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第六章 魔王軍襲来 風の世界<フーリアスター>編

96.vsゴブリュス・リーバー

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 ゴブリュスは棍棒を振り回す。

 他の者から見ればそう見えるだろう。

 だがこの乱戦の場。

 二人の戦いに向かわせまいとしていたのだが、それでも多くの人が周りにいる。

 故に、その棍棒が振り回された風圧は致命症になり得る。

 そして、この棍棒は特殊なもので出来ている。

 名を「カージェル」。

 耐久性と魔力を通す、三次剣と同じものだ。

 三次剣はその者の実力によって変わるピーキーな仕様だ。

 だが、それはゴブリュスには無用なことだった。

 能力「学習ラーナー」。

 ゴブリンという種族には、共通している能力がある。

 それは、成長だ。

 人だって、生物であれば成長する。

 ゴブリンだって同じだろう?

 その通りだ。

 ゴブリンという種族が魔王軍に来るまでは。

 ゴブリンという種族は、魔族の中でも異端だ。

 言葉は通じず、山に籠り、魔族を襲う。

 そのように成長して来た。

 だが、それを許さぬ者がいるのも事実だ。

 それを正したのがディルギッドだ。

 彼は闇の世界にある山々を巡り、ゴブリンと戦い、勝ちまくり、その全てを手中に収めた。

 最初こそ反感があった。

 家族を襲われた者、酷い目に遭った者、そんな者も少なからずいた。

 そんな中で、誰もが尊敬する王が、偉大なる王が、縋るように頭を下げてみろ。

 嫌々ながらも、やるしかないだろう。

 民はゴブリンたちを渋々迎え入れた。

 彼らはその城下町で勤しんだ。

 彼らは知らなかっただけなのだ。

 最初に生まれた時にはその行動が正しいと思っていたのだから。

 魔族の言葉は最初は分からなかった。

 無知であるがために、傷つかなかったかもしれない。

 それでも彼らは、理解しようとしたのだ。

 その世界のルールを、生活を、学んでいった。

 民は次第に認めていったのだ。

 仲良くなったわけではないのだ。

 嫌いではある。がこいつらはこいつらで大変だったことを知ってしまったのだ。

 なので、こいつらを育てようとしたのだ。

 ゴブリンが成長を遂げたのはこの時だ。

 言葉を覚え、ルールに従い、民と共にしてある。

 彼らはこうして魔族となっていき、自身の能力を覚醒させた。

 その一つが、ゴブリュスの「学習ラーナー」だ。

 全ての物事を学習し、情報を得る。

 なので、ユナの動きはだいたい学習したのだ。

 銃による牽制、鋭いナイフ捌き、小物の利用手段、その他諸々を学習してみせた。

 「…強い。やはり幹部の名は伊達ではありませんね。」

 「戦う為に学んだわけではないがな。それ相応には真剣というやつだ!」

 だが、この小娘もやるものだ。

 土の魔力と風の魔力を合わせ、まとめて吹き飛ばす予定だったが…こいつは魔力を相殺してみせている。

 おそらくはあの眼によるものだが、そんな事が可能なのか?

 ピンポイントで魔力の弱点に当てるなんてことを…。

 「いや、出来ないが?」

 「え…」

 あの三週間の特訓の際、無風の夜叉に行き、話をした結果、みんな魔力の弱点が見えないという。

 「この土の魔力の真ん中に点のようなものがありませんか?」

 「「見えない。」」

 主力のメンバーが言っているのだ。

 良くも悪くも人殺しのエキスパートだ。

 死の過程を見る眼デッドアイの仕様はユナよりも理解しているつもりだ。

 「そもそもそんなものをどうやって知ったんだ?」

 「…覚えてはいませんが…自然とでしょうか?」

 「そんな時あったかな?」

 「…無いですね。驚くほど上手くいく経験はあれど、そのような光景に出会えたことはありません。」

 「…もしくは、ユナが違うと見るかだね。」

 サルヴァは魔眼の持ち主の差異が原因という予想を立てる。

 「ユナと俺たちの差か。」

 「ああ、俺たちは人だ。ユナも人ではある、が魔族の血が混ざっているのは確かだ。」

 「そこに…違いが?」

 「分からない。けど、その「答え」を知る者は知っているんじゃないかな?」

 「その予想は当たってるね!」

 ユナはカリナの解答者アンサーを頼りに雷の世界へとやって来た。

 「いい?魔力の先祖は神様によるものだけど、あれはあれで違うものになっちゃうの!それを使えたのは、長く生きれて、丈夫な魔族しか出来なかったの!」

 その話をした後に筆談で話し始めた。

 でも二百年前には人は死んじゃった。

 残ったのは多分だけど魔族と奇跡的に生きてた人たち。

 人と人とが結婚したこともあるけど、大体は魔族と人との結婚。

 そこで生まれた子供は人と魔族のハーフに。

 人と魔族のハーフになった者同士が結婚したらクォーターに。

 そうやって受け継がれていって、人は少なからず魔族の血が流れていて、魔力を使う事が出来るの。

 「…なるほど、それならこの理由は…。」

 「そう、その眼は人を理解した後に殺し方を考える魔眼。魔力を理解していた魔族の血が、魔力の弱点、名をつけるなら…。」

 「魔力殺し」。

 最低限の魔力をその弱点に当てることで、魔力を相殺させること。

 その力を使って周りの被害を無くしていた。

 「器用なものだな…。」

 ゴブリュスはどのような方法であれ、その技術には敬意を評していた。

 「だが、攻め手がないのでは話にならんな。」

 その通りだ。

 学んで成長するゴブリュスに対して長期戦は不利だ。

 「そうですね。私は殺し屋ですから、真正面からの戦いには向いていません。なので…」

 ユナは魔力を腰につけていた武器収納箱に魔力を通す。

 ユナの周りには、盾と武器を取り入れたものが三つほど宙に舞っている。

 そしてその盾の中から、土で出来たナイフを取り出す。

 「ここからは、自由に戦いましょう。」

 「処理が多くなっただけだろう!」

 ゴブリュスは風と土を併せ持つ広範囲技、「ブロンドヴァン」を放つ。

 向かっていく石は風の貫通力を併せ持つ。

 いくらあの盾でも完全には防げては…。

 「何!」

 盾は回転して石を弾いていた。

 驚いている暇があろうか。

 地面から魔力反応が出現する。

 避ける。

 地面から出て来たのは一つの剣。

 その剣をユナは掴み、攻撃に転じる。

 「こいつ!剣なんていつから!」

 剣の扱いは能力によって行われている。

 今のユナは全ての剣術の頂点に近い。

 が、剣舞を使えるかと言われると使えないのだが。

 それでも虚を突くには十分だ。

 「がふ!?」

 側面から鈍器のようなもので殴られた。

 「盾はこういうことにも使えますよね。」

 ゴブリュスは吹き飛ばされる。

 そして地面にナイフを突き刺す。

 倒れ込んでいるゴブリュスに土のドームが作られる。

 「くそ!こんなもの!」

 即座に破壊する。

 だが、もう詰んでいた。

 その正面には銃弾が目の前にあった。

 その衝撃に一瞬、死を予感して立ち尽くしていた。

 結果は死んでいない。

 二つ目の盾が背中から押し、転ばせ銃弾を避けさせ、三つ目の盾が真上から押し潰しとどめを刺した。

 「ふぅ、やりすぎましたかね?」

 ユナはゴブリュスを倒した。

 その光景を見たファングが、遠吠えをし、ゴブリュスの前からユナを離れさせた。

 「…これ以上は難しい。撤退します。」

 ファングはゴブリュスを連れて撤退していく、その様子を見ていたその他の部隊も撤退していく。

 「あはは、試しに使うものじゃないですね。」

 このナイフ、その他の武装、その全てがウオラによって作られた武器。

 しかも、属性龍エレメンタルドラゴンの一部を使った武器を使っていた。

 魔力の消費が多く、流石のユナでも燃費が悪かった。

 「深追いは難しいな。」

 「…はい。とりあえずは、戻りましょうか。」

 こうして、この乱戦は一人の看板娘によって終わった。

 

 

 
 
 
 




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