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第六章 魔王軍襲来 風の世界<フーリアスター>編

99.再び相見える

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 「…」

 ゴーレムは最後の一撃について思考を巡らせていた。

 負けたことには変わりはないがまた同じことをされて対応が出来るかどうかを思考している。

 結果は全て不可能だった。

 どれだけデータを照合しても理解が出来ない。

 あの技はどのような原理で行なっているのだろうか?

 ゴーレムは再びその時を振り返る。

 「この辺りなら良いじゃろう。」

 セレスティアルの森の中のどこかに、ゴーレムとマスターブレイブは相見えた。

 「勝負は一撃にて決着で良いか?」

 「ソレデ、イイ。」

 ゴーレムは足下に魔力を集中させる。

 速さで勝り、一撃を与えるというものだろう。

 木々が揺れる。

 戦いの最中であるのに、静寂の場となっている。

 マスターブレイブはただ立ち尽くしている。

 にも関わらず油断ならない雰囲気を醸し出している。

 油断はしない。

 最速を持って標的に与えよう。

 「ジェットランス」

 ゴーレムが誇る最速の突き。

 その鋭い突きはまさしく槍。

 だが、ゴーレムは自分が攻撃をする前に確かに見た。

 いや、見えてしまった。

 その未来が…一瞬にして広がった。

 マスターブレイブはただ、一歩、二歩と歩いた。

 見えたのは、それだけ。

 何せ、その後にはもう、自分の身体は保てていなかったからだ。

 「エ?」

 斬られた?斬られた感覚もない?機械だから?

 意味を知る前に、ゴーレムはバラバラにされた。

 「お前さんには、本気のわしを見せねばならないと思った…。わしの剣舞の原点をな。」

 「ゲン…テン?」

 「そうじゃ。この剣舞の名は
「無垢の極み 零の剣 無垢の極み」。」

 剣術の名が…剣舞?

 いや、それ以上に何が起こったのかがわからない。

 「ほっほ、幸いコアの部分は壊さないでおいた。じゃが、これでは最早死んだも同然。わしが連れていく間にでも、わしの剣舞でも考えておれ。」

 そして今に至る。

 しんきを纏っているのは分かる。

 だが、それを理解した上でも、あの技の理解が出来ない。

 「おやおや、賢者様にアリサ、それにイノスもおるのか。」

 「マスターブレイブ⁉︎ちょうどいい、大原を助けてやって…ってそれなんです?」

 「ほっほ、ゴーレムのコアじゃ。此奴は仲間にしようと思ってな。」

 「はい?」

 「それともう一つ。大原を助けるのは今ではない。アリサ・ライトニングよ。詰みの一手には、もう一押し必要なのではないか?」

 「!了解した。賢者様!あたしの治療よりも先に、あの場所へ連れて行ってくれ!」






 ここに来てのミスターOが来るのは予想外であった。

 実力差は明白。

 現在の大原ではディルギッドの能力を使用することはできない。

 ラインを圧倒したが、その体はもうガタついている。

 一対一では間違いなく勝てない。

 因果の目によって死にはしないだろうが、痛ぶられるのは間違いないだろう。

 「また俺を殺しに来たのか?」

 確認をする。

 ミスターOはラインを抱えてこちらを見据えている。

 「そうだな。お前だけが相手ならそれもいいな。」

 俺だけなら?

 大原の後ろから足音…地響きが聞こえる…。

 そこにいたのは、カオスドラゴンだった。

 「久しいな、あり得ざる人間よ。」

 「カオス…ドラゴン…。アリサの指示か?」

 「その通りだ。少しばかり圧をかけて欲しいとな。」

 カオスドラゴンは前に戦った時とは違う…貫禄というか…圧があった。

 「お前が破壊の龍か。ストリングが世話になったようだな。」

 「あの若造か。奴はこの私を少しばかり操るという大罪を犯したが…その実力は素晴らしいものだった。だが、そのせいという訳でもないが…ただの小童一人にしてやられる程の寝起きだとは思わなくてな。少しばかりではあるが、強くなってここに来た。」

 「なるほど?その時は無理矢理起こされたから実力が出なかったのか。そして今のお前が本気のお前か。いやはや、破壊をする龍がこの世界を救うために戦うとは…。」

 「その通りだな。我は破壊の龍。この世界の厄災みたいな者だ。だが、奴らは罪を犯すが故に壊される。そして罪を認め、再生させていく。想像の前に破壊ありとはよく言ったものだ。ならばお前たちはどうだ?ただ一人の人間を殺すために総動員をかけて、この世界の者たちに危害を加える。何も罪のないもの達が、殺される。あってはならない事だ。我がお前たちと戦う理由は、お前たちに殺されるほど、今のこの世界は腐っていないという事だ!」

 圧が上がっていく。

 「立ち去れ、異界の者よ!我々の世界は、我々で制御する!貴様らに破壊するものは、今のこの世界のどこにもない!」

 「この世界の秩序のために戦う…。強いわけだ。」

 ミスターOは手を挙げて降参した。

 「戦わんよ、もう。俺が指示されたのはラインの回収だけだ。それに、ここで引かないと俺も詰むらしいしな。」

 「ほっほっほ。賢明な判断じゃな。立ち去るのならば、ワシらが戦う事はないじゃろう。」

 「マ、マスターブレイブ…!」

 ミスターOの背後からマスターブレイブが姿を現した。

 「ゴーレムを倒したみたいですね。流石。」

 「ほっほ。褒められても、何もでんわい。して?お前さんはどう呼べば良いのかのう?」

 「…ミスターOと。」

 「なるほど。今はその名で頑張っておるのか。シンプルで分かりやすい。」

 「…そんなに気づかれやすいのか?」

 「不確実が確信に変わるほどに似ておるよ。全く、その場で名乗れば気が楽であろうに。」

 「だろうな。けど、それは出来ない相談だな。」

 「であろうな。何が起こるか分かったものではない。」

 なんの話をしている?

 俺にはよく分からないことを話している。

 「立ち去るのであるば、戦う必要はあるまい。ここは痛み分けということであろう?」

 「ああ、それでいい。それと大原将希には一つ言っておく事があった。」

 ミスターOはこちらに指を刺し言い放つ。

 「次に相見える時は、お前の世界…即ち、地球アースターだ。」

 「‼︎」

 「これは元々決まっていた事だ。お前が死んでいなかろうが計画は変わらない。」

 次に攻めてくる世界は、地球…。

 「特に、英雄の地日本。お前たちは怠惰の時を過ごしすぎた。この戦い以上の地獄を見せてやる。」

 ミスターOはこちらに睨みを効かせてくる。

 「やっぱりか…。」

 大原は同じように睨み返す。

 「俺の目的は変わらない。魔王を倒す。そんでもって、お前達は生きて罪を償わせてやる。」

 「やってみろ。まぁ、覚悟がない奴は、語ることしか出来ないがな。」

 ミスターOはラインを連れてこの場から去っていった。

 最後まで減らず口が多い奴だった…。

 「あの様子だと、撤退するようじゃな。」

 「少しだけとは言ったが、本当に詰みの一つにしか関われんとはな。」

 「めちゃくちゃ助かりました…。ということは、この戦いは。」

 「あたし達の勝利だああ!!」

 アリサが高らかに宣言すると、呼応するように大歓声が響き渡った。

 魔王軍、死者0名。捕虜、二万五千六百五十七名。

 風の世界フーリアスター側、死者0名。捕虜0名。重症者、完治。

 こうして、魔王軍 対 風の世界フーリアスター風の世界フーリアスターの勝利で幕を閉じた。

 


 魔王軍戦艦内。

 「お疲れ様だね、ミスターO。」

 「タイムズか。ラインを頼めるか?」

 「それは構わないが…どこに行く?」

 「フラミリアのところだ。あいつの知識を借りたい。」

 「それほどのものかい?彼は。」

 「あいつは、俺とは違う。間違いなくな。」

 そう言って、ミスターOは去っていった。

 「やれやれ、結局今回も決戦の地は地球か…。そういう物語りにでもなっているのかもな。…ラインを運ぶとするかな。」

 ラインを運び、リザーグの元へと向かっていった。

 「フラミリア。聞きたい事がある。」

 「分かってるわ、大原将希の事でしょう?全く、貴方ほどの理解者なんていないはずなのにね?」

 「ああ全くだ。だが、奴は得体の知れない魔眼を持っていた。」

 「眼の色は?」

 「黄色だ。」

 「!へぇ、彼もなんだ。やっとタイムズの言葉に信憑性が増したわね。」

 「彼も?他にもいたのか?」

 「ええ、いたわよ。けど今その話は必要かしら?」

 「…後に聞くことにしよう。それで?奴は何の魔眼を持っているんだ?」

 フラミリアはタブレット端末を動かしながら、ミスターOに見せた。

 「カリナ・ウィンバーグ…。確か、全ての問いに答えられる者。この人が導き出したのか?」

 「厳密には違うわ。彼女の地位を利用して、この世界にまた提唱したのよ。英雄が持つ眼、仮称、因果の目としてね。」

 「因果の眼?それが、奴が持っていた魔眼?」

 「話は読めばすぐに分かるわ。けど、何故彼女があの答えを見つける事が出来たのか分からなかったけど…。彼が、その眼を持っていたからなのね。」

 「…お前がそう言うということは、それ以上前のことだな。…歴史の授業はいつかまとめる日が来るだろう。その時に心置きなく聞かせて貰おう。」

 「ええ。その時がくればね。」

 ミスターOは、フラミリアの部屋を後にした。

 ラインは、リザーグに再生させられると、怒りを露わにした。

 「殺す!あいつは絶対に殺す!絶対に殺して!…。」

 ふと、ミスターOの言葉がよぎる。

 「次の戦いの場は地球アースターだったか…。ああ、それがいい。それが最高だ!楽しみだ…!あいつの絶望の顔が見るのがなぁ。クク…ハハハハ‼︎‼︎‼︎」

 そうして、闇の世界ディルスターへと帰還していったのであった。

 

 
 
 

 
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