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第七章 ユーリと氷の女王
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私がシェラさんと一緒の馬で
駆けて行く遥か先を、
ヒルダ様はバルドル様の馬と
並走しながら走り出すと
あっという間にその姿は
見えなくなってしまった。
ダーヴィゼルドの騎士さん達数人が
私達をカイゼル様の所へ案内しながら、
護衛をするように同行してくれている。
すると、やがて走るうちに周りに
キラキラした何かが
転がっているのに気が付いた。
その数は少しずつ増えている。
「ガラス・・・じゃなくて氷?」
よくよく見れば、それは大小に砕けた
氷があちこちに転がっているのだった。
「ヒルダ様の魔法ですね。
魔物を凍らせながら砕いて進んでいるようです。
おかげで良い道標になりますが・・・。
カイゼル殿の所までまだ距離があるはずが
それにしては魔物の数が多いです。
先日も演習の際はこの山に入っていますが、
ここまでの数ではありませんでした。」
シェラさんの言葉にデレクさんも頷く。
「痕跡から分かる魔物の種類も、
先日までの演習で見たものとは
違うように思います。
・・・肉食コウモリも混じってますね。
囲まれて一斉に襲われたらかなり
厄介じゃないですか?」
魔物図鑑で見た記憶がある。
血の匂いに寄って来ては集団で
噛み付くと肉を食いちぎってしまう、
ピラニアや軍隊アリみたいなコウモリだ。
一匹一匹は小さいけど、牙が鋭くて
噛まれたらすごく痛そうだったのを、
図鑑で見た時によく覚えている。
「そんなのまでいるんですか・・・」
事前にシェラさんから聞いていた
北方によくいる魔物は、凍り狼という
噛み付かれたり爪で引っ掻かれたりすると
そこから凍ってしまう狼や、
サーベルタイガーみたいに大きな牙を
持つ虎などの魔獣の話だった。
それらも徒党を組んで襲ってくるけど
序列意識が強いので、自分より強いと思う
相手にはなかなか向かって来ないから
今回ヒルダ様が同行するなら
襲われる心配は少ないし、
万が一襲われてもシェラさんやデレクさんで
充分対応できるという話だった。
でも肉食コウモリはそこまでの知恵がない。
とにかく無差別に襲ってくるらしい。
砕けて転がっている氷には、
凍り狼も混じっているけど
肉食コウモリも結構な数が
入っているらしかった。
ヒルダ様達は大丈夫かな、と思った時だ。
ごおぉっ、と言う山鳴りのような低い音が
聞こえてきて冷たい雪と風が舞った。
ダーヴィゼルドの騎士さん達がお互い
顔を見合わせ青くなっていて、
シェラさんもおっと、と言って馬を止めた。
「な、何ですか⁉︎」
何か大きな魔物でも出てくる予兆だろうか。
そう思って慌てたら、
「ヒルダ様が大掛かりな魔法を使ったようです。
恐らく予想以上に肉食コウモリなどの
細々した魔物の数が多かったのでしょう。
カイゼル殿がいる山ごとそこにいる魔物を
凍らせることにしたようですね。
それで運良くカイゼル殿を捕らえられるか
魔物の湧いて出てくる泉のようなものを
凍らせられれば儲け物ですが、さて・・」
「山ごと凍らせるんですか⁉︎」
ぎょっとして思わず目の前にある山を
見つめる。かなり大きな山だけど、
確かに今そこには暗雲が垂れ込めて
空気がどんどん冷えていっている。
ヒルダ様は大層な魔力持ちだと
シェラさんは言っていたけど、
まさかこんな大規模な事が出来るだなんて。
「大丈夫ですか?まさか魔力切れで
倒れたりしないですよね⁉︎」
心配になってそう聞けば、
「氷雪系魔法に限って言えば、
これぐらいならまだヒルダ様には
余裕があるはずです。
山が完全に凍りましたら、
徒歩にはなりますがオレ達も
後を追いますよ。」
邪魔な魔物はヒルダ様が始末して
くれているはずです。
そう言ったシェラさんは馬から降りると
野球のスパイクみたいなギザギザがついた
金具を靴底に装着し始めた。
凍った道でも転ばないようにする
滑り止め用のものだろう。
他の騎士さん達も同様だ。
ついでにシェラさんはまだ馬に跨ったままの
私の足を取ると、私のブーツにも子供用の
小さな金具を取り付けてくれた。
そしてひょいと私を縦抱っこで馬から降ろす。
「デレクは遠距離からカイゼル殿の足止めを。
オレはユーリ様を連れてカイゼル殿の
いる所を目指します。」
そう言って、これから踏み入ろうとしている
目の前の山道がピシピシと凍り始めたのを
シェラさんはじっと見つめている。
周りの騎士さんの中には体を暖めるためか、
お酒の入っている小瓶を開けて
ぐいと煽っている人達もいた。
気絶した時や消毒用に、この世界の
騎士さん達の中には度数の高いお酒を
持ち歩いている人もいるけど
これだけ寒ければ体を暖めるのにも
有効なようだった。
確かに山が凍り始めるのに比例して
周りの空気もどんどん冷えて来て、
底冷えのする寒さが足元から
立ち上って来ている。
「そろそろ行きますよ」
山道がある程度凍りきったのを見極めて、
そう言ったシェラさんは私を片手に
抱いたまま山の中へと足を踏み入れた。
ツルツル、というほどではないにしろ
それなりに凍っている道を
他の騎士さん達の案内の下、
どんどん山中へと入っていく。
どれくらい歩いただろうか。
前方からヒルダ様の声と剣の音が
聞こえてきた。
「やめろカイ‼︎フレイヤも心配している、
正気に戻って早く一緒に帰ろう‼︎」
そこには無数の砕けた氷と共に
ぼろぼろの上着で大きく剣を振るう
すらりとした体躯の男の人と、
その剣を受け止めて必死に
呼びかけているヒルダ様、
凍り狼の群れを相手にしている
バルドル様と数人の騎士さんがいた。
「・・・なぜ氷から復活を?
だから砕かなければいけないのか?」
シェラさんが独りごちた。
どういう意味かと思って見てみれば、
ヒルダ様の魔法で凍っているはずの
魔物は粉々に砕かれない限り、
ただ凍っている状態だとバリンと解凍しては
復活してヒルダ様達に襲いかかっていた。
その度に魔物はまた魔法で凍らされて
いるけれど、カイゼル様を説得しながら
魔物を相手にするヒルダ様が大変そうだ。
「どうしてですか?ヒルダ様の
魔法が効いていないって事ですか?」
「カイゼル殿はヒルダ様の魔法を
破って城を抜け出したそうですから、
ここにいる魔物もカイゼル殿の影響を受けて
ヒルダ様の魔法の効きが弱いのかも知れません。
ということは、ただ凍らせただけの
肉食コウモリはすぐにでも復活してまた
襲いかかってくる可能性がありますね。
早く始末をつけなければ。」
ヒルダ様達の周りには負傷した
騎士さん達が何人かいる。
その体は傷付き血が滲んでいる人もいた。
コウモリに血の匂いを嗅ぎつけられたら大変だ。
「私が治します!ケガをした人達を
出来るだけ1ヶ所に集められませんか⁉︎」
シェラさんの腕から飛び降りる。
ヒルダ様がカイゼル様の注意を
引きつけてくれている今のうちだ。
「お安いご用です。」
私の言葉にシェラさんは例の鞭を取り出すと、
瞬く間に私の側まで数人纏めて鞭で縛り上げ
放ってよこした。相変わらず華奢な
見た目を裏切る力持ちぶりだ。
あと、あの鞭って人間をスパンと
切り刻むだけじゃないんだ。
一瞬何をするのかと思ってあせってしまった。
王都の惨劇再び、かと思っちゃったよ。
私の側に突然放り投げられた人達は
一体何が起きたのかと呆気に取られている。
「すぐに治しますからね!」
言って、いそいで手をかざす。
この手をかざす範囲の人達のケガが
治りますように。
そう願えば、まとまって座る
騎士さん達の体が淡く金色に光って
ケガは綺麗さっぱり消えてしまった。
血の滲む跡も消えている。
これなら肉食コウモリもここには
集中して集まっては来ないはずだ。
あとはカイゼル様と、
例の魔物が湧いてくるという泉だ。
「ユーリ様、あれを。
カイゼル殿の後ろを見て下さい。」
凍っている魔物を鞭を振るい砕きながら、
シェラさんがそう言った。
ヒルダ様と剣を交わしている
カイゼル様の向こう側にうっすらと
濃い紫色の水溜まりみたいなものが見える。
「あれが・・・?」
1、2メートル四方のそれは
そんなに大きくもなく、ドロリとして
見える様子は泉というよりも沼のようだ。
紫色、という点ではシェラさんの
髪の色もそうなのに、
シェラさんの綺麗な紫色とは
似ても似つかない。
こちらの濃いドロリとした紫色は
見ているだけで落ち着かなくなる
嫌な胸騒ぎを覚える色だ。
そして見ているだけでなんだか
不安な気持ちになってくるそれは、
何かを連想させると思ったら
ヨナスの髪の色だった。
イリューディアさん達と話していた時に
突然現れたヨナスの、
ゆらりと揺れていたあの濃い紫色の
長髪を思い出させる。
「ヨナスの色だ・・・」
思わずそう言った私の呟きを
シェラさんは聞き逃さない。
「ではカイゼル殿はヨナス神も絡んだ
魔物の影響下にあるという事ですか。
通りでヒルダ様の魔法も効きが
悪いわけですね。想定していた中で
一番最悪な状況です。」
そう話している時に、突然数本の
青い光を纏った矢がカイゼル様に
向かって飛んで来た。
あっ、これはデレクさんの。
そう思って見てみれば、
正確にカイゼル様の両手両足を狙って
放たれたその矢はヒルダ様を剣で
弾き飛ばしたカイゼル様に
あっという間に叩き落とされた。
目にも見えない速さだ。
続けて二撃、三撃と追撃の矢が何本も
どこか遠くから矢継ぎ早に放たれたけど、
その度にその全てをカイゼル様は叩き落とした。
最後なんて、自分の両肩めがけて
飛んで来た矢を2本まとめて
素手で掴むとそのままへし折ってしまった。
その様子に、さすがのヒルダ様と
バルドル様も呆然としてしまっている。
当然だ。目の前に立つカイゼル様は
白い細面ですらりとしていて、
とてもそんな力があるようには見えない。
でも、上質なメープルシロップみたいに
濃い琥珀色の髪はボサボサだし
同色の瞳もどこか虚ろで、
素早い動きで矢をへし折った人とは
思えないアンバランスさが
いかにも操られています、って
感じで怖い。
矢をへし折った両手は傷付き
血が滲んでいるのに、
痛みを感じている様子も微塵もない。
「デレクの矢をあそこまで完璧に
捉えるのも、魔法付与されている矢を
素手で折ってしまうのも、
普通の人間ではあり得ませんね。
ヨナス神の加護でもついているんでしょうか?」
シェラさんが恐ろしい事を言った。
駆けて行く遥か先を、
ヒルダ様はバルドル様の馬と
並走しながら走り出すと
あっという間にその姿は
見えなくなってしまった。
ダーヴィゼルドの騎士さん達数人が
私達をカイゼル様の所へ案内しながら、
護衛をするように同行してくれている。
すると、やがて走るうちに周りに
キラキラした何かが
転がっているのに気が付いた。
その数は少しずつ増えている。
「ガラス・・・じゃなくて氷?」
よくよく見れば、それは大小に砕けた
氷があちこちに転がっているのだった。
「ヒルダ様の魔法ですね。
魔物を凍らせながら砕いて進んでいるようです。
おかげで良い道標になりますが・・・。
カイゼル殿の所までまだ距離があるはずが
それにしては魔物の数が多いです。
先日も演習の際はこの山に入っていますが、
ここまでの数ではありませんでした。」
シェラさんの言葉にデレクさんも頷く。
「痕跡から分かる魔物の種類も、
先日までの演習で見たものとは
違うように思います。
・・・肉食コウモリも混じってますね。
囲まれて一斉に襲われたらかなり
厄介じゃないですか?」
魔物図鑑で見た記憶がある。
血の匂いに寄って来ては集団で
噛み付くと肉を食いちぎってしまう、
ピラニアや軍隊アリみたいなコウモリだ。
一匹一匹は小さいけど、牙が鋭くて
噛まれたらすごく痛そうだったのを、
図鑑で見た時によく覚えている。
「そんなのまでいるんですか・・・」
事前にシェラさんから聞いていた
北方によくいる魔物は、凍り狼という
噛み付かれたり爪で引っ掻かれたりすると
そこから凍ってしまう狼や、
サーベルタイガーみたいに大きな牙を
持つ虎などの魔獣の話だった。
それらも徒党を組んで襲ってくるけど
序列意識が強いので、自分より強いと思う
相手にはなかなか向かって来ないから
今回ヒルダ様が同行するなら
襲われる心配は少ないし、
万が一襲われてもシェラさんやデレクさんで
充分対応できるという話だった。
でも肉食コウモリはそこまでの知恵がない。
とにかく無差別に襲ってくるらしい。
砕けて転がっている氷には、
凍り狼も混じっているけど
肉食コウモリも結構な数が
入っているらしかった。
ヒルダ様達は大丈夫かな、と思った時だ。
ごおぉっ、と言う山鳴りのような低い音が
聞こえてきて冷たい雪と風が舞った。
ダーヴィゼルドの騎士さん達がお互い
顔を見合わせ青くなっていて、
シェラさんもおっと、と言って馬を止めた。
「な、何ですか⁉︎」
何か大きな魔物でも出てくる予兆だろうか。
そう思って慌てたら、
「ヒルダ様が大掛かりな魔法を使ったようです。
恐らく予想以上に肉食コウモリなどの
細々した魔物の数が多かったのでしょう。
カイゼル殿がいる山ごとそこにいる魔物を
凍らせることにしたようですね。
それで運良くカイゼル殿を捕らえられるか
魔物の湧いて出てくる泉のようなものを
凍らせられれば儲け物ですが、さて・・」
「山ごと凍らせるんですか⁉︎」
ぎょっとして思わず目の前にある山を
見つめる。かなり大きな山だけど、
確かに今そこには暗雲が垂れ込めて
空気がどんどん冷えていっている。
ヒルダ様は大層な魔力持ちだと
シェラさんは言っていたけど、
まさかこんな大規模な事が出来るだなんて。
「大丈夫ですか?まさか魔力切れで
倒れたりしないですよね⁉︎」
心配になってそう聞けば、
「氷雪系魔法に限って言えば、
これぐらいならまだヒルダ様には
余裕があるはずです。
山が完全に凍りましたら、
徒歩にはなりますがオレ達も
後を追いますよ。」
邪魔な魔物はヒルダ様が始末して
くれているはずです。
そう言ったシェラさんは馬から降りると
野球のスパイクみたいなギザギザがついた
金具を靴底に装着し始めた。
凍った道でも転ばないようにする
滑り止め用のものだろう。
他の騎士さん達も同様だ。
ついでにシェラさんはまだ馬に跨ったままの
私の足を取ると、私のブーツにも子供用の
小さな金具を取り付けてくれた。
そしてひょいと私を縦抱っこで馬から降ろす。
「デレクは遠距離からカイゼル殿の足止めを。
オレはユーリ様を連れてカイゼル殿の
いる所を目指します。」
そう言って、これから踏み入ろうとしている
目の前の山道がピシピシと凍り始めたのを
シェラさんはじっと見つめている。
周りの騎士さんの中には体を暖めるためか、
お酒の入っている小瓶を開けて
ぐいと煽っている人達もいた。
気絶した時や消毒用に、この世界の
騎士さん達の中には度数の高いお酒を
持ち歩いている人もいるけど
これだけ寒ければ体を暖めるのにも
有効なようだった。
確かに山が凍り始めるのに比例して
周りの空気もどんどん冷えて来て、
底冷えのする寒さが足元から
立ち上って来ている。
「そろそろ行きますよ」
山道がある程度凍りきったのを見極めて、
そう言ったシェラさんは私を片手に
抱いたまま山の中へと足を踏み入れた。
ツルツル、というほどではないにしろ
それなりに凍っている道を
他の騎士さん達の案内の下、
どんどん山中へと入っていく。
どれくらい歩いただろうか。
前方からヒルダ様の声と剣の音が
聞こえてきた。
「やめろカイ‼︎フレイヤも心配している、
正気に戻って早く一緒に帰ろう‼︎」
そこには無数の砕けた氷と共に
ぼろぼろの上着で大きく剣を振るう
すらりとした体躯の男の人と、
その剣を受け止めて必死に
呼びかけているヒルダ様、
凍り狼の群れを相手にしている
バルドル様と数人の騎士さんがいた。
「・・・なぜ氷から復活を?
だから砕かなければいけないのか?」
シェラさんが独りごちた。
どういう意味かと思って見てみれば、
ヒルダ様の魔法で凍っているはずの
魔物は粉々に砕かれない限り、
ただ凍っている状態だとバリンと解凍しては
復活してヒルダ様達に襲いかかっていた。
その度に魔物はまた魔法で凍らされて
いるけれど、カイゼル様を説得しながら
魔物を相手にするヒルダ様が大変そうだ。
「どうしてですか?ヒルダ様の
魔法が効いていないって事ですか?」
「カイゼル殿はヒルダ様の魔法を
破って城を抜け出したそうですから、
ここにいる魔物もカイゼル殿の影響を受けて
ヒルダ様の魔法の効きが弱いのかも知れません。
ということは、ただ凍らせただけの
肉食コウモリはすぐにでも復活してまた
襲いかかってくる可能性がありますね。
早く始末をつけなければ。」
ヒルダ様達の周りには負傷した
騎士さん達が何人かいる。
その体は傷付き血が滲んでいる人もいた。
コウモリに血の匂いを嗅ぎつけられたら大変だ。
「私が治します!ケガをした人達を
出来るだけ1ヶ所に集められませんか⁉︎」
シェラさんの腕から飛び降りる。
ヒルダ様がカイゼル様の注意を
引きつけてくれている今のうちだ。
「お安いご用です。」
私の言葉にシェラさんは例の鞭を取り出すと、
瞬く間に私の側まで数人纏めて鞭で縛り上げ
放ってよこした。相変わらず華奢な
見た目を裏切る力持ちぶりだ。
あと、あの鞭って人間をスパンと
切り刻むだけじゃないんだ。
一瞬何をするのかと思ってあせってしまった。
王都の惨劇再び、かと思っちゃったよ。
私の側に突然放り投げられた人達は
一体何が起きたのかと呆気に取られている。
「すぐに治しますからね!」
言って、いそいで手をかざす。
この手をかざす範囲の人達のケガが
治りますように。
そう願えば、まとまって座る
騎士さん達の体が淡く金色に光って
ケガは綺麗さっぱり消えてしまった。
血の滲む跡も消えている。
これなら肉食コウモリもここには
集中して集まっては来ないはずだ。
あとはカイゼル様と、
例の魔物が湧いてくるという泉だ。
「ユーリ様、あれを。
カイゼル殿の後ろを見て下さい。」
凍っている魔物を鞭を振るい砕きながら、
シェラさんがそう言った。
ヒルダ様と剣を交わしている
カイゼル様の向こう側にうっすらと
濃い紫色の水溜まりみたいなものが見える。
「あれが・・・?」
1、2メートル四方のそれは
そんなに大きくもなく、ドロリとして
見える様子は泉というよりも沼のようだ。
紫色、という点ではシェラさんの
髪の色もそうなのに、
シェラさんの綺麗な紫色とは
似ても似つかない。
こちらの濃いドロリとした紫色は
見ているだけで落ち着かなくなる
嫌な胸騒ぎを覚える色だ。
そして見ているだけでなんだか
不安な気持ちになってくるそれは、
何かを連想させると思ったら
ヨナスの髪の色だった。
イリューディアさん達と話していた時に
突然現れたヨナスの、
ゆらりと揺れていたあの濃い紫色の
長髪を思い出させる。
「ヨナスの色だ・・・」
思わずそう言った私の呟きを
シェラさんは聞き逃さない。
「ではカイゼル殿はヨナス神も絡んだ
魔物の影響下にあるという事ですか。
通りでヒルダ様の魔法も効きが
悪いわけですね。想定していた中で
一番最悪な状況です。」
そう話している時に、突然数本の
青い光を纏った矢がカイゼル様に
向かって飛んで来た。
あっ、これはデレクさんの。
そう思って見てみれば、
正確にカイゼル様の両手両足を狙って
放たれたその矢はヒルダ様を剣で
弾き飛ばしたカイゼル様に
あっという間に叩き落とされた。
目にも見えない速さだ。
続けて二撃、三撃と追撃の矢が何本も
どこか遠くから矢継ぎ早に放たれたけど、
その度にその全てをカイゼル様は叩き落とした。
最後なんて、自分の両肩めがけて
飛んで来た矢を2本まとめて
素手で掴むとそのままへし折ってしまった。
その様子に、さすがのヒルダ様と
バルドル様も呆然としてしまっている。
当然だ。目の前に立つカイゼル様は
白い細面ですらりとしていて、
とてもそんな力があるようには見えない。
でも、上質なメープルシロップみたいに
濃い琥珀色の髪はボサボサだし
同色の瞳もどこか虚ろで、
素早い動きで矢をへし折った人とは
思えないアンバランスさが
いかにも操られています、って
感じで怖い。
矢をへし折った両手は傷付き
血が滲んでいるのに、
痛みを感じている様子も微塵もない。
「デレクの矢をあそこまで完璧に
捉えるのも、魔法付与されている矢を
素手で折ってしまうのも、
普通の人間ではあり得ませんね。
ヨナス神の加護でもついているんでしょうか?」
シェラさんが恐ろしい事を言った。
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鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
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