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初めての旅行に行く少年の話
Q5. 波の音が遠くなる
しおりを挟む「小海老とカリフラワーのスープです」
「自家製のパンとブリオッシュです」
「しらすを乗せた海の幸のマリネ、柑橘のソースです」
「スップリ湘南トマトのソースと鴨のスモーク マッシュポテト添えです」
「スズキのタプナード焼きです」
「朝採れ野菜と葉山牛のステーキです」
「デザートプレートはマンゴーのグラニテ、ライムのクリーミーソースがけ、自家製スフレタルト、クレームブリュレです」
次々と運ばれる料理は全部食べたことないどころか見たこともないものばかりだ。
その上、最近ようやくナイフとフォークの使い方を聡真さんに習ったばかりなのに、食べ方が難しいものばっかり……。当然、聡真さんみたいにキレイに食べられない。お部屋で食べることになって本当に良かった……こんなの誰も見せられない。
そんな時、こんしぇるじゅさんがにっこり笑ってボクに聞いてきた。
「我がホテルのシェフが腕によりをかけた、お食事はいかがでしたか?」
「す、すごく……おいしかった、です……」
ちゃんと笑えてるかな……?
食べるのに必死で味なんか分からなかったなんて言えない……。
上手く出来たと思いたい。
こんしぇるじゅさんは、空いた皿を全部ワゴンに載せると、一礼して、部屋から出て行った。
「…………ふぅ」
「いっぱい食べたな」
お水飲んで、向かいに座っていた聡真さんに顔を向けると、聡真さんは満足そうに口元を拭いていた。
「ナイフとフォークの使い方、上手くなったな」
「ホント?」
「あぁ、本当だ。次は、箸だな」
「…………む」
箸が一番難しい……。確かに箸は使えるけど、正しい持ち方ができない……。
嫌なこと思い出して、むくれるボクを聡真さんはおかしそうに笑った。
「そう焦ることはないさ。
おいで、食後だ。少しゆっくりしようか」
テーブルから席に立って聡真さんは手招きする。
行き先は……あの大きなソファーだった。
ソファーに、聡真さんは先に座ると、自分の隣を手で叩いた。
分かる。隣に座れってことだよね?
そっと聡真さんの隣に座って、その肩に寄りかかる。お腹いっぱいなせいか、疲れているせいか、身体がちょっとだるい。ボクはそのまま聡真さんに身を任せた。
窓の向こうにはもう真っ暗になっちゃった空と海がある。
窓越しに波の音がする。ザザァ、ザザァって、海が近いから部屋の中にいてもよく聞こえる。海にあんまり馴染みがないから今までなんとも思わなかったけど、良い音だなぁ……。
そんな時にふいに、ふわっと香る聡真さんの匂いが香った。
うん、落ち着く……。
「稔、今日は楽しかったか?」
「うん……すごく楽しかった。旅行って良いね。食べ歩きも写真も好きになった……」
「そうか」
「着物はちょっと恥ずかしかったけどね」
「だろうな……」
「あとは……」
ボクの話を聡真さんはずっと聞いてくれた。ボクの気持ちとか思ったこととか取り留めないことをずっと……。
それが嬉しくてたまらなかった。
だから。
「聡真さん、ボク、多分世界一幸せだよ。だって今、すっごく胸がいっぱいだから……」
「…………」
「聡真さんはどう?」
「…………」
「……? そうまさん?」
つい聞いちゃった質問。
でも、返事がない。
不思議に思って聡真さんの方を見上げると、聡真さんと目が合った。
「っ!」
びっくりした。ずっとボクを見てたみたい。
「そ、聡真さん?」
戸惑っていると、聡真さんの左手がボクの腰に回された。
「……君は違うな」
「……?」
「やはり興味深い」
「な、何の話?」
意味が分からなくてボクは戸惑う。そんなボクに、聡真さんは……笑った。
「ごめんな。違うんだ。
俺は……稔に良い子だって言いたかったんだ」
良い子。
その言葉に、ボクはハッとなる。すると、聡真さんの右手がボクの頭を撫でた。
この優しい手つき……ボクは、知ってる。そう、あたたかくて、きもちよくて、あんしんする……。
「良い子、良い子だな、稔」
聡真さんの声を聞いてると、頭がふわふわしてくる。眠いけど……頑張って聡真さんを見上げる。おきてる間はそうまさんを見てなきゃいけないから
「ちゃんと言いつけを守ってえらいな」
聡真さんがボクをぎゅっとだきしめてくれる。うれしくて、いつものように聡真さんの膝に乗って、その胸に飛び込む……あったかくて、きもちよくて、あんしんする……ぼくのいばしょ……。
だきしめている間も、聡真さんはずっとボクの頭を撫でてくれた。
だけど、何処からか布が擦れるそんな音がして、そして……。
「稔。俺の幸せはね、こんな一日では得られないんだ。
…………今夜も頑張ってくれるよな?」
聡真さんの声がした瞬間、ボクの視界は真っ暗になって……腕にちくりと何かが刺さったような痛みがした。
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