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第六章 魔王軍襲来 風の世界<フーリアスター>編

83.大原 対 ディサップ

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 戦いは一方的なものだった。

 大原は避けることしか出来ず、攻めることが出来ない状態が続いた。

 魔力の有無がここに来て辛いものになって来た。

 対してディサップは魔力あり、能力も発動し続けている。

 完璧な状態で戦っている。

 にも関わらず、大原は未だ健在。

 その理由は、大原の瞳。

 仮称「因果の眼」だ。

 その目によって、自身が死ぬとされる攻撃を最適解の判断によって回避するという、オート回避なるものを有している。

 それも、

 「何故だ?心気は発動している。時間遡行は出来ている。なのに…未だ捉えられない。」

 魔力の攻撃は避けられる。

 直接攻撃も能力によっていなされる。

 心気による時間遡行も探知される。

 つまるところ、打つ手が無くなりつつある。

 それに、「あのトリッキーな動きを魔力もなしに出来るものか?」

 大原が移動に使っているのは木の枝。

 枝を利用して回避したり、移動したりとまるで忍者の様、いや忍者というにはあまりにも失礼だ。

 あれは猿だ。

 自由に乗り移る様は猿の様だった。

 だがこれは、マスターブレイブによる特訓の成果の一つでもあった。

 「あるお方は言った。人は自然と共にあるべきだと。しかし人は自然をそこにあるだけのものとしていると。あって当然だと。そんなことはない。」

 マスターブレイブは思い返す様にその言葉を紡いでいく。

 「長い年月がありその自然は実り、今の人と共に歩んでいる。自然は人の協力なしに成長出来るが、人は自然なしにここまで発展しなかっただろう。昔は感謝をしていたかもしれないが、今となっては消え失せていく感情だ。その感情を捨てずにいられたら、お主たちは次の段階に進めたものを。」

 「次の、段階…。」

 「そう、それが。自然と一体となり、自然とあった時間を越えることができる。まるで長い年月をかけた大木のように。」

 「…」

 時間遡行。神谷の巫女が行っていたものか…。

 「お前さんには知識として持っていてほしい。これを使う特訓はせん。」

 「…時間がないから、ですか?」

 「…取り乱さないあたり、自分に出来ることを一つずつクリアしていく者のようじゃのう。」

 マスターブレイブは話は終わりだと言わんばかりに、歩き始めた。

 「ついてきなさい。お主の特訓は、心気に近づくための一つの特訓じゃ。」

 歩き続けて数分。その間にも、心気の知識の話をされる。

 「っと、この辺でいいかのう。」

 マスターブレイブが立ち止まった場所は、木々が生い茂る、森の真ん中だ。

 「遭難しそうですね。」

 「ほっほ、何せその通りになるんじゃからのう。」

 「えっ…」

 瞬間俺の意識は失われた。

 気がついた時には周りもよく見えないほどの夜の世界だった。

 右手には紙が握られており、「この森の中からわしらの家を見つけてみなさい。きっと、お主にはこの方法が良い修行になる。」と。

 魔力はあるけど食料もない。

 動物とか、いるのか?

 「あ」

 取り出せば、なんとかなるか。

 …けどそれは…

 「駄目だ。意味がない。意味がないことを続けても何もならない。」

 能力の強化などは求められていない。

 ならば、やってやろう。このサバイバルを、自分で乗り越えなければ。

 「上手くやるしかない…か。」

 



 今にして思えば、よくたどり着いたものだなぁ。

 木の実は毒があるか分からないから片っ端から食べて、毒があれば取り出して、吐いて。

 精神的にきつかったけど、今なら分かる。

 ああ、感覚が研ぎ澄まされていく。

 周りの状況、俺の状態、敵の状態、次の一手。

 全て、俺なら可能だ。

 大原のこの状態は、「円」というものだ。

 マスターブレイブが自然と共に修行に励んでいた時、目をつぶってこの森を歩けるかもしれないと思い至り、記憶ではなく、感覚によって状況判断ができるようになった。

 その範囲は、大原は20メートル。

 イノスは100メートル。

 マスターブレイブはこの森全土を、半径10キロほどだろうか。

 それほどの範囲の状況を感じ取れる。

 もちろん、自身より遠ければ情報は少なくなる。

 しかし、大原は今自然と共にある。
 
 心気による時間遡行は、少し先の一撃。

 自然はただその状況を見ている観測者だ。

 その情報を大原は「円」によって受信し、因果の眼によって回避していた。

 まぁいわゆる、先の攻撃を予測して回避しているということだ。

 そして、この戦いで、大原は因果の眼を使い続けている。

 今までを思い返そうか。

 因果の目の経験は全て大原の経験に吸収された。

 つまりは、大原将希の因果の眼が切れた時、実力差は無くなる。

 心気による攻撃をかわす。

 その瞬間大原の瞳は元に戻った。

 つまりは相手の攻撃は全て見切った。

 ここから、反撃ということだ。

 大原は背中を向けることをやめた。

 標的を見据える。

 相手の目を見る。

 酷く虚な目だ。

 その目が問うてくるようだ。

 お前に何が出来ると。逃げることしか出来ていないお前に、この俺に向かってくることが出来るのかと。

 その為にやってきたんだ。

 この世界を守ると決めた。

 だから強くなろうと努力した。

 そして仲間にも会えた。

 沢山だ。たくさん。

 それだけでいい。

 こんなにも自分を支えられるものを持てた。

 それだけで、賢者に連れてこられた意味はあった。

 その支えを、失いたくない。死にたくない。

 お前たちに向かう理由は、それだけで、いい‼︎

 大原は向かう。

 その相手に向かい続ける。

 逃げにまわっていた相手がこちらに向かってくる。

 武器もない。魔力もない。

 何が出来るんだ。

 お前も同じなんだろ?

 同じように絶望して、暴走してそして、殺される。

 俺の能力にかかった者たちはいつもそうだった。

 違かった相手と言えば、今の魔王と前魔王ぐらいだ。

 さぁ、少しはこの俺に足掻いて見せてくれよ。なあ!

 苛立ちの一撃が空を切る。

 魔力は全てこの一撃に回された。

 攻撃なんてものはない。そもそも避けられるはずがない。

 だが一つの音で、一つの痛みで、まだ戦いは終わらないことを示していた。

 大原は魔力のこもった突きを回避した。

 それと同時にあるものを取り出していた。

 音が鳴り響いた。銃声だ。

 弾丸は相手の腹部に命中した。

 相手はきっと手がないと思い込んだ。

 自分の脅威となるものがない。

 いやむしろ、殺されにやってきたから攻撃したような感じだった。

 きっとディサップに向かってくるものは、攻撃の意思のないものたちだったのだろう。

 それ故の油断。

 それ故の負傷。

 俺はその様子を見て、教えてやりたくなった。

 「ディサップ。お前に向かってくるやつは諦めてる奴だけじゃない。こうして立ち向かって来るやつもいるってことを、覚えておけ!」

 剣を取り出す。

 ここからが本当の勝負。

 「さぁ、戦おうぜ。ディサップ。お前の能力ごと打ち破ってやる。」

 この俺と、戦う?

 こんな最悪な状況でも戦うのか?

 諦めないのか?

 俺の能力を知ってなお、俺と正面から戦うのか?

 分からない。理解ができない。

 けど、不思議と悪くない。

 むしろ清々しい。

 「ああ、やろうじゃないか。ここでお前をこの世から消失させてやる。」

 その目には何も無かった。

 だが、今ここに向かって来る者がいる。

 その者の目をしっかりと映す。

 これから戦う相手をただ静かに見据えていた。

 

 

 










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