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第九章 剣と使徒
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エル君が私のところに来てから三日が経った。
その間に私の身の回りの世話の仕方について
一通り教わったエル君は問題なく働いてくれている。
初めよりは少し打ち解けてくれたような気はするけど
相変わらず無表情な上にまだ微妙な距離感というか
空気感だ。
逆に考えれば、今までのシェラさんなんかが
やたらと近い距離感で世話をしてくれていて、
それに慣れすぎていたのかも知れない。
「今日も図書館ですか、ユーリ様。」
お茶を出してくれながらエル君がそう聞く。
やっと奥の院の新しい壁紙やカーテン選びが
終わったのでこの頃はまた図書館へ通っていた。
「いえ、今日は魔導士院に行きます!」
シグウェルさんに教えて欲しい事があり、
アポを取っていたのだ。
「魔導士院・・・」
エル君は呟くと黙り込んでしまった。いつもなら
分かりました、って頷くところだ。
一体どうしたのだろうか。
「エル君?」
声を掛ければ、珍しくハッとした表情で慌てて
分かりました、準備しますと言われた。
なんだか気になる。
魔導士院に着くとマリーさんと手を繋いで歩き、
そんな私の2歩後ろをエル君がついてくる。
「いらっしゃいユーリ様、こっちの準備はもう
出来てるっすよ!」
勝手知ったる魔導士団長の執務室の扉を叩けば
いつものようにユリウスさんが出迎えてくれる。
「こんにちはユリウスさん!シグウェルさんは?」
「団長は一足先に中庭に行ってるっす!
・・・っと、そこの子は何すか?迷子?
めっちゃ白ッ‼︎」
エル君を見たユリウスさんがぎょっとしている。
そして思ったことをそのまま口に出してるけど
エル君に失礼じゃないだろうか。
「イリヤ皇太子殿下が私につけてくれた護衛ですよ」
「え?あれ?そういえばユーリ様って専属の
護衛騎士とかいないんでしたっけ。
なんか気付けばいっつもレジナスかあのキリウ小隊の
隊長が貼り付いてる気がしてたっす。」
貼り付かれているのはある意味間違いない。
でも二人は私の護衛騎士じゃないのだ。
単純に私を縦抱っこしたい人達だ。
「エーギルシュネクトシュメイアです。
よろしくお願いします。」
「略してエル君です‼︎」
ぺこりと頭を下げたエル君を張り切って紹介する。
「嬉しそうっすねユーリ様。あんまりウロチョロして
護衛に迷惑かけちゃ駄目っすよ。イリヤ殿下が
付けてくれた護衛なら間違いないでしょうけど、
この子も随分と小さいっすから。」
相変わらずユリウスさんの私に対する印象は
なんだか失礼だ。私、そんなに護衛の人を
振り回したりしませんけど?
「でもエーギルシュネクトシュメイアかぁ・・・
変わった名前っすね。前ルーシャ語みたいな
響きっす。」
「なんですかそれ?」
「あ、えーと簡単に言うと古代ルーシャ語?」
へぇ。エル君はなんだかカッコいい由来?を
持つ名前だったんだ。ちらりとエル君を見れば
なんだか少し表情が硬い。ユリウスさんみたいに
ぐいぐい話しかけてくる人は苦手なのかも知れない。
「それじゃ中庭に行くっすよ。」
ユリウスさんに案内されて、いつぞや馬鹿みたいに
大量の瓶に加護を付けさせられた中庭へと向かう。
そこで待っていたシグウェルさんは手に小さな
弓矢を持っていた。
「来たか。・・・見慣れない顔がいるな。」
エル君を見つめてシグウェルさんが面白そうに
目を細めた。紫色の瞳がきらりと輝いたので、
どうやら興味を惹かれたらしい。
「イリヤ殿下がユーリ様に付けさせた、専属の
護衛だそうっすよ。名前はエーギルシュネクト
シュメイア君で、略してエル君だそうです。」
「ふん、前ルーシャ語か。今どき名付けにそんな
古めかしくて長い言語を使うということは、
西の山岳民族か南の孤島の貴族階級か神官出身だな。
色がない容姿は珍しいから攫われたり売り飛ばされて
いてもおかしくないのに、ここまで無事に
育っているのも珍しい。面白いな、イリヤ殿下から
与えられたなら殿下がどこかで拾ってきて
特別に育てたか?」
名前一つでシグウェルさんはエル君の出自から
育ちまでずけずけと考えたことを話した。
そんな勝手な想像で決めつけられるエル君が
かわいそうだとそちらを見れば、エル君の顔色が
悪い。いつも白いその顔がさらに真っ白だ。
「エル君?具合でも悪いんですか?」
座っててもいいですよと声をかければ、かぶりを
振って断られた。
「これだから魔導士は嫌いなんです。」
そう言った後は黙って私の後ろに立っている。
「嫌われましたよシグウェルさん。」
ほら、人のことを勝手に決めつけたりするから。
気分を害したのかも知れない。
「図星だったというだけだろう。それよりユーリ、
君の希望通り子供用の弓矢を準備したがこれで
何をするつもりだ?」
エル君に嫌われたかも知れないのに、意にも介さず
シグウェルさんは私に向き直ると持っていた
小さな弓矢を手渡してくれた。
中庭のはじっこには的も作ってもらっている。
「ダーヴィゼルドで魔物を浄化しようとしたら、
数が多くて全然うまくいかなかったんです。
地面に手を当てて力を伝えるにもそうすると
空を飛ぶ魔物には効果がないし、目をつぶって
祈ればその間は無防備になっちゃうし。」
もしこの先も魔物祓いや浄化を頼まれた時には
もっと効率良くやりたい。考えた結果がこれだ。
「あの時一緒にダーヴィゼルドに行ったキリウ小隊の
デレクさんは魔法の弓矢を使っていたので、
私も同じようなことが出来ないかなと思って!」
試しに5メートルほど離れたところから狙いをつけて
えいっと矢を射ってみる。へろへろっと力無く
飛んだ矢は、的に当たる前に失速して落ちた。
「ユーリ様、か弱過ぎっす・・・」
あれ?デレクさんみたいにカッコ良くいかない。
「キリウ小隊のデレク・エヴァンスか。
そういえば、魔法の使い方について指導を仰ぎに
何度か魔導士院にも来ていたな。なるほど、
あんな風に魔法の矢を飛ばして魔物に当てたいと
いうことか?」
「そうです!えーと、射った矢を魔物に直接
当てるんじゃないんです。私のイメージだと魔法を
込めた矢を一本中空に飛ばしたら、それがたくさん
分かれた光の矢になって雨みたいに魔物に
降り注いで、それが当たった魔物が浄化されて
消える感じなんですけど・・・。」
言うなればデレクさんの魔法の弓矢と、
グノーデルさんのあの無数に降り注いだ雷を
足して2で割ったような感じだ。
そのためにも、実際に弓矢を扱ってみて矢が的に
当たる感覚を掴んでそれを活かしたい。
一生懸命にイメージを伝えれば、面白いことを
考える、とシグウェルさんはわたしの弓矢を取って
弦の強さを調整してくれた。
「ユーリの言ってることはこういう事だろう。」
そのまま特に力を入れるでもなくシグウェルさんは
自分の頭上に向かって軽く弓を引くとそのまま
矢を放った。
薄い金色で覆われた矢はその頭上にほぼ垂直に
飛ぶと、金色の矢がそこから数本飛び出して
それが全て的に当たる。
「そうです!そんな感じです‼︎」
私の拙い説明を一度聞いただけで難なくやってみせる
シグウェルさんはやっぱりすごい。
「実際は一つの的ではなく複数の的に当てたいと
いうのだろう?とりあえず今はこの的に矢を
当てれるようにして、獲物に矢が当たるイメージを
掴むといい。そうすれば複数のものに矢が当たる
イメージも掴みやすくなるはずだ。」
頭上に放ち落ちて来た矢を素手でぱしりと掴んだ
シグウェルさんはそれを私に渡してくれながら
そう言う。
「先日君が王都で大きな力を使ってから、
国内のあちこちからその加護の力で土地に
祝福をして欲しいだの魔物祓いをして欲しいだのと
いう申請が殺到している。また近々どこかへ
行くことになるだろうから、それまでに練習して
おくといいだろうな。」
そうだったんだ。それならなおさら弓矢を使った
魔物祓いをイメージ出来るようにしておかないと。
そう思ってもう一度弓矢を引く。
さっきよりはちゃんと飛んで、的のはじに
カンと当たった。
「当たりました!」
「やはりさっきのだと弦の張り方がまだ
強すぎたか。」
ふむ、とシグウェルさんが頷いている。
「結構弱めに張ったつもりだったんすけどねぇ。
ユーリ様は魔力は強いけどその分、並の子供より
非力かも知れないっす。」
魔物祓いにはユーリ様専用の弓矢がいるかも、
なんてユリウスさんは言っている。
その後もしばらく弓の練習をして、続けるなら
王宮の中庭かどこかに練習用の場所を設けて
もらう方がいいだろうとアドバイスされた。
「はあ、面白かった!けどやっぱり慣れないことを
すると疲れますねぇ。」
「戻ったら少しお昼寝された方が良いですよ。
夕食が近くなったら起こして差し上げますから。」
「その前におやつが食べたいです!」
魔導士院からの帰り道、手を繋いだマリーさんと
そんな話をしていたら、珍しく後ろにいる
エル君に話しかけられた。
「ユーリ様はいつもあんな風に力を使うための
練習をしたりするんですか?」
振り返ると、あの赤い瞳が無表情に私を見ていた。
「そうですよ?練習しないといざと言う時に
使えませんから!癒しの力も、最初は使いこなす為に
すごく練習したんですよ?」
侍女さん達を実験台にしたのは内緒にしてそう
胸を張ったら、エル君は私から目を逸らした。
「毎日おやつを好きなだけ食べて殿下に可愛がられて
いるだけだと思ってました。」
言うじゃないの。マリーさんは失礼ですよ!なんて
注意してるけど、あの何にも無関心そうな
エル君が私にそんな事を言うなんて気を許して
くれたみたいでちょっと嬉しい。
あれ?私チョロ過ぎるかな?
「意外ですか?頑張ればその分結果が出てくれるのは
嬉しいですからね!もっと褒めてくれても
いいんですよ?」
ニコッと笑いかけるけど、そんな私をちらりと見て
「すぐ調子に乗りますね・・・」
ぽつりとエル君はこぼした。私より小さいのに
辛辣だ。でもそんな事も今までは言わなかったので、
心の距離感が縮まったみたいでなんだか嬉しい。
魔導士院での私を見て、何か思うところが
あったのかな?こうやって少しずつ仲良くなれたら
いいんだけど。そう思って私から目を逸らした
エル君をニコニコして見つめていた。
その間に私の身の回りの世話の仕方について
一通り教わったエル君は問題なく働いてくれている。
初めよりは少し打ち解けてくれたような気はするけど
相変わらず無表情な上にまだ微妙な距離感というか
空気感だ。
逆に考えれば、今までのシェラさんなんかが
やたらと近い距離感で世話をしてくれていて、
それに慣れすぎていたのかも知れない。
「今日も図書館ですか、ユーリ様。」
お茶を出してくれながらエル君がそう聞く。
やっと奥の院の新しい壁紙やカーテン選びが
終わったのでこの頃はまた図書館へ通っていた。
「いえ、今日は魔導士院に行きます!」
シグウェルさんに教えて欲しい事があり、
アポを取っていたのだ。
「魔導士院・・・」
エル君は呟くと黙り込んでしまった。いつもなら
分かりました、って頷くところだ。
一体どうしたのだろうか。
「エル君?」
声を掛ければ、珍しくハッとした表情で慌てて
分かりました、準備しますと言われた。
なんだか気になる。
魔導士院に着くとマリーさんと手を繋いで歩き、
そんな私の2歩後ろをエル君がついてくる。
「いらっしゃいユーリ様、こっちの準備はもう
出来てるっすよ!」
勝手知ったる魔導士団長の執務室の扉を叩けば
いつものようにユリウスさんが出迎えてくれる。
「こんにちはユリウスさん!シグウェルさんは?」
「団長は一足先に中庭に行ってるっす!
・・・っと、そこの子は何すか?迷子?
めっちゃ白ッ‼︎」
エル君を見たユリウスさんがぎょっとしている。
そして思ったことをそのまま口に出してるけど
エル君に失礼じゃないだろうか。
「イリヤ皇太子殿下が私につけてくれた護衛ですよ」
「え?あれ?そういえばユーリ様って専属の
護衛騎士とかいないんでしたっけ。
なんか気付けばいっつもレジナスかあのキリウ小隊の
隊長が貼り付いてる気がしてたっす。」
貼り付かれているのはある意味間違いない。
でも二人は私の護衛騎士じゃないのだ。
単純に私を縦抱っこしたい人達だ。
「エーギルシュネクトシュメイアです。
よろしくお願いします。」
「略してエル君です‼︎」
ぺこりと頭を下げたエル君を張り切って紹介する。
「嬉しそうっすねユーリ様。あんまりウロチョロして
護衛に迷惑かけちゃ駄目っすよ。イリヤ殿下が
付けてくれた護衛なら間違いないでしょうけど、
この子も随分と小さいっすから。」
相変わらずユリウスさんの私に対する印象は
なんだか失礼だ。私、そんなに護衛の人を
振り回したりしませんけど?
「でもエーギルシュネクトシュメイアかぁ・・・
変わった名前っすね。前ルーシャ語みたいな
響きっす。」
「なんですかそれ?」
「あ、えーと簡単に言うと古代ルーシャ語?」
へぇ。エル君はなんだかカッコいい由来?を
持つ名前だったんだ。ちらりとエル君を見れば
なんだか少し表情が硬い。ユリウスさんみたいに
ぐいぐい話しかけてくる人は苦手なのかも知れない。
「それじゃ中庭に行くっすよ。」
ユリウスさんに案内されて、いつぞや馬鹿みたいに
大量の瓶に加護を付けさせられた中庭へと向かう。
そこで待っていたシグウェルさんは手に小さな
弓矢を持っていた。
「来たか。・・・見慣れない顔がいるな。」
エル君を見つめてシグウェルさんが面白そうに
目を細めた。紫色の瞳がきらりと輝いたので、
どうやら興味を惹かれたらしい。
「イリヤ殿下がユーリ様に付けさせた、専属の
護衛だそうっすよ。名前はエーギルシュネクト
シュメイア君で、略してエル君だそうです。」
「ふん、前ルーシャ語か。今どき名付けにそんな
古めかしくて長い言語を使うということは、
西の山岳民族か南の孤島の貴族階級か神官出身だな。
色がない容姿は珍しいから攫われたり売り飛ばされて
いてもおかしくないのに、ここまで無事に
育っているのも珍しい。面白いな、イリヤ殿下から
与えられたなら殿下がどこかで拾ってきて
特別に育てたか?」
名前一つでシグウェルさんはエル君の出自から
育ちまでずけずけと考えたことを話した。
そんな勝手な想像で決めつけられるエル君が
かわいそうだとそちらを見れば、エル君の顔色が
悪い。いつも白いその顔がさらに真っ白だ。
「エル君?具合でも悪いんですか?」
座っててもいいですよと声をかければ、かぶりを
振って断られた。
「これだから魔導士は嫌いなんです。」
そう言った後は黙って私の後ろに立っている。
「嫌われましたよシグウェルさん。」
ほら、人のことを勝手に決めつけたりするから。
気分を害したのかも知れない。
「図星だったというだけだろう。それよりユーリ、
君の希望通り子供用の弓矢を準備したがこれで
何をするつもりだ?」
エル君に嫌われたかも知れないのに、意にも介さず
シグウェルさんは私に向き直ると持っていた
小さな弓矢を手渡してくれた。
中庭のはじっこには的も作ってもらっている。
「ダーヴィゼルドで魔物を浄化しようとしたら、
数が多くて全然うまくいかなかったんです。
地面に手を当てて力を伝えるにもそうすると
空を飛ぶ魔物には効果がないし、目をつぶって
祈ればその間は無防備になっちゃうし。」
もしこの先も魔物祓いや浄化を頼まれた時には
もっと効率良くやりたい。考えた結果がこれだ。
「あの時一緒にダーヴィゼルドに行ったキリウ小隊の
デレクさんは魔法の弓矢を使っていたので、
私も同じようなことが出来ないかなと思って!」
試しに5メートルほど離れたところから狙いをつけて
えいっと矢を射ってみる。へろへろっと力無く
飛んだ矢は、的に当たる前に失速して落ちた。
「ユーリ様、か弱過ぎっす・・・」
あれ?デレクさんみたいにカッコ良くいかない。
「キリウ小隊のデレク・エヴァンスか。
そういえば、魔法の使い方について指導を仰ぎに
何度か魔導士院にも来ていたな。なるほど、
あんな風に魔法の矢を飛ばして魔物に当てたいと
いうことか?」
「そうです!えーと、射った矢を魔物に直接
当てるんじゃないんです。私のイメージだと魔法を
込めた矢を一本中空に飛ばしたら、それがたくさん
分かれた光の矢になって雨みたいに魔物に
降り注いで、それが当たった魔物が浄化されて
消える感じなんですけど・・・。」
言うなればデレクさんの魔法の弓矢と、
グノーデルさんのあの無数に降り注いだ雷を
足して2で割ったような感じだ。
そのためにも、実際に弓矢を扱ってみて矢が的に
当たる感覚を掴んでそれを活かしたい。
一生懸命にイメージを伝えれば、面白いことを
考える、とシグウェルさんはわたしの弓矢を取って
弦の強さを調整してくれた。
「ユーリの言ってることはこういう事だろう。」
そのまま特に力を入れるでもなくシグウェルさんは
自分の頭上に向かって軽く弓を引くとそのまま
矢を放った。
薄い金色で覆われた矢はその頭上にほぼ垂直に
飛ぶと、金色の矢がそこから数本飛び出して
それが全て的に当たる。
「そうです!そんな感じです‼︎」
私の拙い説明を一度聞いただけで難なくやってみせる
シグウェルさんはやっぱりすごい。
「実際は一つの的ではなく複数の的に当てたいと
いうのだろう?とりあえず今はこの的に矢を
当てれるようにして、獲物に矢が当たるイメージを
掴むといい。そうすれば複数のものに矢が当たる
イメージも掴みやすくなるはずだ。」
頭上に放ち落ちて来た矢を素手でぱしりと掴んだ
シグウェルさんはそれを私に渡してくれながら
そう言う。
「先日君が王都で大きな力を使ってから、
国内のあちこちからその加護の力で土地に
祝福をして欲しいだの魔物祓いをして欲しいだのと
いう申請が殺到している。また近々どこかへ
行くことになるだろうから、それまでに練習して
おくといいだろうな。」
そうだったんだ。それならなおさら弓矢を使った
魔物祓いをイメージ出来るようにしておかないと。
そう思ってもう一度弓矢を引く。
さっきよりはちゃんと飛んで、的のはじに
カンと当たった。
「当たりました!」
「やはりさっきのだと弦の張り方がまだ
強すぎたか。」
ふむ、とシグウェルさんが頷いている。
「結構弱めに張ったつもりだったんすけどねぇ。
ユーリ様は魔力は強いけどその分、並の子供より
非力かも知れないっす。」
魔物祓いにはユーリ様専用の弓矢がいるかも、
なんてユリウスさんは言っている。
その後もしばらく弓の練習をして、続けるなら
王宮の中庭かどこかに練習用の場所を設けて
もらう方がいいだろうとアドバイスされた。
「はあ、面白かった!けどやっぱり慣れないことを
すると疲れますねぇ。」
「戻ったら少しお昼寝された方が良いですよ。
夕食が近くなったら起こして差し上げますから。」
「その前におやつが食べたいです!」
魔導士院からの帰り道、手を繋いだマリーさんと
そんな話をしていたら、珍しく後ろにいる
エル君に話しかけられた。
「ユーリ様はいつもあんな風に力を使うための
練習をしたりするんですか?」
振り返ると、あの赤い瞳が無表情に私を見ていた。
「そうですよ?練習しないといざと言う時に
使えませんから!癒しの力も、最初は使いこなす為に
すごく練習したんですよ?」
侍女さん達を実験台にしたのは内緒にしてそう
胸を張ったら、エル君は私から目を逸らした。
「毎日おやつを好きなだけ食べて殿下に可愛がられて
いるだけだと思ってました。」
言うじゃないの。マリーさんは失礼ですよ!なんて
注意してるけど、あの何にも無関心そうな
エル君が私にそんな事を言うなんて気を許して
くれたみたいでちょっと嬉しい。
あれ?私チョロ過ぎるかな?
「意外ですか?頑張ればその分結果が出てくれるのは
嬉しいですからね!もっと褒めてくれても
いいんですよ?」
ニコッと笑いかけるけど、そんな私をちらりと見て
「すぐ調子に乗りますね・・・」
ぽつりとエル君はこぼした。私より小さいのに
辛辣だ。でもそんな事も今までは言わなかったので、
心の距離感が縮まったみたいでなんだか嬉しい。
魔導士院での私を見て、何か思うところが
あったのかな?こうやって少しずつ仲良くなれたら
いいんだけど。そう思って私から目を逸らした
エル君をニコニコして見つめていた。
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