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第三章 雷の世界<エクスター>

50.緊急事態

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 次の日からは、通常通りに仕事をすることになった。
 鞘は一度取り出して、保管した。
 とりあえずはあってもいらないものだからだ。
 
 仕事場に着くと、何やらざわざわとしている。
 何ごとかと思い話を聞くと…
 「シェルミルさんが帰って来るらしい。」
 この言い方から、ミーナさんのお父さんお母さんのことだろう。
 聞くところによると、火の世界に出張していたらしい。
 すると、アリサから脳内に呼びかけられた。
 (大原、とその一行はすぐにライトニングスペースまで来てくれ。)
 切羽詰まった様子なのですぐに向かうことにした。
 エレベーターに乗ると、丁度ユナさん達が乗っていた。
 「なんのようだろう?」
 「分かりませんが、あのアリサさんが動揺していた事柄というのは、気がかりですね。」
 一途の不安を持ちながら、ライトニングスペースにたどり着く。

 見ると、ライトニング夫妻の前にミーナさん、アリサその隣に男女の大人の人、おそらくこの人達がミーナさんの親だろう。
 「君が、大原君だね。」
 「あ、はい。」
 「フーヤ・シェルミルだ。特徴通りの子で分かりやすかったよ。」
 特徴通り…これでも5キロ太ったんだぞ?今や55キロ…痩せてる…
 「早めに要件を済ませよう。火の世界が魔王軍に占拠された。」
 「はい?」
 いきなり何言ってる?火の世界が占拠された?
 「そして、大原将希をここに呼べと。」
 「俺を?」
 どういう要件…いやそもそもなんで俺のことを知ってる?
 色々と謎だが、ほぼ間違いなく罠だろう。
 「大原、どうするんだ?」
 アリサは分かっているようだ。だから、俺の判断でここは決まる。
 「賢者様」
 「はいはい」
 呼ばれてすぐに来るのは謎だが、まあいい。
 「すぐに逃げる事はできる?」
 「私を誰だと思ってるの?」
 「大事なところでミスをするおっちょこちょい。」
 「酷い!まぁすぐに逃げられるわよ。」
 ならば、最後の確認だ。
 「フーヤさん。大原将希を呼べと言っただけですか?」
 「あ、ああ。一言一句間違いない。」
 俺の思っていた通りの答えだ。
 話が早い。そういう能力だろうか。
 いやそれはいいとして。
 「行きます。俺たちで行ってきます。」
 魔王軍は俺のことを知っていたが、俺の性格までは分かっていなかったらしい。
 大原将希を連れて来いと言っただけで、大原将希だけを連れて来いとは言っていない。
 なら、一気に親玉を取れるかもしれない。
 
 「もう準備は出来てるけど、行く?」
 「俺はいいけど。」
 「良くねぇだろ。火の世界のことを少しでも叩き込んで、明日行くぞ。」
 というわけで、明日行くことになった。
 
 まずは、火の世界ヴォルスターの話。
 地表は人は住めないほど熱く、人々は地下に都市を構えている。
 地表には何もいないのかというと、そうでもなく、巨大生物、つまりモンスターがうろついている。
 何故か、火の世界では地表にいた生物が、その温度に耐えるように、進化してきたのだという。
 火の世界は鍛冶屋の聖地と呼ばれている。
 天然素材がたんまりとあるため、武器を作るのには困らないという。
 使い手がいないのが心細いようだ。
 「武器を作らせるために狙った?」
 「あるでしょうねそれは。」
 火の世界の裏側は氷雪地帯らしい。
 理由は単純で、太陽が当たらないからだ。
 そして、らしいというのは、裏側に行ったことがないからだ。
 
 「端的にまとめたがわかったか?」
 「地下都市涼しそうって事は分かった。」
 「まとめりゃそうだな。」
 「それでいいのか…」
 ミーナは呆れてしまったが、いつも通りだ。
 
 「そんでもって、火の世界に着いたらどうするかというと…話せるなら話す。話せないなら逃げる。これだけだ。」
 「それだけなん?」
 「ああ、大原の話し方で情報は多く引き出せるだろう。ただ、大原を殺すことに焦点を置いた場合、すぐに逃げる。火の世界の住民には悪いが、太刀打ち出来る気がしないな。」
 確かに、占拠したという事は、こちらの何百、何千倍も数が違うかもしれない。
 逃げるだけならなんとかなるかもしれない。
 「という事だ、今日はそんなんでいいだろう。明日までに、準備は怠るなよ。」
 「了解」「分かりました。」「ok」「了解です。」
 という事で、その日は解散ということとなった。


 「流石に聞いていた通りのチームだ。」
 フーヤさんは、そんなことを呟いた。
 「ミーナからは度々話を聞いていてね。とても未来溢れる人だと。確かにそのような感じが見て取れる。」
 「ありがとうございます。そういう言葉をもっと娘さんに言ったほうがいいと自分は思います。」
 では、とライトニングスペースを後にする大原一行。
 
 残ったのは、ライトニング夫妻とシェルミル家だけだった。
 「さて、私たちも準備をするんだよ。行くよ。」
 「はい、では後ほど。」
 ライトニング夫妻は、ミーナの肩に手を置き、部屋を後にした。

 「お父さん、お母さん。」
 ミーナはチャンスだと思った。いや、チャンスをくれたのだと思った。
 自分の思いを伝えるチャンスを。
 二人はミーナに向き直る。
 
 言わないと…お父さんとお母さんに、ちゃんと私だけでも出来るってことを。
 けど、また、当たり前だとか、私の子ならとか、言われたら、それは、その時はどうすればいいんだろう。
 ただ伝えるだけなのに、何か怖い。
 そんな時、大原を思い出した。
 あいつは、いつも褒めてくれた。
 みんなもそうだ。いつもキラキラした目で、私が作ったものを見ている。
 そうだ。私には、私の居場所ができた。
 なら、伝えよう。そのことを。

 「私さ、あいつら、大原達に道具を作ってさ、褒められたんだ。私の道具を見てさ。」
 シェルミル夫妻は黙ったまま、聞いていた。
 自分の娘の変化を噛み締めながら。
 「嬉しかった。私が作った道具は、親の遺伝がどうとか、流石だとか言われても、そこにはいつもお父さんとお母さんがいた。私自身を、評価はしてくれなかった。私は、認められたかった。お父さんやお母さんに。役に立つものを作れば、褒めて貰えるかもしれない。そんな気持ちでいつも道具を作り続けてた。」
 ここまでが、今までの私。
 ここからは、今の私が思ったことを言うとき。
 
 「私は、大原達のために作り続けたい。私を評価してくれる人に使って貰って、そして、みんなに私を評価してもらえるような、凄いものを作る。そのために、私は大原達と共にする。そう決めた。」

 シェルミル夫妻は、娘の言葉を聞き届けた。
 そんなことを思っていたのかと。
 どれほどの、プレッシャーだったのかも。
 娘のことを、分かっているようで分かっていなかった。
 自分達が、恥ずかしいと思うほどに。
 「ミーナ、まずはすまなかったな。そんなことを思っていたなんて知らなかった。私たちは、ミーナのことを認めていた。凄い子なんだって。」
 初めて知った。
 そんなことを言われたこともないのに。

 「だが、どんなに凄い子でも、子供は子供、努力したことを褒めてもらいたいよな。私も、みんなからありがとうと、感謝されることが嬉しくてもっと頑張ろうと思えるんだから。それが、親から何も言われなかったら、分からないよな。」

 一白置いて、ミーナを抱きしめながら、言葉を紡ぐ。
 「今まで、よく頑張ったな。ミーナが作ったものは、私が作るものとは違って、想像力に溢れたものを作っている。私は、ミーナからいつもインスピレーションを与えてもらっていたよ。私は、認めていた。ミーナは私にとって、自慢の娘だ。」
 「お父さん…」
 ミーナは、抱きしめ返した。

 「お父さんは、ミーナの作ったものを全て記録してあるのよ。そこからいつも、ヒントを貰っているのよ。」
 お母さんも、私を抱きしめて来る。

 「ごめんなさい。私たちは、もっとミーナの頑張りを、言葉にしてあげれば良かった…」
 
 「ミーナ、共同で道具を作ってみないか。きっと、この先必要になるものもでて来るだろう。」

 「え?お父さんと、一緒に?」

 「ああ、私も魔王軍対策の道具を作ろうと思う。あれは、脅威だ。能力や、魔力が別次元だ。だが、道具を作るにはその人がどういう人かを調べる必要がある。色々と教えてくれないか。大原君達のことを。」
 「…任せて!私の能力を忘れちゃった?完璧に調べてあるんだから!」
 ミーナは自信満々に、父親と母親と話した。
 そこには、家族水入らずの空間が自然と出来上がっていた。

 「良かった…」
 盗み聞きをしていた大原達は、安堵の声を漏らした。
 「家族って、やっぱりいいものですね。」
 「ユナさん…」
 「勝ちたいですね。」
 「いや、勝つか負けるかよりも、あの空間を守ってあげんとな。行こう。」
 「「了解!」」
 そうして、大原達は火の世界へと向かう準備へと取り掛かるのだった。

 おまけ

 「ねぇ、火の世界ってどうやって占領されたの?」
 「ん?あー、あれは…占領というよりかは…等価交換みたいなものかな?」
 「はい…?」
 「まぁ、大原君達も行けば分かることだよ。多分、いい経験が出来ると思うよ。」
 「???」

 次回、火の世界ヴォルスター編。
 
 
 
 
 





 
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