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第六章 魔王軍襲来 風の世界<フーリアスター>編

98. VSライン・ユー・ヒッチ (紅魔狂)

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 ライン・ユー・ヒッチの「紅魔狂」は執念による覚醒。

 溢れ出た魔力によって形成された腕と足は、魔力がある限り再生する。

 限界を超えたものということに関しては、リリースカードに近しいものがある。

 だが魔族とは元々こうであったのだ。

 戦闘狂と言われても然るべきというほど、混沌とした時代があったのだ。

 それを長い年月をかけ繋いできたもので、表には出さず、内に秘め、今の魔族…人と共存できる状態となったのだ。

 ラインは今、混沌とした時代の力を呼び起こした状態にある。

 「オ…オ…ハ…ラ、コロ、ス」

 魔力弾がアリサたちを襲う。

 モーションも何も無い。

 ただ放たれた事が理解できただけだった。

 「はっや…‼︎」

 未来視でギリ見えるぐらいだ。

 反応速度を落としたらやられてしまうほどだ。

 「…!」

 リサはすぐに迎撃に入る。

 ライトニングかわしながらそれぞれの魔力弾を相殺させて行く。

 リサは近づかれると、何も出来ない事を知っていた。

 かわして距離を取る事しか考えなかった。

 だが、大原との戦いでそれだけでは足りない事を実感した。

 ならばどうするか。

 近づかれても攻撃できればいいと考えたのだ。

 弓を構えずに攻撃を与える技。

 ライトニング・カレント。

 身体に電流を纏わせ、瞬時に攻撃に転じるオート攻撃。

 リサの反応よりも早くに迎撃を開始する。

 「用途が少しだけ違うけど…やっておいて良かった。」

 リサはラインの攻撃を防ぎきった。

 「やば…。」

 ミーナとフレンはこの攻撃になす術はない。

 それをイノスがなんとか防いでいく。

 「お前たちはとりあえず逃げろ。奴の射程範囲は分からないが、視界から外れればそちらに行くことはないはずだ。」

 「わ、分かりました!」

 ミーナはフレンを連れて走り去って行く。

 その様子を横目で見つつ、魔力弾を捌いて行く。

 「大技は危険だな。」

 無垢の極み「斬」で対応して行く。

 一方でアリサの方は。

 「速さで防がんと間に合わない!」

 ギリギリのところで防いでいた。

 だが、これだけなら良かったのだ。

 「‼︎」

 ラインはただ突っ立っているわけもなく、魔力弾と共に攻撃に参加する。

 それはそうだ。魔力弾を放つだけの固定砲台となったわけでもない。

 自身も攻撃に参加するのは当然だ。

 その未来を見えた時には少し遅い。

 反応が一瞬遅れた。

 いや、もはやどちらかの攻撃は当たる。

 ぶっ飛ばされるか、貫通するかのどちらかだ。

 「ふっ!」

 その二択を一択にして見せたのが、賢者だった。

 転移でラインに蹴りを入れ一撃を喰らわせた。

 ラインは大きく吹っ飛ばされ、一時的に一息つける状態になった。

 「やばいねこれ。火力よりも機動力で勝負しないとやってらんないね。」

 「数十秒耐えれる?」

 「今のが数十秒だろ?死ぬ気でやるなら行けるかもね。けど、あの二人も重要だ。あの二人を転移させてくれ、賢者様。」

 「了解したわ。というわけで、二人を転移させたいのだけど、二人は?」

 みんな忘れてるかもしれないけど、賢者っておっちょこちょいなんだ!

 だから、視界に映るとやばい人たちの所に、ラインを吹っ飛ばしちゃうこともあるんだ!

 全くもう、賢者はおっちょこちょいだなぁ!あはは。

 「あ、」

 「ア?」

 「やっべー」

 「まっじでやばいことしたわ。私。」

 ミーナたちが逃げた方向に賢者がラインを吹っ飛ばしたおかげで標準がミーナたちに向けられた。

 魔力弾はミーナたちに放たれる。

 音速を超える攻撃は、ミーナたちの直前で防がれた。

 四重結界。

 賢者の周りに結界が四重の結界が張られる。

 「ごめんなさい、2回の転移よりもこっちの方が良いと思ったのよ。」

 「い、いえ!ありがとうございます!」

 そんな話をしている暇があるだろうか。

 ラインの突進で、二つの結界が破られる。

 ラインはもはや魔力の塊みたいなものだ。

 その威力は60万ほど。

 「…っ!流石ね。けど結界がそんな簡単に壊れると思ったら大間違いよ。」

 一枚目の結界は十万ほど、二枚目の結界は二十万、三枚目の結界は三十万、四枚目の結界は四十万と魔力量が違う。

 ラインの突進で、二重の結界は破られたが、後の結界で防ぐ事ができた。

 「機動力で奴を翻弄しつつ攻撃だ!賢者はミーナたちを転移させろ!」

 「分かったわ!少しの間頑張ってね。戻ってくる頃に、死んでいたら承知しないからね!」

 賢者はミーナたちを転移させる。

 「全く、きつい事言うわ。イノス、リサ姉、指示は出さない。必ず生き残るよ。」

 「殺せないのに生き残るなんてキツすぎないか?」

 「妹より先に死に行く運命ではあるけど、戦って死にたくはないですね。」

 ラインは転移したミーナたちから標的を変え、アリサたちに狙いを定める。

 狙いを、ねら、いを…。

 その未来は計り知れないほどのものだった。

 「回避だ!奴は!」

 魔力の塊。それは言うなれば、魔力で何でもできるほどの量だという事だ。

 アリサは雷の魔力で剣を作った。

 それは多くの魔力を持つ者ができる芸当だ。

 ならそれが奴に出来ないはずがない。

 あの突進で学んだのだ。

 量ではなく破壊力や貫通力が必要だと。

 全身を変形させる。

 全身を鋭く尖らせる。

 まるでハリセンボンのように。

 格好が悪い、気持ちが悪い。

 だが、彼女達はこのように見えただろう。

 こいつの体は、剣でできている。と。

 最速での突進。

 アリサは足を、リサは脇腹を、イノスはかろうじてかわした。

 「血が…やばい…。死ぬ?」

 リサは脇腹を押さえながら状況を見る。

 アリサは腕が今にも裂けそうだ。

 イノスは完璧にかわした。

 そして奴は、攻撃の手を緩めない。

 必中の攻撃が展開される。

 イノスは問題ないが、私達はもう防げるほど動けない。

 「くそ!いくら何でもこれは無理だ!」

 イノスは頑張ってくれている。

 攻撃を最小の動きで避け、こちらの攻撃を防いでくれている。

 ああでも、これは奴にとって牽制だったんだ。

 もう一度、こちらに突っ込んでくる。

 今度はもっと範囲を広げて。

 アリサもそれが分かっているから声をかけている。

 私に呼びかけている。

 避けたい。けどごめん、もう意識が遠のいて…。

 「リサ姉‼︎」

 見える。視える。リサ姉が死ぬ未来が視える。

 賢者はあたしたちを助けてくれる。

 でもそこにリサ姉はいない。

 バラバラに裂かれた姿が脳裏に映り込む。

 どうしようもない。どうやっても間に合わない。

 「あ」

 突進を開始する。

 今度は範囲を広げて、そして逃さないようにホーミングも合わせてだ。

 もう間に合わない。

 未来で視たようにあたしとイノスは賢者の転移によって難を逃れる。

 あれ?けどおかしいな。

 もう一つの道がある。もうこれしかないはずなのに。

 そんな未来を見ても良いのか。

 そんな夢みたいな希望を抱いて良いのか?

 だってその未来は…。

 「危なかったわね、貴方達。リサちゃんはここにはいないけど、彼がきっと何とかしてるわ。…いえ、何とかするよりも、上手くやるのでしょうね…。」

 あれ?私、目が見えて…

 「危なかった…間一髪のところだった…。ミーナさんから貰った「流星」が無ければやばかった…。何とか助けられて良かった…。」

 その声に聞き覚えがあった。

 けれど、まだ20分ほどしか経っていないだろう。

 そんな簡単に回復が出来るわけが…。

 「リサさん。良かった、気がついたんですね。すみません、今すぐに寝かせますね。」

 彼はすぐ様シートとタオルを取り出す。

 「後は賢者様が来ると思うのでそれまで頑張って下さい。俺は、あいつを倒しにいきます。」

 ダメ…あいつはもう…おかしい。

 貴方でも敵わない。

 「任せてください。上手くやりますから。」

 「お…」

 彼の名前を呼ぶ前に彼は行ってしまった。

 けれど、その一言で何故か安心出来るような気がした。

 「オ、マエ。オマエオマエオマエハアアア!!!!」

 狂っている。

 その姿を見せただけでこの狂いようはもうおかしくなっている。

 「来てやったよ、ライン・ユー・ヒッチ。お前の狙いは俺だろ?」

 「オオハラアアアアア!!!!!!!!」

 その叫びはこの戦場に響き渡る。

 「コロス!コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコスコロス!」

 「やってみろよ。クズ野郎。ぶっ殺してやる。」

 彼もまた、狂った者の一人だった。

 「リサ姉!」

 賢者の転移でリサの元へと辿り着いたアリサ達。

 そして、大原の姿。

 「どうしてこんなに早く…。」

 「それは彼らのおかげね。」

 賢者は空を見上げる。

 上空には飛行船が旋回していた。

 「あそこの医療班がギリギリまで大原君を治療をして、戦場に向かわせたのよ。本調子では無いけどね。」

 「移動しながら治療をしたって事か…。」

 それなら行けるか?

 「彼らの魔力を大原君に渡して今の彼がいる。」

 なるほど。それなら納得出来る。

 ということは、今のあいつはその思いを背負ってここにいるって事だ。

 「とりあえずは貴方達は治療が必要ね。ほらイノス君も、骨が折れてるんだから、参戦しようとしない。」

 「え?」

 「バレてんのか…しょうがない。五体満足でも無理だったんだ、潔く離脱しよう。」

 そうして賢者の転移によって戦場から離脱した。

 「アアアア!!!!!!!!」

 叫びと共にこれまで以上の激しい弾幕を張る。

 それと同時に突進を行う。

 弾幕の速度は音速を超える。

 それと同等の速さの突進も追加だ。

 だが大原はそれを一蹴した。

 「遅いな。」

 比べるようなその言葉。

 弾幕も簡単にいなし、突進も避ける。

 これでも本調子ではないのだ。

 魔力量も五十万と半分程度だ。

 けれど、彼は知ってしまったのだ。

 相手にしている者よりも強い者を。

 「あいつはもっと速かった。」

 ラインの魔力を斬り刻む。

 目で追えない。

 魔力が消費されていく。

 反撃も全て防がれる。

 「もっと鋭かった。」

 反撃もできないほどだった。

 心気ではなく、ただの速さとキレで圧倒している。

 「もっと強かった。」

 なんだその眼は。

 黄色の眼をしている。

 知らない、奴はそんな眼をしていなかった。

 そんな眼の情報も言っていなかった。

 反撃も、準備も出来ない。

 限界を超えたはずなのに、こんな差があるのか?

 「お前は俺を殺しに来たんだろ?」

 煽るようにそいつは語る。

 「でもお前はあいつより弱い。アイツよりも弱いお前が、俺を殺せるわけないだろ?」

 大原はミスターOとの戦いの際に行った、ディルギッドの能力に体が少しだけ慣れていた。

 故にその時の速さと同等のスピードで、ラインを圧倒したのだ。

 ラインの大量にあった魔力は、もうほとんど残っていない。

 その時感じたことは、悔しさと屈辱の感情だった。

 形成した魔力の塊は人のサイズに戻り、足を形成するのがやっとの状態になった。

 もうラインは何も出来ない。

 そんな力は残ってはいなかった。

 殺される。

 ラインは自身をそう判断するほどの満身創痍だった。

 だが奴は形成した足を切り落とし、胴体だけどなった俺を抱えた。

 「なんのつもりだ!殺すなら殺せ!」

 「嫌だね。」

 すぐ様そう返された。

 意味が分からない。殺せる時に殺さないと意味がないだろう?

 「俺は殺したくないんだ。話し合えばきっと分かり合えるって思うからさ。それに、色んなことを話してもらわないとね。」

 「話し合うも何も、大原将希を殺せばこの戦争は終わる。お前が今すぐ死ねば終わるんだよ!そんな綺麗事が通じると思うなよ⁉︎」

 「そうだね。でも俺は殺さない。どんなに犬猿の仲でも、時間をかければ分かり合えるんだ。俺はそう信じてる。」

 「ふざけてる。お前は俺たちを侮辱しているようなものだ!戦いは生きるか死ぬかのどちらかだ!」

 「?何言ってるのさ。そこには逃げるという選択肢もあるでしょ?生き残れば勝ちなんだからさ。」
 
 「な…⁉︎お前は…どこまで俺たちをコケにすれば…!」

 「確かにな、生き残れば勝ちだな。だが、こいつが生きているということも勝ちみたいなものだよな?」

 空から暗闇が降り注ぐ。

 間一髪で大原は避ける。

 避ける際に、ラインを投げ飛ばしてしまった。

 そして、投げ飛ばした先には…奴がいた。

 「よう。二度目だな。」

 「ああ、そうだね。ミスターO。」

 そこに、最大の脅威が現れたのであった。

 

 

 
 





 
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