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第六章 魔王軍襲来 風の世界<フーリアスター>編

92.VSファング・アーキム部隊

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 エノスがカリスと情報交換のやり取りをしている間に、他の場所では戦いが激化していた。

 龍也陣営では…。

 ラインは、引きつつもこの世界の先を目指していた。

 中・遠距離が得意だからというのもあるだろうが…龍也達と距離をとりながらも、遠回りで大原が吹っ飛ばされたの島を目標にしていた。

 あそこには非戦闘員が多くいる可能性、及び相手の長距離砲の設置場所でもあると予測していた為だ。

 「どうやってあそこまでいけるかだが…。」

 こいつらが邪魔して来るんだもんな…。

 主にラインの相手をしているのは龍也、レオス。

 そして、その後ろで全体のサポートをしている水龍。

 水龍の周りにいる者には加護が与えられる。

 加護が与えられた者には、ベールのようなものが付与され、魔力をいなす事ができる。

 ウルフの面々はこれにやられ、噛みちぎる事が出来なかったのだ。

 「ウルフの野郎どもをいなしてこっちに来るんだもんなあ。」

 ウルフ部隊は命大事にってか?

 魔力消費をビビってやがる。

 消化試合、相手の戦力を見定める戦いだあ?

 馬鹿言ってろ。

 こっちの数は勝ってる。

 なら、殺せるだけ殺すべきだろ?

 この先の計画?意思あるものは生かすだあ?

 やめて欲しいね。

 俺はこの戦いを楽しんでいく!

 「ウルフの野郎ども!お前たちは奴らに舐められっぱなしでいいのか⁉︎」

 ラインの魔力が上昇していく。

 「奴らはお前たちをいつでも殺せる準備は出来ている筈だ。だが、何故お前たちは今も戦っている!?」

 ウルフの耳が、ラインの声に引き寄せられる。

 「こいつらは、お前たちで遊んでいるんだよ!」

 「何を言って…」

 「お前たちは、ゲームの経験値みたいなものになっているんだ。ただの雑魚狩り、それと同等に見て、覚えた技術をお前たちで試しているんだ!」

 違う。俺たちはただ殺したくないだけで…。

 「これは、戦いだ!戦争だ!殺し殺されの、生を掴み取る戦いだ!舐められっぱなしの戦いを!お前たちが許せるのか!」

 「その通りだ!我らに退くという考えなど!必要ない!攻める時は、攻め続ける!殺せないなら、こちらが殺すまでだ!」

 ファングは高らかに、宣言してみせた。

 「グルル…」

 ウルフの目が変わる。

 様子見から一転。

 獲物を見る目を向けられる。

 「数でも勝っている!機動力も勝てている!俺たちは理論で勝てても、心が負けていた!それを今!ここで!打ち破るぞ!」

 ラインは魔力を空へと放った。

 それは雨のように、龍也達に降り注いだ。

 レインアサルト。

 必中の能力と合わさって、守りを固める事でしか対応出来ない。

 反撃の狼煙は上がった。

 「行くぞ!!!」

 レインアサルトの着弾と同時にウルフ部隊は遠吠えを上げながら近づいて来る。
 
 ウルフ族の能力はほとんどの者が「遠吠え」にちなんだ能力だ。

 それぞれの能力の詳細が違うのだが。

 身体能力増強、魔力増加、魔力無効化、属性無効化など多くの種類がある。

 だが、この能力は単体では意味をなさない。

 何百、何千のウルフが遠吠えを上げる事で、能力の効果の差が出て来る。

 今のこの状況は、ほぼ完璧に近い。

 能力の効果は最大級。

 殺さずにいなしてきた弊害がここにきて、重くのしかかってきた。

 魔力をいなす事ができずに、水龍のベールは剥がされ、数の暴力で、噛みちぎれていく。

 「こいつらの対応に手間取っている間に、この先へと向かうとするか。」

 ラインは、前進していく。

 「くそ!先に行かれる!」

 「大原には悪いが、奴らにも立場というものがある。話し合いなど、戦いの中では不要なものになったのだ。」

 レオスは、硬化を最大限に引き出し、ウルフの歯を砕き、一撃を与える。

 「…っ!難しいことは分かっていたっすけど、むざむざと死ぬわけには行かないっすものね!」

 今まで剣一本で戦ってきたが、そんな余裕はない。

 水龍の剣を引き抜き、龍の証を用いて、水の魔力を用いた、対集団戦の剣舞、「流桜無尽」を使用し、大量のウルフ部隊を捌いていく。

 「と、いいつつも殺してないんすよね。」

 「殺しきれないの間違いだろ?」

 今までは魔力を抑えていたが、そんな余裕はない。

 最大限の力を持って、この状況をなんとかする!

 ウルフ部隊のファングは、能力「咆哮」を用いながら、全体を見据えていた。

 ウルフ族は、直接攻撃が主な攻撃手段だ。

 しかし、ファングはその咆哮で魔力操作一万以下の者を痺れさせる事が出来る。

 その能力が発動している最中に攻撃をしているのだが、何かがおかしい。

 

 

 ウルフの者どもは腕や足、腹、最終的には首まで噛みちぎっていくのだろう。

 水龍はそれを見越していた。

 腕や足の欠損はどうしようもない。

 だが、急所だけは守り切ることはできる。

 傷を負ったところには、何が出て来る?

 人間の構造はどうなっている?

 人はほとんど何で生かされている?

 ウルフの面々はこれに気づくことは出来なかっただろう。

 この、最低最強のカウンターに。

 地面から、赤い槍が一匹のウルフに向かう。

 噛みついたところから、棘のような者が飛び出て来る。

 血反吐が、剣になって襲いかかって来る。

 ブラッドカウンター。

 対生物自動反撃技。

 属性龍エレメンタルドラゴンの中でも、厄介と言わんばかりの性能を誇っている。

 この技で、どれほどの者たちを殺してきたか…。

 「先にゆけ!龍也!レオス!お前たちは彼奴を止めに行け!」

 水龍は龍也たちの前に立つ。

 あの技を見ると、どうしようもなくなってしまう。

 「この技は、お主の友を傷つけた技。死に至らしめた技だ。この力は、醜いものだ。私も使いたくはなかったが、この世界で生きる者たちを守るため、そして今まで殺してきた者たちへの弔いとして、この技を使う!」

 「でもこのままじゃ、出血死するっすよ!」

 大勢の人が血を流している。

 その血で攻撃をする。

 そんなことを繰り返していたら、みんな死んでしまう。
 
 そんな中で俺たちが、行けるわけが…!

 「そうです。龍也さん達は先に行って下さい。ここからは、こちら側が血を流す必要はありません。」

 その声の先には、華麗な身のこなしで、ウルフの攻撃の中を何事もなかったかのように捌いてみせたユナがいた。

 そして、その背後で圧倒的な速さを持ってウルフを撹乱しているキラーズの姿もあった。

 「程よく血を流せば大丈夫だろう?」

 「その血の攻撃を違うウルフの方へ向かわせれば問題ないかと。」

 その二人を筆頭に無風の夜叉の面々が援軍に来てくれた。

 「ほら、ぼさっとしてないで下さい。流石にあれほどの相手が出来る人、後方にはいないですよ?」

 「このメンバーなら大丈夫だろう。いくぞ、龍也。」

 「…後は頼むっすユナさん!」

 「はい。こちらは任されたので、そちらもお願いします。」

 その言葉を聞いた後に、龍也達はラインを追ってこの戦場を後にした。

 「さて、大変カッコつけたところ悪いが、ゴブリンの部隊も合流だ。」

 「えっ。聞いてないんですけど。」

 「ゴブリン部隊を広く展開していたのだろう。人数の差がこうも出て来るとは…。」

 「あー、聞こえますか?まあ聞こえてると思うんですけど。」

 この展開をどうするか苦悩しているところに、フレンからテレパシーで脳内に語りかけてきた。

 「ゴブリン部隊が向かっていると思いますが、援軍が二つほどあるのでそちらでなんとかして下さい。と戦場に向かったアリサさんからでしたー。以上。」

 援軍が二つ?

 「報告は来たと思いますが、こちらに向かわせてしまったのはこちらの不手際。ゴブリン部隊の多くはこちらがなんとかします。…乱戦なのできついと思いますが。」

 「ギルド部隊か。」

 「あれ?団長は?」

 「カリスと情報交換をしています。」

 「マジですか。すごいですね。」

 「そのせいでゴブリン部隊が向かって来たら意味ないと思うがな。」

 ありがたいところではあるが、これでも足りない。

 ファスティアを呼ぶか…。

 それともこちらの切り札を切る時なのだろうか…?

 「待たせたわね。みんな。」

 戦場のど真ん中に、賢者が転移してきた。

 もう一つの援軍は賢者…いやその他に二人、久々の感覚がする。

 「大変そうね。何年振りか分からないけど、がんばっちゃおうかしら。」

 「乱戦状態だね。懐かしい感じだ。ここにエノスがいれば良かったんだけどね。」

 「貴方達は、麗華さんの…」

 そこには、神谷麗華の父親と母親である、神谷麗亜と神谷海斗がいた。

 「あら、ユナちゃんもここにいるのね。若い子には負けられないわね。」

 「…戦えるんですか?」

 「そうか、ユナは知らないのか。この人たちはその昔、モンスターが蔓延っていた風の世界を駆け巡り、全てのモンスターを倒したパーティーにいたのだから。」

 「…それって…団長のパーティーの話じゃ…。」

 「話は後にして、今はこの状況をどうにかしましょう。」

 ここに、賢者、無風の夜叉、元神谷の巫女、水龍の面々が揃った。

 

 

 

 

 



  









 
 

 
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