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第九章 剣と使徒

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レジナスさんの動揺を誘おうとふざけて持ち掛けた
侍女さんごっこでの膝枕をリオン様に希望されて、
今は逆に私の方がものすごく動揺させられている。

「そ、そんな・・・」

「侍女さん。主の命令だよ、今すぐここに
座るんだ。」

その表情はいつもの柔らかな笑顔なのに強い口調との
ギャップが恐ろしい。

反射的にピャッ、と素早く長椅子に座ってしまった。

するとすぐにリオン様は私の膝に頭を預けて来て、
私の持っていた膝掛けを取り上げるとさっさと自分で
それを体に掛けてしまう。

「誰かに膝枕なんてしてもらうのは初めてだけど、
ユーリの顔を下から見上げるのはなんだか
新鮮な気分だね。」

そう言ったリオン様に、そういえば私もいつも
リオン様を見上げているから逆に見降ろすのは
初めてだと気付く。

「・・・なんだか不思議な気分です。」

そう言って、なんとなく無意識にリオン様の頭を
そっと撫でてしまった。

柔らかなクリーム色の髪の毛はさらさらと私の
指の間をすり抜けていく。

目を細めてそれを気持ち良さそうに受け入れている
リオン様はまるで長毛で品の良いネコみたいだ。

と、私の顔を見上げたままその手で頭を預けている
私の膝を撫で上げた。

「ちょっとリオン様⁉︎」

おとなしく寝ているんじゃないの?
慌てれば、

「スカートがふわふわしていて、寝心地は良いけど
その分侍女さんの膝の柔らかさが良く分からなくて
残念だよ。こうして直接触らなければその感触が
分からないね。」

そう言って私に背を向けてリオン様はころんと
横向きになった。

そうしてまたつっ、と指先で膝を撫でると、

「このなめらかで手触りの良い長靴下はどのくらい
長さがあるの?主の僕が靴下のその長さがどこまで
あるか知りたいと言ったら、侍女さんはスカートを
たくし上げてその履き口を見せてくれるのかな?」

恐ろしいことを言う。顔が見えないけど、
一体どんな顔をしてそんな事を言っているのか。

脳内にはリオン様に命令されて恥ずかしさに
顔を赤くし、泣きそうになりながらスカートを
たくし上げている自分の姿が余裕で想像出来た。

なぜか靴下ではなくてパンツを見せているような
気分になりそうだ。きっとさっき着替えた時に見た
長靴下で下着を連想したせいかも。

そんな事を考えていた私にさらに追い討ちを
かけるようにリオン様は言葉を続けた。

「かわいい侍女さんには、両足を少し開いて
立ってもらって、その小さな手でスカートの両端を
つまんでもらおうか。そうしたらそのままゆっくりと
その長靴下の履き口が見えるところまで
スカートを持ち上げてもらおう。その後は、僕が
いいよと言うまでその姿で立っていてもらうのは
どうだろうね。」

「そ、それは・・・」

なにその特殊プレイみたいなの。
あれ?私が言った侍女さんごっこってそんな
大人の特殊プレイみたいなのじゃないんだけど⁉︎

「だってユーリは僕の侍女だからね。主が侍女に
命じることは絶対だよ?主が命じたことに対して
拒否権はないからね。自分の侍女に対して良からぬ
事を考える主の中にはもっと過激なことを
命じる者もいるんだよ。知りたい?
・・・・それとも試しにやってみる?どうせ
ごっこ遊びだしね。」

その声と雰囲気に、じわりと妖しい艶が滲んだような
気がした。なんだか本気っぽい。そう思ったら

「知らなくていいしやりたくないですごめんなさい
私が悪かったですっ‼︎」

思わずひと息に謝ってしまった。

「それは残念。」

背を向けていたリオン様はぱっと私の膝から
起き上がると、面白そうな顔をして私の反応を
見つめながら頭を撫でて来た。

「顔が真っ赤だよユーリ。一体何を想像したの?」

我慢し切れずにくすくすと声を上げて愉快そうに
笑うリオン様に、さっきまでの恐ろしく妖しい
雰囲気は微塵もない。

「かっ、からかったんですか⁉︎」

「いや、本気でそうしても良かったけど?」

さらっと恐ろしいことを言う。

「でも、その前に残念ながらユーリが反省して
しまったからね。どう?分かった?ふざけ半分で
侍女ごっこがしたいなんて言ったらとんでもない目に
遭うかもしれないんだよ?」

それはリオン様がとんでもない事を言うからでは、と
思ったけどそんな事は言えない。

「もう二度と侍女さんごっこをするなんて
言いません・・・」

私が言えることはそれだけだ。
それを聞いたリオン様は満足そうに頷いた。

「そうだね、分かってもらえて良かったよ。
・・・ああでも、ユーリのその格好はとても
可愛らしいからまた何かの機会にはその服装を
しているのを見てみたいな。」

「え、まさかその時にはまた今みたいな感じで
命令するつもりですか⁉︎」

「さてどうだろうね。そうだなあ、ユーリに反省して
もらいたいことが出来た時にその格好をして
もらうのもいいかも知れないなあ。」

いい事を思い付いた、とでも言うようにリオン様は
一人で頷いている。鬼だ。
次こそ何かとんでもない事を命令される気がする。

「いくらなんでも、私そんなに頻繁に反省しなきゃ
いけないようなことをやらかしたりなんか
しませんよ⁉︎」

抗議をしたけど

「どうかなあ。ユーリは大概無自覚に何か
やらかすからね。本当に気を付けて欲しいな。」

リオン様はまるで私を信用していない。
納得いかないという私の頭を、ぽんぽんと
あやすように撫でてきた。

「もう少しすればレジナスが来るから、その時には
その姿でお茶とお菓子を勧めてあげて。
それくらいなら侍女ごっことして許してあげるよ。」

そう言ってリオン様はいつものふんわりとした
笑顔を見せる。

ちなみにその後やって来たレジナスさんは、
侍女姿でお茶を出した私にトランタニアで持ち掛けた
膝枕の件を思い出したのか、顔がものすごく
赤くなってしまい挙動不審になってしまったので
リオン様にとても呆れられたのだった。




「・・・はい、これでもう治ったはずです!声を
出してみてください。」

リオン様に侍女ごっこという名の羞恥プレイを
させられた数日後、私の部屋にはあのトランタニアの
お屋敷にいた小柄で巻き毛の侍女さんが訪れていた。

もう一人のスレンダー侍女さんも同行していて、
巻き毛の子の手を握ってあげている。

二人とも今は侍女のお仕着せ姿ではなく、普通に
男の子の格好だ。スレンダー侍女さん・・・
もといリース君という名の少年は、長かった髪も
切りごく普通の、というかキラキラした美少年な
その姿はつい先日まで侍女姿だったようには
見えない。

「・・・あ・・、僕の声、・・・出てる・・・?」

小柄な彼が喉に手を当てて小さく震えるように
言ったその声はとても綺麗に澄んだ美声だ。

「治ってる!アンリ、君の声、ちゃんとボクにも
聞こえてるよ‼︎」

リース君は小柄な侍女さんだったアンリ君に
抱きついて喜んだ。

・・・余談だけど、シオンさんはこの二人に
リズとアンリエッタという女の子の名前まで与えて
そう呼んでいたというからその徹底した変態ぶりには
恐れ入る。本当に二人を助けられて良かった。

「ありがとうございます、ユーリ様!」

抱き合いながらそう言って二人は私を見つめる。

グレーの髪色にスレンダーで背の高いリース君の
歳は14、金色のクルクルな巻き毛のくせっ毛が
天使みたいな小柄のアンリ君はリース君よりも
一歳年上の15だという。

あのお屋敷で、他に頼る者もない中をお互いに
庇い合いながら過ごしていたせいかまるで
兄弟のように仲がいい。

「洗濯室に閉じ込められていたおかげで、僕も
あの夜の出来事にはほとんど関与していないと
されて重い罪には問われませんでした。ユーリ様、
本当にありがとうございます。」

そう言った小柄なアンリ君は深々と私に頭を下げた。

いや、閉じ込めたのはエル君の独断・・・と
私の後ろに無表情に佇むエル君をちらっと見る。

アンリ君を洗濯室に閉じ込めたと聞いた時は
どうしてそんな事を、と思ったけどエル君なりの
考えがあったんだなあ。

頭を撫でて褒めてあげたいけど、トランタニアから
帰ってきたエル君に一度そうしたらあの無表情を
崩してイヤそうな顔をされてしまった。

相変わらずエル君との距離の詰め方は試行錯誤中だ。

「えーと、それで二人とも私のいる奥の院で
働きたいって言っているらしいですけど、本当に
それでいいんですか?」

リオン様から聞いてはいるけど念のためにもう一度
本人達に確かめる。二人は顔を見合わせると
こくりと頷いた。

「はい、ボク達をあのお屋敷から救い出してくれた
ユーリ様のおそばで働けるならそれほど嬉しいことは
ありません。ぜひよろしくお願いします。」

「いえ、あそこを私が訪ねたのは本当にただの
偶然ですから!」

リース君の言葉に慌てれば、

「それまではそんな偶然すらなかったんです。
だから、あそこにユーリ様が来てくれたのは
本当にイリューディア神様の思し召しです。」

そう言ったリース君にアンリ君も頷いて加勢する。

「お願いしますユーリ様、僕達を捨てないで。」

「す、捨て・・・」

確かにあの時お屋敷でリース君に、私と一緒に
来ませんか?って言ったけど。

でも、え・・・?
この二人を奥の院で採用しないと捨てたことに
なっちゃうの?

「でも奥の院で働くっていうのはその、元通りの
健康な男の子の体に戻れないってことで・・・
それはリオン様に聞いてますか?」

「はい、分かってます。でもそんなのはユーリ様の
おそばにいられる事に比べたら選ぶまでも
ないですから。」

いや、こんなにキラキラした未来ある美少年なら
この先どれだけモテるか分からないのに勿体ないよ?

もっと自分の将来は真剣に考えた方がいいと思う。

それなのに私を見つめてくる二人の視線は妙に熱い。
本気でそのままでいいと思っていそうだ。

仕方がない、二人に声をかけた責任をとって
奥の院で引き取ろう。

「分かりました。じゃあ二人ともこれからよろしく
お願いしますね。でも、元の体に戻りたいと思ったら
いつでも遠慮なく言って下さい!」

そう言えば二人はとても嬉しそうに笑う。

「ありがとうございます。ボク達、心を込めて
一生懸命働きます。こんなにも可愛らしくて尊い
ユーリ様のおそばで働けるなんて、まるで夢のようで
とても嬉しいです。ずっとおそばに置いて下さいね。
もしユーリ様がお嫁に行く時は、ボク達も一緒に
ついて行きますから!」

そう言って私を見る二人のその目がなんだか少し
うっとりしている。あれ、この視線は見覚えがある。

シェラさんがオレの女神って言いながら私を
見てくる目に似ている。しかも言ってることまで
まるでシェラさんだ。まさかこの二人まで私の
嫁入り道具になるつもりなのかな・・・。

そう思ったらエル君に、

「ユーリ様、この先視察に出てももう見目の良い
男の子は拾ってこないで下さい。なんだか
面倒な事にしかならなそうなので、僕の仕事が
増えそうで嫌です。」

そんな苦言を呈された。いやだから、リオン様といい
どうして人を美少年ハンターみたいに言うのかな⁉︎

納得いかないけどエル君の注意を無視すると
あんまりいい事はないというのも分かったので
反論はしないで黙っておいた。







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