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第七章 地球<アースター>編

大原にとって面倒な一日

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 七月九日

 学校に行く前に、新たに異世界からの援軍がやってきた。

 賢者が連れてきたのは意外な人物だった。

 「よお大原。暇だからきちまったよ。」

 「暗殺者呼ぶんですね…このタイミングで。」

 キラーズ・リントン。無風の夜叉の団長だ。

 「アサシンなら地形を利用しないとな。あくまでも情報収集さ。余計なことはしない。当分はリサかアーシャから指示を待つだけさ。」

 「リサとアーシャから?」

 「ああ、あいつらなら地形をよく知ってそうだしな。ちょくちょくは賢者様にも協力してもらうかもしれないな。」

 「分かってるわよ。出来るだけのことはするわ。」

 「そういうことだ。そんなわけで俺は早速行くとするかな。」

 キラーズはその場を後にするかと思いきや大原に向き直る。

 「大原。今回ばかりは俺たちも加減が出来ねぇ。両者共々命の奪い合いだからな。その辺は大丈夫か?」

 大原は深呼吸を一つして問題ない事を伝えた。

 その後はキラーズがその場を去り、俺は学校へと向かった。

 学校に通っている間に少しばかりこちらの状況を説明しようと思う。

 政府は各家庭にシェルターを配置するように義務付けた。

 そのための資金を配布するとのことだ。

 とはいえ後々に税として返してもらうために、税を10パーセントに戻した。

 配布するのは銀行の兼ね合いもあり、八月一日から行うそうだ。

 一ヶ月後だが、そんなに悠長にしていても良いのだろうか…。

 不安は残るばかりだが、決まったのだからその時になれば問題はないだろう。

 七月十六日

 今度は火の世界からレオスが来てくれた。

 「とりあえずは一通り強くなってきた。この世界での役割はおおよそわかっているが、アリサに聞いた方が早そうだな。」

 頭が回るようで助かる。
  
 エオスがアリサに頼まれたのは地球の面々の指導ではなく、俺たち異世界の使者との相手をしてもらうことだった。

 確かに教えてばかりで勘は鈍りそうではあったのでありがたい。

 エオスは曜日でそれぞれを相手してくれた。

 主にエオス専用武器の使用感とレグルスによる、俺たちの弱点を攻めてきていた。

 流石に克服できているところもあったが、なるほどと思うところもあったりした。

 例えば俺であれば、一瞬で最大火力を出せないところが挙げられていた。

 そんな事が出来るのかと賢者に聞くと、すぐさま実践して見せてくれた。

 だんだんと威力を上げていくのではなく、一気に魔力を放出するやり方を考えなくてはならなくなった。

 そして、そこをとことん追求してくるレオスの強さが際立っていた。

 能力による耐久力も強化されていたが、動きのキレが全く違う。

 速さが格段に上昇していた。

 空中では武器がサポートして安定感を出してくれていた。

 学べる事が多いと、お互いに高め合っている。

 そんなこんなでの修行を続けていた。

 七月二十三日
 
 今日はテスト最終日だ。

 なので学校が終わるのが早い。

 そして今日は訓練は休みとした。
 
 その結果こうなった。

 「「遊ぼうぜ!!!!!!!!」」

 クラス全員と異世界の使者と共に遊ぶこととなった。

 なぜこうなったのかというと、遊べるうちに遊びたいという学生っぽい考え方だ。

 もちろん夏休みも遊べるのだろうが、放課後に遊ぶというのは結構ハイテンションになるものだ。

 それと同時にこれまできた異世界の使者と交流するという面もあるようだ。

 確かに能力、実力は理解は出来ているが、他の面での性格というか色々な面を知りたいのだろう。

 「麗華さん!こっちで遊びましょう!」

 「いやいやそれよりもこっちですよね!」

 「マセガキ共がなぁ、欲が出過ぎなんだよなあ。麗華さん構わずゆっくり決めてください。ついていきますから。」

 「あ?なんでくるんだ?」
 
 「何が悪いかい?」

 前言撤回だ。こいつらはただ女と遊びたい奴らの集まりだ。決して交流とかいうチャチなもんじゃない。

 「大原。」

 「ミーナさん。どうした…ああ…。」

 ミーナさんの後ろで悔しさを滲み出す男どもの姿が…。

 「まぁ少し案内してよ。あんまり回れてないからさ。」

 「まぁそれくらいなら…」「なら私たちも行きますよ。」

 そこには穂乃果と陸がいた。

 「私たちも案内できればちょうどいいですよね?」

 「ちょっ…急に何を」

 「まあまあ大原だけじゃ心配なんですよ。大原もそれでいいよな?」

 「え、うんもちろん。」

 少し穂乃果と陸には圧があった。

 それを何もないと感じるほど、俺は鈍くなくなってしまった。

 そんな事を頭の片隅に置いておいて早速ミーナさんを案内することとなった。

 「んで、ここなのか…。」

 「そうよ。ここを紹介せずして何が地球か!私たちの故郷!秋葉原!」

 穂乃果はどこから持ってきたのか眼鏡をかけ始める。

 「ミーナさんは機械ヲタク。ならば周るところもこの私にまかせてください。」

 この様子を見てもらえれば分かるだろうが、穂乃果は、ヲタクである。

 主に男性アイドルグループゲーム?なるものにハマっている。

 アキバに通い続けることも容易にある。

 「この二ヶ月間と何処ぞの寝たふりやろうに付きっきりであまり来れていなかったが、今まさに!神からの祝福を頂けるのです!」

 「大丈夫この子。痛くない?」

 「慣れました。」「まぁ最初は仕方がないかと。」

 ミーナは二人の達観ぶりに諦めて黙ってついていくことにした。

 結論から言おう。あまり楽しめなかったようだ。

 仕方のないことなのだが、雷の世界では地球に機器などを輸出したりしているので、見慣れたものも多いのだ。

 穂乃果は撃沈していたが、俺たち二人は豆知識を聞けてよかった。

 きっとネットショッピングをやられたら買っていただろう。

 ちなみに買おうとしたらアリサに言えばなんとかなると言われたので価値が下がってしまった。

 続いてアキバから移動するのだが、その際には穂乃果の能力を利用する。

 無重力空間を五メートルの範囲に展開し続ける事が出来るようになった。

 これはマスターブレイブとの修行で行った、円を用いたものである。

 円内にいるものは能力の範囲となる。

 尚、陣の場合はどのような攻撃も必中だ。

 魔力の消費も少ないので移動とかにも重宝している。

 まぁ、加減が難しかったりするがご愛嬌だろう。

 続いて向かったのはショッピングモールだ。

 なんでも苦しいらしい。胸筋が。

 なので新しい下着を買いたいのだそう。

 「見にくるなよ男ども。」

 「変態で前科はつきたくないね。」

 というひと言を添えて下着売り場に入っていく。

 「さて、作戦会議と行くか。」

 「は?」

 めちゃくちゃ低い声で陸が異様な雰囲気を持っている。

 「まずは大原くん。気配を取り出すことなどは出来るかな?」

 「なんなんだこれは…。」「答えなさい!」

 「ま、まぁやったことはないけど、もしかしたら出来るかもしれ…。」

 「ふむそれでいこう。」「なんなんだよ!」
 
 「ナニってそりゃあ、聞き耳を立てるしかないだろう。」

 「当たり前みたいに言うな。」

 「考えてもみろ!あの二人が下着を買う!?まだ育つというのかと思わないか?」

 そりゃあまぁ、成長期っていうのはなあ。

 「はっきり言って穂乃果はF、いやGに行ってもおかしくない。方やミーナさんはなんだあれは!?Hを超えてI⁉︎」

 「口が回るなお前。まぁよく見てるとも言えるか。」

 「ああ、見てるとも。少なくとも穂乃果はな。お前がいない時も見続けたよ。」

 また違う雰囲気だ。今度はふざける感じじゃない。

 「俺は穂乃果に告白したよ。お前が迷っている間にな。」

 「!」少し驚いた。

 片鱗は何となく感じていたが、このタイミングでか。

 「俺の見解を話すとな大原、お前期待を持たせるなよ。」

 期待を持たせる…。

 「そうだな…意気地なしにしか見えないよな。」

 「ああ、自分に嘘ついてるやつはどれだけ考えても前には進まないからな。」

 「なんだよ…嘘ついてるっていうのか?」

 「ああ、いくら何でもおかしいからなお前の反応は。」

 陸は俺に順を追って説明し始めた。

 「まずお前はあの二人に告白されてる。なら少なくとも意識はするはずだ。下半身が大きくなるのとは別にしてな。」

 「下ネタ回なの?今日。」

 「だがお前はしなかった。俺の能力で好きならどうなっているのかという予測を立てた。穂乃果の攻めにお前は一度も俺の予測が当たらなかった。たまたまという説もある。ならミーナさんはどうかってな。結果は同じだよ。どんな男でも深層心理では最愛の人に愛されたいものだからな。」

 「何が言いたい?」

 「つまりよ…お前にはお前の好きな奴がいるんじゃないかって予測を立てたわけだ。」

 「…俺は今二人の返事に対して悩んでて。」

 「ああ、今すぐじゃなくてもいいがな、晴れやかにならないのはそういう理由だろう。気づいているんだろ?考えないようにしても脳裏にはその人が…」

 「うるさいなあ…うるさいよ…本当。もういいでしょ…。お前ならこれで分かってくれるだろ?」

 「…お前が悩んでいたのはメンタル面だろう。けど、あの二人はきっとお前を受け止めてくれる。まぁ、それが幸か不幸かは分からんけどな。」

 「予測厨が…人を陥れて楽しいか?」

 「少なくとも俺が頑張ればいいだけだからな!」

 ガハハ!と笑う陸。

 「まぁあれだ。今日は俺はわかってるぞって事を伝えたかったんだよ。」

 陸は俺に手を差し伸べる。

 俺は何も言わずにその手を握る。

 いつもこうだ。こういう何かを伝えた後は何故か握手で締めるのだ。

 「まずはこの戦いを生き残るだけ。今はそれしか考えることしかできない。」

 「ああ、終わったら俺と穂乃果がくっついてハッピーエンドだ。」

 そんなくだらない事を言ってると、二人が戻ってきた。

 「お待たせ!」

 「待たせたかな?」

 「キリがいい。」「色々話せたからな。」

 いい時間帯だし集合場所に行こうという事で、ショッピングモールを後にする。

 ミーナは移動中に先ほどの話を思い返していた。

 「ねぇミーナさん。ミーナさんって将希の何処を好きになったの?」

 「へ?」

 唐突な質問に私は持っていた下着を落としてしまう。

 何も言わずに穂乃果は下着を拾うと、はっきりと自分の答えを言った。

 「私は誰にでも優しい将希が好き。彼を支えたいと思っている。私は伝えたよ?次はミーナさんの番だ」

 逃げ場が無くなってしまった。

 けど、私の答えはシンプルだ。

 「私の作ったものを褒めてくれた。私を一歩前に進ませてくれた人。それだけ。それだけの理由なんだ。」

 はあとため息をつかれた。

 何が悪い事を言ってしまっただろうか。

 「私はさ、将希をずっと見てきたの。んで彼が魔王軍を退けたって聞いて、自分から前に出るようになったんだと思った。けどその感じじゃやっぱり違うみたい。」

 穂乃果は下着をハンガーに戻し、服を着る。

 私もすぐに出られるように準備を進める。

 「彼はずっと後ろにいるの。」

 「後ろに?」

 「物理的に後ろにいるわけじゃない。言うなれば、精神的に支えてるのが大原将希という人物。私がそう感じるように、貴女も感じてるはず。」

 確かに彼を見ると自分は前を向いて歩いている気がする。

 けど、彼女の感覚とは近くとも位置が違うのだと思った。

 「私は一緒に歩いているのかなって思います。誰しもが同じ歩幅で歩いているとは限らない。先に行く人もいれば、立ち止まる人もいる。けどそんな時、横から肩を組むように共に歩き始める。先に行くものは優秀なのか、生き急いでいるか、分からないけれど、一瞬立ち止まって考える時間を与える。彼は、誰かと共に歩いていく人。そして、共に困難に立ち向かう人だと思います。」

 「なるほどね…。その感覚の方が近いかもしれない。」

 私に褒めてくれたら日、親との和解、アリサの仲間の仕方、ユナの説得もきっと困難を分かち合ったのだろう。

 大原将希という人間の強さは、ここにあるのだろう。

 「分かると思いますが、今言った話は大原将希のいる位置なんですよ。他人の困難には共に歩く人ですが、自分の困難には他者を巻き込まない。私は幼馴染ではあるかもしれませんが、将希君が引っ越してくる前のことは知りませんから。」

 「…他人を巻き込まない。それは分かる気がする。けど何でそこに大原の幼い頃の話になるの。」

 「彼の家族構成は、母、妹、叔父、祖母、祖父、犬。父親がいません。そして、彼が一言だけ言った言葉は、今なら父親をぶん殴れる。まぁあれですよ。離婚して正解だったって事です。」

 「!」

 大原将希という人物と過ごした時間は、穂乃果の方が上だ。

 穂乃果がそのことに関して語るのなら、ほとんど間違いはないだろう。

 「彼が人に優しいのは、間違いを見てきたからです。母親の育て方が良かったんですよ。」

 そう言って、下着の会計を済ませる。

 「それと知ってました?後一週間で将希の誕生日なんですよ?」

 「え⁉︎知らない!ちょっと、プレゼントどうしよう…」

 「お互い頑張りましょうね。」

 面白がりながら穂乃果は大原達の元へと向かう。

 ミーナはプレゼントのことを考えたまま、私たちはショッピングモールを後にしていった。

 午後六時ごろ、待ち合わせの焼肉店にたどり着いた。

 中では大勢の人がゾロゾロといた。

 賢者様のコネがあったようで、貸切状態となっている。

 注文はすでに行なっており、肉がずらりと並んでいる。

 「乾杯は各自でやってください。今はとりあえず楽しむのと、たくさんのお話を聞いてください。」

 ではと、梶原康生はアリサの元へと向かった。

 戦術面での話が主になっているが、意外と面白いのだろうか、周りを囲むぐらいの人がいる。

 俺たちも座敷に座り注文をして、質問攻めに合う。

 乾杯もクソもないくらいの大所帯。

 けど、この感じは少し気が緩んでしまうくらい楽しい時間だと思う。
 
 楽しい時間は過ぎ去っていく。













 「突然のことで申し訳ない。報告をさせてもらうためにこの場を借りさせてもらう。日本の総理大臣を殺させてもらった。ここから私たち魔王軍の侵攻とさせて頂こうと思う。」

 それが七月三十日。大原将希の誕生日に起こった出来事だった…。





 
 
 
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