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第七章 地球<アースター>編
この世界では
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アーシャとリサに頼まれて、俺たちは国会議事堂へと向かっている。
もちろん車でだ。
学校には穂乃果に先生を説得するように頼んだ。
まぁ恐らくは無理だろうけど。
このタイミングで面倒なことが多く起こるからそれもまたどうするのかを考えておくしかない。
「それで?どう断られたんです?」
俺にこうも必死になって頼むという事はそういう事なのだ。
政府を説得出来なかった。
恐らくは他の国にも行ったのだろう。
目ぼしいところは、イギリス、フランス、アフリカ、インド、中国、アメリカというところだろう。
恐らくは交渉(脅し)が成功したのだろう。
しかしながら、ここでは無理だったようだ。
理由は恐らく。
「その前兆がない。そこに時間を費やすのはもっての外だ。雷の世界のバックアップが無くても私たちは、有り余る知識を得た。そのようなものは脅しにはならん。ってな。流石にキレちまったよ。」
「姉さんが暴れないだけマシですよ。それよりもあの態度はおかしいと思います。悠長なのでは?早めの行動をするべきだと思うのですが。」
そうだね。早めのパブロンとも言うしね。
「まぁ、今は平和だから対処する事はないって事なんだろうね。だからって対策ぐらいは取っては欲しいけどね。」
それもやってくれるかどうか…。
アーシャたちと話している最中にも関わらず、俺はタイムズの言葉を思い出していた。
日本ではできない理由は平和過ぎてしまった事だ。それはいいことだ。いいことだが逆にいえば、突拍子もないこと、予想外の展開に弱いことがあげられるだろう。臨機応変など難しいだろう。
…平和ね。
戦争をしない事が平和だと言うのなら、生活が苦しい人たちはみんな平和に過ごせているのだろうか。
国会議事堂にたどり着くまでに、大原はどのように説得するかを思案し続けるのであった。
車で三時間。魔力によるショートカットで十分ほどで国会議事堂にたどり着いた。
車は遅い…というか決まった道を沢山の車が通るからしょうがないのだけど。
その点魔力を使っての移動は楽でいい。
都心はビルも多いから、渡って行けばすぐだからだ。
だからといって乱用できない状況ではあるのだが。
「とりあえずは賢者様になんとかしてもらってる。」
「?なら俺は要らないのでは?」
「所詮は異世界の者って事です。この世界の代表者を出さなければいけません。」
「まぁ代表者なんていないとたかを括っているんだろうけど、いるからなぁここに。」
アーシャは俺を見ながら歩き出す。
…期待に応えられるように頑張ろうと思う。
警備員に証明書を見せ、案内人の人が早歩きで案内してくれる。
赤い廊下を歩いて、扉の前に立つ。
「それじゃあ、行くよ?」
アーシャは俺に同意を求めているのだろう。
深呼吸を一度してから…もう一度して…も、もう一度
「あー!もう行くぞ!腹括れ!」
アーシャは勢いよく開ける。
そこには、多くの国会議員が賢者に言葉を投げつけていた。
その全てに賢者は笑顔で対応しているが、あれはもうギリギリのところだ。
扉が開かれた事に気づいた時に注目はこちらに向けられた。
そのタイミングを逃さないように、賢者はこう告げる。
「彼がその、私たちの世界の英雄であり、この世界をも救う者です!」
全てを、俺に集約させた。
俺はアーシャたちについていく。
俺の席はもちろんないので、アーシャたちの席のそばで立っている感じだ。
そして、賢者の隣でもある。
「ごめんなさい。貴方に任せるわね。」
「何するか分からないのですが?」
「難しい事はしなくていいわ、貴方はその経験を示すだけでいいのよ。」
そうして、賢者は自身の席へと座る。
そうは言っても、この重圧感。
ここにいる人全員が敵みたいなものだ。
一体一でも難しいのに、これは…。
「アルシア様がおっしゃっていた、異世界の英雄様、名前を教えて頂けますかな?」
色々と考えている中で、俺のことを言っているのだとわかった。
名前の札のところには、安田悠人と書かれていた。
「大原将希です。」
「大原さんですね。先ほどアルシア様にお聞きしたのですが、魔王軍は攻めてくるのですか?」
「…必ず、攻めて来ます。」
「では、その理由については何か知っておりますか?」
間髪入れずに質問をしてくる。
理由、理由は…。
「この世界の議員を、殺し尽くすためだからだと思います。」
その一言で、その場にいた人々はざわつき始めた。
「それは…どのような根拠を持っているのですか?」
「魔王軍の指揮官、タイムズスクエアが確かな怒りと共に話してくれました。そして、その為には戦争をすることも厭わないと。」
実際はそこまで言っていないが、間違いにはならないだろう。
「そもそもとしてだ!なぜそのようなことを魔王軍なるものがくるというのだ!我々の世界を脅かす理由がただの虐殺だと!?それが叶うとすれば、世界の征服ではないのかね?」
清元太郎なる人が俺に向かって怒鳴ってくる。
知らないよ…そんなこと。
「それも可能かもしれません。ですが、それは対策を練らなければの話です。今から対策を取っていけば、死者数は減ると思われます。」
「だが、国民にどう伝えるのだ?そのまま伝えてもパニックなるだけでは?」
「地震のせいにしとけばいんじゃないですか?」
日本は地震大国だし、勝手は効くだろうし。
そんな口論をしていると、ある人が手を挙げる。
その瞬間に全員の意識はその手に集まった。
「私からも質問をしても?」
「…もちろんです。」
名前の札には山崎純一と書かれていた。
そして、この人こそが、この国における、総理大臣その人だ。
この人の手腕は凄い。
税金が10から8パーセントに下げられた功績もありながら、その他にも子供を持つ世帯に微微たるながらも支援をしたりなど、多くの功績を持っている。
もちろん不満の声は多くある。
それでも、悪いところから徐々に良くなっていっているのは、誰がどう見ても明らかになるほどだった。
そんな人が、俺にどんな言葉を投げかけるのか。
「君は魔王軍という者たちに勝てるのですか?」
この場でいいにくいことを、真っ直ぐに伝えてきた。
これだ、何も言わせないようにさせる、直球の質問。
身も蓋もないありのままの言葉で、納得させる意見以外を淘汰する行動。
けれど、俺は間違いなくこう発する事は出来る。
「少なくとも、今のこの状況では勝てません。これは間違えないようのない事実です。」
再びざわつく国会内。
「あたしらもいるのに言ってくれんねー。」
「事実だから、しょうがないわよ。それよりも、ここまで開示されて、どう出るのかしらね。」
「…では、対策も何もないのでは?」
「対策は必要です!ですが、私が思う対策は、戦うための対策ではなく、生き残るために必要な対策をしてもらいたいのです!」
少しばかり考える山崎純一。
次の問いかけに対して、考えをまとめているのだろう。
「…そちらからの要望などはありますか?」
そしてこの問いだ。
山崎自身も考えをまとめておきながら、こちらの対策方法を聞いてくる。
つまりはこれは、議論になる話し合いだ。
大原のぶっちゃけまくりの語りのおかげで、なんとか土台は敷けた。
ここからは落とし所を見つけるしかない。
が、そうはならないのがこの現場だ。
「ふざけるな!そんな不確実なものに私たちが、時間を浪費する必要性がどこにある!その他にも我々には議論するべき問題が多く存在するのだ!突拍子もなく、戦争など起きるはずもないだろう!」
言っている事は正しい、というよりもそう考える方が普通だ。
戦争には必ず前兆、もしくはターニングポイントが存在する。
まぁそうなるだろうと予測できる理由もあるだろうが、大抵はそんな事で?という理由で起きる事が多い。
前回の例で言うと、大原将希を殺すことだけの理由で戦争は起こってしまった。
賢者の動向や威力偵察という面もあったのだろう。
だが、その程度の理由で奴らは来る。
しかしながら、議員にも国をまとめる立場という面もある。
両立は難しいだろう。
「人の命よりも、国の情勢が重要なのですか?」
大原が考えている最中に、リサは我慢できずに言葉を発してしまった。
その言葉に反応して、我慢していた議員たちが、一斉に畳み掛ける。
「対策をするにしても時間は?どれほどの国民が信じるのだ!信ぴょう性がなさすぎる!」
「魔王軍には勝てないと言っていたが!どれほどの強さなのだ!我々は能力者だ!多少の有利不利が働いて、我々にも勝機はあるはずだ!」
「あ?」
マジか。
こいつらは他の世界のことを知っているのだろう?
雷の世界や風の世界ともいくらでも貿易を交えているはずだ。
それで、能力さえあればなんとかなる?
こいつら、能力者なら魔力が多少は見えてもおかしくないのに、実力差が分かっていないのか?
…今にして思えば、賢者にあれほどの大口を叩いていたのは、自分たちは対等だと思っていたからなのか。
なら、きっと、申し訳ないが、落とし所は、ここだ。
リミッターを解除し、この場にいるすべての議員に、魔力による圧をかける。
「っちょ!?大原君!?いくらなんでもそれは!」
「賢者様、危機感がないから動かないんですよ。他の国では何かがあれば地下シェルターなり何なりと、いろいろな手段を用いてくれるでしょう。が、この国に地下シェルターなるものはないに等しい。なので対策は必須、重い腰を上げさせるには、危機感が必要なんですよ。」
半ば強引に賢者を説得させる。
黙りこくってしまった国会に、賢者の声が響き渡る。
「残念ながら、今のこの程度でびびってしまっては、咄嗟に生き残る術を手繰り寄せるのは困難です。ここにいる全員で魔王軍と戦っても、魔王軍側近を二人ほど相手してそれで終わりです。国民全てを守れとは言いません。それでも、一人でも多くの人を生き残らせるために、ご検討くださいますようお願いします。」
賢者たちは深々と頭を下げる。
反射的な反感はない。
しかし十秒ほどの間が空いた後、山崎純一が発した。
「ありがとうございます。アルシアさん。今のところは、他の議員の意見も聞いていませんが、私としては前向きに検討…いえ、善処するという方が正しいでしょうか。彼の力を持ってしても勝てないという事は、被害は予想を遥かに上回るでしょう。少なくとも我々は対策を講じます。それでいいですか?」
「…はい。それで問題ありません。」
賢者はそのように落とし所をつけたようだ。
とりあえずは山場は超えたらしい。
「ふぅ。」
大原は椅子に寄りかかり、息を吐く。
アーシャからこのままいてくれと頼まれたので、とりあえずは発言はせずに、ずっと座っていた。
あれから二時間ぐらいは座っていた。
議論は滞りなく進んでいった。
たまに俺の顔を伺うようにこちらを見てくるので、ちょっとだけ脅かしたりして暇を潰していた。
いい大人がだらしないねー。
最終的には進めていく、一ヶ月もすればきっと多分なんとかなるといった感じだ。
なんともならないねこれ。
流石に急を要したので、しょうがないとなり、それで解散となった。
時刻は六時前。
雨が降りそうな雲行きだ。
帰りは途中までライトニングの車に乗せてもらって、固まった体をほぐすように、魔力を使って家にまでついた。
家の中に入ると、母さんからテレビを見るように言われた。
そこには、国会での会議が映されていた。
つまりは、俺もいるわけで、面倒なことになったかもしれないと、そう思った。
もちろん車でだ。
学校には穂乃果に先生を説得するように頼んだ。
まぁ恐らくは無理だろうけど。
このタイミングで面倒なことが多く起こるからそれもまたどうするのかを考えておくしかない。
「それで?どう断られたんです?」
俺にこうも必死になって頼むという事はそういう事なのだ。
政府を説得出来なかった。
恐らくは他の国にも行ったのだろう。
目ぼしいところは、イギリス、フランス、アフリカ、インド、中国、アメリカというところだろう。
恐らくは交渉(脅し)が成功したのだろう。
しかしながら、ここでは無理だったようだ。
理由は恐らく。
「その前兆がない。そこに時間を費やすのはもっての外だ。雷の世界のバックアップが無くても私たちは、有り余る知識を得た。そのようなものは脅しにはならん。ってな。流石にキレちまったよ。」
「姉さんが暴れないだけマシですよ。それよりもあの態度はおかしいと思います。悠長なのでは?早めの行動をするべきだと思うのですが。」
そうだね。早めのパブロンとも言うしね。
「まぁ、今は平和だから対処する事はないって事なんだろうね。だからって対策ぐらいは取っては欲しいけどね。」
それもやってくれるかどうか…。
アーシャたちと話している最中にも関わらず、俺はタイムズの言葉を思い出していた。
日本ではできない理由は平和過ぎてしまった事だ。それはいいことだ。いいことだが逆にいえば、突拍子もないこと、予想外の展開に弱いことがあげられるだろう。臨機応変など難しいだろう。
…平和ね。
戦争をしない事が平和だと言うのなら、生活が苦しい人たちはみんな平和に過ごせているのだろうか。
国会議事堂にたどり着くまでに、大原はどのように説得するかを思案し続けるのであった。
車で三時間。魔力によるショートカットで十分ほどで国会議事堂にたどり着いた。
車は遅い…というか決まった道を沢山の車が通るからしょうがないのだけど。
その点魔力を使っての移動は楽でいい。
都心はビルも多いから、渡って行けばすぐだからだ。
だからといって乱用できない状況ではあるのだが。
「とりあえずは賢者様になんとかしてもらってる。」
「?なら俺は要らないのでは?」
「所詮は異世界の者って事です。この世界の代表者を出さなければいけません。」
「まぁ代表者なんていないとたかを括っているんだろうけど、いるからなぁここに。」
アーシャは俺を見ながら歩き出す。
…期待に応えられるように頑張ろうと思う。
警備員に証明書を見せ、案内人の人が早歩きで案内してくれる。
赤い廊下を歩いて、扉の前に立つ。
「それじゃあ、行くよ?」
アーシャは俺に同意を求めているのだろう。
深呼吸を一度してから…もう一度して…も、もう一度
「あー!もう行くぞ!腹括れ!」
アーシャは勢いよく開ける。
そこには、多くの国会議員が賢者に言葉を投げつけていた。
その全てに賢者は笑顔で対応しているが、あれはもうギリギリのところだ。
扉が開かれた事に気づいた時に注目はこちらに向けられた。
そのタイミングを逃さないように、賢者はこう告げる。
「彼がその、私たちの世界の英雄であり、この世界をも救う者です!」
全てを、俺に集約させた。
俺はアーシャたちについていく。
俺の席はもちろんないので、アーシャたちの席のそばで立っている感じだ。
そして、賢者の隣でもある。
「ごめんなさい。貴方に任せるわね。」
「何するか分からないのですが?」
「難しい事はしなくていいわ、貴方はその経験を示すだけでいいのよ。」
そうして、賢者は自身の席へと座る。
そうは言っても、この重圧感。
ここにいる人全員が敵みたいなものだ。
一体一でも難しいのに、これは…。
「アルシア様がおっしゃっていた、異世界の英雄様、名前を教えて頂けますかな?」
色々と考えている中で、俺のことを言っているのだとわかった。
名前の札のところには、安田悠人と書かれていた。
「大原将希です。」
「大原さんですね。先ほどアルシア様にお聞きしたのですが、魔王軍は攻めてくるのですか?」
「…必ず、攻めて来ます。」
「では、その理由については何か知っておりますか?」
間髪入れずに質問をしてくる。
理由、理由は…。
「この世界の議員を、殺し尽くすためだからだと思います。」
その一言で、その場にいた人々はざわつき始めた。
「それは…どのような根拠を持っているのですか?」
「魔王軍の指揮官、タイムズスクエアが確かな怒りと共に話してくれました。そして、その為には戦争をすることも厭わないと。」
実際はそこまで言っていないが、間違いにはならないだろう。
「そもそもとしてだ!なぜそのようなことを魔王軍なるものがくるというのだ!我々の世界を脅かす理由がただの虐殺だと!?それが叶うとすれば、世界の征服ではないのかね?」
清元太郎なる人が俺に向かって怒鳴ってくる。
知らないよ…そんなこと。
「それも可能かもしれません。ですが、それは対策を練らなければの話です。今から対策を取っていけば、死者数は減ると思われます。」
「だが、国民にどう伝えるのだ?そのまま伝えてもパニックなるだけでは?」
「地震のせいにしとけばいんじゃないですか?」
日本は地震大国だし、勝手は効くだろうし。
そんな口論をしていると、ある人が手を挙げる。
その瞬間に全員の意識はその手に集まった。
「私からも質問をしても?」
「…もちろんです。」
名前の札には山崎純一と書かれていた。
そして、この人こそが、この国における、総理大臣その人だ。
この人の手腕は凄い。
税金が10から8パーセントに下げられた功績もありながら、その他にも子供を持つ世帯に微微たるながらも支援をしたりなど、多くの功績を持っている。
もちろん不満の声は多くある。
それでも、悪いところから徐々に良くなっていっているのは、誰がどう見ても明らかになるほどだった。
そんな人が、俺にどんな言葉を投げかけるのか。
「君は魔王軍という者たちに勝てるのですか?」
この場でいいにくいことを、真っ直ぐに伝えてきた。
これだ、何も言わせないようにさせる、直球の質問。
身も蓋もないありのままの言葉で、納得させる意見以外を淘汰する行動。
けれど、俺は間違いなくこう発する事は出来る。
「少なくとも、今のこの状況では勝てません。これは間違えないようのない事実です。」
再びざわつく国会内。
「あたしらもいるのに言ってくれんねー。」
「事実だから、しょうがないわよ。それよりも、ここまで開示されて、どう出るのかしらね。」
「…では、対策も何もないのでは?」
「対策は必要です!ですが、私が思う対策は、戦うための対策ではなく、生き残るために必要な対策をしてもらいたいのです!」
少しばかり考える山崎純一。
次の問いかけに対して、考えをまとめているのだろう。
「…そちらからの要望などはありますか?」
そしてこの問いだ。
山崎自身も考えをまとめておきながら、こちらの対策方法を聞いてくる。
つまりはこれは、議論になる話し合いだ。
大原のぶっちゃけまくりの語りのおかげで、なんとか土台は敷けた。
ここからは落とし所を見つけるしかない。
が、そうはならないのがこの現場だ。
「ふざけるな!そんな不確実なものに私たちが、時間を浪費する必要性がどこにある!その他にも我々には議論するべき問題が多く存在するのだ!突拍子もなく、戦争など起きるはずもないだろう!」
言っている事は正しい、というよりもそう考える方が普通だ。
戦争には必ず前兆、もしくはターニングポイントが存在する。
まぁそうなるだろうと予測できる理由もあるだろうが、大抵はそんな事で?という理由で起きる事が多い。
前回の例で言うと、大原将希を殺すことだけの理由で戦争は起こってしまった。
賢者の動向や威力偵察という面もあったのだろう。
だが、その程度の理由で奴らは来る。
しかしながら、議員にも国をまとめる立場という面もある。
両立は難しいだろう。
「人の命よりも、国の情勢が重要なのですか?」
大原が考えている最中に、リサは我慢できずに言葉を発してしまった。
その言葉に反応して、我慢していた議員たちが、一斉に畳み掛ける。
「対策をするにしても時間は?どれほどの国民が信じるのだ!信ぴょう性がなさすぎる!」
「魔王軍には勝てないと言っていたが!どれほどの強さなのだ!我々は能力者だ!多少の有利不利が働いて、我々にも勝機はあるはずだ!」
「あ?」
マジか。
こいつらは他の世界のことを知っているのだろう?
雷の世界や風の世界ともいくらでも貿易を交えているはずだ。
それで、能力さえあればなんとかなる?
こいつら、能力者なら魔力が多少は見えてもおかしくないのに、実力差が分かっていないのか?
…今にして思えば、賢者にあれほどの大口を叩いていたのは、自分たちは対等だと思っていたからなのか。
なら、きっと、申し訳ないが、落とし所は、ここだ。
リミッターを解除し、この場にいるすべての議員に、魔力による圧をかける。
「っちょ!?大原君!?いくらなんでもそれは!」
「賢者様、危機感がないから動かないんですよ。他の国では何かがあれば地下シェルターなり何なりと、いろいろな手段を用いてくれるでしょう。が、この国に地下シェルターなるものはないに等しい。なので対策は必須、重い腰を上げさせるには、危機感が必要なんですよ。」
半ば強引に賢者を説得させる。
黙りこくってしまった国会に、賢者の声が響き渡る。
「残念ながら、今のこの程度でびびってしまっては、咄嗟に生き残る術を手繰り寄せるのは困難です。ここにいる全員で魔王軍と戦っても、魔王軍側近を二人ほど相手してそれで終わりです。国民全てを守れとは言いません。それでも、一人でも多くの人を生き残らせるために、ご検討くださいますようお願いします。」
賢者たちは深々と頭を下げる。
反射的な反感はない。
しかし十秒ほどの間が空いた後、山崎純一が発した。
「ありがとうございます。アルシアさん。今のところは、他の議員の意見も聞いていませんが、私としては前向きに検討…いえ、善処するという方が正しいでしょうか。彼の力を持ってしても勝てないという事は、被害は予想を遥かに上回るでしょう。少なくとも我々は対策を講じます。それでいいですか?」
「…はい。それで問題ありません。」
賢者はそのように落とし所をつけたようだ。
とりあえずは山場は超えたらしい。
「ふぅ。」
大原は椅子に寄りかかり、息を吐く。
アーシャからこのままいてくれと頼まれたので、とりあえずは発言はせずに、ずっと座っていた。
あれから二時間ぐらいは座っていた。
議論は滞りなく進んでいった。
たまに俺の顔を伺うようにこちらを見てくるので、ちょっとだけ脅かしたりして暇を潰していた。
いい大人がだらしないねー。
最終的には進めていく、一ヶ月もすればきっと多分なんとかなるといった感じだ。
なんともならないねこれ。
流石に急を要したので、しょうがないとなり、それで解散となった。
時刻は六時前。
雨が降りそうな雲行きだ。
帰りは途中までライトニングの車に乗せてもらって、固まった体をほぐすように、魔力を使って家にまでついた。
家の中に入ると、母さんからテレビを見るように言われた。
そこには、国会での会議が映されていた。
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