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第五章 剣豪大会編

71.龍也 対 イノス

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 舞台に上がった二人は握手を交わした。

 「今回は俺も本気でいかせてもらおう。」

 イノスは今までの余裕のある雰囲気ではなく、威圧感に溢れ、緊張感が伝わってきた。

 「ありがたいっすね。俺なんかに、本気を出してくれるなんて。少し誇らしいっすよ。」

 龍也は少し楽観的に話した。

 「それでも、あんたには勝つよ。約束を守った人がいるんで、俺もそれに応えないと。」

 交わした手に力が入る。

 「俺は、マスターブレイブの弟子として、ここで負けるわけにはいかん。この自信を打ち砕かれるわけにはいかんのでな。」

 両者共に後ろを向く。

 五歩進んだ時点で、両者は剣を構えた。

 「試合、開始!」

 審判の手が下げられる。

 その瞬間、龍也には逃げられない何かに縛られたような、見透かされているような感覚に陥った。

 そんなことを横目に、一瞬にして斬撃が展開されている。

 全方位からの攻撃を、何もせずに弾いた。

 「波紋結界」

 波紋を広げるように斬撃を広げ、全方位からの攻撃を防いで見せた。

 レグルスとの修行の際は足元にしか斬撃は広がっていなかったが、この一週間で三次元による波紋を広げることが出来たらしい。

 「結界は箱の中にいるようなものだ。その箱を薄く展開して、水の魔力を流し込んで斬撃を広げている。」

 アリサは大原にそう説明していた。

 「何もしていない。いや、何かはしていたが見えないということか。」

 「小手調べって随分と余裕だな。あれは嘘だったのか?」

 水の魔力を推進力に地面を滑るように高速移動する。

 標的は未だその場に立ち尽くしたまま。

 その行動に何か歪なものを感じた。

 近づくことをやめ、水の斬撃を放った。

 もちろんのこと当たりはしない。

 それは予想通りだった。

 だが、その場から一瞬で消えたというのはなぜなのか。

 「これは中々…」

 右の方から声が聞こえてきた。

 攻めるのを一旦中断して、距離を取ったようだ。

 「波紋結界という技は、高速移動中にも展開しているようだな。三次元的なことは無理なようだが。」

 「そっちこそ、カウンターの亜種みたいなものを使ってくれて。」

 「無垢の極みというものだ。そのニの剣と言ったところだ。」


 ニの剣ということはまだまだバリエーションはあるということだ。

 しかもあの速さ、いや心気というのか。

 技に組み込まれると厄介だ。

 「もっと見してほしいものっすね。」

 「慌てるな。適材適所というものだ。」

 言われずとも、と瞬時に近づいてくる。

 (見破られたかよ)

 未だ波紋結界は展開中。

 にも関わらず簡単にかわされてしまった。

 防御を、と考えたときには遅かった。

 だから。

 イノスは時間が飛んだように、剣撃を与えていく。

 合計にして四回。

 誤差は一秒ほど。

 頭、両腕、足元を狙った剣撃。

 左腕に命中。

 「残花の川流れ。」

 相討ち覚悟のカウンター。

 その一刺しはギリギリかわされた。

 「イノス選手、一ポイント!」

 「ちぃ!」

 「狙いは良かった。間違いなく一撃を貰っていた。が、空気がゆらめいたのでね。咄嗟に何かが来ると分かってしまった。」

 「は?お前何言ってんだ?」


 「お前にはセンスがある。いずれこの感覚に気付くだろう。」

 訳わからないが、それぐらい強いってことだな。

 龍也は考えるのを諦めた。

 理由は二つある。

 一つは考えても分からないからだ。

 バカ丸出しだが、悩み続けるよりはマシだろう。

 二つ目は、条件を満たしたということだ。

 「センスっていうのは、俺の能力なもんで。身体に染みついてきたってことっすかね?」

 「なるほど、お前もか。魔眼持ち。」

 極限集中状態ゾーンはそれぞれの持ち主にトリガーとなるものがある。

 その中でも龍也は、段々と集中力を増していくタイプだった。

 レグルスとの修行の時には、最速十分ほど戦わなければならなかったが、今では一分ほどで集中力が最大値に持って来れるようになった。

 「ここからが、本番ってやつよ。」

 「そのようだな。」

 龍也は深呼吸を一つ。

 その後、標的に詰める。

 「清流・飛花」

 風の魔力と水の魔力を合わせた技。

 のらりくらりと剣を振り、相手の攻撃を避けつつ攻撃をし続ける。

 その剣速は、速くはない。

 速くは…あった。

 受ける、かわす。かわすと速くなる。

 受ける!

 イノスはここに反撃を与えようと一度剣を弾き、距離を取る。

 その際斬撃を展開しつつ後退して、カウンターを…

 許すと思ったのだろうか?

 そんなもの、緑に輝く目には止まっているのも同然。

 龍也は水の魔力を用いて近づき、緩急をうまく使いながら隙を作った。

 (届く、普通ならば)

 剣を弾かれたイノスは胴の部分が空いている。

 普通ならば与えられる。

 だが、心気がある。

 そもそも、普通とはなんだっただろうか。

 常識的に考えて、これは防げないんじゃないかというものだろうか。

 これまでの経験上、普通とは程遠いほどのものを見せてもらった。

 自分も普通とは程遠いほどのものを持った。

 けど、この世界ではそれは予想通り、出来るよねと最悪の場合というものが多すぎる。

 正直言って、この世界では常識もクソもないのだ。

 そもそも、戦いに常識は無いのだ。

 ならば、もうそろそろ訳わからないことを俺もしてみようじゃないか。

 イノスの胴部分に振るう。

 当然のように…いや、ギリギリだ。

 時間が飛んだようだ。だが、この目はこの身体が、感覚が追えている。

 剣の横一線は足を滑らし、水をまとった円状に展開された。

 円状から変化し、細かい水の剣と成した。

 それを見たイノスは、剣舞の構えを見せる。

 攻めるよりは守りに重視したものだろう。

 龍也は水の剣と共にイノスに向かっていく。

 その際、「波紋結界」の展開を行う。

 逃げ場はなし。

 おそらく心気の連続使用はない。

 勝負はどれだけ予想外を起こせるかだ。

 水の魔力をまとった剣、水剣をイノスに向かわせる。

 イノスの周りに展開して一斉に刺していく。

 弾く弾く弾く。

 イノスは冷静に対処していく。

 4、5本は。

 その後は龍也が指を使って操作をして対処していった。

 そこに、龍也は剣を振るう。

 かわされる。というか、かわすしかないのだ。

 龍也の剣の後は波紋結界の斬撃が、その後には水剣が向かってくるのだ。

 体力の勝負。魔力の勝負。

 ああ、その通りだろう。なら、そこに予想外の隠し味と行こうじゃないか。

 水剣は弾かれた。剣の形は砕かれた。

 そこから、針のような形状になった。

 「な!?」

 大原の技に似ている。

 知らない。

 パクってはダメとは言われていないのだから。

 イノスは飛んだ。

 初めて地から離れた。

 ただそこに何も無いとは言っていないのだ。

 ぴっぴっとかすり傷が二つ。

 「これは…」

 「波紋結界。ゾーンに入れば、三次元的なこともしながら出来るさ。」

 イノスはその後の斬撃を防ぎながら地に足をつけた。

 「龍也選手!二ポイント!」

 「追い込んだし、追い込まれた。」

 龍也はすぐさま攻撃の準備をする。

 集中力はキープ出来ている。

 だが、魔力の量が心許ない。

 「なるほど。ゾーンは自然と出来たもの…たまたまだと思っていたが、操っているのか…。」

 少し、イノスの様子が変だ。

 「よし、あまり使いたくなかったが、しの剣を使うか。師からも許可は得られたのでな。確実に葬る。」

 という割には静かだ。

 自然体。魔力の圧とか、威圧感というか、殺気が感じられない。

 イノスは剣を逆持ちにした。

 それぞれ使う技が決まったようだ。

 龍也は急端・徒桜きゅうたんあだざくら

 イノスは無垢の極み、しの剣。

 さぁ、一撃の威力なのか、速さでの勝負なのか。

 両者、その場から消える。

 あったのは、剣が交差した音だけ。

 両者共に先ほどいた場所から入れ替わった形となった。

 「まぁお前の剣舞も良かったが、この剣舞を使って俺が負けるわけにはいかないのでな。」

 「ああ、そうっすか。感情が読めなかったが、アンタの剣は重かったっすよ…」
 
 加減を誤ったのか、龍也の腹部と腕から血が溢れ出てきている。

 「イノス選手!三点!よって勝者!イノス選手!」

 そのコールがされた後、イノスは龍也に歩み寄り、肩を貸してあげた。

 「すまない。この技は元々、」

 「今は何も言わなくていいっすよ。それは、その技を作った人も分かっているだろうし。」

 その後、回復系の能力を持った人だろうか。

 応急処置をして、タンカーで運ばれていった。

 「さ、最後はどうなったのでしょう?」

 「簡潔にいえば、イノスは龍也選手の技をいなし、流れるような2連撃を与えた。というものじゃな。」

 「それはマスターブレイブの剣舞、ということでしょうか?」

 「簡潔にいえばじゃ。もっと細かいところをいうとちと長くなりそうでのう。」

 「…どうだ?」

 大原は隣のベッドで寝ているアリサに声をかけた。

 「…何が起こったのかわかんねぇ。ただ、龍也の技は不発に終わったということだけだ。」

 …何が起こったんだあそこで…。

 「難しい話ならばここでは野暮というもの。気になる方は直接お伺いください。さて、続いては、
 グリム選手 対 ナ…」


 「ちょっと、トントンといかせてもらうよ。決勝まであまり面白くなさそうだしね。」

 「グリム選手3本!よって勝者!グリム選手!」

 「…強いっていうか。」

 「なぁ、あたしらあいつに勝てるか?」

 弱気になってしまうくらい魔力と剣舞で乗り切っている。

 属性も何もなしに。

 これに、竜の証があるのだから溜まったものではない。

 「とりあえず、アリサの次の相手は、」

 「イノス、か…」

 こうして、3日目が終わりを告げた。

 ボロボロになりつつも、俺たちは賢者の元までたどり着いた。

 「…龍也は?」

 「とりあえず、医務室で一日安静。今は魔力の枯渇で眠っているわ。」

 「そうですか。明日お見舞いに行かないとだね。」

 「負けたやつはこっちくんな。観客席であたしの勇姿を見ときな。」

 「あれ、龍也と二人きりになるためのものよ。雷の世界でもあったもの。」

 「そういう感じなんですね。」

 ミーナは耳打ちで全員に伝えた。

 「なんなんだよ!お前ら!」

 「とりあえずは、休ませてくれ。賢者様。お願いします。」

 ということでギルドまで転移していった大原一行なのであった。

 「…」

 「どうしました?」

 「いや、大原のやつ、全然悔しそうじゃないなってな。」

 グリムは不思議そうにその様子を見ていた。

 「そういう人でしょうか、あの人は。」

 「…俺は剣舞ではマスターブレイブ以外には勝てるだろう。だが、能力込みではきっと俺は弱い部類に入りそうだ。」

 大原はそんな強さを持っている気がする。

 そう一言を添えて、その場を後にした。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







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