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第八章 新しい日常

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思ったよりも気さくで親しみやすい
カティヤ様の態度に安心した私を見て、
だから大丈夫って言ったでしょ?
とリオン様は笑っている。
そんなリオン様に、

「お兄様!本当に目が見えておられるんですね。」

カティヤ様は歩み寄ると、その顔に触れて
確かめている。ぺたぺたと顔を触られて微笑む
リオン様と、向かい合わせで確かめるように
じっとその顔を見つめるカティヤ様を、やっぱり
二人は似てるなあとぼんやり眺めていたら、

ぱっとこちらを振り向いたカティヤ様にひょいと
持ち上げられて抱きしめられながらくるくる
回られた。

「えっ」

「感謝いたします、ユーリ様!この目で見るまでは
信じられませんでしたが、本当に元のお兄様の
瞳です‼︎なんと言ったらこの胸に溢れる感謝の
気持ちを伝えられるものか・・・‼︎」

そう言ってぎゅっと抱き締められたけど、
その力の強さに驚く。苦しい。

私を持ち上げて軽々と回ったり、
お姫様のわりに力が強くない⁉︎

驚いてされるがままになっていたら、さすがに
見かねたのかレジナスさんが止めてくれた。

「カティヤ様、それくらいで。お力を加減して
下さい。ユーリがぐったりしております。」

「あら嫌だわ、ごめんなさい。」

そっと床に降ろされる。目が回って少しふらつき
リオン様にまた掴まった。

「ち、力持ちなんですね・・・?」

「カティヤも含めて僕達3人兄弟や父上など
勇者様の血を引く王家の人間には、勇者様の
高い魔力と力の強さが引き継がれているんだよ。」

怪力美少女か。それで楚々とした姫巫女を
やらなきゃいけないなんて大変そうだ。

そりゃ人払いを確かめないと素のままで振舞うのは
無理なんだろうなあ。神殿の巫女でこんなに
かわいい人なら神殿のイメージっていうのも
ありそうだし。

「レジナスもお久しぶり。お兄様の目が見えない間は
代理で色々と大変だったでしょう?
本当にありがとう。」

「リオン様のためならどうと言うことはありません。
それより、お元気そうで何よりです。」

ぺこりとレジナスさんが頭を下げたけど、その顔は
珍しく微笑みを浮かべていて嬉しそうだ。
そういえば王家の三兄弟とレジナスさんは
幼馴染みたいなものだった。

その後は長椅子に腰掛けて隣に座るカティヤ様に
優しく手を握りしめられながら色々な話をした。

テーブルでなく、ソファや長椅子に掛けて
話すことになったのは気兼ねなく話したいと
言うカティヤ様の希望だ。本当に気さくな人だ。

そうして少しの間、私とも言葉を交わして
親交を深めたカティヤ様はさて、と態度を
改めた。

「そろそろ本題に入りますね。ユーリ様は
先日王都全域に及ぶ大規模な力を使った後に
突然成長したと聞いております。
今お会いして分かりましたが、やはり原因は
イリューディア神様の御力が強まったことに
よるものでしょう。それによりヨナス神の力が
弱まった分、元の姿に戻ろうとする力が
働いたと思われます。」

そう言って私をぎゅっと抱き締めるとくんくん
匂いを嗅いだ。あれ、シグウェルさんかな?

「イリューディア神様の清冽な魔力の香りが
溢れております。ユーリ様の香りに誘われて
精霊達もこの奥の院に多く集まっておりましてよ」

「そうなんですか?」

良かった、精霊に怖がられてるんじゃなくて。

「イリューディア神様の御力の一端に触れたいと
集まってきているのでしょうね。その神威ゆえに
騒ぎはしませんが、ユーリ様のお力になれるのを
今か今かと待っているようです。
ですから機会を見つけて、ぜひともその御力を
存分に奮って下さい。
それにより更にイリューディア神様の力が
強まり、より元の姿へ戻る道が開けるのでしょう」

私を抱き締めたまま撫でながらカティヤ様は
そう言った。私とカティヤ様は一つの長椅子に
隣同士で座っていて、その周りに並ぶソファに
リオン様や大神官のおじいちゃん、シグウェルさんが
私達を囲むように座っている。

ちなみにレジナスさんやユリウスさん、他の
神官さん達は立ったままだ。

そんな衆人環視の中でカティヤ様に抱き締められ
匂いを嗅がれて撫で回されている。
ものすごく恥ずかしい。

「カティヤ、なんだかユーリと距離が近くない?」

リオン様がそう言えば、

「だってお兄様、仕方がないのです。ユーリ様から
イリューディア神様の御力をとても強く感じて
触れずにはいられないのです。あと単純に、
ユーリ様が可愛いです。わたくしにもこんな妹が
いれば良かったのに。」

私をきゅっと抱き締める力が強くなる。
苦しい。
そこでカティヤ様がそうだ、と思い出したように
言葉を続けた。

「わたくしとしたことがイリューディア神様の
ご神託を告げるのを忘れておりました。」

イリューディアさんの神託を忘れてました、
なんてカティヤ様はわりとのんきだ。

それ、姫巫女としてすごく大事だよね?

そう思ったのは私だけではなかったらしく、
大神官のおじいちゃんがため息をついた。

「カティヤ様・・・」

「だってユーリ様があまりにも可愛らしくて!
書写長様、ユーリ様の可愛らしさはしっかりと
描いておりますわよね⁉︎」

誤魔化すように声を上げたカティヤ様はついでに
私のせいにした。というか、書写長?
聞き慣れない言葉だ。

「それって何ですか?」

「神殿で経典を書き写したり、私達の活動を
書き記し、時には絵画にして残したりする者です。
いわゆる記録係のようなものですわ。
本日は癒し子様と初めてお会いしますので
その様子をしっかりと絵にも残してもらうつもりで
一番偉い書写長様に同行をお願いしておりますの。」

そう言って私を撫でるカティヤ様の視線の先で
神官さんが一人、ぺこりとお辞儀をした。
きっとあの人がそうなんだろう。

うーん、猫耳姿じゃないなら別に絵画で私の姿を
残されてもいいか・・・。

「さて、御神託ですが。これはユーリ様が
成長されるのと関係あるお言葉かも知れません。
『癒し子とその力を育てるは食に非らず、
愛を持ってその芽を育てよ』です。」

「「「愛・・・」」」

なんとなくみんなの視線が自分に注がれているのを
感じる。い、今でも周りの人達には充分優しく
されてるし、かわいがられてると思うけど?

「とりあえず僕の膝の上に座っておく?」

「やはり出掛ける時はまだまだ縦抱きが必要では
ありませんか?」

「団長、今度からユーリ様の頭を撫でる時は
ひと撫でするんじゃなく、もっとちゃんと
撫でてあげるっす!」

「どれユーリ様、わしも抱っこしようか?」

「ダメですわよ、大神官様。ユーリ様は今
わたくしと手を繋いでおりますもの。それに
そんな細腕では危なっかしくて見ていられません!」

じっと見つめられていたと思ったら、一拍置いて
急にみんながわあわあ騒ぎ出した。

いや、愛を持って接するってそういうこと?
見てると私の取り合いでむしろケンカになりそうで
心配になってくる。何か話題を変えよう。

「そういえば!」

声を上げた私にカティヤ様始めみんなが注目した。

「シグウェルさんからもらった魔除けの結界石が
割れちゃったんですけど、それは私に何か影響は
ありますか?」

ああ、とカティヤ様が頷いた。

「それについても聞き及んでおりましてよ。
ヨナス神に関係する霧を吸い込み、そのせいで
ヨナス神の出てくる恐ろしい夢を見たかと
思ったら目覚めた時には結界石が割れていたとか。」

経緯を確認して、ふうん。とその白く細い顎に
ほっそりとした指先を当てて思案顔をする
カティヤ様はそんな表情もリオン様にそっくりだ。

「魔導士団長様、結界石はまたすぐに
準備できまして?」

「今ノイエ領から取り寄せ中だ。叔父上に頼んで
前回よりも選りすぐりの良い部分を切り出して
もらうためにその選別に少し時間がかかっている」

「なるほど」

さすがシグウェルさん、姫巫女のカティヤ様
相手でも安定のタメ口・・・。

カティヤ様は全然気にしてないけど、
シグウェルさんの後ろに立つユリウスさんの
顔色が大変なことになってるよ。
これはこの面会後にシグウェルさんが
お小言をくらう流れだ。

「ユーリ様、夢を見た後は特に体調に変化は
ございませんか?何か幻聴や幻視があるなどは?」

特に思い当たるところはない。
あ、でもこの間リオン様に突然口付けられた時に
何か思い出しそうで頭痛がした。
強いて言えばそれかなあ。

「特にないですけど、夢の内容なのか
何なのか、それを思い出そうとすると
頭痛がするかも・・・」

「ユーリ様に干渉しようとしたヨナス神の
影響がまだ残っているのかも知れませんね。」

無理に思い出そうとしない方が良いですわ、と
頭を撫でてくれながらカティヤ様はふんわりと
微笑む。そしてそのまま私に向かって、

「ではユーリ様。結界石が届くまでの間の
守護代わりに、わたくしに念の為に祝福を
させて下さいませ。」

そう言うとリオン様にも

「お兄様、ごめんあそばせ」

声を掛けた。なんだろう。そう思っていると、

カティヤ様のほっそりとした白魚のような
指先が私の顎先にくいとかけられ、リオン様に
そっくりなその綺麗な顔が近付いたかと
思うと、そのまま唇に口付けられた。











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