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初めての旅行に行く少年の話
Q8. 動揺
しおりを挟む水の音がする。
水滴が跳ねたみたいな音。
水が流れる音。
水が滴る音……。
ボクのすぐ傍から……。
「…………………っ」
ボク……ずっと悪い夢を見ていた気がする……。
寒くて、寂しくて、凍えて、辛くて……誰もいなくて……すごく、怖いものしかない夢。
でも、ここは温かい。
体全部ふわふわしててあたたかくて、あぁ、まるでお風呂に入っているみたいにすごく良い気持ちだ。
それに……。
さっきからずっと誰かに抱きしめられてる。
膝に乗せられて、ぎゅって抱きしめられてる……。
……ふふっ、嬉しいなぁ……こんなことをしてくれる人をボクは1人だけしか知らない……きっとそこに居るんだ……。
ゆっくり目を開ける。
目に飛び込んだのは思ってた通り、聡真さんの……あれ?
「……はだか……?」
タイルと湯気で真っ白な浴室。あの部屋のどこにあったのか分からなかったけど、きっとあの部屋のお風呂だ。雰囲気も似てるし、四角いバスタブはちっちゃいプールみたいに広いし、シャワーの頭もボクの頭より大きかった。こんなのあの部屋にしかない。
でも、そんなこと、直ぐにボクはどうでも良くなった。
ボクは今……抱きしめられているボクは、裸で。
そして、ボクを抱きしめる聡真さんも……裸で。
お互いに、布一枚もない全裸で……ボクは目を開けて直ぐに真っ赤になった。
「……っ」
「……?」
起きたボクに気づいたのか、バスタブの縁に背中を預けていた聡真さんが顔を上げてボクと目が合う。
「目覚めたのか。おはよう」
「……お、おはよ……」
「どうした?」
挨拶は出来たけど、真っ赤になってぼうっと見つめることしか出来ない僕に聡真さんは首を傾げた。
そんな聡真さんの身体は……ボクを抱きしめるその身体は、ボクより一回り大きくて、あんまり分厚くないのにすごく引き締まってて、無駄なものなんて全然ない聡真さんらしい体つきをしていた。
男の人の裸なんてそんなに珍しいものでもないのに、それが聡真さんってだけで緊張する。
……そもそも、なんで聡真さんとお風呂に入ってるんだろう。あれ? 夕飯の後からの記憶がない……。
「聡真さん、ボク、夕飯の後、どうしたっけ……? 全然思い出せなくて……」
「ん? あぁ……。
稔は寝落ちしてしまったんだ」
「寝落ち……?」
「初めての旅行だったから疲れたんだろう」
「そ、そっか……。じゃあ、何でお風呂に?」
「俺が入れた。かなり汗をかいていたからな。
だが……しくじったな。君が眠っている間に終わらせようと思ったんだが、君を目覚めさせてしまったな……」
「う、ううん……あ、ありがとう……」
「……稔?」
抱きしめていた聡真さんの手が、ボクの頬に触れる。聡真さんにじっと見られる。何でだろう、そんなに見つめられ
ると、顔がますます熱くなるし……胸がドキドキする……。
思わずぎゅっと目を閉じてしまう。すると、ボクの頬に触れていた聡真さんの手が離れて、ボクのおでこに触れた。
おでこ……なんで?
意味が分からない行動にびっくりして目を開けて聡真さんを見ると、何だか心配そうにボクを見つめる顔がそこにあった。
「そ、聡真さん? 何、してるの?」
「顔が赤い。だから熱でも出したかと思って。
もしくは、のぼせたか?」
「え、えっと……」
「体調面に違和感はないか? まだ風呂に入れてそこまで時間は経っていないが、 万全は期すべきだ。少しでも違和感があるなら直ぐに上がった方がいい」
額に触れると熱を出したかどうか分かるんだ……知らなかった。
でも、どうしよう……とても心配されてる……体調不良だと思われてる……。
でも、熱を出したわけでも、のぼせたわけでもない……それは確かだ。
じゃあ、何でだろう? いつも一緒にいて、一緒に手を繋いだり一緒に寝たりする人と、裸で同じお風呂に入っているのが気恥ずかしいのかな……?
胸のドキドキが止まらなくて聡真さんが見れない。ちょっと視線を別のとこに向けてしまう。
「稔……?」
「だ、大丈夫だと思う……多分」
「……多分、か。
上がろう。早く寝た方がいい……」
抱きしめているボクをゆっくりと聡真さんは湯船に下ろして、立ち上がった。
……その時、ボクは見てしまった。
聡真さんの下半身を……そして……。
「…………っ!?」
み、見ちゃった……太ももと太ももの間にあるソレ……。
ぶわぁって更に顔が熱くなる。見慣れてるはずなのに。それを見てちゃったた瞬間……ボクはぎょっとなって2度見した。
「…………………………え?」
「……稔?」
ずっと変なボクに聡真さんは困ったような顔をしていたけど……ボクは顔真っ赤にして風呂の中に沈むしかなかった。
……なにあれ。
……全然違う。
ボクは何も見てない……何も見てない……。
出来るだけ聡真さんの身体は見ないように、目を泳がせる。けれども、つい目が追っていく。ダメだ、ダメだ。首を振ってどうにかしようとするけど、やっぱり目は聡真さんを見ようとする。
聡真さんはそんなボクを困ってる顔で見てた。けど、優しいその人はボクに手を差し伸べた。
「立てるか?」
「うん……ありがとう」
見ないように、見ないようにしながらその手を取って立ち上がる。
だけど、その手が止まった。
「稔……」
「ん?」
「……勃ってる」
たってる……立ってる? いや、違う。多分、勃ってる、だ……でも、誰のが?
ボクはそっと視線に下げて、自分の見て、これ以上ないくらい頭が真っ白になって、すぐさま聡真さんから手を離して、お風呂の中に逃げ込んだ。
ボクはお風呂の中で聡真さんに背を向けて身体を縮こまらせるしかなかった。
「み、見ないで……」
恥ずかしい……。
すっごく恥ずかしい。
こんなこと初めてだ。ボクのはいつもいっぱい触ってやっと勃つような感じで、こんなふうに……他の人の……聡真さんの裸を見ただけでこんなことになるなんて初めてすぎてどうしたらいいのかわかんない。
それなのに……よりによって聡真さんに、見られちゃった。
どうしよう。どうしよう。
ただでさえ何で勃っちゃったのか分かんないのに、見られたのが恥ずかし過ぎて、顔が上げられない。聡真さんを見れない。
今すぐ消えてしまいたい……。
チラリと聡真さんの方を見ると、聡真さんはボクをじっと見ていた。聡真さんの視線が痛い……。
「…………そういえば、性的興奮というものがあるのを、忘れていたな」
「……?」
ふとそんな呟きが聞こえたと思ったら、なんとお風呂に聡真さんがまた入ってきた。
「そ、そうまさん……? あ、あの……」
「恥ずかしい?」
「うん……」
頷いた。ボクは確かに頷いたのに……聡真さんはボクのすぐ後ろまでやってきて、びっくりするボクを聡真さんは後ろから抱きしめた。
「……え、えっ、え!?」
ボクの顔のすぐ横に聡真さんの顔がある……慌てるボクのお腹に聡真さんの腕が回されて……聡真さんの身体にボクの身体がくっつく……。
あの身体にボクの身体が……!
「うっ……」
そしたら、ただでさえ勃っていたボクのソレが痛いぐらい反り返った。
なんで!?
パニックになって手で隠そうとした。……けれど、それを聡真さんがやんわりと止めた。
「な、なんで……?」
「稔。隠すな」
「え……?」
何言われたか最初分かんなかった。
だけど、次の瞬間、聡真さんの手で足を開かされた。
「わ、わっ……!」
「さっきより勃ってるな……」
「っ! み、見ないで!」
慌てて足を閉じようとした。でも、もう聡真さんのがボクの足の間に入ってて……。
聡真さんが何しようとしてるかわかんない。わかんないけど、ボクは首を振って、聡真さんを止めようとした。
「ダメ! 聡真さん、やめてっ……! 離して!」
でも、聡真さんは止まってくれない。とうとうボクのそれに聡真さんの手が伸びて……!
「ダメ、やだ、そう、まさん、やだ、やだっ……っ、うっ……うぅ……」
「稔?」
「うっ……ぐっ、ぅ……すっ……」
なんで……?
なみだが、とまらない……。
今までずっと泣かないようにしてたのに、なんで……。
今のボク、変だ。
自分の身体なのに自分の思い通りにならない。
引っ込めようとして目を擦っても勝手に目から溢れて落ちて、お風呂に雨みたいに雫が落ちてる。
どうしよう……どうしよう……。
止まらない。
「ぐすっ……やだ……っ……」
……そこで、やっと聡真さんが手を止めた。
「稔……」
泣いて止まらないボクを膝の上に乗せて、抱きしめてくれる。
なぐさめてくれるの……?
「ごめんな。そんなに嫌だったとは思わなかったんだ」
見上げると聡真さんは申し訳なさそうにボクを見ていた。
抱きしめた手で零れ落ちる雫を一個一個、聡真さんは拭ってくれる。
でも、一度溢れ出したそれは全然止まらなくって、ずっと聡真さんの指を濡らしていた。
どれくらい泣いてしまったんだろう。
聡真さんはボクの涙が止まるまでずっとなぐさめてくれた。
ようやく泣き止んだ時、聡真さんは安堵したように息を吐いた。
「落ち着いたか?」
「うん……」
「目が赤くなってしまったな……」
「…………」
「理由を聞いてもいいか?」
悲しそうな目……。
悪気があったわけじゃないってよく分かる。多分、聡真さんなりの考えがあって、触れようとしたんだと思う。
でも……。
「聡真さんには、触って欲しくなかったの……」
「…………どうして?」
「ボク、元々、あんまりあそこ触るの好きじゃないんだ。こうなると気持ち悪いのが出るから。
それに……」
「それに?」
聡真さんの目にボクが映ってる。泣き腫らしたボクの顔が……。
「……聡真さんには、綺麗なボクだけ見ていて欲しいの」
そのボクの言葉に周りは静かになる。僅かに揺れる水の小さな音しか聞こえない。そんな時、聡真さんが口を開けた。
「綺麗な稔だけ……?」
「うん……」
聡真さんの背中に手を回す。その胸に身体を預けて、ボクは目を伏せた。
「聡真さんはボクのことずっと見ててくれる……だから……だからこそ、ボクの汚いとこ見て欲しくない。
綺麗なボクだけ見てて欲しいの……」
失望されたくない……。
聡真さんはボクの中身まで思ってくれる。その上、とっても優しい人だ……。
そんな人だからこそ鎌倉で撮った写真みたいに綺麗なボクだけ記憶に留めてくれたら……って思う。
汚い僕を見て、失望されたら、嫌われたら……捨てられたら、もうボクは生きていけない。
「だから、見ないで……お願い。ボクの気持ち悪いもの見ようとしないで」
「…………」
「ボクは貴方に好かれていたい……」
またポロポロと涙が零れ落ちる。どうしても止まらない。あんまり泣いてると面倒臭いって思われそうで、つい俯いてしまう。
その時、聡真さんの手がボクの濡れた頬に触れた。
「稔、顔を上げろ」
そっと顔を上げる。そこには困った顔をした聡真さんがいた。
「……君を不安にさせてしまったな」
「え?」
予想外な言葉にボクは首を傾げる。不安って……?
「どういう意味?」
ボクがそう聞くと、聡真さんはボクの涙を親指の腹で拭って、ボクの髪をそっと撫でた。
「今日言っただろう。君は可愛いって」
「うん……」
「俺からしたら、君に汚いところも気持ち悪いところも一つもない。
気にしているのは、君だけだ」
その言葉にボクは困ってしまう。気にしてるのはボクだけって言われても、やっぱり気になるもの気になる。
そんなボクに聡真さんは笑って、ボクを包み込むように抱きしめる。ちょっといつもより力強いそれはきっと聡真さんの気持ちそのもので、言葉に嘘なんかないって言ってて……ボクは息を飲んだ。
だけど……。
「丁度良い。君に会わせたい子がいる」
「……会わせたい子?」
「あぁ、明日、会いに行こう。今の君の為にもな」
何にもなかったみたいに、普通の雑談みたいに話された話に……ボクは固まった。
だって、会わせたい子って何……?
聡真さん、ボク以外に誰かいるの……?
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