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第六章 魔王軍襲来 風の世界<フーリアスター>編

95.大人たちの戦い

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 「うっ…。…何が、どうなった…?」

 魔王軍幹部のエレメスは自身がどうなったのかを思い出そうとする。

 確か、挟み撃ちになり、対応に追われ、そして…一瞬にして倒された…。

 そうだ、こんな感じの金髪に…。

 金髪に…?

 「…は?」

 エレメスは自分の状況を確認した。

 自分を倒した者に担がれていた。

 「な!?お前!私をはなせ!」

 手足を動かそうとするも、感覚がない。

 無くなったのか?

 いや、手はある足もある。

 だが、感覚が伝わらない。

 「あーごめん、無理。色々と聞きたいこともあるしさ、ちょっと捕まってくれないかな?」

 「いやですけど⁉︎」

 「まぁ、連れていくんだけどさ。」

 「じゃあ聞かないでもらえる⁉︎」

 「…あたしが四肢の感覚を麻痺させたせいで、脳に血が上っているのか…。ごめんな。色々とむかつくだろうけど我慢してくれ。」

 「そういうことじゃねぇ!」

 怒られながらも、アリサは進んでいく。

 抵抗がないのだから、運ぶのは楽なものだ。

 エレメスをどのように倒したか、などこの者に聞く必要もないだろう。

 ただ音速を持って切っただけ。

 雷の魔力を使っただけなのだ。

 正面からなら、きっと大変な思いをしていただろうが、その時は乱戦。

 エレメスは対応に追われていた。

 爆発により、煙幕のように煙が充満していた。

 その隙に近づき、首元に電気を流し込んだ。

 ただ、それだけなのだ。

 指揮官を失った事を知った魔人、ゴブリン部隊は、一時撤退を余儀なくされた。

 こちらは守る事を優先にするために、一時撤退。

 余裕がある者は、ユナさんたちのサポートに行ってもらった。

 さて、ここからは時間との勝負になりそうだ。

 あの乱戦がどのタイミングで終わるかで決まりそうだ。

 いざとなれば、三つ目の作戦をそこに使うかもしれないからな。

 


 その乱戦の場では、魔王軍幹部のゴブリュス、ファングの指揮のもと混戦を引き起こしていた。

 こちら側の状況は分かりづらい。

 それでも、この世界にはこの方がいるのだから。

 「ちくしょう…こんなの…一人じゃどおにもならねぇよ…!」

 乱戦の最中、分断された人組がウルフ、ゴブリン部隊の連携になす術なく倒れていった。

 最後の一人となった者は、武器を落とし、絶望に打ちひしがれていた。

 「あ…。」

 ウルフが首元に噛み付いてくる。

 倒れている仲間と同じようになる。

 それどころか、俺だけ殺される。

 そんな時だった。

 どこからともなく現れたその女性は見事な蹴りを与えた。

 周りに倒れている者たちは、邪魔だと言わんばかりに消し、こちらを向く。

 「あなたが守ってくれたのね。よく頑張ったわ。もう絶望をしなくてもいいわ。生きている事、彼らを守った事を誇りにこれからを生きていきなさい。」

 その言葉を最後に、その場所とは違う場所へと変わっていた。

 「また来た!」

 「ああもう!賢者様は鬼か!処置が追いつかなくなっても知らないぞ!」

 「…え?」

 一瞬にして、後方の治療所の所に来てしまった。

 つまり、あの人、あの方は…。

 「ふぅ、これでこの区域は全員送ったかしらね。…さて、貴方達は覚悟できてる?」

 もはや相手にもならないだろう。

 ゴブリンとウルフの部隊は一瞬にして死を悟った。

 逃げの一手しかなかった。

 頭に浮かんだこと、条件反射みたいなものだ。

 それ以外の考えは何もなかった。

 その背中を、優しく押し潰していく。

 転移魔弾。

 それぞれの対象に風の魔力で押し潰していく。

 「があああ!!」

 断末魔が響き渡る。

 気絶するまで押しつぶすのだろう。

 最後の一踏ん張りで魔力弾を放とうとしても押しつぶされてしまう。

 賢者は転移する。

 後は維持をするだけなのだから、その場にいる必要はない。

 「戦いは佳境ね。アリサのタイミングに合わせないと。」

 援護をしつつ、最小の魔力で。

 面倒だと思いながらも、他の戦いの場へと向かっていく。

 
 「あらあら、殺気だってるわね…。」

 ウルフは遠吠えを上げながら攻撃を仕掛けてくる。

 火を吹くこともあれば、風の魔力で切り裂くこともしてくる。

 連携も完璧。

 だが、その攻撃を見切り、攻撃に転じる。

 ブランクを感じさせないその舞は、その名に恥じないものだった。

 元神谷の巫女、神谷麗亜。

 その実力はアリサと同等のものかそれ以上だ。

 その様子を見ていたゴブリン部隊は、警戒態勢を取りつつジリジリと間合いを測っている。

 「あら?そこでいいのかしら?その距離は、私にとっては一歩と同等よ?」

 距離にして50メートルほど。

 遮蔽物が並び立っている中、一瞬でゴブリン部隊に近づき、神谷転生で倒した。

 「さてと、まだまだうようよといるのね。もうちょっとだけ、頑張りましょうか?」

 「さて、今までは神谷の巫女のそば付きではあったけど、元々のスタイルでいかせてもらおうかな!」

 腰につけていた鞭に水の魔力を通す。

 右手の甲にはこれまでの龍の証。

 「ストライクハード!」

 水の魔力を纏った鞭はゴブリンとウルフを打ちつける。

 向かってくる鞭は相手にはこう見えただろう。

 ドラゴンの威圧。

 鞭は海斗を守るように宙に浮かぶ。

 「そろそろ引き時という感じだろう?これ以上被害を出さないためにも、終わりにしよう。」

 その言葉はウルフにもゴブリンにも届かない。

 「分からずやだな。そんなに戦うことが好きか…。」

 その鞭は再び、相手に牙を向く。

 「もう一踏ん張りです!皆さん!風向きはこちらに向いています!」

 リヒトは向かってくるゴブリンに対して、それぞれの部隊に指示及び、サポートをしていた。

 かといってリヒトのいる場所が安全とは限らない。

 奇襲を仕掛けてくる相手もいる。

 それは水龍によって防がれた。

 「しかしこの量は、どこからか先に行かれてもおかしくないのではないか?」

 水龍の疑問は最もだ。

 「心配はいりません。先に行かれていたのなら、アリサが報告してくるはず。それに、先に行かれていたとしても、彼があの場にいてくれるなら問題はありません。」

 つまりは先に行かれても大丈夫ということだ。

 その心配はなくなった。

 ならば次は自分達の方を心配する時だ。

 「こいつ…!」「他のとは違う!」

 前線が押され始めた。

 リヒトの支援サポートを行なっている者たちが前線に立っていたのだが、相手が手練れであったのだろう。

 それもそのはず、ゴブリン部隊を指揮する魔王軍幹部のゴブリュスが相手だったのだから。

 「悪いがお前たちでは相手にならん。このまま行かせてもらおうか?」

 能力で強化されている者達は、ゴブリュスが持つ棍棒で吹き飛ばされる。

 あれは、普通じゃない。

 魔王軍幹部とはこれ程のものなのか?

 あの時の彼らはこんな相手を倒したのか…。

 リヒトは大原や団長たちの称賛と共にこの状況をどうするべきかを考えていた。

 このままでは壊滅は免れない。

 そんな時だった。

 一発の発砲音と共に、ゴブリュスに斬り込んでいくものが現れた。

 「副団長さん、この方は私に任せてください。なので、あまり邪魔立てしないようにして欲しいのですが、お願い出来ますか?」

 「…はい。任せてください。やはりあなた方に頼む事がこの戦いでは必要な事だった。」

 「小娘、中々の実力だ。それ故に問おう。その眼が理解するまでに、どれだけ殺してきた?」

 「…数えるのなんて、忘れましたよ。ただ命じられる度に殺して来たんですから。」

 そう。この眼はそういうものだ。

 たくさん殺してきた証と言ってもいい代物だ。

 本来なら、この戦いでも殺して、殺して、殺し尽くすのがこの目を持った意味なのだろう。

 「けど、この眼殺す以外にも用途があるみたいですよ?」

 「は?」

 けれど、私は諭されてしまった。

 この世界での思い出ができてしまった。

 殺す事で守って来たものが、殺さずに守られた。

 あの人は、こんな者達にも殺さずにいる。

 分かり合えると、上手くいくと信じて。

 なら私もその意思を、この場で、この眼で示したい。

 「良い子ぶるなよ、殺し屋!この場は戦場!俺たちの戦いの場だ!この場に綺麗事なんざ!一つも叶わねぇよ!」

 「そんな人に負けたら恥ずかしいですね。」

 そうして、ユナ 対 ゴブリュスの戦いが始まった。

 「ゴブリュス殿が戦い始めたか。ならば…。」

 ファングは息を潜めて、ユナへと近づいていく。

 だが、後ろから人の匂いがして回避行動に移す。

 「やっぱり、奇襲は難しいか…。」

 「そんなものだろう、サルヴァ。ユナに奇襲が行かれないだけましだろう。」

 「読んでいたのか。この状況で…!」

 「いや?俺は全然。気づいたのはこいつ。俺は追っかけただけだ。」

 「「え?」」

 何故かサルヴァとファングは同じ反応をしていた。

 そんな二人を気にせず、キラーズは話し続ける。

 「多分だけど、ユナに死の過程が見えたんだろう。こんな乱戦時によく見えたものだ。…あ、それともユナに気にかけていたからか?」

 「…別に、元々ユナは俺の部下だし。」

 「無風の夜叉のほとんどはユナは部下みたいなものだしなあ。理由になってないぞ?」

 「うるさい!今はこいつに集中する時だろ!」

 顔を真っ赤にしながらファングと対峙する。

 「面倒くさいな。まぁ、そんなことを考えられるくらい、変われたのかな。」

 「向かって来るのなら、かうまで!」

 そして、ファング 対 サルヴァ、キラーズの戦いも始まった。

 

 

 

 
 

 






 
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