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第五章 剣豪大会編

62.バトルロワイヤル

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 エキシビションマッチで壊された舞台は、「修復」の能力を持った人が直してくれたらしい。

 おそらく、怪我人の治療のために呼ばれたはずなのに、一番最初に使ったのが舞台とは…。

 そんなこんなで、俺たちの出番がやってきたって訳だ。

 舞台に上がると、観客席の盛り上がりがよく耳に入って来る。
 
 周りにはバリアが貼られていた。

 魔力封じの類いだろうか。

 舞台は、東京ドーム?と同じくらいだと賢者は言っていたが、場外もあってちょっと狭い感じがする。

 「さぁ今回はバトルロワイヤル‼︎気を抜いたら最後、場外に落っこちる緊張感あるものになっています‼︎どのように立ち回った方が良いのでしょうか?」

 「そうじゃのう。中央に行っても集中放火を食らってしまう。はたまた端にいても落とされる。全体の把握の必要だろうて。」

 「なるほど。これは難しい戦いになりそうだ。さて、今回の注目選手をご紹介します。
 まずは前回優勝者、ガラム・ダイコー。強靭な肉体で相手の攻撃を受け止め、強力な一撃を与えるのが特徴。バトルロワイヤルでもそれが発揮できるか?
 続いては前回準優勝、ラムズ・フィルケル。決まった立ち回りはなく、相手の予測を裏切る戦い方をしてきます。バトルロワイヤルでの戦いは予測不可能だ。」

 「ガラム‼︎お前の強靭さを見せてくれー!」

 「ラムズ‼︎面白い試合を見せてくれよ!」

 「今回は骨のあるやつが多いな。」
 ガラム・ダイコー。

 身長は二メートルを超え、イカつい顔をしている。

 だが意外と相手の状態を把握するものだ。

 「そうですねえ。特にあの男の子、静かな感じで危ないですねえ。」

 ラムズ・フィルケル。
 のらりくらりとしているが、トリッキーな攻撃を仕掛け、相手がしたいことをさせない戦い方をするもの。

 対処するには、自身の底を見せないことで出来る。

 「さて今回は、賢者様、エノス団長、マスターブレイブがいらっしゃるということで、それぞれの注目選手を教えていただきました。」

 まずは賢者様から、大原将希さん。

 「俺?」

 力の使い所を注目してみていきたいとのことです。

 「賢者様が注目しているとは、中々お目にかかれません。」

 「それほどの者なのでしょう。楽しみじゃわい。」

 続いてはエノス団長から、アリサ・ライトニングさん。

 「へぇ分かってんじゃん。」

 大原と悩みましたが、その作戦能力と瞬時の判断力に注目して選びました。とのことです。

 「ライトニングといえば、雷の世界のライトニング家を思い浮かべますが…」

 「ふむ、多分娘でしょうな。少しだけ聞いたことがある。」

 「なるほど。ここも期待の一人ですね。」

 「最後にマスターブレイブの注目選手は、イノス・アンセルさん。これはご本人から直接お伺いしたいと思います。」

 「ほっほ、何簡単なことじゃ。わしの弟子だから期待する。それだけじゃ。」

 は?

 「はあああ⁉︎」

 舞台の上では驚嘆の声が響き渡った。

 マスターブレイブに直接修行してもらっているのだから、とても強いのがよくわかるからだ。

 「そ、それは驚きました。今大会は正しく!この世界を担うもの達の決戦となる舞台になるでしょう!」

 審判が現れると同時に、全体が戦闘モードに切り替わったのが分かる。

 ピリピリと空気が震えている感じがする。

 「さて会場にいる皆さん。少しばかり舞台が小さいのではないのでしょうか?」

 確かに、千人いるんじゃこの舞台は狭く感じてしまう。

 「ですのでこの方に来て頂きました!「空間を操る能力」雷の世界、ライトニングタワーのメイド長、十六夜葉子さんです!」

 魔力封じの結界の上に十六夜さんが立っていた。

 「お初にお目にかかります皆様。今回は私の能力を用いて少しだけ舞台を広くしたいと思います。」

 「十六夜さん、そんな能力だったの?」

 「ライトニングタワーの内装は、見た目よりも広かったろ?あれは少しずつ能力で全体を広げていたんだよ。」

 「やばすぎる…」

 十六夜さんがこちらに手を振って来る。

 それに応えるように俺たちも手を振る。

 そして少しずつだが舞台が広がっていく。

 「この空間は私の能力で安定させていますが、持って10分程度。端の方から効力が切れて行きます。皆様、ご健闘を期待しております。」

 「さぁお待たせ致しました!波いる強豪たちを倒す者が現れるのか、それとも前評判通りになるのか。その戦いが今!」

 「試合…」

 「開始!」「開始されます!」

 「うわあああ‼︎」

 開始と同時に舞台が震える。

 ところどころにヒビが入って今にも割れそうだ。

 「広くしてもらったが、一人ずつ落としてちゃあキリがねぇからよ!」

 前回優勝者、ガラム・ダイコーが舞台を割ったようだ。

 その周りにいた数十人が衝撃を受け、場外になった。

 「まずは前回優勝者、ガラム選手が仕掛けてきた!舞台はかろうじてまだ保っている!」

 「エノス団長が行っていたものだからやっても良いという判断じゃろう。」

 「三十二人が生き残る。そのためには、」

 「三十二人が生き残るためには、」

 「弱い奴を落とす。」

 「強いやつを全員で倒す‼︎おおおおお!!」

 その意見の食い違いで、数百人が落とされた。

 弱い奴を落とす。理にかなった正攻法だ。強者及びこの状況を理解しているものたちだろう。

 強い奴を落とす。バトルロワイヤルであるからこそ出来ることだ。

 作戦としては悪くない。

 だが、現実は無情だ。

 弱い奴ほどよく群れるとはよく言ったものだ。

 そうやって全員返り討ちに遭うのだから、世話がない。

 大原、アリサ、龍也、グリム、イノスは軽々と場外へとご案内した。

 「怖いねぇ。ああはなりたくないから相手にしないでおきましょうかねぇ。」

 そういうと、ラムズ・フィルケルは周りにいるものを落としていく。

 トリッキーな動きで剣舞をかわし、適度な魔力を込め落とす。

 この時点で半分近く落とされている。

 「畜生‼︎どうなってんだこの大会!バケモンだらけかよ!」

 場外に落ちたものたちの文句が聞こえる。

 いや、向かってきたんだから迎撃は当たり前じゃないか?と思ってしまう今日この頃。
 皆様いかがお過ごしでしょうか。

 「うおりゃああ‼︎」

 そして再び、ガラムは剣を舞台に叩きつけ、完璧に真っ二つにした。

 「本当に私がした意味がないですね。」

 十六夜葉子は無駄遣いに利用されました。

 帰りたい。仕事したい。

 意味のないことは、あまりしたくはないのだ。

 ただ、アリサの姿を見にきたと思えばなんとでもなったのだ。

 舞台は西岸、東岸と分かれた。

 西岸には、ガラム、イノス、大原、龍也と200人。

 東岸には、ラムズ、アリサ、グリムと250人。

 ここから三十二人を選別する。

 「よう大原。」

 「お、貴方は確か、ヤローさん。」

 魔王軍討伐作戦で一緒に戦ったヤローさんが話しかけてきた。

 「生き残ってましたか。」

 「お前さんの名前を聞いて、すぐに戦いに行くほど戦闘狂ではない。しっかりと、お前とは一対一でやりたいと思って、サボっていた修行を…」

 「…っ!」

 なんだこの感じ?空気が変わった感じがす…。

 そして、最初に動きがあったのは西岸だ。

 西岸全ての範囲に斬撃が生じた。

 一瞬のことだった。

 一人一人に斬撃一つ分が目の前に現れたのだから。

 ほとんどのものが、落とされていった。

 残りは、十数名程度だ。

 「おおっと!ここで分けられた西岸側に何があった!?もう数えるぐらいしかいないぞ!」

 「イノスが斬撃を用いて落としたのでしょう。あの斬撃はワシと同等。避けられたもの達はほぼ間違いないであろうて。」

 ガラム、ヤローは防ぎ、大原、龍也は避け、なんとか退けた。

 「どういう原理だ?最初からあった訳じゃなし。大原なら分かるか?」
 
 龍也は俺に予測を求めた。

 「多分だけど、この西岸に来て少しした頃、寒気がした。これは俺の仮説だけど、先に斬撃を展開して、なんらかの技術で全体を見渡し、その場所に斬撃を展開した感じだと思う。」

 「…良い仮説だ。ただ、それは自分自身の内側に留めた方が良かったかもな。」

 目の前には、イノスという少年がいた。

 何も感じない。なんの違和感もない。

 ただいた。そう言わしめるように、剣を振る。

 大原はなんとか防ぐ。

 それを見た龍也は、再来した斬撃をかわす。

 「んにゃろめ!話したいなら言葉で語れ!」

 「バカが。ここでは剣でしか語れんよ。」

 剣にかける魔力を増やす。

 おおよそ二万ぐらいだろう。

 元々5000くらいかけていたが追い払うにはちょうどいい。

 イノスを弾き飛ばす。

 イノスは弾き飛ばすのと同時にこちらに斬撃を繰り出した。

 それも弾く。

 だが、後ろにも斬撃が…

 関係などない。死角であろうと、この目がある限り当たるものではない。

 「「ほう。」」

 それはどちらのものだっただろうか。

 マスターブレイブなのか、それともイノスなのか。

 「殺しにきただろ。今。」

 「斬撃に空気の膜を張っていた。押されるだけさ。」

 そうか。なら安心だ。

 まぁ、少しお灸を据えてやりたいとは思うが。

 「ちっとここで負けるわけにはいかないもんでね。やるしかないかなぁ。」

 周りが手を出せない。何故なら狙われるからだろう。

 何故俺を狙うのかが分からないが、ここでやられるくらいなら、本気を出すしか…

 「リミッター…解」

 「そこまで!」

 審判が止めに入った。

 「残り三十二人となりましたので、ここでバトルロワイヤルの終了をお知らせします!」

 残り三十二人に?

 そう思い東岸をみると、アリサ達が手を振っていた。

 少し前。

 「っと、上手く分断されたな。」

 「結構な人数がいるね。順番に落としていくか。あっちもあっちで大変そうだし。」

 「そうだな。さっさと終わらせるか。」

 「その作戦、私も乗って良いでしょうか?」

 ラムズがその話に乗って来るとは思わなかったのか、少し動揺してしまった二人。

 「理由を聞こうか?」

 「単純ですよ。あなた方とは戦いたくはないのですよ。不意をついてというのも出来そうもないですしねぇ。特に、私もそうですが本気を出していないものと戦っても意味はないでしょうからねぇ。」

 「まぁいい。手を貸してくれるのならなんでもいい。」

 「最短でだろ?」

 「いいですねぇ。好きですよそういうの。」

 攻勢に出た三人と、イノスが斬撃を展開したのは同じ頃、実に一分程度で落としていった。

 雷の魔力を使いつつ最速で落とすアリサ。

 「よっと」

 剣技で圧倒し、魔力の使い所を見極め落とすグリム。

 「なってない。基礎からもう一度やり直しなよ。君たち。」

 不意打ち、小回り、身軽さを利用し落とすラムズ。

 「君は…気味が悪いねぇ。嫌だ嫌だ。」

 この三人がそれぞれの実力を確かめながら選別した十一名。

 あちらの十八人と合わせると三十ニ人になる。

 「これにて、バトルロワイヤルは終了となります!時間にしてわずか3分⁉︎あっという間に終わってしまった!」

 「これは…本来ならこうはならないように出来てるようなものじゃが、運が悪いとしか言えんのう。」

 「しかしながら、バトルロワイヤルでも完璧にジャッジしてくれますねー、ソリュートさんは。」

 「おそらくは、能力、「判断ジャッジ」を使い、三十二人になった瞬間に終了するというシステムが上手くいったのじゃろう。」

 なるほど。確かにそれならすぐさま止められた理由になる。

 「ただ、このままだとせっかくきたお客様が満足できるかどうか…」

 「という訳じゃ、生き残った三十二名の者よ。舞台を変えると同時に休憩を挟んだ後、予選一回戦を始めることにしたいのじゃが、行けるかの?」

 マスターブレイブは観客にも、俺たちにも聞こえるように提案した。

 全く。それを断れる者がいると思うか?

 なら言葉はいらない。

 その意思を伝えるだけでいいのだから。

 魔力を放出する。

 威圧するように、まだやれることを示すために。

 アリサは俺の意図が伝わったのか魔力を放出する。

 意図は伝染し、気付けば全員が魔力を放出していた。

 「ほっほっほ、あいわかった。これより一時間後!予選第一回戦を開始する!トーナメント表は後に発表するとしよう。その間はどうぞ、ごゆるりとしてくだされ。とその前に、この戦いを生き残った者たちに拍手を!」

 わあああ!

 パチパチ、という音ではなく、荒波のような拍手で俺たちはこの舞台を後にした。

 今ここにいる三十二人が、どのような組み合わせで、どのような戦いをしていくのか、とても楽しみだ。

 そうして、アリサ達と共に話しながら一時間休むことにした。

  

 


 








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