セブンスワールド〜少年、世界を知る〜

七瀬界

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第七章 地球<アースター>編

退院前日

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 穂乃果が帰った後、痛み止めをもらった。

 痛み止めは二十四時間効果がある。

 6時ごろに貰ったのだが、白石さん曰く。

 定時なので。とのことだった。

 ま、まぁそりゃあ定時で帰りたいもんだようん。

 そこから入院食というよりかはガッツリ食べた。

 賢者様の手作りだ。

 昼は周りの目があるからダメだが、夜なら大丈夫らしい。

 見回りも賢者様の刺客?らしいし。

 とりあえず、久々の地球の食べ物だ。

 いつも食べていたものがいつも以上に美味しく感じる。

 他の世界の料理も美味しかったが、これが故郷の味かと、しみじみ思うのだった。

 夕飯を食べ終わったら軽く身体を拭いてもらって就寝。

 思っていたよりも疲れていたらしく、目を閉じてからすぐに落ちてしまった。

 次の日からはリハビリの毎日だった。

 身体に魔力操作を行って鬼ごっこを行ったり、取り出す能力の精度を試してみたりなどをした。

 三日目ぐらいから身体の感覚が戻ってくる感覚があった。

 実戦を模した軽い模擬戦をやったりして一週間のリハビリを終えたのだった。

 そして、この一週間の午後の時間は勉強タイムだった。

 穂乃果が持って来てくれた問題集や宿題などを、面会ギリギリまで行った。

 たまにスキンシップを挟んで来るのであまり身にはつかなかった。

 けど教え方は上手く、いなくなってからもう一度やってみると理解できるようになっていた。

 けど賢者様からは、因果の眼が発動してたけど、それ本当に大丈夫?と言われてしまった…。

 そんなことを繰り返して、退院の前日の夜になった。

 その日の大原は夜遅くまで夜空を眺めていた。

 理由?理由は、やばい状況だからである。

 「いつから気づいていた?」

 急に病室に現れた男は、フードの男ミスターOと一緒にこの場に来ていた。

 そして俺はこいつを見たことがある。

 「ついさっきかな。消灯時間になったときに何か違和感を感じたからさ。んで、このタイミングで殺しに来た…わけじゃなさそうだね。タイムズ・スクエア?」

 タイムズ・スクエア。

 人間でありながら、魔王軍に組みする謎の存在。

 裏で指揮を執っているのはコイツだというが…真相は分からないままだ。

 それに、賢者様と知り合いだ。
 
 俺を殺す計画をしに来たわけではないというのが、何となくだが雰囲気でわかる。

 「ご名答だ。俺は君に話があって来たのだから。」

 そう言ってすぐそばにある椅子に座る。

 「さて、賢者もいるのだろう?どうせ奇襲なんて無理なんだ。こちらで話を聞く方が良いと思うが?」

 その言葉を聞いていたのか賢者様はすぐに病室に来た。

 「まさかこんな事をするなんてね。」

 「大原将希とは一度話してみたかったんだ。直で見て判断するのもいいと思ってな。」

 賢者はタイムズの隣に座る。

 「もっと時間がかかるものだと思っていた。」

 大原は魔王軍がもっと遅くにこの世界に来るものだと思っていたのだ。

 「流石にすぐには来れんな。戦艦の補強や補給に時間はかかるからな。俺たちだけで来ただけのことだ。」

 タイムズは情報を提供してくれた。

 タイムズの話し方は淡々としている。

 感情がない…表現が乏しいというのだろうか…そんな感じの話し方だ。

 タイムズは一拍おいて話し始めた。

 「では今回話す内容は、何故この世界なのかという事だ。」

 この世界を攻める理由…。

 確かにこの世界をなぜ攻めるのかなんて分かるはずもない。

 俺が風の世界で止まる可能性もあるのだから。

 「簡単に言おう。この世界が終わっているからだ。」

 終わっている?どこが終わっているのだろうか。

 その疑問にタイムズはすぐに答えた。

 「この世界の者たちは自分で判断して動けないのだ。結局は上の指示に従って行動していることには変わりがないのだ。それは、あまりにも終わっている。」

 「けど上下関係は大切でしょ?」

 「それはそうだ。誰かが指示しなければならない事などいくらでもある。
 が、だからといって仕事以外で上の指示を待って行動しないのはおかしいという事だ。
 例えていうなら、俺たちがこの世界に戦争を仕掛ける。だがこの者たちはおそらくは最初は逃げるも隠れる事もしないのだ。人一人殺されてから現状を理解するのだ。自分で判断していれば何とかなったかもしれない。だが上の者、政府の指示は手遅れになる場合が多い。虐殺が行われた後にその指示が出されるだろう。
 それはどうなんだ?自分が考えて動くことも出来るはずだろう?現に風の世界では戦場に立つ者、後ろで出来る事をする者で出来ていた。あれは自分たちの出来る事を考えて行動したから出来ることだ。
 それが、この世界では、日本では出来ない。」

 タイムズは断言した。

 この国ではできないと。

 自分で考えて行動すること。

 単純なことだけど、今までそれが曝け出されたことはあっただろうか?

 世界ではデモ等が起こっているがこの国では起こす気もないのだろう。

 人一人の声などたかが知れてるのだ。

 一票の格差だのあるのだろう。

 だが、遅かったのだ。

 今の政府にはきっとこの現状を打破するものは持ち合わせていないだろう。

 そして戦争が起こった時、全滅は目に見えてる。

 なぜならば、

 「日本ではできない理由は平和過ぎてしまった事だ。それはいいことだ。いいことだが逆にいえば、突拍子もないこと、予想外の展開に弱いことがあげられるだろう。臨機応変など難しいだろう。だが、他の世界では何かしらのアクションはとってきていたのだ。おそらくは、この世界の政府は魔王軍の同行を知るものもいるだろうしな。」

 「やっぱり、上の人は知っていたのか。」

 「大原を含めたこの世界での下位の存在には情報として漏らしてはいないだろう。理由はおそらく、異世界というところに興味を持つものがこの世界には多いからだ。アニメや漫画と言ったもので、非現実的なものをよく目にしているものは多くいる。そんなものたちに異世界があると伝えれば、皆異世界に行くに決まっている。」

 確かに。俺もテンション上がったし、楽しかったし。

 そりゃあ行きたくもなるね。

 「けどこの世界での特徴は魔力を使用しない点にあるわよね。」

 賢者が話しに入ってくる。

 俺もあの世界に行くまで魔力なんて知りもしなかった。

 なぜだ?

 「坊やだからさ。この世界の人間は調子に乗ると破壊衝動が芽生えてくるからな。力こそ全ての世界になるなんて予想にたやすい。」

 あー俺もそれ知ってたらいじめた奴らぶっ飛ばしてたかもなあ。

 「この先の俺たちの計画には必要がない人間たちだ。何度やってもな。どうしようもない者たちが多すぎるのだ。それが理由みたいなものだな。」

 おそらくそれが主な攻める理由だろう。

 けど細かく分けると多くの理由が含まれていそうだ。

 話が終わったとみるや、ミスターOがペットボトルに入ってる水を持って来てくれた。

 賢者にもタイムズにも渡していた。

 「毒とか入ってる?」

 「開けてねぇから。」

 賢者はキャップを回すと大丈夫そうとみるとゴクゴクと飲み始めた。

 俺も開けてバキバキという音が鳴ったので大丈夫だと判断した。

 「ありがとう…。」

 「まぁ、警戒するのはいいことだ。」

 ミスターOはタイムズの後ろに立つ。

 彼は彼なりの立ち回りがあるのだろう。

 少しの休憩を挟んだところでタイムズはこんな事を言って来た。

 「正直言って、君がこの戦いに参加することはこちらの計画としては喜ばしいことだ。蹂躙と目標の人物を殺すチャンスが出来るわけだからな。」

 「それ、言うんですね。」

 「もちろんだ。何せ君は、戦うしかないのだから。何か間違ったことを言っているかい?」

 この話を聞いて、俺は戦争になったら他の世界に逃げる事を考えるべきなのだろう。

 けど、コイツらは少なくとも正しいとは思えない。

 手段を選ばずに計画に必要ないと、この世界を危険に晒す奴等を許すわけにはいかない。

 「その通りだとも。俺はお前たちと戦うよ。」

 意を決して、この者たちに宣言する。

 「なら、覚悟しておくといい。君には…いや君たちには他の国はどうにか出来るとしても、日本という国はどうにも出来ない事をな。」
 
 「確定はしていない。まだ行動もしていないのに、諦めることなんてしないよ。」

 タイムズは立ち上がった。

 「そうか。忠告はしたぞ。君たちの頑張りが無駄にならないことを、心から願っているよ。」

 棒読みとは違う。

 けどこいつの言葉から、心からという言葉ほど信用ならないものはないと思った。

 タイムズとミスターOは病室の扉の方へと向かっていった。

 「ああ、これは言っておかないとな。」

 タイムズたちは立ち止まってこちらを向く。

 「夜遅くにすまなかったな。」

 そう言って、こちらの返事を待たずに病室を後にした。

 「相変わらず、読めないやつね。」

 賢者の味方には俺も賛成だ。一体どこまで深い意味があったのだろうか…。

 「さて、大原君も眠りなさい。少なくとも一ヶ月は猶予はあると思うわよ。」

 一ヶ月か。

 おおよそはそのくらいか。

 ならその間に対策等は練らないといけないかもしれない。

 どうにかはしていかないと。

 「大原君はこの世界では普通の人。ただの未成年。政府に話を通すには無理があるわね。」

 それは確かに。大人でもそんなことは出来ないのだ。

 力で押したところでそれは違うと思うしなぁ。

 「だけど来週あたりから彼女たちが動き出すわ。」

 彼女たち…なるほど。本当に凄いんだ。科学の力。

 「雷の世界エクスター代表、アーシャ・ライトニング、リサ・ライトニング。この地球での貿易で守るための交渉をしてもらいます。そこに大原君、日本の政治家たちに話しが出来ると思うわ。」

 この二人の協力があればなんとかなりそうだ。

 「こっちに来た時には連絡をしてくれるとありがたいのだけど。」

 「分かったわ、伝えておくわね。じゃあ私はこの辺で、おやすみなさい、大原君。」

 賢者は転移していった。

 色々なことが話されていたが、何となくぐらいに留め、結局は攻めてくるのだという結論を出し、大原は眠ったのだった。

 







 
 
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