【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera

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第七章 ユーリと氷の女王

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到着したその日は結局、
カイゼル様が見つからないと
どうにもならないと言う事で
リオン様に到着の連絡をした後は
部屋に案内をされて終わった。

公爵城の侍女さん達に
私のサイズに合う夜着を
用意してもらっておとなしく
布団に潜り込む。

時間はもう深夜近かったけど、
まだお城の中も外も明々と灯りが
ともされている。
カイゼル様の捜索のためだ。
早く見つかって、
どうか無事でいて欲しい。

そう思っていたら城内のざわめきが
心地良く耳に響き、私はいつの間にか
眠りに落ちていた。

翌朝。瞼の裏にまぶしい朝の光を
感じて目が覚めた。
ここは奥の院の私の部屋と違って、
天蓋にカーテンがないから
とても明るく感じる。

もう少し寝ていたいなあ、と
寝返りを打った時だった。

「おはようございますユーリ様。
天気も良く、とても美しい朝ですよ。」

物腰丁寧な、聞き覚えのある声がした。
・・・まだ夢でも見ているのだろうか。

「ユーリ様、早く起きてオレに
その美しい瞳を見せて下さい。」

夢じゃなかった。思わず勢い良く
ベッドの上に起き上がってしまう。

「シェラさん⁉︎」

「はい、おはようございます。
ユーリ様が起きて一番最初に目にするのが
オレの姿だなんて、なんと光栄な事でしょう。」

目の前にはシェラさんが侍従よろしく
お盆に水差しを乗せて立っていた。

「まずはお顔を清めましょうね」

そう言うと、テーブルにお盆を置いて
一緒に置いてあったタオルを手に
優しく私の顔を拭い始めた。

熱過ぎず気持ちいい絶妙な温度のそれは
少しでも私の起床時間とずれれば
あっという間に冷めてしまって
いるだろう。
なのに、今起きた私に丁度いい温度って
どういうこと?
この人いつからこの部屋にいて
準備していたの?

まだまだ子どもらしく柔らかい
私の肌を傷付けないように
優しい手付きで顔を拭き終わると、
別の蒸しタオルを取り出して
今度は私の手を温めるように
拭うと指先から肘のあたりまで
簡単なマッサージまでされてしまった。

しかも、どちらのタオルも優しい
花の香りがする。アロマオイルで
香り付けでもしているのだろうか。

・・・いや、奥の院でもこんなに
されたことないんだけど?

「起き抜けは寝汗で水分不足ですからね。
さ、水分補給に湯冷ましをどうぞ。」

そう言って手渡されたコップも、
私の小さな手で持っても
ぴったりな大きさだ。
・・・いつの間にこんな私サイズの
コップまで準備したのだろうか。
昨日の夜まではこんなのなかったよ?

色んな疑問が湧きつつおとなしく
水を飲む私を見つめてシェラさんは
お世話できるのが嬉しくてたまらないと
いったような顔でニコニコしている。

「まだお疲れでしょうから、
朝食はこの部屋に運ばせます。
お水を飲んだら鏡台の前へどうぞ。
髪を整えます。今日も三つ編みにしますか?」

そこでやっと私は我に返った。

「いや、なんでここにシェラさんが⁉︎
私の部屋ですよ、ここ‼︎」

それを聞いたシェラさんが
不思議そうに小首を傾げた。
さらりと紫色の髪の毛が横に流れて、
金色の瞳をぱちぱちと瞬いているが
子どもっぽいその仕草すら色っぽい。

うう、朝から無駄に色気を垂れ流す
人だなあ。

「・・・ダーヴィゼルド滞在中の
ユーリ様の身の回りのお世話は
オレがすると昨日お話しましたよね?」

えっ、なんで決定事項⁉︎
あの時は確か、お世話しますよ?って
私に許可を得る流れだったはず。

で、その時ちょうどデレクさんが
現れてその話はうやむやになっていた。

昨日のことを思い出していたら、

「お断りできる機会はわりと
あったと思うのですが、
結局昨日はユーリ様が
お休みになるまで全くその話は
出ませんでしたので。」

元々オレは護衛のためにここにいますから、
朝のお世話をされても朝から護衛されていると
思ってもらえれば良いと思いますよ?
そう言って微笑んでいる。

「さすがにお着替えは手伝えませんので
それはこちらの侍女にまかせて、
その間にオレは朝食を整えております。
ユーリ様の侍女が王宮から到着するまでの
短い間ですが、よろしくお願いいたします。」

そう言うと、私が飲み終わったコップを
さっと取り上げてスリッパを並べた。

周りを見てもシェラさん以外誰もいない。
どうやらこちらで私の世話をする
侍女さん達にも根回し済みらしい。
どうあってもシェラさんに世話を
してもらう流れになってしまっている。

騎士さんなのに人の身の回りの世話とか。
しかも相手は国一番の精鋭部隊の隊長さんだ。
申し訳なさでいっぱいになる。

「シェラさんにこんな事させたなんて、
他の騎士さん達に知られたら大変ですね。」

諦めてため息をつきながらそう言えば、
シェラさんはぱちくりと瞳を瞬かせると
心底嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「それは『2人だけの秘密』と
言うことですね。承知いたしました。
誰にも言いませんよ。」

「え?あ、まあ、秘密って言えば
そうなるのかな?うん。そうですね、
内緒です!」

何がそんなに嬉しいのかは謎だけど、
こんな事させてるなんて他の人達に
バレたら大変な事になる気がする。

内緒です、と言った私の言葉になぜか
更にご機嫌になったシェラさんは
ベッドから降りた私の手を取り
鏡台へ座らせた。
いや、たかが数メートルの移動に
エスコートって。

しかも座った私の前に起き抜けの
温かい紅茶を一杯すっ、と置いた。
小さなクッキーも2枚添えられている。

髪をいじられている間はそれを
つまめるように、ということらしい。

重ねて言うが、奥の院では
こんな風にされたことはない。
髪を整えてもらう間は普通に座って、
せいぜいマリーさんとおしゃべりを
楽しむくらいだ。

それに今気付いたけどティーカップの
持ち手が左を向いている。
私は右利きだけど、コップやティーカップを
持つ時は何故か左手を使うクセがある。

さっき水の入ったコップを渡してくれた時
シェラさんは私の右側に立っていて、
右手にコップを渡してくれたのを
私は左手に持ち替えて飲んでいた。

どうやらシェラさんはたった一度の
その仕草を見ていて、
今度は私が持ちやすいように
ティーカップの持ち手が
左にくるように置いてくれたようだった。

シェラさんは一体どんな人に仕えて
身の回りの世話をしてたんだろう。
観察眼と気遣いの仕方が尋常じゃない。

「さあ、それではいかがいたしましょう。
何かご希望はございますか?」

私の髪に丁寧に櫛を入れながら
そう聞かれた。

「今日はあちこち動き回りそうですか?
だったら、また三つ編みみたいに
動きやすい髪型がいいです。」

「カイゼル殿はまだ見つからないので、
ユーリ様がこの城から出ることは
今日はなさそうですね。
朝食後はヒルダ様が面会を望まれて
おりますので、改まった場に出ても
良いように、かわいらしいよりは
綺麗めな髪型にしましょうか。」

話しながらもシェラさんの手は
器用に動いている。
TPOに合わせた髪型まで
考えてくれるなんて
本当の侍女さんのようで、
まるでシンシアさんと
話しているみたいだ。

そうして出来上がった私の髪型は、
基本ハーフアップなんだけど
横から集めてきた毛束を4つに分けて
複雑な編み込みと三つ編みにすると、
くるりと円形の花の形に整えたものを
4個作って私の後ろ頭にピン留めしてある。
それはまるで黒薔薇の髪留めが頭の後ろに
並んでいるようだった。

「横髪はすっきりとまとまった上に
美しい薔薇の花を飾ったように見え、
後ろ髪はそのまま流してありますから
ユーリ様の艶やかな黒髪も堪能できます。」

わざわざ説明してくれたシェラさんは
その出来栄えに満足そうだ。
手の込みようがすごい。
このまま夜会にでも出られそうな
出来に鏡を前にぽかんとして
見つめてしまった。

「いや、すごいですねぇ・・・。
こんなに綺麗にしてくれて
ありがとうございます。」

感心して、思わずそう言ったら
私の後ろに立っているシェラさんが
胸に片手を当てて微笑んでいるのが
鏡越しに見えた。
かしこまった侍従のようなその仕草で
そのまま綺麗にお辞儀をする。

「お褒めの言葉、ありがとうございます。
人様の髪を本格的に整えるのは久々でしたが、
案外忘れていないものですね。
明日はまた別の髪型をお作りしますよ。」

さ、それではお着替えを。
そう言って他の部屋にいた侍女さん達を
呼んでシェラさんは朝食の準備のために
寝室を後にした。シェラさんがいなくなり、
私はもう一度鏡を見る。本当に素敵な髪型だ。
本人の前であれ以上褒めるとまた謎の
暴走をしそうだから口には出さないけど、
かなり気に入った。今度マリーさんに
お願いをして同じような髪型を作ってもらおう。

騎士としても凄腕なのに髪結いの技術もあり
侍従さんばりに気の効いた仕事もできる、
謎のハイスペックさを持っているのに
唯一の欠点は癒し子原理主義者・・・。
なんというか、残念な人だ。

そんな残念なシェラさんだけど、
癒し子に対する謎の賞賛が絡まなければ
その残念さも厄介さも影を潜める。

朝食の席でも完璧な給仕を務めてみせて、
朝食後はダーヴィゼルド領に多く見られる
魔物の種類を教えてくれたりと、
私の魔物学?の先生までしてくれた。

「そもそも、魔物祓いって私は一体
何をすればいいんでしょうね?」

癒しや豊穣の力はさんざん使ってきたけれど
魔物祓いはしたことがない。
騎士団かシグウェルさんにでも頼んで
擬似魔物で練習するべきだった。
そう思いながら聞けば、シェラさんも
ふうん?と考え込んだ。

「一般的には結界石を土地に打ち込んで
魔物が近付けないようにしたり
魔物に魔法攻撃や物理攻撃をして
消滅させたりするものですが、
今回は魔物が湧き出る泉の浄化のようです。
オレの浄化魔法は対象物全てを綺麗さっぱり
この世から消してしまいますが、
ユーリ様に求められているのもやはり
泉そのものの浄化ではないですか?」

なるほど。泉を消し去れば魔物は出て来ない。

何かを与える豊穣の力や癒しの力は
その対象物を『どうしたいのか』、
出来るだけ具体的なイメージが必要だ。
具体的なほど効きがいい気がする。

でも何かを消し去る浄化は、
ちょっと力押しだけど
ただ対象物が『消える』ことを
イメージするだけでいいらしい。
それならシンプルで分かりやすいぞ。

「ただし泉を浄化しようとしても、
そこを守ろうとする魔物が
近くをうろついている事が多いので
注意が必要です。彼らは彼らで
自分達の生みの親のような存在を
守ろうと本能的に思っているのでしょう。
ハチの巣とそれを守る働きバチの
ようなものだとお思い下さい。」

泉の周囲に出る魔物の一つ一つは
魔力も小さく大したことはないけど、
数が多くなると厄介。
放っておくと泉は大きくなり、
より強力な魔物を生み出す。

そう説明された。
だからそこに行く時はシェラさんや
ダーヴィゼルドの騎士団、魔導士さんが
同行してくれて、彼らが魔物の相手を
しているうちに私が魔物祓い、もとい
泉の浄化をするらしい。

責任重大だ。話を聞いて身が引き締まる
思いだった。




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