【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎

sutera

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第六章 一日一夜物語

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マリーさん達とはぐれたまま、
私はどこをどう歩いているのか
分からないまま人混みに流されていた。

押されたり転んだりしないように
気を付けながら建物の壁際に沿って
歩いて、路地裏に通じる建物同士の
間にある隙間でやっと一息ついた。

自分の頭上を見上げると、
あの騒ぎの中でも風船は2つとも
ふわふわと浮いている。

良かった。こうなると、もうこれを
目印にマリーさん達が見つけてくれる
ことを祈るしかない。

目立つ格好の方がいいだろうから、
仕方なくあの猫耳フードも被った。

赤い風船を2個くっつけて歩く
赤い猫耳フードの子どもなんて
この混雑の中でも私くらいだろう。

「あとはえーと・・・そうだ!
商工会議所に行かなきゃ‼︎」

万が一はぐれた時の待ち合わせ場所だ。
建物の間から街中を確かめると、
さっきまでいた辺りから
結構離れてしまったみたいだ。

火事らしい煙はだいぶ遠くに
見えている。
そしてマリーさんに教えてもらった
商工会議所の塔はその煙の向こうに
うっすらと見えていた。

てことは、せっかく火事から
逃げてきたのに人波に逆らって
また戻らなければ行けない。
大丈夫かな・・・。

ちょっと不安になった時だった。

「あれっ、もしかしてさっきの
お嬢ちゃんかい⁉︎」

さっきミニケーキを売ってくれた
屋台のおじさんだった。
おじさんもあの騒ぎから逃げてきたのか
肩にリュックを一つかけたきりの姿だ。

「おじさん‼︎」

知っている人に会い、ほっとして
フードを脱いだ。

「やっぱり。見覚えのある風船が
見えたからもしかしてと思ったんだ。
こんな所でどうした、1人かい?
あのお付きのお嬢さんはどこだい?」

「この騒ぎではぐれてしまったんです。
おじさんは大丈夫でしたか?
怪我はしてませんか?」

優しいねぇ、とおじさんが笑った。

「ありがとよ。俺はこの通り、
ピンピンしてる。だけど俺の屋台は
めちゃくちゃだよ。何に驚いたのか
知らないが、暴れ馬が突然乱入してきて
あっちこっち蹴り飛ばしやがった。」

今年はドーナツの屋台が多いだろ?
おかげであちこちの屋台の油に引火して
火事まで起きた。
そう教えてくれた。

おじさんは売上げの入った袋を持って
逃げるだけで精一杯だったそうだ。

そんな話をしている間にも、空は
夕暮れから夕闇へと変わり始めている。

「どうしようおじさん。
私、これから商工会議所に
行かなきゃいけないんです。
せっかく逃げて来たのに
申し訳ないんですけど、一緒に
ついてきてもらってもいいですか?」

一人で辿り着けるか自信がない。
出来れば大人と一緒に行きたいのだ。
だってまたさっきのあのローブ姿の
人に会ったりしたら怖い。

申し訳なく思いながらも
そう申し出たら、おじさんは
快く了承してくれた。

「ああ、そりゃ構わないよ。
ついでに商工会で屋台の
補償申請でもしてくるかな。
ーよしお嬢ちゃん、ついておいで。
人混みと煙を避けながらだから、
ちょっと遠回りするけど一緒に行こう」

「ありがとう、おじさん‼︎」

風船はもう邪魔になるだろうから
魔法は解除するよ、と言われて
おじさんが手をかざすと今まで私に
ついてきていた風船は2つとも、
暗くなってきた空にあっという間に
消えていった。

目印代わりにまたフードを被り直して、
おじさんに手を繋いでもらうと
走り出す。
あのローブ姿の怪しい人に会う前に
商工会議所まで行かないと。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



リオン様に命じられて、北方守護伯の
所で演習中のキリウ小隊に俺は
すぐに連絡をした。

魔導士に頼み、連絡用の部屋に
ある鏡の前で相手を待つ。

向こうにも同じような部屋があり、
魔導士が常駐している。

お互いの部屋の鏡の横には
大きな結界石が置いてあり、
それに魔導士が魔法を使うことで
鏡に相手の姿が映り会話が出来る。

初めてその話をユーリにした時に、
てれびでんわみたいですね!と
言われたのでユーリ達の世界にも
同じような仕組みのものがあるらしい。

少しすると、鏡に相手が映った。
だが、隊長ではない。

「久しぶりだな、デレク・エヴァンス。
元気そうで何よりだがなぜお前が?」

「お久しぶりですレジナス様。
ユーリ様もお元気ですか?
その節は本当にお世話になりました。
実はその・・・」

笑顔だったデレクの顔が曇った。
というか、申し訳なさそうだ。
一体どうしたのかと思ったら
その理由はすぐに分かった。

「・・・帰っただと?一人でか?
演習はどうした⁉︎」

デレクの話に唖然とした。
昨日の夜、胸騒ぎがすると言うと
突然隊員を3人ほど引き連れて
隊長は王都へ帰ったという。

演習自体は2日ほど前に終えていたので
後はゆっくりと帰るだけだったと
デレクは慌てて付け足した。

「自分も今、荷物の最終確認を
していたところです。
あと数時間もすればここを離れます!」

まったくあいつは・・・。
せめて連絡位はしてから帰って来い。
それにしても、だ。

「胸騒ぎがすると言っていたのか?
あいつが?何かあったのか?」

カンは鋭いが何の根拠もなく
動くようなやつでもない。

「いえ、ここで何かが
あったわけではないんです。
ただ、先日こちらの街の祭りに
出店していた行商人と話してから
何だか色々調べていたようでした。」

「行商人と?」

「他国もあちこち回っているとか
言う人物で、最近自分達の行く先々で
人攫いやら放火やらがあって
気味が悪いと言ってました。
幸いにも今回は何事もなく
行商を終えられて良かったと言う
ところで話は終わったんですが・・・」

「それからか。あいつが色々調べ始めて
ついには無断で帰ってしまった、と」

知らず知らずのうちに
苦虫を噛み潰したような顔に
なっていたらしい。

鏡の向こうのデレクが青くなっていた。
怖がらせるつもりはなかったんだが。

国を跨いだ祭りと行商人に、人攫いか。
これは例の窃盗団が十中八九、
関係していると思っていいのではないか。

そういえばこの時期、祭りではないが
王都にも毎週のように屋台が出ている。

特に今週は、連休もあって人出が多い。
そこでぞわりと背中が粟立った。

だからか。あいつが自分も含めて
隊員の半分を引き連れて戻ったのは。

窓の外を見ると、
すでに時刻は夕暮れだ。
ユーリはまだ戻らないのか?

「ーくそっ‼︎」

今すぐ俺も王都へ出なければいけない。
直感だが、そう思った。

鏡の向こうのデレクに礼を言い、
連絡を切って部屋を出る。

廊下の向こうから騎士が駆けて来た。

「何があった?」

「一般市民街の商業地区で火災です‼︎
屋台が並ぶ通りで馬が暴れたんですが、
この連休でいつもより屋台も
人出も多かったおかげで
火災も広がりひどい騒ぎに
なっています‼︎」

あいつが気にしていたのはこれか。
一体いつの間に盗人どもは
王都へ入り込んでいたのか。

遅れを取った。願わくば、ユーリが
この騒ぎに巻き込まれていなければ
いいのだが。

最悪、何かあってもあいつが
間に合ってくれていればいい。
だがあいつにはまだユーリ・・・
癒し子の詳しい風体は話していなかった。
果たして混乱に陥った人混みの中で
ユーリを見つけ出し
助けてくれるだろうか。


ついこの間、ユーリの髪飾りを
作ってもらった時の店主との
やりとりを思い出す。

『そんなにしつこくしなくても、
演習から帰れば会うことも
あるだろうに。』

そう思って特に気にしていなかったが。

あいつはやけにしつこく食い下がって
俺が誰と一緒にいるのかと
情報を欲しがっていたという。

癒し子が王都へ出ることがあるのか、
その時は護衛で俺が付いているのか
どうか知りたかったということか?


だが、今となっては全てが遅い。

城の中から窓に手をかけて
外を確認する。

暮れ始めた王都の街並みに、
なるほどうっすらと赤い炎と煙が
見える。あそこか。

馬より走る方が早く着きそうだ。
革手袋をはめ直す。
携帯用の、折り畳み式の
鉤爪がついたロープを取り出した。

何をしようとしているのか
分かったらしい、俺に状況報告を
上げてきた騎士が真っ青になった。

「えっ、ちょっ、レジナス様!
ここ五階ですよ⁉︎本気ですか⁉︎」

「何だお前、俺が先の戦役で
敵国の城から飛び降りた話を
知らないのか?」

「いやっ、知ってます‼︎
そりゃ有名な話ですけども‼︎」

「あの時はもっと高かったし
崖っぷちに建っていた城だったぞ。
時間が惜しいからもう行くが、
リオン様に報告を頼む。
これから例の窃盗団を捕らえに行くと
言えば分かる。」

いや、戦時行動と一緒にされても!と
騎士は言っているが、一刻を争うと
言う意味では俺にとっては戦争以上の
非常事態だ。

窓に足を掛けて外に出ようとして、
大事なことを言い忘れていたのに
気付いた。
どうやら俺も相当あせっているらしい。

「それから、キリウ小隊の隊長が
自分以下3名の隊員を連れて
同じく対処中だとも伝えてくれ。
頼んだぞ。」

「えっ、キリウ小隊⁉︎
隊長って・・・まさか、
シェラザード隊長まで出てるんですか?
何で⁉︎これ、ただの火事じゃ⁉︎」

「だから窃盗団だと言っただろうが。
じゃあ頼んだ、さっさと報告して来い」

そう言って、今度こそ俺は窓の外に
飛び出した。

・・・まあ、たかが窃盗団如きに
キリウ小隊の隊員が4人、
しかもその内1人は隊長で更には
俺まで出るとなれば過剰戦力かも
知れないとは思う。

特に、シェラに出会ってしまう奴は
不幸だ。
あいつはたまにやり過ぎる。

せめて最低一人は生きたまま確保して、
侵入経路なり窃盗の手口なりを
聞いておかないと今後の対策が
出来ないが、あいつが自分と
出くわした相手を生かしておくか
どうかは分からない。
全てはあいつの機嫌と気分次第だ。

頼むから俺が行くまで全員殺して
くれるなよ、と思いながら
目星を付けた城の壁面の出っ張りに
ロープを引っ掛けると
それを支点に一気に駆け降りながら
飛び降りて、また次の場所に
ロープを引っ掛けて移動する。

壁面から塔へ、塔から屋根へ。
それを幾度か繰り返せば、
あっという間に王宮の外に出た。

ユーリの加護のおかげだろうか。
夕闇のせまるこの視界の悪い中、
今までよりも夜目が効く。

ここからは建物の上を
一直線に走って移動するだけだ。

ユーリが危ない目に遭っていない事を
祈りながら、
俺は真っ直ぐに炎で明るく照らされた
街へと駆け出した。
















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