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第三章 雷の世界<エクスター>

48.おつかいさまでした

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 ライトニングに戻ってきた大原、ミーナは夕飯まで自由行動となり、賢者はそれぞれの者たちを迎えに行った。
 「夕飯まであとニ時間程度か。どうするか…」
 部屋にいてもあまりする事がない。
 あの日記を全て読むというのもいいが、二時間ぶっ続けでは、読めないなぁ。
 集中力ないし。
 「大原は暇なのか?」
 ミーナは悩んでいる俺を見かねて声をかけてきた。
 「そうですね。」
 「なら、私の部屋に来るといい。色々と聞きたいからな。」
 と誘われ、ミーナの部屋に来たのだが…
 その散らかりぶりに頭を抱えることとなる。
 服はそのまま床やベッドに置かれ、下着はタンスからはみ出ていて、機器の周りには間食の跡がある。
 そういえば、賢者様の家でも散らかってたなと思い出す。
 
 「まずはこれなんだが…」
 と気にせず道具を差し出してくる。
 「その前に…片付けません?」
 「?別にこのままでも…」
 「いいから片付けますよ!」
 俺とは感覚が違うのだろうか。
 不服そうに片付けているミーナ。
 そして、何故か下着を畳んでいる大原。
 「いやなんでだよ‼︎」
 「何が」
 「どう考えても下着関連はあなたがやるべきでしょ!」
 「畳むの下手だから頼んでるんだけど。」
 「だからってこれは…」
 流石にまずい。だってこれ、おっきいもん。
 何がとは言わないが。
 「周りは任せていいからな」
 「片付けてない人がいうセリフじゃないよ。」
 畳みながらも、ツッコミを入れていく。
 
 畳み終え、掃除機や雑巾などで汚れや埃を取り出したりして、一時間。
 ようやく綺麗になった。
 「よし、これでいろいろ出来るな。」
 「ほとんど、俺が片付けたもんですけどね…」
 疲労が溜まっている大原と、元気盛り盛りのミーナとの差は見て分かるほどだった。
 「大原は、鎧とか、体に纏う系の装備はいらないのか?」
 「うーむ。」
 確かに、ここから先は生身では危険かもしれない。
 装備とか、色々と考えるべきなのかもしれない。
 「今のところは、まだ…」
 「そうか、まぁ私も大原にはいらないと思っていたからな。」
 「え?いらないの?」
 「いらないでしょ?お前の魔力量多いんだから。むしろ、装備となると一年は余裕で使わないと慣れないからな。」
 まぁ、残り1ヶ月と三週間程度。
 装備に慣れるのは無理か。

 「だから、こういうのはどうかなってね。」
 ミーナは、俺に鞘を渡してきた。
 「なんで俺に鞘を?」
 剣に関しては、取り出すだけで申し分ない。
 「けど、意外といい物だと思うよ。」

 と俺の隣に座り、説明を始める。

 「この鞘は、剣に魔力を注ぐ事ができる。鞘に入れた状態だけだがな。けど、大原自身から魔力を注ぐ事なく、斬撃を操れる。大原の魔力の多さは圧倒的な武器だ。それを斬撃にあまりに使われても、勿体無いと思ったんだ。」
 
 確かに、魔力を注がずに出来るなら、一つ意識する事が減る。
 ありがたい話だと思った。
 「鞘の使い方だが、魔力をこの鞘に注ぐと、その分剣に魔力がいく。」
 「結局俺が注ぐんじゃないか。」
 「それは問題ない。これはアーシャ様の協力により、魔力の充電が可能だ。アーシャ様ほどの火力を充電はできない。持って10万程度だ。」
 十分すぎる。
 斬撃、百個分と考えればなんとでもなる。
 「ありがとう、ミーナさん。この鞘、うまく使って見せるよ。」
 「…ッ。そ、そうか。他の人の分もあるから、後でまた来てくれると、ウレシイ…」
 「分かりました、伝えておきますよ。」
 最後の方は、ボソボソと言ってて聞こえなかったけど、伝えることは間違ってないはず。
 「大原は…さ、何故感謝を伝えるんだ?」
 ミーナは、鞘をまじまじと見る大原を横目に、話を切り出した。
 「え?なんで、感謝を伝えるかですか?」
 普通に物もらったりしたら、感謝するよね?
 色々してもらったら、感謝の言葉なんて、意識せずに出るものだけど、うぇぇ…わかんねー。
 とりあえず、絞り出すように、答えた。
 「俺のために、頑張って作ってくれたから、デスカネ?」
 不安混じりに、最後が棒読みになってしまった…。
 この答えが、当たっているのかどうかを確認しようと、顔を見ると、深刻そうな顔をしていた、ミーナの姿があった。
 
 「え、えっと他には、色々とお世話になったし、色々と感謝する事が溜まってて、それを一気にまとめて言ったというか…あははは。」
 何言ってるんだ?俺は。
 「私は、多分嬉しいんだと思う。」
 と、テンパっている大原を無視して、話し始める。
 「私が作ったものを、みんなに使ってもらうとさ、流石、シェルミルの娘だって言われるんだ。」
 「親が、凄い人ですか?」
 「ああ、この会社、ライトニングタワーの内部の機械やAIなどのほとんどが、私の親、父が作ったものだ。」
 あの最新機器のほとんどが、ミーナさんのお父さんが…
 「だからさ、人に役に立てるものや、発想とかそういうものが優れていても、感謝されるのは、父や母なんだよ。私自身を評価はしてくれない。父も母もさも当然かのように接してくる。」
 「見返そうと…思ったってことですか?」
 「そうは思わなかった。二人のことは尊敬していたから、そんな気持ちにはならなかった。」
 ミーナは体を震わせながら、絞り出すように、話す。
 「けど、一度くらいは、褒めてほしかったって思うよ。」
 人に役に立つものを作り続けても、親が凄いからという理由だけで、評価してしまう。
 上部だけの評価。
 その人の中身を知らずに結論づけてしまう。
 俺はその失敗をした人を知っている。
 だから、そうはならないようにとは心掛けている。
 心掛けているだけかもしれないけれど、これだけはこの人に伝えられるだろう。

 「俺は、ミーナさんの作ったものしか知らないけど、きっとお父さんが作ったものも凄いものだと思う。けれど、それでも俺は、ミーナさん自身に感謝を伝え続けると思うよ。」
 ミーナは大原をじっと見つめる。
 「ミーナさんがどれくらい頑張ったかなんて、想像もつかないけど、俺や、みんなのことを考えながら作ったものって言うのは、十分伝わる。そこはきっと、お父さんにも勝てない部分だと思うよ。」
 「なんだよ、結局、父親より性能では劣ってるっていいたいのか?」
 「俺は知らないですって、結局、仕事してる時は魔力を使う仕事ばかりなので…。けど、劣ってるかどうかはともかく、ミーナさんが作ってくれたリストバンドは、俺にとって、とてもありがたいものだということです。」
 「…慣れないなやっぱり」
 「みんなも、褒めてくれますよ。」
 「誉め殺しってあるんだな。実は、お前たちと会ってからうずうずしてたんだよね」
 「なら、これを機に慣れるしかないですよ。」
 「それしかないか。」
 「はい、お互いにうまくやって行きましょう。」
 「ああ。」
 とグータッチする二人。
 そこには、明確な信頼関係が芽生えていた。
 
 そこに、十六夜さんが夕食の準備と、全員帰ってきたことを知らせてくれた。
 俺たちは部屋を後にし、夕食へと向かった。

 「やっと部屋をキレイにしてくれましたね。」
 「大原が無理矢理な。」
 「私が言っても、邪魔ばかりしていたのに…」
 「あれ?もしかしてファインプレーしました?」
 「とてもありがたいです。」
 「メイド長から褒められるの、なんか自信湧きますね。なんか、次も褒められようと思ってしまいます。」
 「ありがとうございます。そういえば、度々ミーナ様の部屋に伺う事があるのですが、その時に、これなら褒めてくれるかな、来てくれるかなとか」
 「やめろ。」
 「「え?」」
 「や め ろ 分かったな?」
 「了解いたしました。」
 「大原も忘れろよ?」
 「え、あ、はい」
 意外とミーナ様は分かりやすいですね。
 まぁ、全部聞こえてるんですが。
 黙っておきましょうか。

 おまけ

 「この鞘を渡したらどんな反応するかな。」
 「嬉しいです!ありがとうございます!やっぱり、ミーナさんのはとても素晴らしいです!」
 「うん、悪くない。そんでもって、みんなのものを渡したら…」
 「流石ミーナさん!そんなに俺たちことを考えてくれて、ありがとうございます!今度お礼にどこか…」
 「…みんなも来るよなあ。って、なんで褒められついでにデートに誘われようとしてんだ!?」
 「ああああああ‼︎」
 「来て…くれるかな…」
 「…会いたいな…」

 通りかかったメイド長。
 「なんです⁉︎あの豹変は!?」
 予想以上に乙女の顔をしていたミーナに、ポーカーフェイスを崩してしまい、周りに誰もいないかヒヤヒヤしたという。
 
  
 
 
  
 
 
 
 
 
 

 
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