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第六章 魔王軍襲来 風の世界<フーリアスター>編

87.もう一つの戦い

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 風の世界フーリアスター陣営と魔王軍が互いに最高戦力と見合うまでの間のことである。

 セレスティアルの森のどこかに吹っ飛ばされたゴーレムは、マスターブレイブと対峙することとなった。

 「オモイキリ、ケラレタ。」

 ゴーレムは理解しつつも、理解ができない状態になった。

 ヘビーモードでこんなに飛ばされるのは初めてだったからだ。

 可能性があったのは、前魔王ディルギッド、吸血鬼フラミリア、そして人の身でありながら人よりも長くこの世を見てきた者、仮称ミスターOの三名だ。

 こんな老いぼれに飛ばされるのは少しばかり理解に苦しんでしまう。

 「よしよし、ここまで来れば大丈夫じゃろう。お主は結構強いからのう。」

 ただの普通の老人がのそのそと歩いてくる。

 この状況下でただの老人に見える事がおかしいのだ。

 この者の底が見えない。

 分からない。

 だが、おかしい事には少し覚えがあった。

 なるほど、それなら合点が行く。

 「オマエ、シンキマトッテル。」

 「ほう…!他にもおるのか。しんきを纏う事が出来る者が。長生きしてみるものよ。少しばかり雑談を交えたいところよ。」

 「ハナシ、ムダ。オマエタチ、センメツ。メイレイ、マモル。」

 「ふむ、仕方がない。話しながら戦うとしよう。」

 無垢の極み、一の剣、「斬」を即座に展開する。

 「オマエ、ツヨイ。ホンキ、ダス。」

 しんきを纏っている者に手加減はいらない。

 即座に対象を排除する。

 ゴーレムが五百万の魔力砲を抑え込んだ状態をブロックモードとするならば、防御を捨て速さと鋭い攻撃を行えるようになったこの状態はさしずめ、オフェンスモードと呼ぶべきだろう。

 脚、腕の部分は鋭い槍のように。

 身体は軽装備で身軽になり。

 その目は多くのものを含む。

 「イクゾ」

 「ふむ。来なさい。」

 余裕があるマスターブレイブ。

 ゴーレムの鋭い一撃を難なく防ぐ。

 すぐさま足元から魔力を流し込み、地面を盛り上がらせ体制を崩そうとする。

 だが、それを感じ取ったマスターブレイブはその前に跳んでかわした。
  
 それを読んでいたかのように先回りしていたゴーレムは、炎の魔力砲を叩き込んだ。

 展開している斬撃では対応が出来ない。

 とはいえ直撃は流石にまずい。

 剣を構える。

 行うは無垢の極み、三の剣、封殺剣・守式。

 水の魔力か風の魔力があれば使用可能。

 防ぐために使うのではなく主に受け流す際に使われる技。

 故に、風に受け流され魔力砲の直撃を避けた。

 地上に着地する。

 マスターブレイブのにはある違和感があった。

 先を読むというのは情報があってこそのものだ。

 ゴーレムには不可能ではないだろう。

 だが、全くデータが無いものから先読みをすることは出来ないだろう。

 予測は出来るであろうが。

 つまりここまで読まれたとなれば、可能性は一つ。

 「未来経験フューチャーアイか…。」

 「ソウ、オマエノミライ、ミタ。ホカノメ、ムイミ。ミライ、ミルシカナイ。」

 ゴーレムの眼?の部分が変わっていく。

 青、赤、黒、緑、灰色と変わっていく。

 なるほど、この者は強い。

 何せほぼ全ての魔眼を使用できるのだから。

 ただその代わりではあろうが、能力は持ち合わせてはいないのだろう。

 まぁ無くてもデメリットにはなり得ないだろう。

 「やはり、わしが相手をするしかないのう。大原や賢者様には相手が悪そうじゃ。」

 考え事をしていると、超速で突進してきた。

 それをボール一個分の間合いでかわした。

 そこから撹乱のために四方八方から突進してくる。

 魔力を纏わせながら、範囲を広げ、小手先を使い、手数を増やす。

 それらを涼しい顔をしながらかわしていく。

 「ふむ。ならば、」

 ゴーレムの突進をかわす。いや、もはや通過しているだけとも取れるが。

 通過した瞬間、ゴーレムの速度に合わせ走る。

 「こちらからもよいかのう?」

 ゴーレムの予想通りの展開であろう。

 この者がついて来れる事を視だのだから。

 攻撃に転じる。

 攻撃が終わった。

 「エ?」

 どのような攻撃だったかは読んでいた。

 強く、重い魔力の斬撃と剣撃。

 防いだ隙をついて、攻撃を…。

 速すぎたのだ。

 いくらその攻撃が来ると分かっていても、モーションが見えないのでは意味がない。

 心気の時間遡行であるだろうが、余りにも速い。

 そもそもだ。

 未来経験フューチャーアイは何故この攻撃を予測出来たのか。

 この攻撃を受けたからだ。

 この攻撃を受けた結果を視たからだ。

 アリサの時もそうだ。

 彼女は自身の死ぬ未来を視て対応を行った。

 アリサの時は対応が可能だった。

 今回はどう足掻いても対応は出来なかった。

 ただそれだけなのだ。

 ゴーレムは自身の速度を止める事なく転がっていってしまった。

 あの速度を出しながら攻撃を受けたのだ。

 そうなるのもしょうがないだろう。

 ゆっくりと標的に向かう。

 転がった先は森の中に出来た広場のような場所。

 そこには、多くの花が咲き誇っていた。

 白い花、黄色い花、様々だ。

 「…やはりここはいい場所じゃな…。戦う気が無くなるわい。」

 自然と生まれた空間。

 その中心に異物が転がっていた。

 ただ様子がおかしい。

 一度もこちらに目をやらない。

 気づいていない、わけでは無い。

 心ここに在らずというべきか。

 ゴーレムに心があるかは分からんが。

 「ココ、スゴイ、バショ」

 こちらに目をやらずに話しかけてくる。

 ただ一心に花を見続けている。

 「そうじゃな。ここは良い場所じゃ。皆戦わずにこの場を見て、感想を言い合う。それぞれ違う意見が出るであろうが、そこにここで戦うという思考にはならん。どれほど血によくした獣でも、良いものを見た後では争うことなど忘れよう。」

 ゴーレムが転がった道には多くの花が踏みつけられ、散っていった。

 その道をゆっくりと歩く。

 ゴーレムに戦意は感じない。

 もちろんここで倒そうとも思わない。

 わしもどうしようもない殺戮者ではあるが、ここで戦うほど落ちぶれてはおらん。

 「オデ、ハナ、スキ。マエノ、マオウサマモ、スキダッタ。ココデ、タタカイタクナイ。」

 「…そうじゃな。こことは違うどこかで争うとしよう。戦わない選択は無いがのう。残念ながら、こちらにはこちらの、お前さんにはお前さんの立場というものがある。」

 「ワカッテル。」

 「…では行こうかのう。こっちに良い場所がある。小細工も何も無い。ただ広い場所じゃ。」

 そうして、その場所に向かうために歩き始めるマスターブレイブとゴーレム。

 その場所に向かうまでにゴーレムは懐かしい記憶を遡っていた。

 それは三百年前の事。

 前魔王、ディルギッドに連れられある場所まで来ていた。

 ちなみにゴーレムはコアさえあればどのような状態でも記憶は保持されているため、今はコアを包んでいる器具と魔王に持ち運ばれていた。

 向かった先は魔族が賑わう商店街。

 ゴーレムに少しは民のことや、基本的な常識を実際に見て、知って欲しいという理由で、魔王という役職を脱出。サボりだ。

 変装もしているため何ら問題はない。

 服屋に行ったり、食べ物を買い食いしたりとうん?これデートやんけ!?

 と突っ込まれそうになるほど、ルンルンとした魔王の姿があった。

 ゴーレムはそんな魔王を横目にこの世界にいる者、事柄を理解しようとしていた。

 その商店街の中に、一つの花屋があった。

 「?マオウサマ、コレハ、ナニ?」

 「ふむ、王城にもあると思うが…。ゴーレム、花を知らんのか?」

 「ハナ、マゾクニモ、ニンゲンニモ、ソナワッテイル、カオノブイノコト。デモ、ゼンゼン、チガウ。」

 「そうか、そうなるのか。まぁ戦闘マシーンとして作られようとしていたのだ。仕方ないか…。」

 ディルギッドは、ゴーレムのコアを花に近づける。

 値札が付いているとこにも近づける。

 「花というのは植物の一種だ。分類としても使われる言葉だな。多くの種類があり、それらを束ねて売っているのがこの店というわけだな。」

 「イロイロ、アル。」

 「せっかく来たのだ、一束買うとするか。」

 「ありがとうございました~」

 買い物を終え、花屋を後にする。
 
 「ハナ、コウゲキ、シナイ?」

 「しないな。そこにただ咲き誇っているだけのものだからな。」

 「ハナハ、ナニガデキル?」

 「まぁ、虫にミツをあげたり、種を撒いたり、二酸化炭素を吸ったり、光合成したり?」

 「デモ、ソンナコト、ミンナキニシテナイ。」

 「そうだな。知識としてあるだけだ。水をあげれば育つからな。」

 確かに、気にはして無いのだろう。

 花はいずれ枯れるものだ。

 水をやらなければ枯れる。

 水をやりすぎても枯れる。

 あれ?意外と気にしてるか?

 とはいえ、それは忘れても何ら問題はないことだ。

 「ナンデ、ハナハソンザイスルノ?」

 「…」

 子供のような質問だ。

 そこにちゃんとした知識があるから余計にタチが悪い。

 難しい。

 こればかりは検索しても疑問に思うだけだろう。

 自分の言葉で説得するしかないのだが、どうしたものか…。

 花、原っぱ、飾る、キレイ、後は…送りもの…感謝とかの…。

 …これか?これかもしれない。

 考えたまま話し始める。

 「これは調べても出て来ないと思うが、我は思いのために存在しているのだと思う。」

 「オモイ?」

 「そう…。花を飾って清潔感をつくろうとする思い。人に感謝を伝えるために送る思い。…平和を願う思い。そんなものを思い起こさせるために、花は存在しているんだと、思う。」

 「ナクテモ、モンダイナイ。」

 「そうかもしれない。けど、そういうものに思いを乗せて、安心したいというのもあるのだろう。言葉だけでは伝わらない感謝とかだな。」

 「?ヨク、ワカラナイ。」

 「要は難しく考えなくていいんだ。思ったことを考えたことが自分の答えになると思うぞ。」

 「…ケツロン、リカイフノウ。」

 「今はそれでいい。いつかその意味が分かるようになる。」

 「ワカッタ。」

 そんな会話をしながら、王城に戻っていく。

 勿論、魔王はこっ酷く心配され、叱られ、泣かれた。

 後日、ゴーレムがわざわざやって来て、「ムズカシク、カンガエナイ。ケッカ、マオウサマガ、スキナモノ、スキニナレバ、ヨイ。トイウ、ケッカニ、ナリマシタ。」と花を持ちながら言われた。

 「…まぁいいだろう。」

 花は正直好きとか嫌いとかじゃないんだがなあ。

 ディルギッドは、少し考えることを諦めた。
 

 
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