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第4章 焔天の鷹はなぜ微睡む【case3:精霊鷹】

ep.31 裏切りは焔天の中に蔓延る

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「私はあそこにいる男、ディニエから頼まれて、内密に焔天の副団長について調べているんだ」

「え? ジャン団長ではなく、ディニエさんに頼まれて、ですか?」

 私が不思議そうに問いかけると、精霊鷹はうむ、と頷いた。

「私のパートナーであるジャンとは……接してみたら分かっただろう? アイツはよくも悪くも正直で真っ直ぐな人間だからな……そんな奴に『お前の部下を疑っている』なんて話したら、顔に出てしまって今までの努力が台無しになる未来しか見えん」

「……」

 ごめんなさい、ジャン団長。そんな事ないですよ、と言ってあげられませんでした。

 だって物凄く顔に出そうだなって思ってしまったんだもの。

「というか、焔天の副団長を調べているというのは……?」

「うむ。まずはそこから話さないといけないな……娘は焔天の副団長の事を知っているか?」

「いえ、あまり。遠目でお顔を拝見したくらいですね」

「名はコンラート・ブロトンス。ブロトンス伯爵家の後妻が産んだ次男坊だ。その後妻が隣国出身でな、例の隣国の違法宗教団体繋がりがある可能性が出てきたと、最近になってようやく分かった」

「あ、ちょっともう聞きたくなくなってきました……!」

「そう言わずに付き合え。娘は猫誘拐事件でも犯人逮捕に協力し、活躍したのだとディニエからも聞いたぞ? この事件の経過報告を聞く資格のある、立派な関係者じゃないか。それに娘は精霊動物のアドバイザー相談係なのだろう?」

「いつからそんな役職が!?」

 そもそも、ディニエさんとは路地裏でちょっとしか会ってない筈なのに、何でそんな事まで詳しく知ってるんだ……?

 え、実は監視されてたとかいうオチ?

「メルちゃ~ん、ごめんね~! あのぽんこつ団長にはよーく言い聞かせて、先に練習場に戻るよう送り出しておいたから……って、えっ? な、何でそんなに睨んでくるのっ!?」

「ディニエ、今娘に今回の件について話していたところなのだ」

「……団長といい、貴方といい……なんで俺に一言も相談せずに突っ走るんですかねぇ……」

「元はといえば、ディニエさんが私の事を話したのが悪いと思うんですけど……」

 私が恨みがましくポツリと呟けば、ディニエさんは地面に突っ伏す勢いで頭を下げて謝罪してきた。

 この男、謝罪慣れしている。

「ごごごごめん! 実はあの日、路地裏で別れた後、ちょっと面白そうだなーって思って、途中まで成り行きをこっそり見てました! あ、そこの鷹も一緒にだからね!? 最初にメルちゃんの事を団長に話したのは、こっちだから!」

 ディニエさんは、そう言ってビシッと精霊鷹を指差した。

「えっ」

 ギョッとして精霊鷹に目を向けると、スッ……と目線を逸らされた。人間だったら口笛を吹いて誤魔化していそうである。

「……お互いの団の情報って、団長や副団長クラスなら違うだろうけど、中々入ってこないじゃん? 俺も知りたい情報は自分で探らなきゃいけない身だから、メルちゃんの活躍っぷりはチェックさせてもらってたんですっ!」

「私の情報を悪用していないのなら、百歩譲って許しますけど……勝手に探られるのはちょっと怖いんでやめてください。あとプライバシーとか……私の部屋、覗いたりしてないですよね……?」

「誓って覗いてません!」

 なら、まぁ……ギリいい、のか? 

「元々、焔天にスカウトしたいと思ったくらいメルちゃんが優秀だったから、気になっちゃって……でも本当に申し訳なかった」

 きちんと誠意を込めた謝罪をしてくれたので、許すことにした。あ、もちろん貸し1で。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「話を戻すぞ? そもそもだな、その宗教団体が行なっているとされる実験等の運営費用は、一端の人間だけで賄える範疇をとうに超えているはずなのだ」

 国内外問わず、貴重な動物を乱獲。その為の高額な人件費や、実験用の薬や器材。確かにそうだろう。

「……つまり、金銭に余裕がある貴族がその団体を運営、又は支援している……ということですか?」

「うむ。理解が早くて助かる。その資金提供の1つが、ブロトンス家である可能性が高い」

「う、うわぁ……」

 しかもブロトンス家の当主や長男にその団体との繋がりがない事は、調査結果から分かっているらしい。

 つまり、その後妻の人と息子のコンラート副団長が、当主に黙って、勝手にブロトンス家のお金を使って支援しているというのだ。

「団体の中でのコンラートの役割は、恐らく城下町や騎士団の内部情報をリークする事だと予想している。だが……いまだ決定的な証拠がない。ここ数日、精霊魔法を酷使しながら監視をしているから、そのせいで寝不足なのだ」

「……コンラート副団長を見張っていても決定打がないというのなら、自分が疑われる事も予期して、他の人間を動かしているかもですね」

 私がそう呟くと「え?」と言うように、ディニエさんと精霊鷹から視線を向けられる。

「ええと、焔天の方を疑いたくはないんですけど、ブロトンス家に逆らえない事情がある他の団員が協力しているとか……もしくは、そういった不都合を隠せるような特性の精霊魔法が使えるパートナーがいるとか……」

 そういえばコンラート副団長のパートナー精霊はどんな動物なんだろう?

 今度見かけた時に、それとなく周りを探してみようかな……?

「……なるほどな。その可能性に気が付かなかったとは……私やディニエにも焦りがあったのだな。やはり娘と話していると、どこかあの方を思い出させる……」

「? あの方、ですか?」

 小首を傾げると、精霊鷹は「いや、すまん。何でもない」と言って、その話題を切り上げてしまった。

「とにかく、娘がジャンにヤドリギの説明をしてくれて助かった。ディニエも私も、ジャンがそんな心配をしていたとは思わなんだ」

 ジャン団長、意外と自分の事は抱え込むタイプなのか。それ故に、話に聞いていた私を見かけて、誰かに相談したかった気持ちが爆発したって感じなのかな。

「このヤドリギの元で休むとな、心身ともによく疲れが落ちるのだ」

 精霊鷹は大木を見上げて、しみじみと呟いた。

「ヤドリギは神聖な植物ですもんね。だから、精霊動物とも深く関係するのかもしれないです」

 ヤドリギの葉や枝は乾燥させて煎じて飲むと、人間にも効果があるしね……

 なんとなくだけど、精霊力が回復するのが分かるような気がした。
 
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