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第四章 何もしなければ何も起こらない、のだ。
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早く早く、と馬車から降りるように
急かすシンシアさんとマリーさんの声は
ちゃんと聞こえていたんだけど
猫耳ヘアーのまま、私を待っている
人達の前に出るのはものすごーく
勇気がいった。
でも領事官長さんやリオン様達を
ずっと立ちっぱなしで
待たせるわけにもいかない。
思い切って、ピョンと勢いをつけて
馬車を飛び降りた。
人間、勢いが大事な時もある。
そうしたら、はっと息を飲む音が
聞こえて出迎えてくれた人達が
シーンと静まり返ってしまった。
静かなのに、みんなの視線が明らかに
私の頭上に注がれているのを
感じる・・・。
うう、マリーさんいい仕事し過ぎだよ!
みんなの顔が気になってチラッと
見てみたけど、リオン様や
レジナスさん達はともかくあの
シグウェルさんまでぽかんとした
顔で私を見てたよ!
あの氷の美貌があんな顔するのは
初めて見るけど、それでも美形なのは
変わらないってすごいな。
それにあの人はなんか、何があっても
動じなさそうだと思ってたんだけど
さすがに人間の頭に猫の耳が
くっついてるのは想定外だったんだな。
いっそのこと、
猫の耳と人間の耳、耳が4つも
あるなんておかしいだろう。
くらいのツッコミでもいれてくれれば
私もこの変な緊張感から
解放されるんだけど、どう考えても
その役目をシグウェルさんに
期待するのは間違っている。
ツッコミと言えばユリウスさん、
と思っていたらちょうどその
ユリウスさんから飼い猫・・・っ!
っていう声が聞こえてきた。
・・・飼い猫?
ただの猫ならまだしも
なんで飼い猫?
気になってそっとユリウスさんの
方を見てみたら、その前に立っていた
領事官長さん夫妻の姿が目に入った。
奥様のソフィア様は
なんだかやたら興奮して旦那様の
アントン様をバンバン叩いている。
え、大丈夫かな、めっちゃ痛そう。
でもアントン様はそんなのを
物ともせずにじっと私を見ていた。
シグウェルさんと同じ銀髪を
オールバックに整えて、
目元の鋭さはシグウェルさんより
幾分か柔らかいけど、
同じような紫色の瞳に口髭を
蓄えている知的なロマンスグレーだ。
でも口髭を蓄えている口元が
プルプルわなないていて
何か言いたそうなのを
我慢してるし、顔もちょっと赤い。
えっ、怒りたいのを
我慢してるんじゃないよね⁉︎
やっぱりこの格好、
初対面の人の前でするには
ふざけ過ぎてたんじゃ・・・?
そこまで考えて、自分が
馬車を降りてからまだ一度も
自己紹介や挨拶を
していないのに気がついた。
駄目じゃん‼︎
慌てて名乗り、今回の急な滞在に
対してのお礼を言ったんだけど、
やっぱり全然反応がない。
ど、どうしよう。これは
本当に怒っているのでは⁉︎
もう一度、アントン様の方を
チラッと見てみたけど
さっきと全く変わらない。
あ、ダメだわこれ。謝ろう。
そう思って謝ったら、
ソフィア様が感極まったかのように
私に抱きついて歓迎してくれて、
それをきっかけに私達を出迎えて
くれた人達が動き出した。
よく分からないけど
ソフィア様のおかげで
なんとかなったみたい。
まあまだみんなからの私を
こっそりうかがうような
視線は感じるんだけども。
その時だった。
「ユーリ」
いつになく硬い声でレジナスさんが
話しかけてきた。
「その・・・一体どうしたんだ、
その格好は?」
顔を赤くして、夕日色の瞳も
僅かに潤んでいる。
なぜかレジナスさんの方が
恥ずかしそうだ。
知り合いがこんな格好して
周りの注目集めたら、
そりゃ恥ずかしいよね・・・。
「マリーさんが考えてくれました。
絶対似合うから大丈夫だって
言うんですけど・・・。
やっぱり早く元通りに
した方がいいですよね。」
なんだか周りの雰囲気を
おかしくしたし、
せっかく頑張ってくれた
マリーさんには悪いけど
やめた方がいいんじゃないかな。
そう話したら、
とんでもない!とレジナスさんが
かぶりを振った。
「俺はすごく似合っていると思う。
リオン様も喜んでいたし、
できればもうしばらくそのままの
ユーリを見ていたい。
・・・嫌か?」
そう聞いてきたレジナスさんの
目がいつになく熱を持って
私を見つめている。
え?まさかの猫耳好き?
まさかそんなに真剣に
この格好を推してくるとは
思わなかった。
「嫌っていうか、注目されるのが
恥ずかしいだけで・・・
てっきりふざけてるって
怒られるかと思ってたし・・・
みんながいいって言うなら、
私もそれでいいです。」
そう言ったら、怒るわけが
ないだろう。と逆に
笑われてしまった。
「それじゃユーリ、・・・行こうか」
いつものようにレジナスさんが
手を差し出してきた。
あ・・・やっぱり抱っこ
されるんですね。
本当は歩いて行きたいんだけどなあ。
でもこの格好で歩くと
また注目を集めてしまうから、
ここは大きなレジナスさんの
影に隠れる形で縦抱っこに
甘えさせてもらおうかな。
利用してごめんね、レジナスさん。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
驚いた。まずはその一言に尽きる。
馬車がノイエ領について、
先に降りた俺とリオン様が
ユーリも馬車から降りてくるのを
待っていたがなかなか出てこない。
一体どうしたのかと
様子を見に行こうとした時だった。
今までの中で一番愛らしい
格好をしたユーリが
馬車の中から現れたのだ。
よくリオン様と2人で
ユーリの姿はまるで
黒い仔猫のようだと
話していたが、まさに
その黒い仔猫そのものが勢いよく
馬車から飛び出してきた。
白昼夢を見ているか、
もしくはそんなつもりはなかったが
無意識のうちに思っていた
俺の願望でも現実になったのかと
固まってしまった。
傍らに立つリオン様もそうだ。
目の前のものが信じられないと
いった面持ちでひたすら
ユーリを見つめていた。
ほとんど何物にも動じない
あのシグウェルですら
驚いているし、ユリウスも何やら
呟いていたが、何を言っていたか
頭に入ってこない。
恥ずかしそうにもじもじしながら、
時折り上目遣いでこちらを
チラチラうかがってくるユーリは
人間に近付こうとしても
近寄れないでいる、
用心深い野良の仔猫のようだ。
鈴とリードが欲しくなるね。などと
リオン様がおかしな事を
言い出したから、恐らく
リオン様もかなり動揺している。
リードはともかく鈴か・・・。
一瞬、頭の片隅にちりちり鈴の音を
鳴らしながら、笑顔でこちらに
駆け寄ってくるかわいい
猫耳姿のユーリが思い浮かんだ。
あの姿で、お菓子もらえますか?と
小首をかしげて言われたら
無制限に甘やかしそうで、
想像するだに自分で自分が
恐ろしくなった。
そんな事を考えていたら、
いつのまにかユーリは
自己紹介を終えて周りが
動き始めている。
はっとして、俺もユーリを連れて
リオン様と移動しなければと
思ったところで一度動きが
止まってしまった。
・・・ユーリを連れて?
いつものように抱き上げて?
落ちないようにと
俺に掴まる小さな手や
至近距離で見える、
烟るような長いまつ毛の奥の
伏せ目がちに輝く美しい瞳を
突然思い出してしまい
まずい、と思った時には
もう顔が赤くなっていた。
「レジナス、君ねぇ・・・」
隣のリオン様がホントに大丈夫?
と呆れながらも心配している。
大丈夫じゃないが慣れるしかない。
というか、こんな事で
いちいち動揺していたら
仕事にならない。平常心だ。
「・・・では行ってきます。」
ユーリに不信感を抱かせないようにと
妙に緊張しながら彼女の元へ
行こうとしたら、リオン様からも
頑張ってと励まされた。
なんだかんだ言ってリオン様は
いつも俺のことを気にかけてくれる。
本当にありがたい、と
感謝しながらユーリに声をかけた。
緊張のためいつもより若干
固くなりながら話しかけたので、
そんな俺の様子を
不思議に思いながらも
ユーリは受け答えしてくれた。
この死ぬほど愛らしい姿は
侍女の強い勧めの結果らしい。
さすがはルルー殿が自分の代わりに
推薦してきた侍女だ。
ユーリの愛らしさを的確に
引き出してくるとは、
普段から彼女の良さを
理解していなければできないことだ。
だが当のユーリはこの格好に
周りがどれだけ
庇護欲を掻き立てられたか
分かっていないらしかった。
場違いな格好をして申し訳ない、
早くいつもの姿に戻った方が。
などと言い出した。
待ってくれ、まだもう少し
その可愛らしい姿を
堪能させて欲しい。
慌てて、とても似合っていることを
伝えたがきょとんとしていた。
意外な事を言われた、とばかりに
目を丸くしてこちらを
見つめてきているが、
その顔といい
猫の耳が少し前に傾いていて
俺の話を一生懸命に
聞こうとしているように見える
様子といい、
ますます仔猫らしい愛らしさが増した。
その表情は反則だろう。
そう思いながら、
自分なりに必死に冷静さを保って
話していたつもりだが
どうだったのだろうか。
自分ではいまいち良く分からない。
とりあえず自然に、
いつも通りにユーリを
腕に抱いたが俺の心臓の鼓動は
いつもより早くなっている。
彼女がそれに気付かなければいいが。
その時、ふとどこかからの
視線に気付いた。
ユリウスだ。
いつかの召喚の儀式の後のように、
こちらの様子を伺うように
ジッと俺達を見ていた。
あのカンのいい奴に
俺の気持ちを気取られでもしたら
たぶん厄介な事になる。
気付かれるな。
直感でそう感じ取ったら、
瞬間的に頭が切り替わり
スッと気持ちが落ち着いた。
離れたところでアントン様と
話しながらこちらを
気にしていたリオン様も、
俺のそんな気持ちの切り替えに
気付いたのか安心したように
その気配が緩んだのが分かった。
思いもよらないところで
冷静になるきっかけを
与えてくれたユリウスに、
不本意ながらも俺は
心の中でそっと感謝して
ユーリを連れ、歩き出したのだった。
急かすシンシアさんとマリーさんの声は
ちゃんと聞こえていたんだけど
猫耳ヘアーのまま、私を待っている
人達の前に出るのはものすごーく
勇気がいった。
でも領事官長さんやリオン様達を
ずっと立ちっぱなしで
待たせるわけにもいかない。
思い切って、ピョンと勢いをつけて
馬車を飛び降りた。
人間、勢いが大事な時もある。
そうしたら、はっと息を飲む音が
聞こえて出迎えてくれた人達が
シーンと静まり返ってしまった。
静かなのに、みんなの視線が明らかに
私の頭上に注がれているのを
感じる・・・。
うう、マリーさんいい仕事し過ぎだよ!
みんなの顔が気になってチラッと
見てみたけど、リオン様や
レジナスさん達はともかくあの
シグウェルさんまでぽかんとした
顔で私を見てたよ!
あの氷の美貌があんな顔するのは
初めて見るけど、それでも美形なのは
変わらないってすごいな。
それにあの人はなんか、何があっても
動じなさそうだと思ってたんだけど
さすがに人間の頭に猫の耳が
くっついてるのは想定外だったんだな。
いっそのこと、
猫の耳と人間の耳、耳が4つも
あるなんておかしいだろう。
くらいのツッコミでもいれてくれれば
私もこの変な緊張感から
解放されるんだけど、どう考えても
その役目をシグウェルさんに
期待するのは間違っている。
ツッコミと言えばユリウスさん、
と思っていたらちょうどその
ユリウスさんから飼い猫・・・っ!
っていう声が聞こえてきた。
・・・飼い猫?
ただの猫ならまだしも
なんで飼い猫?
気になってそっとユリウスさんの
方を見てみたら、その前に立っていた
領事官長さん夫妻の姿が目に入った。
奥様のソフィア様は
なんだかやたら興奮して旦那様の
アントン様をバンバン叩いている。
え、大丈夫かな、めっちゃ痛そう。
でもアントン様はそんなのを
物ともせずにじっと私を見ていた。
シグウェルさんと同じ銀髪を
オールバックに整えて、
目元の鋭さはシグウェルさんより
幾分か柔らかいけど、
同じような紫色の瞳に口髭を
蓄えている知的なロマンスグレーだ。
でも口髭を蓄えている口元が
プルプルわなないていて
何か言いたそうなのを
我慢してるし、顔もちょっと赤い。
えっ、怒りたいのを
我慢してるんじゃないよね⁉︎
やっぱりこの格好、
初対面の人の前でするには
ふざけ過ぎてたんじゃ・・・?
そこまで考えて、自分が
馬車を降りてからまだ一度も
自己紹介や挨拶を
していないのに気がついた。
駄目じゃん‼︎
慌てて名乗り、今回の急な滞在に
対してのお礼を言ったんだけど、
やっぱり全然反応がない。
ど、どうしよう。これは
本当に怒っているのでは⁉︎
もう一度、アントン様の方を
チラッと見てみたけど
さっきと全く変わらない。
あ、ダメだわこれ。謝ろう。
そう思って謝ったら、
ソフィア様が感極まったかのように
私に抱きついて歓迎してくれて、
それをきっかけに私達を出迎えて
くれた人達が動き出した。
よく分からないけど
ソフィア様のおかげで
なんとかなったみたい。
まあまだみんなからの私を
こっそりうかがうような
視線は感じるんだけども。
その時だった。
「ユーリ」
いつになく硬い声でレジナスさんが
話しかけてきた。
「その・・・一体どうしたんだ、
その格好は?」
顔を赤くして、夕日色の瞳も
僅かに潤んでいる。
なぜかレジナスさんの方が
恥ずかしそうだ。
知り合いがこんな格好して
周りの注目集めたら、
そりゃ恥ずかしいよね・・・。
「マリーさんが考えてくれました。
絶対似合うから大丈夫だって
言うんですけど・・・。
やっぱり早く元通りに
した方がいいですよね。」
なんだか周りの雰囲気を
おかしくしたし、
せっかく頑張ってくれた
マリーさんには悪いけど
やめた方がいいんじゃないかな。
そう話したら、
とんでもない!とレジナスさんが
かぶりを振った。
「俺はすごく似合っていると思う。
リオン様も喜んでいたし、
できればもうしばらくそのままの
ユーリを見ていたい。
・・・嫌か?」
そう聞いてきたレジナスさんの
目がいつになく熱を持って
私を見つめている。
え?まさかの猫耳好き?
まさかそんなに真剣に
この格好を推してくるとは
思わなかった。
「嫌っていうか、注目されるのが
恥ずかしいだけで・・・
てっきりふざけてるって
怒られるかと思ってたし・・・
みんながいいって言うなら、
私もそれでいいです。」
そう言ったら、怒るわけが
ないだろう。と逆に
笑われてしまった。
「それじゃユーリ、・・・行こうか」
いつものようにレジナスさんが
手を差し出してきた。
あ・・・やっぱり抱っこ
されるんですね。
本当は歩いて行きたいんだけどなあ。
でもこの格好で歩くと
また注目を集めてしまうから、
ここは大きなレジナスさんの
影に隠れる形で縦抱っこに
甘えさせてもらおうかな。
利用してごめんね、レジナスさん。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
驚いた。まずはその一言に尽きる。
馬車がノイエ領について、
先に降りた俺とリオン様が
ユーリも馬車から降りてくるのを
待っていたがなかなか出てこない。
一体どうしたのかと
様子を見に行こうとした時だった。
今までの中で一番愛らしい
格好をしたユーリが
馬車の中から現れたのだ。
よくリオン様と2人で
ユーリの姿はまるで
黒い仔猫のようだと
話していたが、まさに
その黒い仔猫そのものが勢いよく
馬車から飛び出してきた。
白昼夢を見ているか、
もしくはそんなつもりはなかったが
無意識のうちに思っていた
俺の願望でも現実になったのかと
固まってしまった。
傍らに立つリオン様もそうだ。
目の前のものが信じられないと
いった面持ちでひたすら
ユーリを見つめていた。
ほとんど何物にも動じない
あのシグウェルですら
驚いているし、ユリウスも何やら
呟いていたが、何を言っていたか
頭に入ってこない。
恥ずかしそうにもじもじしながら、
時折り上目遣いでこちらを
チラチラうかがってくるユーリは
人間に近付こうとしても
近寄れないでいる、
用心深い野良の仔猫のようだ。
鈴とリードが欲しくなるね。などと
リオン様がおかしな事を
言い出したから、恐らく
リオン様もかなり動揺している。
リードはともかく鈴か・・・。
一瞬、頭の片隅にちりちり鈴の音を
鳴らしながら、笑顔でこちらに
駆け寄ってくるかわいい
猫耳姿のユーリが思い浮かんだ。
あの姿で、お菓子もらえますか?と
小首をかしげて言われたら
無制限に甘やかしそうで、
想像するだに自分で自分が
恐ろしくなった。
そんな事を考えていたら、
いつのまにかユーリは
自己紹介を終えて周りが
動き始めている。
はっとして、俺もユーリを連れて
リオン様と移動しなければと
思ったところで一度動きが
止まってしまった。
・・・ユーリを連れて?
いつものように抱き上げて?
落ちないようにと
俺に掴まる小さな手や
至近距離で見える、
烟るような長いまつ毛の奥の
伏せ目がちに輝く美しい瞳を
突然思い出してしまい
まずい、と思った時には
もう顔が赤くなっていた。
「レジナス、君ねぇ・・・」
隣のリオン様がホントに大丈夫?
と呆れながらも心配している。
大丈夫じゃないが慣れるしかない。
というか、こんな事で
いちいち動揺していたら
仕事にならない。平常心だ。
「・・・では行ってきます。」
ユーリに不信感を抱かせないようにと
妙に緊張しながら彼女の元へ
行こうとしたら、リオン様からも
頑張ってと励まされた。
なんだかんだ言ってリオン様は
いつも俺のことを気にかけてくれる。
本当にありがたい、と
感謝しながらユーリに声をかけた。
緊張のためいつもより若干
固くなりながら話しかけたので、
そんな俺の様子を
不思議に思いながらも
ユーリは受け答えしてくれた。
この死ぬほど愛らしい姿は
侍女の強い勧めの結果らしい。
さすがはルルー殿が自分の代わりに
推薦してきた侍女だ。
ユーリの愛らしさを的確に
引き出してくるとは、
普段から彼女の良さを
理解していなければできないことだ。
だが当のユーリはこの格好に
周りがどれだけ
庇護欲を掻き立てられたか
分かっていないらしかった。
場違いな格好をして申し訳ない、
早くいつもの姿に戻った方が。
などと言い出した。
待ってくれ、まだもう少し
その可愛らしい姿を
堪能させて欲しい。
慌てて、とても似合っていることを
伝えたがきょとんとしていた。
意外な事を言われた、とばかりに
目を丸くしてこちらを
見つめてきているが、
その顔といい
猫の耳が少し前に傾いていて
俺の話を一生懸命に
聞こうとしているように見える
様子といい、
ますます仔猫らしい愛らしさが増した。
その表情は反則だろう。
そう思いながら、
自分なりに必死に冷静さを保って
話していたつもりだが
どうだったのだろうか。
自分ではいまいち良く分からない。
とりあえず自然に、
いつも通りにユーリを
腕に抱いたが俺の心臓の鼓動は
いつもより早くなっている。
彼女がそれに気付かなければいいが。
その時、ふとどこかからの
視線に気付いた。
ユリウスだ。
いつかの召喚の儀式の後のように、
こちらの様子を伺うように
ジッと俺達を見ていた。
あのカンのいい奴に
俺の気持ちを気取られでもしたら
たぶん厄介な事になる。
気付かれるな。
直感でそう感じ取ったら、
瞬間的に頭が切り替わり
スッと気持ちが落ち着いた。
離れたところでアントン様と
話しながらこちらを
気にしていたリオン様も、
俺のそんな気持ちの切り替えに
気付いたのか安心したように
その気配が緩んだのが分かった。
思いもよらないところで
冷静になるきっかけを
与えてくれたユリウスに、
不本意ながらも俺は
心の中でそっと感謝して
ユーリを連れ、歩き出したのだった。
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