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第八章 新しい日常
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団長さんの肩に乗せられたままシェラさんの
ところへ行けば、さっそくその腕に座らせられる。
いや、ホントに私ここに着いてから自分の足で
歩いてないわ・・・足腰が弱くなったらどうしよう。
「ではユーリ様、騎士達へ与える酒に加護を付けたら
その後はどうしましょう?ご希望であれば騎士達が
狩りをする現場にも案内いたしますよ。」
シェラさんの説明に考える。私はこの先、辺境へ
癒し子の任務で行く時に野営はしないのだろうか。
そういう時に自分でも火を起こしたり最低限の
食べ物を見つけられるくらいは出来なくて
いいのかな?
狩りは出来なくてもせめて食べられるキノコや
山菜程度は分かる知識が欲しい。
「出来たら私もキノコくらいは自分で探して
みたいんですけどいいですか?食べられるものと
そうじゃないものの見分け方も教えて欲しいです!」
「では近場へキノコと木の実を採りに行って
みましょうか?頃合いを見て戻って来て
それも調理しましょう。」
にこりと微笑んだシェラさんは、そう言うと
小さな籠を準備して私をまた馬に乗せると
天幕の並ぶ野営地からそれほど離れていない
辺りへと散策してくれた。
そして。
「・・・ユーリ様、それは食べられません」
「えっ!」
「そちらも・・・残念ながら毒キノコですね。」
「うそ⁉︎」
愕然とする。シェラさんに教えてもらって私が
探して採ってくるものはことごとくハズレばかり
だった。簡単に言うと毒キノコや食べると
お腹を壊すような山菜や木の実ばかりだ。
もちろん、毒々しい色のキノコは避けている。
椎茸みたいなのやシメジみたいなのをちゃんと
採って来ているのにどれも毒キノコだ。
シェラさんの採ってきたものと見比べて初めて
それに気付く。自分で採ってる時は間違いないと
思っているのにおかしい。
どうやら私には山菜狩りやキノコ狩りのセンスが
決定的に欠けているらしかった。
「こ、これじゃもし私が山で迷子になった時は
すぐに死んじゃいます・・・‼︎」
シェラさんもまさかの私のセンスのなさに
苦笑している。
「ユーリ様はそれほど愛らしくイリューディア神様の
ご加護を受けた優れた御力もお持ちですのに、
意外なところに弱点があったのですね。
毒キノコの見分けはわりと分かりやすいと
思うのですが、とても不思議です。」
私だって不思議だ。選ぶものが全部食用に
向いていないなんてどうなっているんだろう。
何かの呪いだろうか。それともこれも何かの
才能でいつかは役に立つのだろうか。
「このままでは野垂れ死にです・・・‼︎」
「決してお一人にならないように、常に誰かが
お側に付き従い、その庇護下にあるようにという
イリューディア神様のお導きかも知れませんよ。」
「そんなバカな」
「まあ、それは冗談として。真面目な話、
野垂れ死にしないための方法としては野営の
可能性がある時は干し肉や乾燥野菜などを
多少なりとも携行するのがよろしいのでしょうね。」
それから移動中や立ち寄り先では水場と非常時の
脱出口を常に確認しておくといざと言う時には
役立ちます。
そんな事をシェラさんは教えてくれた。
私に壊滅的に食糧探しのセンスがないため、
万が一のことを考えてサバイバル的なアドバイスを
する方向に切り替えたらしい。
さすが精鋭部隊の隊長さん、私の適性のなさを
見極めるのが早い・・・。そしてやんわりと
野垂れ死なないアドバイスをしてくれるその
配慮が嬉しい・・・。
嬉しいけど恥ずかしい。
「帰りましょうか・・・。」
しおしおとうなだれてそう言えば、シェラさんは
自分が採ったキノコや芋のようなものでいっぱいの
籠を手に私を抱き上げてくれる。
「今回は初めてですからね。何度か経験すれば
また結果は変わってくるかも知れませんし。
さあ、これを使ってオレ達も簡単な野営料理を
作りましょう。恐らくレジナスもユーリ様の
ために何か獲ってきているはずですよ。」
そうして私達が野営地に戻ると、他の騎士さん達も
ちらほらと戻って来ていて調理に入り始めていた。
あちこちからいい匂いが立ち昇って来ている。
シェラさんも、ダーヴィゼルドへの道中の
昼休憩の時のように簡単に石のかまどを組み立てると
あっという間に火を点けて借りた小鍋をそこに
かけると採って来たキノコ類を入れた。
「この芋が採れて良かったです。これを入れると
とろみがついて冷めにくく暖かいスープが
出来るんですよ。」
話しながらじゃがいものような芋を小型ナイフで
適当に削りながら鍋の中へ投入していく。
そうしてフタをした鍋を少し火にかけると
その火を消してしまった。
「えっ、もう出来たんですか?」
「いえ、あとは余熱で火を通せば良いので。」
ひょいひょいと鍋のフタの上に赤々とした炭を
火の中から取り出して乗せていく。
ストゥブ料理みたいなものかぁ。なるほどと
納得しながらそれを見ていたら、またシェラさんに
抱き上げられた。
「さあ、それでは他の騎士達の料理の進行具合を
見に行きましょうか。レジナスはまだ戻らない
ようですし、先ほどから騎士達がこちらを
気にしていますからね。ユーリ様に早く自分達の
料理を見て欲しいのでしょう。」
シェラさんに縦抱っこをされたまま近くの
騎士さんのところを覗くと、その騎士さんを含めた
数人がビシッと立ち上がり私に頭を下げた。
「ユーリ様!お疲れ様です、自分達は今クウェイトを
焼いておりますので、焼き上がったらぜひ
食べて下さい‼︎」
クウェイトは丸々太った飛べない鳥だ。
奥の院でも出たことがある。脂が甘くておいしい。
「うわぁ、大好きです!ここで食べると雰囲気も
相まってとてもおいしそうですね‼︎楽しみですっ‼︎」
つい鼻をひくひくさせて抱かれているシェラさんから
身を乗り出して見てしまう。
「ユーリ様、あまりそのようにされますと
落ちますよ。」
「でもシェラさん、すごくいい匂いです!」
騎士さん達は嬉しそうにそんな私に笑顔を
向けてくれている。
「ユーリ様、俺たちはウサギの煮込みを作ってます!
楽しみにしていて下さい‼︎」
別のグループの騎士さんがそこに割り込んできた。
屈強な体格の、大きなその手には小さめの
木製のおたまを握りしめている。
そのギャップが何だか面白い。
「珍しいハーブを見付けてそれと一緒に煮込んで
いるところです、王宮では味わえない滋味を
ご馳走できると思います‼︎」
「ウサギのお料理は一度食べてみたかったんです!
楽しみにしてますね、ありがとうございます‼︎」
「自分達は魚を獲って来ました!ユーリ様は
頭がついたまま焼いた魚は食べられますか⁉︎」
また別の騎士さんに声を掛けられた。
「木の棒に挿してお塩を振って炙っただけのお魚、
とってもおいしいですよね。野営料理って感じで
好きな食べ方ですよ!」
にこにこしてそう言えば、騎士さんはほっと
胸を撫で下ろしているようだ。みんな色々
獲って来ていてすごいなあ。私なんて
毒キノコしか採ってこれないのに。
「ユーリ様、これを・・・」
また別の騎士さんにおずおずと声を掛けられた。
差し出されたのはさっきレジナスさんがくれた
白い花も混じっている野の花の小さな花束だ。
「オレ達は大したものを見付けられなかったので、
代わりにこれを受け取ってください。」
「わぁ・・・綺麗です!わざわざ摘んできて
くれたんですか⁉︎嬉しいです、ありがとう
ございます‼︎」
微笑んでそれを受け取れば、一瞬顔を赤くしてから
嬉しそうにぺこりと頭をさげて下がった。
仲間の騎士さんにやったな、とか良かったな、と
ヒジで小突かれているから私に料理をご馳走
出来ないという申し訳なさから解放されたようで
良かった。手に花束を持つ私を見て、その手が
あったかと数人の騎士さん達がどこかへ走って
行ったかと思うと戻って来て、
「ユーリ様、こちらもどうぞ‼︎」
花を私に差し出す。料理に集中しないとまた
団長さん達に怒られないのかな・・・。
お花は綺麗だから、帰ったら飾らせてもらうけれど。
その時、ドスンという何か重たいものが地面に
落ちた音がした。驚いてシェラさんに抱きつきながら
そちらを見るとレジナスさんがいた。
ただでさえ大きなレジナスさんの倍はありそうな
立派な牙を持つイノシシみたいなものが二頭も
地面に転がっている。さっきのドスンはこれか。
「魔獣⁉︎」
「でけぇ‼︎」
「いや王都の郊外にまだこんなのがいたのか?」
「ユーリ様、隊長からもっと離れて!」
「隊長と距離が近過ぎますユーリ様!」
「びっくりしてる顔がかわいい‼︎」
レジナスさんの獲って来た獲物への感想に混じって
どさくさに紛れてなぜか私とシェラさんへの
ヤジも混ざっている。なんでだ。
ぽんと服の埃を払ったレジナスさんは、獲物を
検分する騎士さん達と言葉を交わしながら
こちらへとやって来る。
「すごいですねレジナスさん!」
「お疲れ様です。また随分な大物を獲って
来ましたね、あなたらしい。」
「俺もまさかと思ったが、山裾に巣穴が出来ていた。
まだ繁殖前のようでこの二頭しかいなくて
良かったが、念のため周囲を探索した方が
いいだろうな。この大きさのものが王都に
現れたら騒ぎになる。」
シェラさんとレジナスさんのやり取りを聞きながら
わくわくする。さっき誰かが魔獣って言ってた。
てことは魔獣料理を食べられるんだ。イノシシに
似てるから、豚肉みたいな味がするのかな?
「どうしたユーリ、目が輝いているぞ。」
不思議そうなレジナスさんに、ああ。とシェラさんが
頷いて説明する。
「ここに来る前に、ユーリ様と魔獣料理に
ついて話していたんです。それでユーリ様は、
魔獣を食べられるのをとても楽しみに
していまして。」
「本当か?普通、初めて魔獣料理について
聞けば食べるのを嫌がる者もいるんだが。」
目を丸くされた。周りの騎士さん達もシェラさんの
話が聞こえたのか私を見ている。
「はい、すみません。食べてみたいです魔獣・・・」
これじゃなんだか私の食い意地が張ってるのを
みんなに周知したみたいだ。恥ずかしい。
でも興味があるのは本当なので正直に言う。
ここで変な見栄を張って魔獣を食べる機会を
逃すのは嫌だ。恥を偲んで、うっすら赤くなりながら
魔獣を食べたいと自己申告をすれば、その言葉に
周りが一瞬シンとした。うわ、引かれた?
そう思った次の瞬間、騎士さん達が一斉に
動き出してびっくりする。
「急げ、ユーリ様に早く魔獣を食べさせて
あげるんだ!」
「ウサギとか食わせてる場合じゃねぇ!」
「解体は自分がやります‼︎」
突然バタバタし始めて状況が掴めないでいると
「良かったですねユーリ様。騎士達が張り切って
おいしい魔獣料理を作ってくれますよ。」
シェラさんがニコニコして私を抱え直した。
レジナスさんは呆れたようにその様子を見ている。
「先に自分達の作りかけを完成させなければ
この先三日間の糧食をふいにするぞ。
一体そっちはどうするつもりだこいつら・・・」
どうやら私の魔獣食べたい発言は引かれるどころか
騎士さん達のやる気を引き出したみたいで
良かった反面、そちらに夢中になって本来の
自分達の料理をふいにした人達もいたようだ。
副団長のトレヴェさんに物凄く怒られていて、
その原因は私だと思えば申し訳ない。
そんな風に大騒ぎして作られた野営料理は、
食べる時にはまるで宴会のように様々なものが
ずらりと私の前に並べられた。
そして私は団長さんの膝の上だ。
これもレジナスさんとシェラさんの賭け試合の
結果で、レジナスさんには本当にすまないと
また見えない耳と尾が垂れたようなしょげた
態度で謝られた。
それなのにシェラさんは凝りもせずまたそんな
レジナスさんに向かって、次は負けませんよと
声をかけている。勝負をするのはいいけど、
そこに私を巻き込まないで欲しい。
団長さんと副団長さんに魔獣料理を含めて
あれこれ色々と食べさせられながら、そんな二人を
私は横目で見る。
こうして私の初めての野営地訪問は、魔獣料理を
堪能して騎士さん達からもらったたくさんのお花を
抱えて帰路についたのだった。
ところへ行けば、さっそくその腕に座らせられる。
いや、ホントに私ここに着いてから自分の足で
歩いてないわ・・・足腰が弱くなったらどうしよう。
「ではユーリ様、騎士達へ与える酒に加護を付けたら
その後はどうしましょう?ご希望であれば騎士達が
狩りをする現場にも案内いたしますよ。」
シェラさんの説明に考える。私はこの先、辺境へ
癒し子の任務で行く時に野営はしないのだろうか。
そういう時に自分でも火を起こしたり最低限の
食べ物を見つけられるくらいは出来なくて
いいのかな?
狩りは出来なくてもせめて食べられるキノコや
山菜程度は分かる知識が欲しい。
「出来たら私もキノコくらいは自分で探して
みたいんですけどいいですか?食べられるものと
そうじゃないものの見分け方も教えて欲しいです!」
「では近場へキノコと木の実を採りに行って
みましょうか?頃合いを見て戻って来て
それも調理しましょう。」
にこりと微笑んだシェラさんは、そう言うと
小さな籠を準備して私をまた馬に乗せると
天幕の並ぶ野営地からそれほど離れていない
辺りへと散策してくれた。
そして。
「・・・ユーリ様、それは食べられません」
「えっ!」
「そちらも・・・残念ながら毒キノコですね。」
「うそ⁉︎」
愕然とする。シェラさんに教えてもらって私が
探して採ってくるものはことごとくハズレばかり
だった。簡単に言うと毒キノコや食べると
お腹を壊すような山菜や木の実ばかりだ。
もちろん、毒々しい色のキノコは避けている。
椎茸みたいなのやシメジみたいなのをちゃんと
採って来ているのにどれも毒キノコだ。
シェラさんの採ってきたものと見比べて初めて
それに気付く。自分で採ってる時は間違いないと
思っているのにおかしい。
どうやら私には山菜狩りやキノコ狩りのセンスが
決定的に欠けているらしかった。
「こ、これじゃもし私が山で迷子になった時は
すぐに死んじゃいます・・・‼︎」
シェラさんもまさかの私のセンスのなさに
苦笑している。
「ユーリ様はそれほど愛らしくイリューディア神様の
ご加護を受けた優れた御力もお持ちですのに、
意外なところに弱点があったのですね。
毒キノコの見分けはわりと分かりやすいと
思うのですが、とても不思議です。」
私だって不思議だ。選ぶものが全部食用に
向いていないなんてどうなっているんだろう。
何かの呪いだろうか。それともこれも何かの
才能でいつかは役に立つのだろうか。
「このままでは野垂れ死にです・・・‼︎」
「決してお一人にならないように、常に誰かが
お側に付き従い、その庇護下にあるようにという
イリューディア神様のお導きかも知れませんよ。」
「そんなバカな」
「まあ、それは冗談として。真面目な話、
野垂れ死にしないための方法としては野営の
可能性がある時は干し肉や乾燥野菜などを
多少なりとも携行するのがよろしいのでしょうね。」
それから移動中や立ち寄り先では水場と非常時の
脱出口を常に確認しておくといざと言う時には
役立ちます。
そんな事をシェラさんは教えてくれた。
私に壊滅的に食糧探しのセンスがないため、
万が一のことを考えてサバイバル的なアドバイスを
する方向に切り替えたらしい。
さすが精鋭部隊の隊長さん、私の適性のなさを
見極めるのが早い・・・。そしてやんわりと
野垂れ死なないアドバイスをしてくれるその
配慮が嬉しい・・・。
嬉しいけど恥ずかしい。
「帰りましょうか・・・。」
しおしおとうなだれてそう言えば、シェラさんは
自分が採ったキノコや芋のようなものでいっぱいの
籠を手に私を抱き上げてくれる。
「今回は初めてですからね。何度か経験すれば
また結果は変わってくるかも知れませんし。
さあ、これを使ってオレ達も簡単な野営料理を
作りましょう。恐らくレジナスもユーリ様の
ために何か獲ってきているはずですよ。」
そうして私達が野営地に戻ると、他の騎士さん達も
ちらほらと戻って来ていて調理に入り始めていた。
あちこちからいい匂いが立ち昇って来ている。
シェラさんも、ダーヴィゼルドへの道中の
昼休憩の時のように簡単に石のかまどを組み立てると
あっという間に火を点けて借りた小鍋をそこに
かけると採って来たキノコ類を入れた。
「この芋が採れて良かったです。これを入れると
とろみがついて冷めにくく暖かいスープが
出来るんですよ。」
話しながらじゃがいものような芋を小型ナイフで
適当に削りながら鍋の中へ投入していく。
そうしてフタをした鍋を少し火にかけると
その火を消してしまった。
「えっ、もう出来たんですか?」
「いえ、あとは余熱で火を通せば良いので。」
ひょいひょいと鍋のフタの上に赤々とした炭を
火の中から取り出して乗せていく。
ストゥブ料理みたいなものかぁ。なるほどと
納得しながらそれを見ていたら、またシェラさんに
抱き上げられた。
「さあ、それでは他の騎士達の料理の進行具合を
見に行きましょうか。レジナスはまだ戻らない
ようですし、先ほどから騎士達がこちらを
気にしていますからね。ユーリ様に早く自分達の
料理を見て欲しいのでしょう。」
シェラさんに縦抱っこをされたまま近くの
騎士さんのところを覗くと、その騎士さんを含めた
数人がビシッと立ち上がり私に頭を下げた。
「ユーリ様!お疲れ様です、自分達は今クウェイトを
焼いておりますので、焼き上がったらぜひ
食べて下さい‼︎」
クウェイトは丸々太った飛べない鳥だ。
奥の院でも出たことがある。脂が甘くておいしい。
「うわぁ、大好きです!ここで食べると雰囲気も
相まってとてもおいしそうですね‼︎楽しみですっ‼︎」
つい鼻をひくひくさせて抱かれているシェラさんから
身を乗り出して見てしまう。
「ユーリ様、あまりそのようにされますと
落ちますよ。」
「でもシェラさん、すごくいい匂いです!」
騎士さん達は嬉しそうにそんな私に笑顔を
向けてくれている。
「ユーリ様、俺たちはウサギの煮込みを作ってます!
楽しみにしていて下さい‼︎」
別のグループの騎士さんがそこに割り込んできた。
屈強な体格の、大きなその手には小さめの
木製のおたまを握りしめている。
そのギャップが何だか面白い。
「珍しいハーブを見付けてそれと一緒に煮込んで
いるところです、王宮では味わえない滋味を
ご馳走できると思います‼︎」
「ウサギのお料理は一度食べてみたかったんです!
楽しみにしてますね、ありがとうございます‼︎」
「自分達は魚を獲って来ました!ユーリ様は
頭がついたまま焼いた魚は食べられますか⁉︎」
また別の騎士さんに声を掛けられた。
「木の棒に挿してお塩を振って炙っただけのお魚、
とってもおいしいですよね。野営料理って感じで
好きな食べ方ですよ!」
にこにこしてそう言えば、騎士さんはほっと
胸を撫で下ろしているようだ。みんな色々
獲って来ていてすごいなあ。私なんて
毒キノコしか採ってこれないのに。
「ユーリ様、これを・・・」
また別の騎士さんにおずおずと声を掛けられた。
差し出されたのはさっきレジナスさんがくれた
白い花も混じっている野の花の小さな花束だ。
「オレ達は大したものを見付けられなかったので、
代わりにこれを受け取ってください。」
「わぁ・・・綺麗です!わざわざ摘んできて
くれたんですか⁉︎嬉しいです、ありがとう
ございます‼︎」
微笑んでそれを受け取れば、一瞬顔を赤くしてから
嬉しそうにぺこりと頭をさげて下がった。
仲間の騎士さんにやったな、とか良かったな、と
ヒジで小突かれているから私に料理をご馳走
出来ないという申し訳なさから解放されたようで
良かった。手に花束を持つ私を見て、その手が
あったかと数人の騎士さん達がどこかへ走って
行ったかと思うと戻って来て、
「ユーリ様、こちらもどうぞ‼︎」
花を私に差し出す。料理に集中しないとまた
団長さん達に怒られないのかな・・・。
お花は綺麗だから、帰ったら飾らせてもらうけれど。
その時、ドスンという何か重たいものが地面に
落ちた音がした。驚いてシェラさんに抱きつきながら
そちらを見るとレジナスさんがいた。
ただでさえ大きなレジナスさんの倍はありそうな
立派な牙を持つイノシシみたいなものが二頭も
地面に転がっている。さっきのドスンはこれか。
「魔獣⁉︎」
「でけぇ‼︎」
「いや王都の郊外にまだこんなのがいたのか?」
「ユーリ様、隊長からもっと離れて!」
「隊長と距離が近過ぎますユーリ様!」
「びっくりしてる顔がかわいい‼︎」
レジナスさんの獲って来た獲物への感想に混じって
どさくさに紛れてなぜか私とシェラさんへの
ヤジも混ざっている。なんでだ。
ぽんと服の埃を払ったレジナスさんは、獲物を
検分する騎士さん達と言葉を交わしながら
こちらへとやって来る。
「すごいですねレジナスさん!」
「お疲れ様です。また随分な大物を獲って
来ましたね、あなたらしい。」
「俺もまさかと思ったが、山裾に巣穴が出来ていた。
まだ繁殖前のようでこの二頭しかいなくて
良かったが、念のため周囲を探索した方が
いいだろうな。この大きさのものが王都に
現れたら騒ぎになる。」
シェラさんとレジナスさんのやり取りを聞きながら
わくわくする。さっき誰かが魔獣って言ってた。
てことは魔獣料理を食べられるんだ。イノシシに
似てるから、豚肉みたいな味がするのかな?
「どうしたユーリ、目が輝いているぞ。」
不思議そうなレジナスさんに、ああ。とシェラさんが
頷いて説明する。
「ここに来る前に、ユーリ様と魔獣料理に
ついて話していたんです。それでユーリ様は、
魔獣を食べられるのをとても楽しみに
していまして。」
「本当か?普通、初めて魔獣料理について
聞けば食べるのを嫌がる者もいるんだが。」
目を丸くされた。周りの騎士さん達もシェラさんの
話が聞こえたのか私を見ている。
「はい、すみません。食べてみたいです魔獣・・・」
これじゃなんだか私の食い意地が張ってるのを
みんなに周知したみたいだ。恥ずかしい。
でも興味があるのは本当なので正直に言う。
ここで変な見栄を張って魔獣を食べる機会を
逃すのは嫌だ。恥を偲んで、うっすら赤くなりながら
魔獣を食べたいと自己申告をすれば、その言葉に
周りが一瞬シンとした。うわ、引かれた?
そう思った次の瞬間、騎士さん達が一斉に
動き出してびっくりする。
「急げ、ユーリ様に早く魔獣を食べさせて
あげるんだ!」
「ウサギとか食わせてる場合じゃねぇ!」
「解体は自分がやります‼︎」
突然バタバタし始めて状況が掴めないでいると
「良かったですねユーリ様。騎士達が張り切って
おいしい魔獣料理を作ってくれますよ。」
シェラさんがニコニコして私を抱え直した。
レジナスさんは呆れたようにその様子を見ている。
「先に自分達の作りかけを完成させなければ
この先三日間の糧食をふいにするぞ。
一体そっちはどうするつもりだこいつら・・・」
どうやら私の魔獣食べたい発言は引かれるどころか
騎士さん達のやる気を引き出したみたいで
良かった反面、そちらに夢中になって本来の
自分達の料理をふいにした人達もいたようだ。
副団長のトレヴェさんに物凄く怒られていて、
その原因は私だと思えば申し訳ない。
そんな風に大騒ぎして作られた野営料理は、
食べる時にはまるで宴会のように様々なものが
ずらりと私の前に並べられた。
そして私は団長さんの膝の上だ。
これもレジナスさんとシェラさんの賭け試合の
結果で、レジナスさんには本当にすまないと
また見えない耳と尾が垂れたようなしょげた
態度で謝られた。
それなのにシェラさんは凝りもせずまたそんな
レジナスさんに向かって、次は負けませんよと
声をかけている。勝負をするのはいいけど、
そこに私を巻き込まないで欲しい。
団長さんと副団長さんに魔獣料理を含めて
あれこれ色々と食べさせられながら、そんな二人を
私は横目で見る。
こうして私の初めての野営地訪問は、魔獣料理を
堪能して騎士さん達からもらったたくさんのお花を
抱えて帰路についたのだった。
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恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。
※小説家になろう様にも掲載しています
いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。
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