上 下
41 / 142
第二章 風の世界<フーリアスター>編

38.和解

しおりを挟む
 「ここに来るのか。」
 俺が目覚めたときには真っ暗な空間が広がっていた。
 しかし、少しだけ違うところは、この空間の主人が足を組んで座っていた事だ。
 「どういう原理だこれ。」
 「それは分からんが、おそらくシンクロ率が上がったとかいうところだろう。」
 まぁ未だに顔は見えないんだが。
 しかしながら分かることはある。
 「人じゃないのかあなたは。」
 「そうだな、ここまで見えてしまったなら仕方のないことだろう。まぁ最初から話そうとは思っていたがな」
 「我はディルギッド・デスペリド。闇の世界ディルスターを総ていた、前魔王である。」
 「…は?はあああああ!?」
 俺の中に魔王がいたので能力使って見ましたって?
 そんなんやってみよう小説にありそうな設定じゃねぇか!
 「え、俺めっちゃ失礼なことしてる!?」
 「問題はない。意外と民もラフに話しかけてくれたよ。」
 と笑って見せる。
 「して、どうであった我が能力は。」
 「どうって、あれは強すぎて俺には数秒しか無理ですよ。」
 と言うと、全くその通りだなと真面目なトーンで語る。
 「我も幼い頃はそうだった。こればかりは鍛えることと慣れしかあるまい。」
 グゥの根も出ない。間違いなくそれを実行しなくてはいけない。
 「さて、今回は長くなりそうだ。どれ、ここで手合わせしてみようではないか。」
 「…これ、心には影響は?」
 「頭だけが疲れるだけだ。」
 そうして大原とディルギッドとの修行が始まる。

 俺が目が覚めたのは日が沈む直前だった。
 視野が少し狭いと思ったが、何が原因なのかを思い出した。
 あそこまでして負けた。
 それはこの世界ではありえないことだ。
 リリースカードを使った形跡もない。
 なのにどうして…。
 「まだ、狙われるのですか?」
 と真正面から言われる。
 「ここまでして無理だったんだ。これ以上犠牲にしたら暗殺に支障が出る。」
 「…」
 「無理もない、今の俺には何もすることはできないよ。」
 ユナの目は落ち着きを取り戻す。
 「何日寝てる。」
 「2日間になります。」
 「そうか…」
 付きっきりで負かした男の世話をするユナを見て、無風の夜叉にいた頃とは違う顔をしていた。
 キラーズは少しだけ安堵した。
 

 「ン…ぁぁ…」
 と目が覚める。
 起きあがろうとするも力が入らない。
 全身の感覚がまるでなかった。
 恐る恐る手のある方へ見ると、腕はそこにあった。
 ほっと胸を下ろすのも束の間、握られた手がそこにはあった。
 「ユナ…さん…?」
 と話しかけると、ガバっ!と効果音が出るくらいの速さで起き上がった。
 「お、大原…さん…良かった…ずっと目が覚めなくて…どうしようって…」
 ユナさんの目からは涙が溢れていた。
 俺はそれをただ見ているだけだった。
 「すみません、すぐ院長をお呼びしますね。」
 と部屋を後にした。
 「俺の時とはえらい違いだな。」
 と右隣から声がする。
 そこに、戦いあった者がいた。
 しかし、そこに殺意や闘志というものはなく、ただ遠くを見つめていた。
 「俺の時は警戒されて、院長なんて呼びにいかなかったからな。」
 「それはまぁ、しょうがないと割り切るべきだと。」
 「ふっ、まぁお前にはしてやられたからな。大原と言ったな、俺の名はキラーズ。一応伝えておこう。」
 「大原将希です。とりあえずはお互いに回復に専念していきましょう。」
 話していると、ドアが開く音が聞こえ、ユナさんと黄色い髪のお爺さんが来た。
 「院長の、スピタ・エルフィールです。具合はどうですか。」
 「身体の感覚がありません。それ以外は何も。」
 「まぁ予想通りですかね…」
 と俺の体を触る院長。
 「結論からいうと、魔力のオーバーヒートですね。」
 「よくわからないですが、予想するに規定値の超えてしまったってことですか?」
 「ええ、魔力を無理矢理増幅させたり、能力によって強化された力によって、魔力が枯渇してしまうだけでなく、枯渇した後、マイナス値まで行ってしまった魔力はそう簡単には戻って来れない。つまりは、君には今魔力は流れていない。お隣さんもだけどね。」
 やばい能力だと思っていたけど、たった数秒でこうなってしまうまでの能力だとは…
 「どのくらい入院をすれば…」
 「何、一週間もすれば大丈夫ですよ。」
 一週間か。その間どうするか…。
 「ん?…とりあえずは絶対安静ね。ではまた明日。今日は私はぐっすり眠るので騒がしくしても起きないかもですね。」
 と言いながら去っていった。
 それと入れ違いになるように、アリサ、麗華さん、龍也が入って来る。
 「大原!良かった、意外と元気そうじゃねぇか。」
 「アリサも無事でよかった。それと、龍也毒は大丈夫だった?」
 「お前が即座に取り出してくれたからな、なんとか生き残ったよ。」
 「そっか、麗華さんは、足を?」
 「はい、一応明日には完治すると思いますよ。」
 「そっかそれならよかった。ユナさんは胸らへんを撃たれてたけど…」
 「問題ないですよ。院長がしっかりと治してくれました。」
 「みんな無事でよかったよ。」
 「本当ですね。」
 といいまとめに入ろうとしたのにアリサはくすくすと笑っている。
 「大原、お前は幸せもんだな。」
 「これのどこが幸せだって?」
 「だってなぁ、ユナさんがお前が目覚めるまでずっと付きっきりで世話してやってたんだぜ?」
 「め、迷惑をかけたので、これくらいは…」
 と長い髪をいじるユナさん。
 「しかもその時にななかなか目覚めないから色々試して、その過程で大原にはk…」
 「わわーーー!!そ、それはダメですよ!!」
 と言葉を遮る。
 ここまで動揺しているユナさんは初めて見た。
 なら、乗るしかない。この流れに。
 「何してくれたんですか?ユナさん。俺結構気になってるんですけど。」
 「え⁉︎えと…それは…ですね…」
 ともじもじし始めるユナさん。
 こんな生き物いたっけ?と錯覚してしまうほど可愛いかった。
 「みんなは知ってるの?」
 と聞くと即座に頷く。
 「写真があれば撮ってた。」
 と龍也はカメラのポーズをする。
 「な!?皆さん知って⁉︎」
 「ユナさんよー?随分と積極的ですなー。まさかあんなことしちゃうなんてよー。」
 「めっちゃ気になる。」
 「大原さんまで!ああ…もう、どうしてこんな…」
 わいわいしていると、麗華さんから革新的な答えが返ってくる。
 「人工呼吸してました。」
 と答えると、全員がその場で固まった。
 それを聞いたユナさんはだんだん顔が真っ赤になっていく。
 「麗華さん!ちょっとこっちこようか。」
 「え?あ、はい。」
 「じゃあまた明日な大原。」
 と部屋を出て行く3人。
 「あ、あの私、少しでも早く目が覚める様に色々してて!その中の一つとして人工呼吸があって!それを皆さん勘違いしていて!だから!」
 「色々してくれたんですね。ありがとうございますユナさん。」
 「‼︎い、いえ!私は…早くこの言葉を伝えたかっただけですから。」
 「?」
 と疑問視していると、ユナさんは大きく深呼吸をして真剣な眼差しでこちらを見る。
 「私は、多くの人を殺してきました。この手は既に汚れてしまっていますが、罪の意識を持ちながら、貴方達のためにこの経験を生かしてこの力を使って行きます。なので、私をこのチームにいさせてください。」
 と深々とお辞儀した。
 「うん。きっとその力はいろんな人を助けられる力に変わると思うよ。それに、俺の剣の行く末を見届けるんだから、断る理由なんてないよね。」
 「はい!またよろしくお願いします。。」
 「よろしく、ユナさん。」
 そうしてユナさんは俺の手を両手で握りしめた。
 そして表情は、どんな月よりも明るく見えた。
 (最終的には真っ赤になるんだな。)
 と顔を抑えながらユナさんはその場を後にするのだった。  
 
 

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

処理中です...