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第六章 魔王軍襲来 風の世界<フーリアスター>編

104.魂の帰還

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 次の日。

 大原が地球に帰る日だ。

 だが大原が帰る時間は、

 「あ、夜なんだ。」

 アリサはちょっと驚いてはいたが、許容範囲だと言わんばかりの余裕さを見せていた。

 「良かった、実はこの話の後に大原を送る会みたいなことをやろうと思っていたから。」

 「良かった、俺も朝に賢者から言われたから。」

  「あー、あの人はやっぱおっちょこちょい?」

 「威厳なんてなかっただろ?」

 確かにと話しながら、ギルドの外に出る。

 外に出ると、多くの人がギルドの前に集まっていた。

 この集まりはギルドの声明、賢者や神谷の巫女の伝達を駆使して集められた。

 念には念を、ファスティアさんに空から中継してもらっている。

 そして、今この場で一番注目されているのが、エノス団長。

 元々はアリサが宣言するつもりだったらしいが、団長に代わった。

 アリサが自分から団長に頼んだようだ。

 どのような話をするのかは俺はよく知らない。

 ただ、俺自身に関係するようなことらしいが…。

 そんな事を考えていると、団長がマイクを取り、咳払いをした。

 ざわざわとした空気は一瞬にして静まり返った。

 「えー、まずは集まってくれてありがとう。今回集まってもらったのはこれからのことについてだ。」

 これから?どういうことだ?という声が多く聞こえてくる。

 「そのこれからのことだが、君たちに報告することがある。魔王軍は地球に侵攻することが分かっている。」

 さらに首を傾げることになる。

 その報告にどのような意図があるのか。

 一言話すたびにざわつきが大きくなっていく。

 「そして、侵攻する地球は大原将希君の故郷でもある。」

 そこで腑に落ちたのか一瞬静まり返る。

 「彼はこの世界を守るためにきた者の一人だ。賢者によって連れて来られ、多くの仲間と共に戦って、この世界を救った一人だ。彼の故郷が魔王軍に侵略されるというのは、あまりにも辛いことではないだろうか?」

 「まさか…団長は…。」

 この人達に協力を?

 「我々はこれから、魔王軍に対抗するために作戦会議を随時行なっていく。だが、これは今回の戦いとは違う!我々は自分たちで地球に向かい戦う。これは、違う意味で言うなれば、死ににいくようなものだ。しかし!
我々は彼に恩を返すべきだと考える!そのために戦う事を決めている!彼が私たちの世界を守ってくれたように、あなた方も地球に向かってもらい、地球という世界を守るためにまた戦ってはくれないか!この通りだ!」

 深々と頭を下げるエノス。

 それに呼応するようにみんな頭を下げている。

 アリサもユナさんも龍也も麗華さんも、イノスもマスターブレイブもライトニングの姉妹も総じてだ。

 俺はその光景に驚きを隠せず、ぼうっと突っ立っていることしか出来なかった。

 集まった人達も驚いていたが、次第に自分たちで考えるようになった。

 「団長!それは強制なのか!?」

 「強制ではない!わざわざ戦いに行きたいものなどいるはずもない。故に、覚悟がある者達が共に戦える事を願う。」

 その言葉を聞いて、少しずつだが帰っていく人が出てきた。

 悪態を突くものはいない。

 みんなそれほど大原将希という人間に恩を感じていたのだろう。

 だが、それと戦う覚悟とは違う。

 俺はそれはしょうがないと思う。

 「全く、ここまで大原将希が頑張って、故郷が侵略されたら元も子もねぇじゃねぇか。俺は戦うぜ?お前らはどうだ?」

 「ヤローさんが言うならば。」

 「やるしかないっしょ?」

 「我らのリーダーは勢いが強いから困る。」

 「だからって、否定はしないですよね?」

 「無論だ。僕は頭の悪い奴は嫌いだけど、やるべき時にやらないやつの方がもっと嫌いだ。もしもヤローが行かないと言えば、僕はこのチームを抜けてる。」

 「へっ!というわけだ!ヤローチームはまだ戦える!」

 「ヤローさん…。」

 「まぁ結局変わらないよねぇ。前線に出ていたほとんどの人は、大原将希の活躍を知っているんだから。」

 「ラムズさん…」

 「だろうな。人手がいる今、俺たちが行かなくてどうする?」

 「ガラムさん…」

 「ああ、あいつには助けられたんだ。今度は俺が助けてやらんとな。」

 「レオス…。」

 「ここまで来たんだから、協力はしないとね。」

 「主人が言うのであれば。」

 「どこまでもついて行きます。」

 「馬鹿だね。お前たちも、同じ気持ちであったろうに…。」

 「光の使者の皆…」

 「俺たちは地球には行けないが、武器を作ることは出来る。今回の戦いには間に合わなかったが、出来上がっている武器もある。存分に使うといい。」

 「ウオラさん…」

 「私も戦うわけではありませんが、サポートはさせてもらいます。」

 「フレンさん…」

 「逃げるわけない。まだ返事もらえてないんだから。」

 「気まずいです、それ。」

 「名前呼んでよ⁉︎」

 ミーナさんは昨日今日で凄いよ全く。

 その後残った人達は、前線に出ていた人達がそのまま残った形だった。

 「皆、ありがとう…!」

 再び深々と頭を下げる。

 その様子を見ていて、何も言わないのは違うと思い、団長からマイクをもらい、前に出た。

 「皆さん、地球を助けるために立ち上がってくれてありがとうございます。皆さんの覚悟は変わらないと思うので、皆で生きて俺に皆を地球のおすすめのところを案内させて下さい!」

 いいじゃないか!その言葉忘れんなよ!

 など多くのヤジが飛び交っていった。

 緊迫した感じで終わるのではなく、明るい感じで終わるのが、大原将希という人間の在り方なのだろう。

 最後に、大原が帰る時間帯を教えて一時解散となった。

 解散した後、元いた世界に帰ると光の使者、レオス、アーシャ、リサが別れの挨拶にやってきた。

 「僕たちは一度自分の世界に帰って、また執事に修行をつけてもらうよ。マスターブレイブほどではないにしても、剣の達人ではあるからね。」

 グリムは自慢するように説明してくれた。

 「また強くなってまた戦ってくれるんだ。」

 「当たり前さ。僕よりも強い相手は多くいる事をこの戦いで知った。まずはこの力をうまく使えるようにしないと。」

 グリムの手の甲には、すべての龍の証が刻まれている。

 「そっか、じゃあまたよろしく。」

 大原は手を差し出す。

 それに応えるようにグリムも手を差し出し、硬い握手を交わした。

 後ろで何も言わずに見届けていたエリックさんと、ルミナさんとも握手をした。

 「お二人もお元気で。」

 「はい。そちらも頑張ってください。」

 「また、共に戦い抜きましょう。」

 そしてその後、アリサとユナさんもやってきた。

 「なんだ、もう帰るのか。大原が帰るまでいればいいのに。」

 「この世界での目的は達成したからね。正直、魔王軍との戦いはオマケみたいなものさ。だが、お前の元で戦えたのはとても良いことだった。」

 「そりゃよかった。王子に褒められて嬉しいよ。」

 「また頼むぞ?」

 「さあ?お気に召す作戦が立てられますかねー?」

 ニシシシと悪い笑みをこぼす二人を他所目に、ユナはエリックとルミナに会っていた。

 「皆さんとお会いできて本当に良かったです。」

 「いえ、こちらこそグリム様の剣を作ってくださりありがとうございました。ウオラ様にもお伝えください。」

 「分かりました。」

 「しかし、属性龍エレメンタルドラゴンの時のメンバーが、今見るとこの戦いで活躍したもの達ばかりだとは…。そう言えばミーナ殿は?」

 「賢者様のところに。大原さんの帰る手伝いをしています。」

 「なるほど。彼女の作ったものは素晴らしいものばかりだった。この戦いが終わったら、工房に案内してもらえないか聞いてくれませんか?」

 「分かりました。伝えておきますね。」

 「お前たち!そろそろ行くぞ。」

 「「はっ!」」

 伝えるべきことは伝えたと言わんばかりに、光の使者はその場を後にした。

 俺たちはその帰路を見えなくなるまで見届けた。

 次に来たのはレオスだった。

 「俺は大原が帰ったのを見届けてから帰ろうと思っている。理由?理由は…足手まといになりたくないだけだ。」

 「え?そんなことはないはずだけど…。」

 「いや、俺は効果の能力を使って簡単に貫通させられた。あれは本来あってはならないことだ。それに、俺に足りないところが多いことが分かった。それを克服までとはいかずとも、対策は講じていきたい。」

 「ということは…」

 「またレグルスと修行の日々だ。」

 レグルス。

 今回は来なかったけど、次の戦いでもしかしたら…。

 「まぁ大変な時だが、次は俺がお前を助けてやる。」

 そんな事をレオスは言い切った。

 すでに助けられているのだけど…。

 「その時は頼むよ。」

 「ああ。ではまた夜にな。」

 レオスはギルドを後にしていった。

 最後に来たのがライトニング姉妹だ。

 「あれ?アリサは帰らないんだ。」

 「あたしは妹なので、面倒なのはやらなくてもいいんだよねー。」

 げ、ゲスな顔してらあ。

 「そこまでストレートに言われると帰したくなるわね?」

 「私らがどんだけ大変か分かってないくせしてからになぁ⁉︎」

 二人は今にも殴りかかりそうだ。

 「というか、帰って何するか聞いても?」

 「レポートを書かないといけないし、何よりも地球の事を調べないと。」

 報告書等はまぁわかるとして、何故地球のことを?

 そこまで調べることあっただろうか?
 
 「まぁ次の魔王軍の狙いが地球って聞いたら、お父様もお母様も強力に割いてくれるだろうね。」

 「え?中立国家なのに?」

 「何げ繋がりは深いんだ、地球とは。秘密裏にね。」

 「日本やアメリカなどの国、五十くらいは仲良くさせてもらってます。」

 「もうそれじゃないですか…。」

 「だから、色々と対策は講じさせると思います。もしかしたら、大原さんにも協力を呼びかけるかもしれません。」

 「まぁあっちでは、一学生なので…。」

 「大丈夫でしょ、一日二日ぐらい。」

 「あんたら授業したくないだけだろ?」

 アリサがその一言を言った瞬間、空気が変わった。

 和やかな昼下がり、空は晴天で見上げると眩しい。

 対してこちらは、重々しい空気が漂い、見るだけで眩しく、怒りの雷が落ちるような感覚に思えるような…あ、もう纏ってるわー。

 さてっと、早めに次のところに行こうかな。

 ユナさん連れて行こうっと。

 「じゃあお先に失礼しますねー。」

 そそくさとその場を後にする。

 大原が離れて十秒後、大きな雷鳴がギルドの周りを包み込んだようだ…。

 団長…南無三。

 その後ユナさんを予定よりも早くに呼び出し、ある場所へと向かった。

 ユナさんも久々に行きたいと言っていたのでちょうどいいと思って一緒に向かっている。

 その場所とは…。

 「あれ?ユナか?んで隣にいるのが…大原?あれ?話によれば今日帰るんじゃあ?」

 見張りの二人は顔を見合った。

 「お久しぶりです。キラーズさんはいらっしゃいますか?」

 「確認しよう。ちょっとまってな。」

 見張の一人が連絡を取る。

 その間にもう一人の見張が質問をしてくる。

 「大原は今日帰るんじゃないのか?てっきりもう帰っているのかと。」

 「夜に帰るんですよ。なのでご挨拶をと思って…。」

 「なるほどなぁ。わざわざありがとうな。」

 「いえ同然のことですよ。後、一緒に戦ってくれてありがとうございました。」

 「それこそ当然のことだな。俺たちは魔王軍を殺すために頑張って来たんだからな。」

 「まぁそれも一人も死者を出さずに再起不能にするという難しい注文だったしな。」

 大丈夫だぞ。と中に入れてくれた。

 門を越えてやって来たのは、無風の夜叉のアジトだ。

 表立って動けないと思って、こちらからやって来たということだ。

 当初は朝早くから行こうと思っていたが、夜に帰るということで余裕を持って訪れることができた。

 「こんにちは皆さん。」

 「お邪魔します…。」

 アジトの地下二階の奥に会議室のような場所で、キラーズを含む六人のアサシンが集まっている。

 「よく来たなお前たち。特に大原がまだいるとは驚きでしかなかったが…。」

 「夜になったので。」

 「あの賢者はホラ吹きの達人か?結構な人を迷惑かけてるだろ?」

 予想通りの結末ですね。

 何も否定出来ないなあ。

 「それで、何しに来たんだ?」

 「あ、いやたいそうなことではないのですけど、一応挨拶をと思いまして…。」

 「わざわざ?」

 「はい。」

 「ユナは?」

 「付き添い兼久々に行こうかと。」

 「なんだ、そんなことか…」

 その場にいた暗殺者がヘニョヘニョと崩れ去っていく。

 緊迫した雰囲気が台無しになっている。

 「いやさ、なんか重要なことでもあったのかなって。そしたらその程度のことだったから…。」

 「全く、流石の私でも2連戦はキツイものもありますからね。」

 ダイナさんとサルヴァさんが文句を言いながらも、出迎えてくれた。

 「よし、見張りも呼んでこい。今日は急遽休業にする。ここからは、騒ぎまくるぞ!」

 「え?なんで?」

 その言葉を聞いた瞬間、この部屋にはユナさんと俺しかいない状況になってしまった。

 とりあえず状況が読み込めないので追いかけると、すでにどんちゃん騒ぎになっていた。

 「どういうことです?」

 「どうもこうも、俺たちは宴会に行っていない。暗殺者が行ってたら気を遣わせるだろ?」

 微妙なところだとは思うが…それくらいならばきっと…。

 「団長には誘われたが、気まずい事には変わりない。もしかしたら、恨みを持つ者もいるだろうしな。」

 依頼人から仕事を受け、殺す。

 それは、恨みや怒りなどを無風の夜叉が体現していただけで、他の人から見れば、何故その者が死ななければならなかったのかが不思議に思うのも無理はないだろう。

 「だが、大原達に襲撃されてから、何がが変わった気がする。」

 どんちゃん騒ぎをしている者達を見ながら、キラーズは語る。

 「依頼人からは殺しの依頼が来る。ここまでは変わらない。けれど、殺さなくてもいい方法は無いかと模索する事をするようになった。それは、全てが上手くいくわけじゃなかった。どうしようもないやつはいるのだ。けれど、殺さずに解決に導いた時、殺すことよりも大変ではあったが、達成感というものだろうか。そういうことがとても良かった…。あれは、大原将希の在り方をようやく理解したと思った。」

 「そんなんじゃないですよ。ただ、殺したくないんですよ。殺したいほど憎んでいる相手でも、殺す瞬間は呆気ない。けど殺したと理解した後、どうしようもない後悔が、恐怖が襲って来るのが嫌なんです。それを、他の人もして欲しくないって思っていただけです。」

 「そうか…。まるで殺した事があるような言い方だな。」

 「聖人君子だとでも思っていたんですか?俺だっていますよ。殺したいほど憎んでいる相手なんて。」

 キラーズとユナはその笑顔を見て驚いた。

 いや、そもそもこんなに近くにいるのに、その話の直前まで、殺気を察知出来なかった。

 前に戦った時よりも強く、殺気が全面に押し出されている。

 鳥肌が止まらない。

 この殺気だけで、人を殺せるのではないかと思うほど。

 「さあさあ、こんな重苦しい話はここまでにして、俺たちも行きましょうよ?」

 「あ、ああ。」

 キラーズはユナと目を合わせる。

 両者共に、死を悟る目デッドアイを開眼していた。

 それほどまでの殺気だったのに、今ではあっけらかんとしている。

 しかしながら、ユナは思った。

 大原将希の過去を知らないという事に。

 引越しをする際の話しか聞いた事がない。

 ああなる程の何かがあったのだろう。

 ユナは首を振り、先ほどの殺気を忘れるように、歩き始める。

 キラーズはまだ呆気に取られていたが、反射するように歩き始めたのであった。

 その頃の無風の夜叉メンバーが思っていた事は、「大原将希が怖い」という事の満場一致で、仮初に楽しんでいたのであった。

 大原とユナはどんちゃん騒ぎに参加した。

 大人は酒を飲みまくり、子供は酔った人の芸を見て笑い、完全に羽目を外していた。

 それぞれの近況報告等を行い、無風の夜叉も地球での戦いに参戦してくれることとなった。

 酔った勢いのままだとは思いたくは無いけれど。

 夕暮れが近づく頃、大原とユナは無風の夜叉のアジトを後にした。

 去る時には頑張れよー、次は戦場でなー!と後押ししてもらった。

 帰路に立った時にユナさんからある事を聞かれた。

 「大原くんは…過去に何か嫌なことでもありましたか?」と。

 「嫌なことは、楽しい思い出よりたくさんある。なんならここに残ってもいいって思っているから。」

 それは、地球に帰れば、嫌な事がまた始まるという事なのだろう。

 「俺はこれまで上手くやって来た。嫌なことも、辛いことも全部ひっくるめて。そして今の俺は、強くなった。単純な強さだけじゃなくて、心も。これはこれまで会ってきた人たちのおかげなんだ。もちろん、その中にはユナさんも入ってるよ。」

 「私も?」

 「うん。だから地球で辛い事があっても、ユナさん達が来てくれるなら、頑張れる気がするんだ。」

 大原くんの世界はよく分からない。

 けど、大原くんが助けを求めているなら、私は応えてあげたい。

 「私たちが来るまで、上手くやって下さいね。」 

 「…確かに。上手くやらないとだね。」

 そんな話をしながら、ギルドにたどり着いた。

 ギルドの前には多くの人がいた。

 朝と同じくらい、いやそれ以上の人が集まっていた。

 そんな中ボロボロなのが二人いるのは、見なかった事にしよう。

 アリサ 対 リサ&アーシャはアリサの圧勝。

 「大原くん。そろそろ準備しておいてね。」

 賢者がミーナを連れて、転移してきた。

 「手ぶらで大丈夫ですよ。取り出せばいいですし。」

 「…それもそうね。こっちは準備できてるわ。後は、大原くんに任せるわ。」

 そう言って賢者は一歩だけ身を引いた。

 そこに、団長が歩いてきた。

 「行っちまうのか。」

 「そうですね。あっちで待ってます。」

 「嫌だよ。戦いで待っていなくていいんだよ。生きてまたたくさん話そうぜ。」

 「はい。」

 「あたしらはあまり言うことはない。助けに行ってやるから待ってろ!そんで、強くなったあたしらに驚いてろ!」

 アリサは高らかに宣言した。

 「俺もそれ以上に強くなってやる。だからみんな、待ってるよ。」

 「その言い方はどっちともとれるっすよねー」

 龍也は気にせんでいいところをつく。

 「私からはアリサさんに言われたので大丈夫です。」

 麗華さんは言うことはないって感じだろう。

 「私は最後に色々話せました。それで充分です。」

 ユナさんも同じのようだ。

 他の人も、見送りに来たという感じだ。

 けれど、人混みの中から多くの人が飛び出してきた。

 「大原に…一言だけ…。」

 ぜぇゼェと息を吐きながら、男の人は話し始める。

 「俺たちは、地球には行かない。怖いからだ。けど、だからって何もしないわけじゃない。この世界で戦いに行く者達を支える!直接力になるわけじゃないが、万全の状態でそちらに助けるようにしてやる!これぐらいが地球に行けない奴らに出来ることだ。すまない…。」

 男は頭を下げる。

 それに釣られて他の人たちも頭を下げている。

 きっとこの人は、この人たちの代表者なのだろう。

 なら俺が声を掛けてあげられるのはこれくらいだろう。

 「ありがとうございます。貴方達が頑張った分も無駄にはしないです。なので、一緒に戦い抜きましょう。」

 大原は男の手を掴む。

 「ああ!俺たちの戦いはここでしか出来ないからな!」

 男の言葉を聞いた大原は手を離し、賢者の方へと向かう。

 「じゃあみんな元気で!俺は待ってるから!」

 手を振る。

 集まったみんなは手を振替しながら、じゃあな!、待ってろよ!、などの声援を送ってくれた。

 俺が手を振るのをやめると、賢者が転移を使用した。

 そうして、大原将希は風の世界フーリアスターを後にしたのだった。

 「行っちゃいましたね。」

 「ああ。んじゃあ早速だけど、ウオラさん。出来た武器は渡せるかい?」

 アリサは間髪入れずに武器を所望する。

 「もちろんだとも。他の者も見ていくがいい。属性龍エレメンタルドラゴンの協力の元、多くの武器を作る事が出来たからな。」

 その言葉に感化された者はウオラについて行った。

 「私たちも行きましょうか。」

 「ああ。」

 「行こう。」

 元の世界に戻る者達は転移門に足を運んで行った。

 みんな次の段階へと、進んでいくのである。

 その頃、大原達はというと。

 転移によって、地球に来る事に成功した。

 場所は病院。

 そして、そこに眠っているのは。

 「俺か…」

 魂だけの異世界転移。

 地球で行うには、あまりにも大原将希は独り立ちしていなかったからだ。

 故にこの方法が取られた。

 なので、今からすることはというと。

 「魂をここに入れ直します。」

 大原将希の本体に、魂を入れるということだ。

 しかしどうやってやるのだろうと思っていると、扉が開いた。

 見ると医師と看護師が立っていた。

 「大原将希さんに、アルシアさん、そして手伝いに来たミーナさんですね。」

 「はい、そうです。」

 「私は大原くんの担当の白石といいます。よろしくお願いします。」

 「仮のだけどね。」

 仮のなんだ。

 「説明等を一応するのですが…大変でしたよ本当に。ある種の植物状態ですからね。」

 ドナーカードを持ってたら今頃どうなってたんだろう?

 「とりあえずは、準備は出来ましたか?」

 「大丈夫です。」

 「では大原さんはミーナさんの指示に従って下さい。私たちはその後の役目なので。」

 白石さん達は少し離れた場所に移動した。

 「どのように魂が移動するかなんて聞かないでね。話すと長くなるから。」

 「わ、分かりました。」

 「うん。じゃあここに乗って。ここに背中をつけてね。」

 ミーナさんが用意したのは表現する事が難しいものだった。

 身長を測るやつに、上から被せる何かがあり、足は固定されている。

 腕も縛られ、頭から被せられる。

 不安に駆られる。

 「あの、これは…」

 「知らなくてもいいこともあるのよ。」

 それはそうかもしれない。

 けど、不安なものは不安なんだよ?

 ミーナさんはテキパキと作業を進めていく。

 耳元で賢者が話しかけて来る。

 「いい?あなたは眠っている大原将希に行くのよ?それだけ考えていればいいの。」

 必死な声で俺に伝えて来る。

 「わ、分かりました。」

 答えたと同じタイミングで体から血の気が引いていく。

 足から、手から身体の中心に向かっていくように、血が逆流していく。

 「うっぷ…はぁはぁはぁはぁ…あっ!っぐ!」

 血だけではない。

 魔力も中心に向かっていく。

 吐き気が込み上げて来る。

 目も開けていられない。

 足は動かせない。手も動かせない。

 意識が…消えて…。

 「うぐっ!お…」

 喉から何かの塊のようなものを吐き出した。

 意識が回復する。

 妙な浮遊感がある。

 周りを見るとさっき立っていた場所を外から見ていた。

 そこにあったものは、大原将希に似た木偶人形だ。

 そしてその状況を見た俺は、自分の身体を見ようとする。

 だが見えない。

 なるほど。今回は意識があるのか。

 俺は今、魂になっているんだ。

 周りには見えているのだろうか?

 どのような形状をしているのか。

 とりあえずはこの体に戻って、感想を聞いてみよう。

 そうして大原は意識を集中させて、眠っている自分の身体に近づいていく。

 思うだけで進んでいく。

 身体の中に入っていく。

 浸透していく。

 一致していく。

 身体の感覚を取り戻す。

 大原将希は身体を取り戻し…

 「ア!!!ガアアアア!!!!!!!!???」

 体中が軋むように痛い。

 中から破裂しそうだ。

 頭が痛い。

 魔力が暴れている。

 暴れ出したい。

 何かに阻まれている。

 やめろ。身体を動かさせてくれ。

 魔力を解き放させてくれ。

 徐々に強まって行くのを感じる。

 もう、このまま死ぬのかもしれない。

 そう思った瞬間。

 腕に刺さった感覚があった。

 その感覚があった瞬間、俺は意識を失ったように、眠りについたのだった。
 

 







 
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