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第六章 魔王軍襲来 風の世界<フーリアスター>編

97. VSライン・ユー・ヒッチ

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 ラインを追っていた龍也とレオス。

 ラインはトップスピードを維持しつつ、森の一帯を抜け、隣の島へと向かっていく。

 「くそ!追いつけない!」

 ラインのスピードについて行くのがやっとだ。

 差が縮まらない。

 それに、ただ追いかけさせてくれるわけじゃない。

 ラインからの攻撃も来る。

 威力は充分。

 オールレンジの攻撃を一瞬で展開して行く。

 それを防ぎながら進み続けている!

 「このままじゃ戦いにならないまま先に行かれる。どうする、龍也。」

 「どうしようもない!けど、アイツを見失ったら終わり。追いかけ続けるしかないっすよ!」

 しかし、追いかけるにも魔力が必要。

 戦う時にも魔力が必要だ。

 追いかけているだけで魔力が無くなっていく。

 例え追いついたとしても戦いになるのか?

 くそ、どうすればいい!

 「見えた。迎撃を開始します。」

 ラインの進行方向に、雷が落ちる。

 一瞬足が止まる。

 その隙にもう一撃。

 今度は側面からのホーミング、空からの落雷の同時攻撃。

 ホーミングの攻撃はすべて相殺し、落雷は瞬時に避けた。

 この三発の攻撃で、発射地点への目処がついた。

 距離にして約五百メートル。

 そこへ、お返しだと言わんばかりの魔力弾を走らせる。

 着弾する。

 撃ち落とした形跡はない。

 あったのは、未だその者は健在だということだ。

 「しぶとい奴らが多い…。」

 だが、その時間稼ぎは、龍也達が追いつくには充分なものだった。

 「ここからは逃さないぞ…!」

 「やっと戦いに持ち越せるっすね!」

 魔力を使用し続けて追いかけてきた二人。

 休憩もなしに、ノンストップで戦いへと移行された。

 「ふぅ、危なかった…。」

 ラインからの攻撃を守ったのはミーナの防御壁、
「魔弾無効壁」のおかげだった。

 ミーナがいる場所を中心に、ある機器を持ち歩いている際に設置可能となる。

 範囲は視覚に映る場所。

 遠くなるほどに精度は悪くなる。
 
 ラインの攻撃に瞬時に対応出来るほど、ディレイは少ない。

 「助かりました、ミーナさん。」

 「いえ、これくらいは出来ますとも。リサ様に傷は付けさせないように注意していましたので。」

 この距離からピンポイントで弓を放てるのは、リサ以外にいるまい。

 彼女の足止めのおかげで、今彼らは戦いになっているのだから。

 「ありがとうリサ姉。チャンスがあればどんどん頼むよ。」

 「こっちはこっちで大変だったのに…はあ…。」

 あの爆発の後、生死確認を行った後にフレンから招集がかけられた。

 アーシャを預けてすぐさま、こちらへとやって来たのだ。

 「後で、大原には感謝を伝えなきゃな。さて、ここからは詰ませに行こうか。」

 アリサはこの場にいる者達にそう宣言した。

 「…追いつけば勝てると思っているのか?その状態で?」

 確かに、この状態で戦うのはきつい。

 けど、俺とレオスはこいつと相性がいい。

 「勝てなくても戦い方はある。」

 「こっちは死ななきゃ勝ちっすよ。」

 息は上がってる。

 魔力量も心許ない。

 けど、問題はない。

 こいつは、後ろで大人しくしていれば良かったんだ。

 「なら、見せてみろ。お前たちの戦い方を。」

 指で銃の形をしながら、魔力弾を放つ。

 その速度は…光。

 目に見えない、反応もできないほどの魔力弾は龍也の右手を貫通した。

 「ぐっ…ああ⁉︎」

 魔力操作の魔力の上からの攻撃。

 「もう右手は使えないな?」

 ラインは防御が出来ないと見るや否や、痛ぶるように二人に撃ち込む。

 レオスは硬化させるが、それをも貫通する。

 ライン・ユー・ヒッチ。

 彼の得意とするレンジは、近距離。

 早撃ちのガンマン。

 本来不可能な瞬間的な標準を、能力で補っている。

 ロストシュート。

 目に見えないほどの魔弾を相手に放つ。

 この技が当たったら傷が治るまで、魔力操作の制御が難しくなる。

 「前に出た奴らは、勇気ある奴だ。死を覚悟して来た者達、この世界を守ろうとした者達、怯えながらも立ち上がった者達。そんな奴らは俺は讃えられるべきだと思っている。ただ、これは戦争だ。無事で済む場所なんかない、戦う場所なんざ決められていない!」

 吐き捨てるようにラインは語る。

 「戦わない者は何も出来ないんだ。ただ、怯えながら終わる時を待つだけだ。だから、アイツを殺しに行く。殺して、この戦争を終わらせる。」

 ラインが治療所に向かうのは大原を殺すため。

 ラインという男は何かしらの理由があるのだと思う。

 現に今、痛ぶるというよりも再起不能に追い込んでいた。

 手や足を貫通させ、何も出来なくしている。

 「お前たちはそこで見ていろ。殺される様をな。」

 大原を殺す?

 殺されるところを見ていろ?

 ふざけているのか?

 大原は俺の友達になってくれた奴だ。

 流と同じくらい大切な奴だ。

 また、何も出来ずに失うのか。

 またあの時みたいになるのか。

 違うだろ!

 俺は、もう目の前で何も出来ずにただ後悔することはしたくない。

 あんな思いはもうたくさんだ!

 「大原は…殺させない…!お前は、ここで、食い止める!」

 足の感覚も、手の感覚もない。

 血が流れ続けている。

 それでも、龍也は剣にしがみつきながら立ち上がった。

 「そこまでして守ることに何の意味がある。」

 「友達を殺されるところを見ているバカを知ってるからな。そんな奴にはなりたくないんすよ。」

 それに、俺の役目は終わったらしいしね。

 「いい時間稼ぎだった。瀬戸龍也。」

 ラインが振り向いた時には、右手が宙を舞っていた。

 真後ろからの奇襲。

 気配も微塵もなかった。

 ただ、この感覚は、間違いなく。

 「…っ!お前も心気を…!」

 「ああ、少しだけ訂正しよう。時間稼ぎなどではなく、覚悟を持った良い言葉だった。」

 ここに来ての、援軍。

 いや、備えていた、待っていたという表現でもいい。

 彼女の眼は、間違いなくこちら側へと向かっていく。

 イノス・アンセル。

 この場での最後の砦となる者。

 「本当は首元を狙っていたが、察しの良さは流石だな。本気でやらないとな。」

 「奇襲如きで、図に載るなよ!」

 ロストシュートを放つ。

 目に見えないほどの速度。それを断ち切る。

 「な!?」

 驚く暇もなく、無垢の極み、一の剣、「斬」を放つ。

 斬撃はまばらにラインへと向かっていく。

 避ける。

 大原の斬撃の剣とは違い、避ければ追尾機能はない。

 まぁ、避けさせることはできるけども。

 避ける時は単調になりやすい。

 その隙をつく。

 心気で近づく。

 相手の反応よりも速く、斬り込む!

 無垢の極み、六の剣、「活殺自在」。

 相手を殺すことも生かすこともする技。

 言うなれば、再起不能状態にさせる技。

 主に四肢を斬り刻む技。

 ラインの身体はもう、自分では何も出来ない体になってしまった。

 「お前もお前で疲弊していたんだよ、あいつらの追走でな。こちらは万全の状態で対応出来た。その差が出ただけだ。」

 ラインは負けじと魔弾を放つ。

 「お前の早撃ちは見事だった。俺にとっては目に見える弾丸だがな。」

 イノスの能力は、「軌道探知」。

 剣の軌道、魔力の軌道を探知することができる。

 ロストシュートを断ち切ったのも、この能力のおかげだった。

 「相性が悪かったな。それに、ここは俺たちの世界だ。観光客は歓迎するが、戦争なら自分のテリトリーでやってくれ。」

 ラインは…悔しさを滲ませながら、イノスを睨みつけていた。

 


 お前たちは、分かっていない。

 この戦争というものを。

 俺たちが、その昔にどれほどの屈辱を味わったのも知らないで。

 魔王ディルギッドが統べるまでの混沌とした世界を知らないで。

 手足がないから戦えない?

 ないなら噛みつけばいい。

 歯もなければ体当たりすればいい。

 生きていれば勝ち。

 あいつの考えには同感だ。

 何せ、生きている限り、考えることができるからな…!

 そして、俺の考えはただ一つしかねぇ!

 「‼︎」

 咄嗟にイノスはラインから離れた。

 円による微細な魔力の変化に気づいたからだ。

 ラインの身体はもう戦うことも出来なかったはずだ。

 なのに、この威圧感は…。

 「ダメだなこれは。龍也!レオス!掴まれ!一時撤退だ!」

 「悪いな…。」

 レオスは気絶していたため、無理やり抱えて離脱する。

 離脱その一瞬、ラインを見た時には、異形の者となっていた。

 切り落とされた手足は再生。

 いや、生えてきたという表現が正しいだろう。

 とにかく、この状況はまずい。

 コイツらをあの戦場から離脱させないと…!

 心気を使用する。

 時間を遡行し、アリサがいるところまで駆ける。

 一度の心気を終えた。

 その直後、ロストシュートほどの速度の魔弾がこちらに追尾してくる。

 「ちぃ!」

 イノスは二人を抱えながら障害物を利用して、免れようとする。

 だが、建物などは貫通。

 壁にさえなれない。

 数が増えていく。

 撃ち落とさない限り増え続けていく。

 避け続けるのは厳しい。

 そう考えていたとき、フレンから通信が来る。

 「もうちょっとだけ頑張ってください。援護しますので。」

 「上等…!」

 その声のおかげでギリギリのところで避け続けることが出来た。

 しかし、イノスの足に魔弾が擦り、体制を崩してしまう。

 「やば…。」

 魔弾が迫る。

 その瞬間、壁が展開される。

 ミーナの「魔弾無効壁」だ。

 ミーナの視覚内にギリギリ入っていたようだった。

 「急げ!イノス!」

 アリサの声が聞こえてきた。

 二人を抱え、多少の時間が稼げたおかげで、心気が使えるようになった。

 時間遡行を利用して、何とかアリサの元まで辿り着いた。

 「賢者様。お願いします!」

 そこには、少し前に転移してきた賢者がいた。

 負傷した二人を治療所へと転移させる。
 
 追尾してきた魔弾はアリサとリサ、イノスで撃ち落とした。

 「アリサ、あれはユナが言っていた…。」

 「…だろうね。魔族が持つ切り札とも呼べる特性。内なる魔族の闘争本能を呼び出す「紅魔」。それを行いながらも使用される「紅魔」の先。」

 現れたラインの姿は先ほどとは比べ物にならないほどの異形。

 足と腕は歪に絡み合って形成され、顔の輪郭も化け物のような容姿に変わっていた。

 「全く、狂うということを如実に表しているね。
「紅魔狂」とはよく言ったものだよ。」

 「コ、ロス。」

 言語も何もかもを捨て去った怪物。

 ただの殺戮マシーンに成り下がった者。

 「勝てると思うか?」

 「賢者様がいて、ギリギリ生きてるかどうかでしょ。」

 「なので、全力でいきましょ?みんな。」

 治療所から戻ってきた賢者。

 「援護は任せてください。」

 リサは後方へ、賢者を軸にしたライン討伐作戦が決行された。







 「これでいいかい?」

 「ありがとうございます。」

 「ったく…怪我人にやらせる作業じゃないぞ…。」

 「我々のできることをやります。そして、彼を万全な状態で送ります。」

 「よし、行くよ!」

 
 
 
  

 




 

 
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