためにも、
ある程度は力の制御が出来た方がいい。一度きちんと
王命を下して現状どの程度の酒が入った状態なら
力を制御できるのか把握しておくように言った
方がいいと思うが。」
「まあなー、それもそうだよなあ。ちょっと
リオンの奴にも言ってみるかな。」
よし!と大きく頷いたナジムートはそれまでの
真面目な思案顔からパッと切り替えて明るく笑った。
「じゃあマジメな話はここまでっつーことで!
あとは飲もうぜ‼︎マディウス、例の酒はどれだ⁉︎」
「ユーリ様が加護をつけたやつだな。この2本だ、
うちの倅が馴染みの居酒屋に卸す前にこっそり
くすねてやったわ!」
ナジムートの問いかけに、うはは!と豪快に笑った
マディウスは両手にワイン瓶をかかげた。
「もしかして、例のパン籠の応用ですかな?
いくら飲んでもなくならないとは興味深い。」
アントンもしげしげとその瓶を眺める。
そうだと頷いたマディウスが、人数分のグラスに
それを注ぎながら話す。
「うちの倅が言うにはユーリ様、必死になって
200本もの容れ物にその加護をつけたらしいぞ。」
「200⁉︎」
注がれたグラスを手に取ったアントンが目を見開く。
「シグウェルの奴がそうさせたらしいが、健気にも
ユーリ様はそれに従い黙って加護を付け続けて、
その日のうちに更に星の砂にも加護の力を
使ったらしい。それでもぶっ倒れるでもなく腹が
減ったとケロッとしていたらしいから、いやあ
癒し子ってのはエラいもんだ。」
笑うマディウスはそれが魔導士の使う力として
どれほどとんでもない事なのか分かっていない。
「・・・セディが変わった星の砂をやたらと
熱のこもった長い手紙と一緒に送ってきたことが
あったが、それを作る前にユーリ様はそんな事を
していたのか。というか、あいつは加減という
ものを知らんのか。」
呆れたように言ったドラグウェルはワインに
口を付けるとほう、と目を細めた。
その顔がシグウェルに瓜二つで、物の言い方といい、
本当によく似た親子だと思いながらナジムートは
酒を煽った。
「アントン、飲んでみろ。これは面白い。」
兄に勧められてそれを飲んだアントンは
「ああ、なるほど。これは面白い、まるで自分の
魔力の質が良くなったかのようですね。」
そう言った。
「なんだよお前ら、酒が面白いとかあんのかよ、
酒は美味いか不味いかだけだろ。」
首を捻ってナジムートはもう一口味わう。
うん、普通に美味い。
ドラグウェルは弟の言葉に頷き、
「二口目からはそう感じないが、これは微かに
ユーリ様の加護の力がついているな。恐らく今
魔法を使えばいつもよりもその効きは良くなって
いるだろう。」
飲んだ人間の能力値を僅かに底上げさせる効果が
これにはあるようだ。そう説明されても、
ナジムートとマディウスはへぇ、と思うだけだ。
全然ピンと来ない。
「感じられるのは本当にごく僅かな変化だ。
その効果がどれほど続くかは知らんが、確実に
飲んだ人間の活力を活性化させるだろう。
これはもう街中に出回ってしまっているのか?」
「王都の数軒の居酒屋にもう出ちまってるな。
回収させた方がいいか?」
マディウスの言葉にいや、とドラグウェルは
首を振った。
「うちの息子がこの効果に気付かないはずはない。
それでも放置しているという事はこれを飲んだ
人間の観察をしているか、あいつの興味を惹くほどの
効果ではないから放っておいているかのどちらかだ。
そのままで良いだろう。もしかするとこの先
王都の労働力の生産性が僅かに上がるかも
しれないが、それは良いことだしな。」
なるほどねぇ、とグラスを揺らしたナジムートは
ふと気付く。
「あれ?そういやダーヴィゼルドに行く前にオレが
ここにお前を呼んじまったから、もしかして
ついでに息子やユーリちゃんにでも会って行くか?」
「さてな。初めての目通りを願うにも、元より
王都へは寄るつもりがなかったからユーリ様へ
献上する碌な品物も持ち合わせておらん。
手ぶらで会う訳にも行かないだろう。かと言って、
王都にいるのに挨拶もしないのは失礼にも当たる
だろうし。つまるところ私は今大変頭を悩ませて
いるがそれは全て貴様のせいだ。」
ジロリと冷たく紫の瞳が国王を射すくめる。
「では兄上、私と一緒に王宮へ上がりませんか?
今回ノイエ領より持参した結界石は極上の品です。
それならばユーリ様にお目通り願うにも相応しい
品物ですから。」
アントンの提案にふむ、とドラグウェルは考える。
「なるほど、考えておこう。それで?ユーリ様に
お会いしたとして、私はどこまでの接触を
許される?アントンは縦抱き、マディウスは食事を
与えた上で肩の上に乗せて、陛下は頬ずりを
したんだったか?」
冷静かつ物凄く真面目な顔でドラグウェルが
思いもよらないことを言った。
「何言ってんだお前。」
ナジムートがぽかんとする。他の二人も口にこそ
出さないものの同じ気持ちだ。
「私一人だけ出遅れているのが我慢出来ない。
ただでさえ王家に召喚者を取られて腹立たしいのに
お前達はさっきからやれユーリ様に食事を与えただの
頬ずりをした、ウサギと戯れる姿が愛らしかった、
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3人はそう理解した。
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いたのだろうか。
「いや・・・なんかゴメン。まさかお前がそんな風に
思ってるとは。え?自慢してるみたいに聞こえた?」
一国の王だと言うのにナジムートはあっさり
頭を下げた。むすりとした表情でドラグウェルは
文句を言う。
「自慢以外の何物でもないだろう。本来ならば
ユールヴァルト家に入られていてもおかしくない
ユーリ様を、独占されているんだからな。
ここは公平に、お目通りした際には少なくとも
頬への口付けの挨拶と縦抱きはさせてもらうぞ。」
もしユールヴァルト家へ入っていたらと考えると
それでもまだ足りない位だ。
そう言う自分の兄にアントンは、自分もユーリ様
自慢をした一人なのを棚に上げ、まだ会っても
いない段階でこれでは実際ユーリ様に会いあの
愛嬌の良さと可愛らしさを目にしたら、自領へと
攫って帰りそうな勢いだと少し心配になった。
「いや、待て待て。公平とか不公平とか何を
言ってんだ、お前のことだからそんな事を言って
絶対オレたち以上の何かをやらかすつもりだな⁉︎
抜け駆けは許さねぇぞ⁉︎」
ナジムートの勘ぐりも相当だ。そんな二人に
マディウスは呆れている。
「いい年した親父が二人、何をやってるんだか。
ユーリ様を取り合う役目はお前達じゃなくてお前達の
息子だろうがよ。よし分かった、ユーリ様に抜け駆け
しないようにいい機会だからお互い色々と決めとけ。
勝手に会わないとか高いプレゼントはしないとかな。
なんか指標があれば喧嘩しないで済むだろ?」
俺とアントンが証人だ。そう言ったマディウスに、
「何言ってんだ、それならお前とアントンもそれに
加われよ!オレとドラグウェルだけが制限されて
その間にお前達に抜け駆けされたら堪らねぇよ‼︎」
ナジムートが噛み付いた。癒し子保護同盟だ、
などと言っている。
「・・・陛下はもう酔いが回っているんでしょうか」
こっそりそう聞いてきたアントンに、
「残念ながらあれで正気だ。しかも本気で
言ってるぞ、なんだよ同盟って。オヤジが4人で?
意味が分からねぇよ。俺たちの息子には到底
見せられない姿だな。」
マディウスが首を振った。すでにドラグウェルは
どこからか取り出したペンを手に何やら書き出して
いて、それに対してナジムートは酒を片手に
なんやかんや言っている。
「おい、お前らもそんな所に突っ立ってないで
早くこっちに加われ!」
国王陛下にそう言われれば逆らう訳にもいかない。
こうしていい年をした大人が四人、酒を飲みながら
顔を突き合わせてああでもないこうでもないと
癒し子への接し方の取り決めを話し合い、それは
深夜にまで及んだ。
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0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
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※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。

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