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第六章 一日一夜物語
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ー・・・おなかがすいた。
ぱかりと目を開けて
真っ先に思ったのはそれだった。
あの街中で癒しの力を使って
睡魔に襲われてから、
一体私はどれくらいの間
眠っていたのだろうか。
暗闇の中でパチパチと目を瞬く。
そうするとやがて暗さに目が慣れてきて
周りの様子が見えてきた。
むくりとベッドの上に起き上がる。
あ。ここ、奥の院の私の部屋だ。
いつも寝る時には閉められている
ベッドの天蓋に付いている
薄いカーテンは開けられたままで、
窓に目を向ければ外はまだ暗い。
真夜中?いや、夜明け前なのかな。
あれからどれくらい眠ったんだろう?
そう思っていたら、くうとお腹が鳴った。
そういえばあの人攫いのおじさんと
一緒に走ったり逃げようと暴れたり、
挙げ句の果てには癒しの力まで
使ったんだった。
お腹がすかないわけがない。
よいしょとベッドから降り立って、
いつもと部屋の中の雰囲気が
違うことに気付く。
ん?なんか歩きづらいぞ、
この部屋こんなに物が多かったっけ?
街歩きで買ったものは騎士さんに
お願いして王宮に先に
持ち帰ってもらっていたけど、
こんなにたくさん箱ものを
買った記憶はない。
そういえばなんだか部屋に
飾ってあるお花も多いような?
誰か庭師さんにお花を分けて
もらってきたのかな。
積み上げてある箱や
たくさんの花瓶を避けながら
部屋の真ん中のテーブルへと
足を運んだ。
その上には、お腹がすいたらいつでも
つまめるようにとノイエ領から
持ち帰って来た、豊穣の力を初めて
試してみたあの小さなパン籠が
置いてあるのだ。
そのテーブルの上にも異変があった。
いつもならそのパン籠が一つ
置いてあるだけなのに、
テーブルの上にはその他にも
たくさんの焼き菓子や果物が置いてある。
私が起きたらお腹がすいてると思って、
こんなに用意しておいてくれたのかな?
どれを食べようか迷うくらいある。
本当に食べてもいいのかどうか、
やっぱり誰かに聞いてからにしようと
私はそれに手を付けず、
パン籠の中から大きなクッキーを一枚
手にしてテーブルへついた。
お茶はさすがにないので、
飲み物は水だけだ。
ちらりともう一度、外を見やれば
うっすらと明るくなってきたようだ。
夜明けだ。
やっぱり私は一晩ぐっすり眠ってたんだ。
あの後、街はどうなったんだろう。
マリーさん達も無事に王宮へと
戻れたんだろうか。
シェラザードさんは大丈夫って
言ってたけど、顔を見て安心したい。
早く誰か起きてこないかな、
そうしたら色々聞けるのに。
そう思いながらクッキーを食べていたら
部屋の扉が突然開いた。
明かりを片手に、シンシアさんが
驚いたように私を見ている。
起き抜けでいきなりお菓子を
食べている私に呆れたかな?
そう思いながらも、
とりあえず朝の挨拶をした。
「あっ、おはようございます!
あの、これはですね、起きたら
すごくお腹がすいちゃっててそれで」
会うなり言い訳し始めた私に、
シンシアさんはツカツカ歩み寄ると
がばっと抱き締めて来た。
いつも冷静な彼女にしては珍しい。
「シ、シンシアさん⁉︎」
「良かった‼︎物音がするから何事かと
思いましたが、ユーリ様がお目覚めに
なって本当に良かったです‼︎」
そう言って、パッと離れると
シンシアさんは改めて私の体を
確かめている。
「どこか痛いとか、気持ち悪いところは
ございませんか?めまいは?」
「だ、大丈夫ですよ、すごく元気です!
歩いてもなんともないし、
ただお腹がすいているだけです‼︎」
そう。前回の魔力切れの時は
歩けるくらいになっても、
何だか少し疲れが残っていて
結局完全に回復するまで1週間は
かかったように思う。
だけど今回は起きた瞬間から
元気いっぱいだ。
もしかすると先日シグウェルさんに
スパルタ教育の如くたくさんの瓶に
豊穣の力を使わせられた事も
関係しているのかも知れない。
力加減はうまくいかないけど、
力を使うこと自体には私の体が
慣れ始めているのかも。
「一晩眠ったら元気いっぱいですよ!
それよりも、マリーさんや騎士さん達は
大丈夫でしたか⁉︎」
私なんかより、そっちの方が気になる。
何しろあの混乱の中で別れたきりだ。
心配をかけてしまっているだろう。
「みんな無事です。キリウ小隊の方と
一緒に戻ってきておりますよ。
それよりユーリ様、一つ訂正させて
ください。ユーリ様がお休みされて
いたのは一晩ではありません。
丸3日間、ユーリ様は眠り続けて
おられたんですよ。」
え?3日間?よく寝たどころの話ではない。
「そんなに⁉︎」
「はい。昨夜まではマリーも心配して
ずっと側に付いておりましたが、
それではあの子まで倒れてしまいます。
ですのでちょうど私が交代で
お世話に入ったところでした。」
夜が明けたらすぐにリオン殿下にも
お知らせ致しますね、
たいそう心配しておいででしたよ。
そう言われて真っ青になる。
3日の間も眠り続けていたなんて、
どれだけ心配をかけただろうか。
「す、すぐに謝らないと・・・!」
「謝るだなんて。むしろ笑顔で
いつものようにご挨拶なさって下さい、
その方が殿下も安心なさいます。
今温かいミルクを用意致しますから、
しばしお待ち下さいね。
それから、お召し物を変えましたら
またベッドの中で大人しくして下さい」
私がすっかりいつもの様子なのに
安心したシンシアさんは、
話しながらもてきぱきと私を
着替えさせた。
ついでに気になっていたことを聞く。
「あの、シンシアさん。この部屋って
こんなに物が多かったですか?
お花もなんだかたくさんあるし、
もしかしてリオン様がお見舞いで
くれたものですか?」
3日も寝込んでいたなら、私に甘い
あのリオン様のことだ。
心配してあれこれ買ってきたのかも。
そしたら、シンシアさんは
首を横に振ってそれを否定した。
「お見舞いの品には違いありませんが、
これらの品物はリオン殿下からでは
ありません。
ノイエ領のアントン様やマールの町長、
それから何故かシグウェル魔導士団長の
ご実家のユールヴァルト本家、
王都一般市民を代表して商工会議所、
それに他の貴族や騎士団、医療従事者
諸々からのお見舞い品になります。」
「・・・んん?」
アントン様やマールの町長さんは
ともかく、なんでそんなにたくさんの
人達から私にお見舞いが?
シグウェルさんの実家は多分、
先日星の砂に加護を付けた関係から
何だろうけど、その他の人達からは
お見舞いをもらう心当たりが
まるでない。
「お見舞い品は全部がこちらの部屋には
入りきれませんでしたので、
他の部屋に保管の上、種別に分けて
整理しているところです。
お花も、お見舞い品ですがあまりに
香りの強いものはかえってユーリ様の
お休みの妨げになりますからね。
そこまで香りの強くないものだけを
この部屋に残し、あとは奥の院の
他の部屋に飾らせていただきました」
お見舞い品リスト作成と、
後日のお礼状作りが大変な事に
なりそうですよ、と言う
シンシアさんの説明にぽかんとする。
一体全体、私が眠っている間に
何が起きたのか。
不思議そうにしている私に、
シンシアさんは目を丸くした。
「覚えていらっしゃらないのですか?
王都で火事があった時、ユーリ様は
癒しの力を使われたでしょう?
そのお力に触れ、回復した王都下の
者達に今、ユーリ様の人気は
大変なことになっているんですよ?
お見舞い品はそんな皆からの物です。」
詳しくはリオン殿下やレジナス様から
お聞きになるのが良いでしょう。
そう言われてレジナスさんという単語に
ぴくりと反応してしまった。
そうだ、レジナスさんには一体
どんな顔して会えばいいんだろうか。
「どうかされましたか?
お顔が赤いようです、やはり熱が
出てきたのではないですか?」
眉を顰めたシンシアさんにベッドへと
追い立てられた。
「3日間もお腹に何も入っていない
状態ですからね、消化に良いものを
作らせますからお菓子は少しだけ
我慢なさって下さい」
「あっ」
食べかけのクッキーを取り上げられた。
いきなり固形物を食べるのはダメらしい。悲しい。
病人じゃないんだけどな。
そう思いながら布団の中に潜り込み、
レジナスさんのことを考えた。
レジナスさんは私のことが好きらしい。
うん、それは分かった。問題は私だ。
元の世界の時を振り返ってみても、
私の恋愛経験値は圧倒的に不足している。
初めて付き合った相手・・・・
大学の時で、草食系男子の優しい
メガネの先輩だった。
先輩の就職活動が忙しくなった辺りで
自然消滅した。
次は私が就職してからの、取引先の
相手の人だった。
共同プロジェクトでの案件が
ひと段落して、なんとなく流れで
付き合うことになったけど
直後にまたお互い仕事が忙しくなって
これまた自然消滅だ。
しかも、どちらとも軽いキス止まりだ。
その先に至った経験は恥ずかしながら
人生の中で一度もない。
恐らく友人に話したら
「悠里、それは付き合ったうちに
入らないから。今時、中学生だって
もっと進んでるよ?」
って呆れられる。いやしかし、
見栄を張らせて欲しい。
私は今まで2人の人とお付き合いの
経験があります!どーん。
・・・でも今回のレジナスさんの
独白からすると、レジナスさんは
その2人のどちらともまるで
タイプが違う。
2人とも付き合う時はなんとなく
その場の流れから始まって、
好きだの愛してるだの言われた記憶が
あまりない。
対してレジナスさんは、私の事を
この世で一番大切だとか愛する者だとか、
外国人に口説かれる時って
こういう感じなのかな?ってくらい
私に対する熱がこもり過ぎていて、
どうしたらいいのか勝手が分からない。
そういえばあの時、私に何を言ったのか
覚えていないみたいだった。
今までも面と向かって好きだとか
言ってこないということは、
まだそれを打ち明ける気はないのかな。
もしかするとレジナスさんも、
私があまりに小さいからまだそういう
恋愛事は早すぎると思って、それで
何も言ってこないのかも知れない。
せめてもう何歳か歳を取って
大きくならないと、あの立派な大人の
男の人であるレジナスさんの隣に
並んだ時にヘンだよね。
今の私はレジナスさんと10歳以上も
歳の差があるし、背の高さだって
私の頭のてっぺんはレジナスさんの
腰くらいの高さまでしかないのだ。
並んでもまるで釣り合いが取れないと思う。
それとも、この世界の貴族とか
身分のある人はそんなことは
関係ないんだろうか。
・・・分からない。
この世界での正しいお付き合いとか
恋愛の仕方がさっぱり分からない。
誰に相談すればいいんだろう。
リオン様に聞くのはなんだか
違う気がするし、
ルルーさんやシンシアさん達に
話すと多分リオン様に報告されて
結局バレてしまいそうだ。
悶々としたまま、シンシアさんの
持ってきたミルクを飲むと
ともかく今の10歳児の精神年齢の
私では考えることが複雑で難し過ぎる、
もう少し大きくならないと
ダメかもなあ・・・
なんて考えながら、いつの間にか
私は布団の中でまた眠ってしまった。
ぱかりと目を開けて
真っ先に思ったのはそれだった。
あの街中で癒しの力を使って
睡魔に襲われてから、
一体私はどれくらいの間
眠っていたのだろうか。
暗闇の中でパチパチと目を瞬く。
そうするとやがて暗さに目が慣れてきて
周りの様子が見えてきた。
むくりとベッドの上に起き上がる。
あ。ここ、奥の院の私の部屋だ。
いつも寝る時には閉められている
ベッドの天蓋に付いている
薄いカーテンは開けられたままで、
窓に目を向ければ外はまだ暗い。
真夜中?いや、夜明け前なのかな。
あれからどれくらい眠ったんだろう?
そう思っていたら、くうとお腹が鳴った。
そういえばあの人攫いのおじさんと
一緒に走ったり逃げようと暴れたり、
挙げ句の果てには癒しの力まで
使ったんだった。
お腹がすかないわけがない。
よいしょとベッドから降り立って、
いつもと部屋の中の雰囲気が
違うことに気付く。
ん?なんか歩きづらいぞ、
この部屋こんなに物が多かったっけ?
街歩きで買ったものは騎士さんに
お願いして王宮に先に
持ち帰ってもらっていたけど、
こんなにたくさん箱ものを
買った記憶はない。
そういえばなんだか部屋に
飾ってあるお花も多いような?
誰か庭師さんにお花を分けて
もらってきたのかな。
積み上げてある箱や
たくさんの花瓶を避けながら
部屋の真ん中のテーブルへと
足を運んだ。
その上には、お腹がすいたらいつでも
つまめるようにとノイエ領から
持ち帰って来た、豊穣の力を初めて
試してみたあの小さなパン籠が
置いてあるのだ。
そのテーブルの上にも異変があった。
いつもならそのパン籠が一つ
置いてあるだけなのに、
テーブルの上にはその他にも
たくさんの焼き菓子や果物が置いてある。
私が起きたらお腹がすいてると思って、
こんなに用意しておいてくれたのかな?
どれを食べようか迷うくらいある。
本当に食べてもいいのかどうか、
やっぱり誰かに聞いてからにしようと
私はそれに手を付けず、
パン籠の中から大きなクッキーを一枚
手にしてテーブルへついた。
お茶はさすがにないので、
飲み物は水だけだ。
ちらりともう一度、外を見やれば
うっすらと明るくなってきたようだ。
夜明けだ。
やっぱり私は一晩ぐっすり眠ってたんだ。
あの後、街はどうなったんだろう。
マリーさん達も無事に王宮へと
戻れたんだろうか。
シェラザードさんは大丈夫って
言ってたけど、顔を見て安心したい。
早く誰か起きてこないかな、
そうしたら色々聞けるのに。
そう思いながらクッキーを食べていたら
部屋の扉が突然開いた。
明かりを片手に、シンシアさんが
驚いたように私を見ている。
起き抜けでいきなりお菓子を
食べている私に呆れたかな?
そう思いながらも、
とりあえず朝の挨拶をした。
「あっ、おはようございます!
あの、これはですね、起きたら
すごくお腹がすいちゃっててそれで」
会うなり言い訳し始めた私に、
シンシアさんはツカツカ歩み寄ると
がばっと抱き締めて来た。
いつも冷静な彼女にしては珍しい。
「シ、シンシアさん⁉︎」
「良かった‼︎物音がするから何事かと
思いましたが、ユーリ様がお目覚めに
なって本当に良かったです‼︎」
そう言って、パッと離れると
シンシアさんは改めて私の体を
確かめている。
「どこか痛いとか、気持ち悪いところは
ございませんか?めまいは?」
「だ、大丈夫ですよ、すごく元気です!
歩いてもなんともないし、
ただお腹がすいているだけです‼︎」
そう。前回の魔力切れの時は
歩けるくらいになっても、
何だか少し疲れが残っていて
結局完全に回復するまで1週間は
かかったように思う。
だけど今回は起きた瞬間から
元気いっぱいだ。
もしかすると先日シグウェルさんに
スパルタ教育の如くたくさんの瓶に
豊穣の力を使わせられた事も
関係しているのかも知れない。
力加減はうまくいかないけど、
力を使うこと自体には私の体が
慣れ始めているのかも。
「一晩眠ったら元気いっぱいですよ!
それよりも、マリーさんや騎士さん達は
大丈夫でしたか⁉︎」
私なんかより、そっちの方が気になる。
何しろあの混乱の中で別れたきりだ。
心配をかけてしまっているだろう。
「みんな無事です。キリウ小隊の方と
一緒に戻ってきておりますよ。
それよりユーリ様、一つ訂正させて
ください。ユーリ様がお休みされて
いたのは一晩ではありません。
丸3日間、ユーリ様は眠り続けて
おられたんですよ。」
え?3日間?よく寝たどころの話ではない。
「そんなに⁉︎」
「はい。昨夜まではマリーも心配して
ずっと側に付いておりましたが、
それではあの子まで倒れてしまいます。
ですのでちょうど私が交代で
お世話に入ったところでした。」
夜が明けたらすぐにリオン殿下にも
お知らせ致しますね、
たいそう心配しておいででしたよ。
そう言われて真っ青になる。
3日の間も眠り続けていたなんて、
どれだけ心配をかけただろうか。
「す、すぐに謝らないと・・・!」
「謝るだなんて。むしろ笑顔で
いつものようにご挨拶なさって下さい、
その方が殿下も安心なさいます。
今温かいミルクを用意致しますから、
しばしお待ち下さいね。
それから、お召し物を変えましたら
またベッドの中で大人しくして下さい」
私がすっかりいつもの様子なのに
安心したシンシアさんは、
話しながらもてきぱきと私を
着替えさせた。
ついでに気になっていたことを聞く。
「あの、シンシアさん。この部屋って
こんなに物が多かったですか?
お花もなんだかたくさんあるし、
もしかしてリオン様がお見舞いで
くれたものですか?」
3日も寝込んでいたなら、私に甘い
あのリオン様のことだ。
心配してあれこれ買ってきたのかも。
そしたら、シンシアさんは
首を横に振ってそれを否定した。
「お見舞いの品には違いありませんが、
これらの品物はリオン殿下からでは
ありません。
ノイエ領のアントン様やマールの町長、
それから何故かシグウェル魔導士団長の
ご実家のユールヴァルト本家、
王都一般市民を代表して商工会議所、
それに他の貴族や騎士団、医療従事者
諸々からのお見舞い品になります。」
「・・・んん?」
アントン様やマールの町長さんは
ともかく、なんでそんなにたくさんの
人達から私にお見舞いが?
シグウェルさんの実家は多分、
先日星の砂に加護を付けた関係から
何だろうけど、その他の人達からは
お見舞いをもらう心当たりが
まるでない。
「お見舞い品は全部がこちらの部屋には
入りきれませんでしたので、
他の部屋に保管の上、種別に分けて
整理しているところです。
お花も、お見舞い品ですがあまりに
香りの強いものはかえってユーリ様の
お休みの妨げになりますからね。
そこまで香りの強くないものだけを
この部屋に残し、あとは奥の院の
他の部屋に飾らせていただきました」
お見舞い品リスト作成と、
後日のお礼状作りが大変な事に
なりそうですよ、と言う
シンシアさんの説明にぽかんとする。
一体全体、私が眠っている間に
何が起きたのか。
不思議そうにしている私に、
シンシアさんは目を丸くした。
「覚えていらっしゃらないのですか?
王都で火事があった時、ユーリ様は
癒しの力を使われたでしょう?
そのお力に触れ、回復した王都下の
者達に今、ユーリ様の人気は
大変なことになっているんですよ?
お見舞い品はそんな皆からの物です。」
詳しくはリオン殿下やレジナス様から
お聞きになるのが良いでしょう。
そう言われてレジナスさんという単語に
ぴくりと反応してしまった。
そうだ、レジナスさんには一体
どんな顔して会えばいいんだろうか。
「どうかされましたか?
お顔が赤いようです、やはり熱が
出てきたのではないですか?」
眉を顰めたシンシアさんにベッドへと
追い立てられた。
「3日間もお腹に何も入っていない
状態ですからね、消化に良いものを
作らせますからお菓子は少しだけ
我慢なさって下さい」
「あっ」
食べかけのクッキーを取り上げられた。
いきなり固形物を食べるのはダメらしい。悲しい。
病人じゃないんだけどな。
そう思いながら布団の中に潜り込み、
レジナスさんのことを考えた。
レジナスさんは私のことが好きらしい。
うん、それは分かった。問題は私だ。
元の世界の時を振り返ってみても、
私の恋愛経験値は圧倒的に不足している。
初めて付き合った相手・・・・
大学の時で、草食系男子の優しい
メガネの先輩だった。
先輩の就職活動が忙しくなった辺りで
自然消滅した。
次は私が就職してからの、取引先の
相手の人だった。
共同プロジェクトでの案件が
ひと段落して、なんとなく流れで
付き合うことになったけど
直後にまたお互い仕事が忙しくなって
これまた自然消滅だ。
しかも、どちらとも軽いキス止まりだ。
その先に至った経験は恥ずかしながら
人生の中で一度もない。
恐らく友人に話したら
「悠里、それは付き合ったうちに
入らないから。今時、中学生だって
もっと進んでるよ?」
って呆れられる。いやしかし、
見栄を張らせて欲しい。
私は今まで2人の人とお付き合いの
経験があります!どーん。
・・・でも今回のレジナスさんの
独白からすると、レジナスさんは
その2人のどちらともまるで
タイプが違う。
2人とも付き合う時はなんとなく
その場の流れから始まって、
好きだの愛してるだの言われた記憶が
あまりない。
対してレジナスさんは、私の事を
この世で一番大切だとか愛する者だとか、
外国人に口説かれる時って
こういう感じなのかな?ってくらい
私に対する熱がこもり過ぎていて、
どうしたらいいのか勝手が分からない。
そういえばあの時、私に何を言ったのか
覚えていないみたいだった。
今までも面と向かって好きだとか
言ってこないということは、
まだそれを打ち明ける気はないのかな。
もしかするとレジナスさんも、
私があまりに小さいからまだそういう
恋愛事は早すぎると思って、それで
何も言ってこないのかも知れない。
せめてもう何歳か歳を取って
大きくならないと、あの立派な大人の
男の人であるレジナスさんの隣に
並んだ時にヘンだよね。
今の私はレジナスさんと10歳以上も
歳の差があるし、背の高さだって
私の頭のてっぺんはレジナスさんの
腰くらいの高さまでしかないのだ。
並んでもまるで釣り合いが取れないと思う。
それとも、この世界の貴族とか
身分のある人はそんなことは
関係ないんだろうか。
・・・分からない。
この世界での正しいお付き合いとか
恋愛の仕方がさっぱり分からない。
誰に相談すればいいんだろう。
リオン様に聞くのはなんだか
違う気がするし、
ルルーさんやシンシアさん達に
話すと多分リオン様に報告されて
結局バレてしまいそうだ。
悶々としたまま、シンシアさんの
持ってきたミルクを飲むと
ともかく今の10歳児の精神年齢の
私では考えることが複雑で難し過ぎる、
もう少し大きくならないと
ダメかもなあ・・・
なんて考えながら、いつの間にか
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