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第三章 マイ・フェア・レディ

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私を見てくれたユリウスさんは、
少し眠った方がいいっスね。と
あの人懐こい笑顔をそばかす顔に浮かべた。

今の状態だと眠るのが一番
手っ取り早い魔力の回復方法だという。

なんでも、魔法を使える人間なら
必ず感じられるはずの魔力の流れを
今の私の中からはほとんど感じないそうだ。

これは魔力を使い過ぎて
魔力切れを起こした人によく見られる
症状なんだって。

ちなみにもっと限界ギリギリまで
魔力を使い果たすと、
魔力枯渇という状態になって
完全に魔力そのものを失ってしまい、
下手をすると死んでしまうそうだ。

だから魔力を使って何かする時は
きちんとペース配分を考えて使ったり
少ない魔力消費ですむ魔法を選んだり
組み合わせたりして使わなければいけないと
ユリウスさんは教えてくれた。

さすがは魔導士団の副団長さん、
勉強になるな~。
ルルーさんは反対してたけど、
やっぱり回復したら一度魔導士団に
行って色んな話をもっと聞いてみたい。

興味深い話を聞いて目が輝いてきた私が
このままだとおとなしく眠らないと思ったのか、
ユリウスさんは苦笑いして私の両目の上に
その手をアイマスクのようにかざすと
強制的に私の目を閉じさせた。

今の私は子どもの姿だから、
ユリウスさんの片手ですっぽり顔全体が
覆われてしまいそうなくらい顔が小さい。

「さあ、目を閉じて。
眠りの魔法をかけるっすよ。
これならゆっくり休めますから。
おやすみなさい、ユーリ様。」

そう話すと、私の顔を覆っている
ユリウスさんの手がじんわりと
暖かくなったのを感じた。

気持ちいい・・・と思っているうちに、
いつのまにか私は意識を手放して
眠ってしまったのだった。



そうして、次に目覚めた時にはもう
ユリウスさんの姿はなく
なぜか甲斐甲斐しく私の世話をする
リオン様がいた。

何度でも言おう。

リオン様がおかしい。

あれこれ世話を焼いてくるのもそうだけど、
私が何かしてると必ずリオン様の視線を感じる。

会話してる時はもちろん、ご飯を食べている時も。

気付くとじいっと熱のこもった視線で
見つめられている気がするんだけど
なんだろう?
久しぶりに視力を取り戻したから
目に見えるものが新鮮なのかな?

それともレジナスさん達と違って
私は新入りみたいなもんで
今まで見たことがない人だから
物珍しいんだろうか。

あと、なぜかご飯とおやつは
リオン様の手ずから食べさせられている。

・・・いくら倒れたからとは言え、
召喚された直後にも増して病人扱いだよ!
そして王子様が女児の
従者めいたことをしているよ⁉︎

絶対にこの状況はおかしい。

ルルーさんはニコニコして
何にも言ってこないけど絶対変だよね?

そう考えていると、ふとリオン様が
思いついたように言ってきた。

「そうだユーリ。ひとつ提案なんだけど
今いる癒し子様用の部屋を出て、
この奥の院に移ってこないかい?」

この状態だと君を動かすのは心配だよ。と
眉をひそめる。
ここなら段差も少ないし、手すりもある。
起き上がれるようになったら
小さなユーリでも危なげなく
過ごせると思うよ、と続けられた。

「えっ、でもさすがに王子殿下と一緒の
宮殿って恐れ多いというか」

思いがけない申し出にびっくりする。

「僕は全然構わないよ。
それに、目が見えるようになったから
近いうちにまた本格的に政務復帰するだろう。
そうすれば忙しくなって、ここも朝早く出て
深夜に戻ることになるから
居ない事の方が多いかもしれないし、
そんなに気を使うことはないよ」

おぉう・・・異世界の王子様も
社畜と同じか・・・。
同士よ、と思わず勝手に親近感を持ってしまう。

「それに同じ宮にいればいつでも
ユーリと話せていい気分転換になるし。
勿論ルルーも一緒に来て欲しい。
この奥の院、使ってない部屋が
たくさんあるからルルーも住み込みで
ユーリの世話をしてもらってもいいね」

ルルーにも毎日会えるなんて
小さい頃以来で何だか嬉しいな、と
リオン様はルルーさんに笑いかけている。

「あと警備の点でも要人はなるべく
まとまっていた方が護衛しやすいだろうし。」

ああ、それは確かに。
今は王宮の客間に準備されている
癒し子用の部屋が一つだけぽつんと
警備対象としてあるので、
毎日わざわざ護衛騎士さんが来てくれている。

だけどリオン様と一緒の場所に住むなら
元々ここを護衛している人数を増やすだけだ。
なるほど合理的な気がする。

「・・・リオン様。それなら俺も宿舎を出て
ここに移ってもいいですか」

護衛中なのに珍しくレジナスさんが
会話に入ってきた。
基本、レジナスさんは護衛騎士としての
領分を心得ていて
いくらリオン様と親しいからと言っても
庭園でのお茶や休憩中以外は
自分から話しかけてくることは滅多にない。

「ふぅん、どうしたのレジナス。珍しいね」

リオン様が楽しそうに青い瞳を煌めかせた。

「いえ、この宮にリオン様だけでなく
癒し子様までいるとなると要人の数からして
一端いっぱしの騎士程度で夜間も含めた
護衛は事足りるのか気になりました」

差し出がましいことを言って
申し訳ありません、とレジナスさんが
頭を下げた。

「ははっ、レジナスは心配性だなあ。
まあ確かにいくら僕の剣の腕が立つとは言え、
いざとなったらたとえ深夜でも
何かあった時は君もいると思えば心強いけどね」

じゃあ夜間警備が出来る住み込み騎士も
レジナスも含めて今より何人か増やそう。

リオン様が頷いた。

「ユーリが住むなら侍女も
もう少し入れた方がいいだろうし、
その選定はルルーにお願いしようかな。
・・・ふふ、レジナスもルルーも居るなんて
久々にこの奥の院が賑やかになりそうで嬉しいよ」

幸せそうにリオン様は微笑んだので、
なんだかあれよあれよという間に
ここに移ってくることになっちゃったけど
まあいいか、と私は頷いた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ーーーリオン様がユーリを囲い込みに来ている。

突然ユーリに向かって奥の院に
引っ越してくるよう言い出した
リオン様に、俺はそう思った。

ユーリの体調が心配だとか護衛の利点が、とか
色々言っていたがつまり結局は
ユーリと離れたくないってことだ。

ルルー殿に向かっても
毎日会えるようになるのは嬉しい、
なんてリップサービスをしているあたり
彼女のご機嫌取りも抜かりがない。
さすがだ。

あの、庭園での奇跡のような出来事から
ユーリを見るリオン様の目には
今までに見た事のない感情が宿っている。

リオン様があんな目をしているのは
初めて見るが、騎士団や他の男では
見たことがある。
あれは誰かに恋している目だ。

そしてその誰か、はここには1人しかいない。
ユーリだ。

それに気付いた時、俺は内心物凄く狼狽えた。

俺の主が少女趣味になってしまったのかと。
いやいや、恋してるのではなくもしかすると
あれは自分を救ってくれた者に対する
憧憬ではないか⁉︎

何度も考えてはリオン様をじっと観察した。

・・・でもどう考えてもその目に宿っているのは
恋しい相手を見る甘やかな表情だ。

護衛騎士という職務上、
俺とリオン様は四六時中一緒にいる。

当然リオン様がユーリに手ずから
食事を与えている時も同席しているが、
それを毎回見なければいけない時など
俺はなんとも言えない顔をしていると思う。

こちらをチラチラ見てくるユーリも
いたたまれなさそうだ。
すまん。我慢してくれ。

ルルー殿はそんなリオン様を嬉しそうに
ニコニコ微笑んで見ている。

リオン様がご幼少のみぎりから
乳母として側にいたのだから、
当然彼女はリオン様の心の機微は
分かっているし、彼がどんな感情を持って
ユーリに接しているのかも理解している。

『あの小さかったリオン様にも
恋しい人が出来たなんて、
なんなら早くご婚約でもして
ご自分のものにしてしまえばいいのに』
くらいは思っていそうだ。

そしてそんなリオン様の気持ちに
気付いていないのは、想われている
当の本人のユーリくらいのものだ。

・・・もし、その気持ちに気付いたら?
もしくはリオン様がご自分の気持ちを
ユーリに打ち明けたら?

そう思ったら、俺はなんだか自分の心が
ざわめき落ち着かない。

一体この気持ちはなんなんだ。
自分で自分の気持ちが分からない。

そして、リオン様がユーリと2人で
この奥の院で暮らすのだと思ったら
なぜか声を上げずにはいられなかった。

護衛中だというのに主と相手の会話に
口を挟むなど初めてのことだ。

『俺も移ってきていいですか』

思わずそう言ってしまった俺を諌めることなく、
むしろ面白いものを見た。とリオン様は
目を細めた。

理由を訊かれてそれらしい事を言ったが、
リオン様は俺の本心が別のところにあると
分かっていそうだった。
それでも俺もこの奥の院に移り住む事を
許可してくれたのだから度量が広い。

これからこの奥の院で過ごしていけば
俺は自分のこの得体の知れない気持ちが
なんなのか理解できるだろうか。

楽しげに会話をする2人をじっと見つめて
俺はこの先のことに思いを馳せた。
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