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第七章 ユーリと氷の女王
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結局新しい密着した座り方でリオン様に
また朝食をたべさせられ、私の精神力が
ごりごりに削られた後のことだ。
食後の紅茶はせめて自分の席で、と
やっとリオン様の膝から脱出して
一人で座っているところに王宮から
魔導士さんがやってきた。
良かった、リオン様の膝の間に
いるところを見られなくて。
「わざわざこちらまで訪ねて来るのは
珍しいね、何かあった?」
リオン様がそう問えば、魔導士さんは
緊張の面持ちで封筒を一つ差し出した。
「さきほどこちらが北方守護伯の
ダーヴィゼルド家常駐の魔導士より
転送されてまいりました。」
その黒い封筒を見てリオン様の顔が曇る。
レジナスさんも心なしか表情が硬い。
「黒に赤の封蝋か・・・」
それを聞いてあ、と思う。
前にルルーさんに教えてもらったけど、
この国では書類の重要度によって
紙が色分けされている。
至急の案件が赤で、
そこまで急ぎじゃないものはピンク、
その次が黄色だったかな。
信号機みたいな色分けで
便利で覚えやすかったから
面白くて覚えている。
そして黒は至急よりももっと上、
緊急事態とかで滅多に使われないって
言っていた気がする。
それに重ねて至急を意味する赤色の
封蝋を使うなんて、よっぽど早く
見てもらいたいのだろう。
「何があったんだろう」
封を切って中身を確かめたリオン様は、
難しい顔をして手紙を読み終えると
シェラさんを呼んでくるように
侍従さんに命じていた。
「北方守護伯の管轄地で魔物が出て、
ダーヴィゼルド公爵の夫がケガを
したためどうしてもユーリに
来て欲しいそうだよ。」
リオン様が難しい顔をしたまま、
そう私に教えてくれた。
「公爵様の・・・夫?」
「そう。今の北方守護伯は女公爵で、
ヒルデガルド・ダーヴィゼルドと
言うんだ。とても優秀で立派な人だよ」
女公爵。なんだかカッコいい響きだ。
でも旦那さまのケガを治すだけで
どうしてそんなに急いで手紙を?
よっぽど具合が悪いのかな。
そう思っていたのは私だけでは
なかったようで、護衛中なのに
珍しくレジナスさんが声を上げた。
「夫が魔物にケガを負わされただけで
あの公爵がわざわざ癒し子に
来て欲しいなどと緊急の要請を
するとは思えません。
他に何が書いてありましたか?」
「魔物そのものは倒したけど、
魔物が湧いて出てくる場所を
見つけたからそこをユーリに
浄化して欲しいそうだ。
それから、ケガを負った夫君が
まるで人が変わったように
なってしまって並の魔導士の
治療では手に負えないらしい。
だからユーリの手を借りたいという
嘆願書だよ。」
「魔物祓いですか?」
レジナスさんの顔色が変わった。
辺境での魔物祓いはまだ経験がない。
そんな私を案じたのだろう。
リオン様も難しい顔のまま頷いた。
「正確には魔物の発生場所の
浄化だけど、そこに辿り着くまでに
魔物に遭遇しないとも限らないからね。
今までの経験上、そんな場所には
決まってそこを守るように
魔物がうろついていたし。」
リオン様はそう言って、心配そうに
私を見た。
「とりあえずすぐに公爵と連絡を
取って本当にユーリが必要か話し合う。
その前に、先日まで演習でそこに
滞在していたシェラにも話を聞くよ」
キリウ小隊がついこの間まで演習で
行っていたのはどうやらその
ダーヴィゼルド公爵の領地らしい。
シェラさんはリオン様の呼び出しに
応じてすぐにやって来た。
リオン様の隣に座る私を見た
シェラさんは、つい先日
会ったばかりの私が少しばかり
大きくなっているのに
気が付くと目を丸くして、
食い入るようにこちらを見つめていた。
そんなシェラさんに、リオン様は
咳払いをして注意を向けさせる。
「ユーリの容姿については君も
言いたいことがあると思うけど、
とりあえず緊急の用件を先に。
まずは僕の用を済ませてからだ。」
その言葉に、今まさに私に歩み寄って
何か言おうとしていたシェラさんが
口を閉じた。
多分またオレの女神とか何とか
言い出しそうとしてた。
恥ずかしいからやめて欲しい。
リオン様からかいつまんで事情を
聞いたシェラさんは考えながら
話し出した。
「先日までの北方演習では魔物討伐の
指導がてら山の中にも入りましたが、
さして手強い魔物がいた訳でもなく
その数が多かったわけでもないですね。
魔物が発生しそうな魔力がいびつに
集まっている場所もありませんでした。
あと考えられるとすれば、
先の窃盗団の件のようにヨナス神の
影響を受けた突然変異の魔物が運悪く
オレ達の演習後に現れて、夫君は
それに襲われたか・・・」
つまりはシェラさんにも全く心当たりが
ないということだった。
「いずれにせよ、あの誇り高い
ヒルダ様が援助を要請されるなど
余程のことです。
あの氷の女王の手に負えないのであれば
癒し子であるユーリ様のお力を
必要とされるのも理解できますね。」
氷の女王。ファンタジックな心惹かれる
単語がシェラさんの口から出た。
気になるけどまだ大事な話の途中だから
聞くのは後にしよう。
そう思っていたら、また気になることを
シェラさんとリオン様は話していた。
「ちなみに、夫君が負傷されたと
言うことですがそれはどちらの?」
「第一夫君のカイゼル殿だそうだよ」
「ああ、なるほど。まさか騎士団長の
第二夫君、バルドル殿が魔物に遅れを
取るとは思いませんでしたが
カイゼル殿でしたら納得です。
あの方はお優しい方ですから、
誰かを庇って負傷されたのかも
知れませんね。ヒルダ様のご心痛も
いかばかりのものでしょう。」
・・・第一夫君と第二夫君?
んんっ?つまり、北の女公爵様には
旦那様が2人いるってこと?
そんなのアリなんだ⁉︎
そういえばリオン様のお父様の
国王陛下には側室が何人かいるって
ルルーさんに聞いた気もするけど、
でも「夫君」って夫だよね。
いわゆる側室とは何が違うんだろう。
現代日本では考えたこともない、
異世界結婚事情に単純に好奇心を
そそられて深刻な話そっちのけで
気になった。
この世界は一夫一妻制で、
王族とか偉い人だけが江戸時代の
将軍のように側室がいるんだと
何となく思い込んでいた。
もしかして違うのかな。
アラブの石油王的なイメージになるけど
身分が高ければ女の人でも
ハーレムを持てるみたいな?
何だっけ、昔のロシアの女帝でも
男の人を侍らせている人がいたような。
うわあ、気になる。
でも深刻な話の途中だから
こんなどうでもいい話を
今聞くのも・・・と思っていたら、
よっぽど私はそわそわしていたらしい。
リオン様に様子がおかしいと
思われたようで心配された。
「ユーリ、どうかした?
何か気になることでもあった?」
「あ、いえ、あの、北の公爵様は
女の人なのに旦那様が2人も
いるんですか?それは側室とも
違うんですよね?すみません、
大事な話の途中なのにこんな事・・・」
くだらないことを考えていてごめん。
申し訳ないと思ったけど、リオン様に
妙な心配をかけるわけには
いかないので思い切って聞いてみた。
そうしたらリオン様に何故か一瞬
妙な間があった。
自分の後ろに立つレジナスさんと
顔を見合わせて、何かを考えるような
素振りをした後に私にニコリと微笑む。
「そうだね、もしユーリが要請に応えて
北方へ行くことになった時に
驚くといけないから先に知っておいて
もらった方がいいね。」
そう言って教えてくれた。
「この国では身分のある者や
優れた能力を持つ者はその血筋を
なるべく残すために複数の配偶者を
持てるんだよ。
ただ、正式な配偶者以外に側室まで
持つのは王族ぐらいなものかな。
だから北方伯に側室はなく、どちらも
正式な夫なんだ。
先に夫になったのは摂政役の
カイゼル殿だから彼が第一夫君。
次に夫になったのは北方守護の要の
騎士団、その団長のバルドル殿だから
彼は第二夫君になる。」
「政務と軍部、両方をバランス良く
治めるには理想的な娶り方だと
良く言われていますね。
オレから見れば、そんな政治的な
思惑は関係なく御三方とも
大変仲睦まじいご様子でそれが
とても美しいと思いましたが。」
シェラさんはその様子を思い出したのか
ふわりと微笑んだ。
はあ・・・3人仲良くかぁ。
そんなことあるんだ。
いまいちピンとこないでいる私に
不思議そうにリオン様が続けた。
「あれ?王族でなく、異世界からの
召喚者だけど勇者様も2人の正妃と
5人の側室を受け入れたから、
ユーリの世界でもこういう婚姻の仕方は
そんなに珍しくもないんでしょ?」
「ええっ⁉︎」
爆弾発言である。初めて知った。
何してるの勇者様!
異世界でハーレム作っちゃったのか。
「元の世界だと、他の国は旦那さんが
1人に奥さんが複数っていうところも
ありましたけど、私の住んでいた所は
一夫一妻制でした!」
「そうなの?」
なぜか少しだけがっかりしたような顔を
したリオン様だったけど、なぜだろう。
それにしても女公爵様は元々
この世界の人だから正式な旦那様が
複数いたとしてもまあ分かる。
でも勇者様は私と同じ日本人でしょ⁉︎
百歩譲って正式な奥さんが1人に
側室が6人って言うならまだ分かる。
それでも人数多いな、とは思うけど。
でも正妃が2人ってなんだ。
倫理観どうなってるの?
場合に寄ってはもし同じ時代に
生きていたなら小一時間ほど
問い詰めたいところだ。
そう思ってリオン様にそれは一体
どういう事なのかと聞いてみた。
「勇者様の正妃は2人ともこの
ルーシャ国の王女で双子だったんだよ。
1人は王位を継いで女王になる
予定だった王女様で、もう1人は
イリューディア神殿の姫巫女。
仲の良い双子で好みも似ていたのか、
勇者様のことを2人ともとても
慕っていたために、勇者様を押し切って
両方とも正妃になったなんて
今に伝わっているけど本当のところは
分からないんだよね。」
・・・押し切られたのか勇者様。
さすが、ノーと言えない日本人。
そんなんだからもしかして
側室含めて7人になっちゃったのかな。
それなら勇者様の倫理観は
あまり責められない。
勇者様厨二病疑惑に続いて勇者様
女好き疑惑を勝手に作り上げて、
私の中で見知らぬ召喚仲間の
勇者様の株がどんどん
下がるところだった。
ごめん勇者様。
「だからね、ユーリ。」
リオン様が私に言い含めるように続けた。
「ユーリの住む世界では違ったかも
知れないけど、この世界では配偶者が
何人かいてもそれは自然なことなんだ。
むしろ、勇者様のように特別な力を
持つ者や身分の高いものほど
複数の配偶者を娶るのが良しと
されているところがある。
それだけは分かって欲しいな。」
なるほど、だから北の女公爵様と
会うことになっても旦那様が
2人もいるからって驚いたり
不審な態度を取ったりしないで
欲しいっていうことですね。
そう理解してふんふんと頷いていたら、
そんな私をリオン様とレジナスさんは
なんだか物言いたげな表情で見ていた。
ん?何か間違ってる?
「それがこの世界って言うか、
この国の常識なんですよね。
旦那様や奥様を複数持つ人がいても
当たり前ってことですか?
まだよく分からないけど、
理解できるように頑張ります!」
まだまだこの世界の風習は
知らないことが多い。
もっと勉強しなければ。
そう思って言ったらリオン様が
嬉しそうに笑って私の手を握った。
「ユーリがこちらの世界の考え方を
受け入れてくれたらとても嬉しいな。
僕もレジナスも、ユーリとはずっと
仲良くしていきたいからね。」
考え方や見解の相違で争うのは
嫌だってことね。
優しいリオン様らしいなあ。
私はそう解釈して、リオン様と
レジナスさんの2人に
わかりました!と笑顔で頷いたら
リオン様の私の手を握る力が
少し強まったような気がした。
レジナスさんはなぜか私から
顔を逸らして俯いてしまい、
その時に一瞬だけ見えた目元は
うっすらと赤かったような。
気恥ずかしかったのかも知れない。
そういえばこの人は私のことが
好きなんだった。
さては何か想像したな?
そう思えばこちらもなんだか
都合が悪くなったけど、
レジナスさんは自分の気持ちを
私に知られてないと思っているから
私も努めて素知らぬふりを
するだけだった。
また朝食をたべさせられ、私の精神力が
ごりごりに削られた後のことだ。
食後の紅茶はせめて自分の席で、と
やっとリオン様の膝から脱出して
一人で座っているところに王宮から
魔導士さんがやってきた。
良かった、リオン様の膝の間に
いるところを見られなくて。
「わざわざこちらまで訪ねて来るのは
珍しいね、何かあった?」
リオン様がそう問えば、魔導士さんは
緊張の面持ちで封筒を一つ差し出した。
「さきほどこちらが北方守護伯の
ダーヴィゼルド家常駐の魔導士より
転送されてまいりました。」
その黒い封筒を見てリオン様の顔が曇る。
レジナスさんも心なしか表情が硬い。
「黒に赤の封蝋か・・・」
それを聞いてあ、と思う。
前にルルーさんに教えてもらったけど、
この国では書類の重要度によって
紙が色分けされている。
至急の案件が赤で、
そこまで急ぎじゃないものはピンク、
その次が黄色だったかな。
信号機みたいな色分けで
便利で覚えやすかったから
面白くて覚えている。
そして黒は至急よりももっと上、
緊急事態とかで滅多に使われないって
言っていた気がする。
それに重ねて至急を意味する赤色の
封蝋を使うなんて、よっぽど早く
見てもらいたいのだろう。
「何があったんだろう」
封を切って中身を確かめたリオン様は、
難しい顔をして手紙を読み終えると
シェラさんを呼んでくるように
侍従さんに命じていた。
「北方守護伯の管轄地で魔物が出て、
ダーヴィゼルド公爵の夫がケガを
したためどうしてもユーリに
来て欲しいそうだよ。」
リオン様が難しい顔をしたまま、
そう私に教えてくれた。
「公爵様の・・・夫?」
「そう。今の北方守護伯は女公爵で、
ヒルデガルド・ダーヴィゼルドと
言うんだ。とても優秀で立派な人だよ」
女公爵。なんだかカッコいい響きだ。
でも旦那さまのケガを治すだけで
どうしてそんなに急いで手紙を?
よっぽど具合が悪いのかな。
そう思っていたのは私だけでは
なかったようで、護衛中なのに
珍しくレジナスさんが声を上げた。
「夫が魔物にケガを負わされただけで
あの公爵がわざわざ癒し子に
来て欲しいなどと緊急の要請を
するとは思えません。
他に何が書いてありましたか?」
「魔物そのものは倒したけど、
魔物が湧いて出てくる場所を
見つけたからそこをユーリに
浄化して欲しいそうだ。
それから、ケガを負った夫君が
まるで人が変わったように
なってしまって並の魔導士の
治療では手に負えないらしい。
だからユーリの手を借りたいという
嘆願書だよ。」
「魔物祓いですか?」
レジナスさんの顔色が変わった。
辺境での魔物祓いはまだ経験がない。
そんな私を案じたのだろう。
リオン様も難しい顔のまま頷いた。
「正確には魔物の発生場所の
浄化だけど、そこに辿り着くまでに
魔物に遭遇しないとも限らないからね。
今までの経験上、そんな場所には
決まってそこを守るように
魔物がうろついていたし。」
リオン様はそう言って、心配そうに
私を見た。
「とりあえずすぐに公爵と連絡を
取って本当にユーリが必要か話し合う。
その前に、先日まで演習でそこに
滞在していたシェラにも話を聞くよ」
キリウ小隊がついこの間まで演習で
行っていたのはどうやらその
ダーヴィゼルド公爵の領地らしい。
シェラさんはリオン様の呼び出しに
応じてすぐにやって来た。
リオン様の隣に座る私を見た
シェラさんは、つい先日
会ったばかりの私が少しばかり
大きくなっているのに
気が付くと目を丸くして、
食い入るようにこちらを見つめていた。
そんなシェラさんに、リオン様は
咳払いをして注意を向けさせる。
「ユーリの容姿については君も
言いたいことがあると思うけど、
とりあえず緊急の用件を先に。
まずは僕の用を済ませてからだ。」
その言葉に、今まさに私に歩み寄って
何か言おうとしていたシェラさんが
口を閉じた。
多分またオレの女神とか何とか
言い出しそうとしてた。
恥ずかしいからやめて欲しい。
リオン様からかいつまんで事情を
聞いたシェラさんは考えながら
話し出した。
「先日までの北方演習では魔物討伐の
指導がてら山の中にも入りましたが、
さして手強い魔物がいた訳でもなく
その数が多かったわけでもないですね。
魔物が発生しそうな魔力がいびつに
集まっている場所もありませんでした。
あと考えられるとすれば、
先の窃盗団の件のようにヨナス神の
影響を受けた突然変異の魔物が運悪く
オレ達の演習後に現れて、夫君は
それに襲われたか・・・」
つまりはシェラさんにも全く心当たりが
ないということだった。
「いずれにせよ、あの誇り高い
ヒルダ様が援助を要請されるなど
余程のことです。
あの氷の女王の手に負えないのであれば
癒し子であるユーリ様のお力を
必要とされるのも理解できますね。」
氷の女王。ファンタジックな心惹かれる
単語がシェラさんの口から出た。
気になるけどまだ大事な話の途中だから
聞くのは後にしよう。
そう思っていたら、また気になることを
シェラさんとリオン様は話していた。
「ちなみに、夫君が負傷されたと
言うことですがそれはどちらの?」
「第一夫君のカイゼル殿だそうだよ」
「ああ、なるほど。まさか騎士団長の
第二夫君、バルドル殿が魔物に遅れを
取るとは思いませんでしたが
カイゼル殿でしたら納得です。
あの方はお優しい方ですから、
誰かを庇って負傷されたのかも
知れませんね。ヒルダ様のご心痛も
いかばかりのものでしょう。」
・・・第一夫君と第二夫君?
んんっ?つまり、北の女公爵様には
旦那様が2人いるってこと?
そんなのアリなんだ⁉︎
そういえばリオン様のお父様の
国王陛下には側室が何人かいるって
ルルーさんに聞いた気もするけど、
でも「夫君」って夫だよね。
いわゆる側室とは何が違うんだろう。
現代日本では考えたこともない、
異世界結婚事情に単純に好奇心を
そそられて深刻な話そっちのけで
気になった。
この世界は一夫一妻制で、
王族とか偉い人だけが江戸時代の
将軍のように側室がいるんだと
何となく思い込んでいた。
もしかして違うのかな。
アラブの石油王的なイメージになるけど
身分が高ければ女の人でも
ハーレムを持てるみたいな?
何だっけ、昔のロシアの女帝でも
男の人を侍らせている人がいたような。
うわあ、気になる。
でも深刻な話の途中だから
こんなどうでもいい話を
今聞くのも・・・と思っていたら、
よっぽど私はそわそわしていたらしい。
リオン様に様子がおかしいと
思われたようで心配された。
「ユーリ、どうかした?
何か気になることでもあった?」
「あ、いえ、あの、北の公爵様は
女の人なのに旦那様が2人も
いるんですか?それは側室とも
違うんですよね?すみません、
大事な話の途中なのにこんな事・・・」
くだらないことを考えていてごめん。
申し訳ないと思ったけど、リオン様に
妙な心配をかけるわけには
いかないので思い切って聞いてみた。
そうしたらリオン様に何故か一瞬
妙な間があった。
自分の後ろに立つレジナスさんと
顔を見合わせて、何かを考えるような
素振りをした後に私にニコリと微笑む。
「そうだね、もしユーリが要請に応えて
北方へ行くことになった時に
驚くといけないから先に知っておいて
もらった方がいいね。」
そう言って教えてくれた。
「この国では身分のある者や
優れた能力を持つ者はその血筋を
なるべく残すために複数の配偶者を
持てるんだよ。
ただ、正式な配偶者以外に側室まで
持つのは王族ぐらいなものかな。
だから北方伯に側室はなく、どちらも
正式な夫なんだ。
先に夫になったのは摂政役の
カイゼル殿だから彼が第一夫君。
次に夫になったのは北方守護の要の
騎士団、その団長のバルドル殿だから
彼は第二夫君になる。」
「政務と軍部、両方をバランス良く
治めるには理想的な娶り方だと
良く言われていますね。
オレから見れば、そんな政治的な
思惑は関係なく御三方とも
大変仲睦まじいご様子でそれが
とても美しいと思いましたが。」
シェラさんはその様子を思い出したのか
ふわりと微笑んだ。
はあ・・・3人仲良くかぁ。
そんなことあるんだ。
いまいちピンとこないでいる私に
不思議そうにリオン様が続けた。
「あれ?王族でなく、異世界からの
召喚者だけど勇者様も2人の正妃と
5人の側室を受け入れたから、
ユーリの世界でもこういう婚姻の仕方は
そんなに珍しくもないんでしょ?」
「ええっ⁉︎」
爆弾発言である。初めて知った。
何してるの勇者様!
異世界でハーレム作っちゃったのか。
「元の世界だと、他の国は旦那さんが
1人に奥さんが複数っていうところも
ありましたけど、私の住んでいた所は
一夫一妻制でした!」
「そうなの?」
なぜか少しだけがっかりしたような顔を
したリオン様だったけど、なぜだろう。
それにしても女公爵様は元々
この世界の人だから正式な旦那様が
複数いたとしてもまあ分かる。
でも勇者様は私と同じ日本人でしょ⁉︎
百歩譲って正式な奥さんが1人に
側室が6人って言うならまだ分かる。
それでも人数多いな、とは思うけど。
でも正妃が2人ってなんだ。
倫理観どうなってるの?
場合に寄ってはもし同じ時代に
生きていたなら小一時間ほど
問い詰めたいところだ。
そう思ってリオン様にそれは一体
どういう事なのかと聞いてみた。
「勇者様の正妃は2人ともこの
ルーシャ国の王女で双子だったんだよ。
1人は王位を継いで女王になる
予定だった王女様で、もう1人は
イリューディア神殿の姫巫女。
仲の良い双子で好みも似ていたのか、
勇者様のことを2人ともとても
慕っていたために、勇者様を押し切って
両方とも正妃になったなんて
今に伝わっているけど本当のところは
分からないんだよね。」
・・・押し切られたのか勇者様。
さすが、ノーと言えない日本人。
そんなんだからもしかして
側室含めて7人になっちゃったのかな。
それなら勇者様の倫理観は
あまり責められない。
勇者様厨二病疑惑に続いて勇者様
女好き疑惑を勝手に作り上げて、
私の中で見知らぬ召喚仲間の
勇者様の株がどんどん
下がるところだった。
ごめん勇者様。
「だからね、ユーリ。」
リオン様が私に言い含めるように続けた。
「ユーリの住む世界では違ったかも
知れないけど、この世界では配偶者が
何人かいてもそれは自然なことなんだ。
むしろ、勇者様のように特別な力を
持つ者や身分の高いものほど
複数の配偶者を娶るのが良しと
されているところがある。
それだけは分かって欲しいな。」
なるほど、だから北の女公爵様と
会うことになっても旦那様が
2人もいるからって驚いたり
不審な態度を取ったりしないで
欲しいっていうことですね。
そう理解してふんふんと頷いていたら、
そんな私をリオン様とレジナスさんは
なんだか物言いたげな表情で見ていた。
ん?何か間違ってる?
「それがこの世界って言うか、
この国の常識なんですよね。
旦那様や奥様を複数持つ人がいても
当たり前ってことですか?
まだよく分からないけど、
理解できるように頑張ります!」
まだまだこの世界の風習は
知らないことが多い。
もっと勉強しなければ。
そう思って言ったらリオン様が
嬉しそうに笑って私の手を握った。
「ユーリがこちらの世界の考え方を
受け入れてくれたらとても嬉しいな。
僕もレジナスも、ユーリとはずっと
仲良くしていきたいからね。」
考え方や見解の相違で争うのは
嫌だってことね。
優しいリオン様らしいなあ。
私はそう解釈して、リオン様と
レジナスさんの2人に
わかりました!と笑顔で頷いたら
リオン様の私の手を握る力が
少し強まったような気がした。
レジナスさんはなぜか私から
顔を逸らして俯いてしまい、
その時に一瞬だけ見えた目元は
うっすらと赤かったような。
気恥ずかしかったのかも知れない。
そういえばこの人は私のことが
好きなんだった。
さては何か想像したな?
そう思えばこちらもなんだか
都合が悪くなったけど、
レジナスさんは自分の気持ちを
私に知られてないと思っているから
私も努めて素知らぬふりを
するだけだった。
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その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
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