君の為の不幸だったと貴方は言う

春目

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初めての旅行に行く少年の話

Q1. 初めて尽くしの旅行

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 聡真さんから旅行に行かないかと誘われた時、ボクは驚いた。
 だって、りょこうって言葉聞いたことなかったし、家以外の他所の場所に行ってかんこー?するとかよく分かんなくて……ホテルに泊まると聞いた時も、とても戸惑った。

「ホテルって聡真さん、何するの?
おうちがあるのに、なんで、わざわざホテルに行くの?」

    ボクの疑問に聡真さんは笑って答えた。

「非日常を味わいに行くんだ」
「ひにちじょー?」
「普段通りの生活では絶対に味わえない時間。そういうものだ」

 ボクが首を傾げると、聡真さんは徐にボクの頭に手を伸ばし、いっぱい撫でた。

「夢のような休日を過ごそうか」

 聡真さんはそう言って、ボクの手を取った。




 それから、2週間経って東京駅から電車に揺られて聡真さんに案内されて来たのは、鎌倉という場所だった。
 駅を出た瞬間、人が多くてびっくりした。
 何処をみても、みっしり、ぎゅうぎゅうに、人がいる。そして、その人達は全員同じ方向を向いてどこかへ向かって行っていた。

「みんなどこに行くの?」
「観光、買い物、通り道……まぁ、皆、それぞれだな。後で俺達も同じところに行くぞ」
「?」
「まずは荷物を預けたら、呉服屋に行こう」
「ごふくや……?」

 また知らない単語にボクは目を瞬かせるしかなかったけど、聡真さんは何だか楽しそうだった。
 そうして一緒に行った呉服屋。
 レンタルきもの?というものを聡真さんが頼んだと思ったら、突然、ボクはメガネをかけた女性の店員さんに店の奥に連れ込まれた。

「わぁ!」
「お客様ぁ、お可愛いですねぇ~! ハァ、ハァ……とってもお可愛い~! お顔立ちもお身体も幼げな感じなのに、どことなく物憂れげな色気があって……清楚で可憐で儚げなこの感じぃ……! 未亡人? 幼妻? いずれにしろ、お可愛いですぅ~! 額縁に飾りたぁい~!」
「え、と、あ、ありがとう、ございます……?」
「お客様は男の子ですけどぉ、こんなお可愛いお客様にはぁ、私ぃ紺とか黒とか普通のは似合わないと思うんですよぉ」
「?」
「ちょっと、私の趣m……ではなく、センスにぃ、任せてみませんかぁ?
 ハァハァ……お客様に絶対似合う着物を選びますのでぇ~」
「え、えっと……きものとかよく分からないし、それで……お願いします」
「よっしゃ! じゃなかった!
 では、着物と帯と足袋、そして髪飾りを選びますね~」
「かみかざり……?」

 流石のボクでも髪飾りは知ってる。でも、あれって女の子しか付けないんじゃないのかな……?
 ボクが不思議に思ってると、店員さんはメガネをくいっとあげてメガネを光らせた。

「髪飾りなんて何も変じゃないですよぉ~? えぇ、お客様みたいなお方なら特に!」
「そうなの?」
「はぁい、ぜんぜぇん、何も! 問題ありません!ハァハァ……。
 後で、お化粧もしましょうねぇ~」
「化粧……?」

 化粧も女の子がするものじゃないっけ?
 何だか悪い予感がしたけど、任せてしまったし、ボクはとりあえず店員さんの言う通りにすることにした。
 だけど……。

「出来ましたぁ~! 完璧ですぅ」
「………………」

 鏡に映ったボクは、言葉を失うくらい可愛い女の子になっていた。

「………………」
「お客様ぁ最高ですぅ。
 白グレーのレース着物が良くお似合いでぇ! 
 因みに1個1個説明するとぉ、このレトロチックな白の振袖の着物、ちっちゃな花を沢山あしらってて可愛いでしょう~! それからぁ、胸からちょい見えしてるレースの半衿に、ハァ、ハァ……萌え袖みたいになってるフリル袖、ちょい見せしてる足元のレーススカートも最高ですよねぇ~。これを男の子が、ぐふっ、ふふふ……。
 ちなみに、シックなお花とリボンで飾りましたこの帯、実は光に当てると……ほら、凛々しい鳥さんがいますよねぇ? この可愛さ全開なだけじゃなくて、僅かに男の子らしさも出してこそ、ナニとは言いませんがアレが興奮しますよねぇ。醍醐味ですよ~。
 で、羽織はこの時期にピッタリなレース羽織です。広げると蝶々が舞ってるんですよぉ、最高ですねぇ!振袖がヒラヒラする度に合わせて蝶が舞うんですぅ。あぁ、私も貴方の周りを舞いたい……!
 で、髪飾りは控えめなお客様にぃピッタリなぁ、小さな目のお花をいっぱい飾った髪飾りにしてますけど、歩く度に霞草の花が揺れるようにしてあるんでぇ、周りの視線奪いまくりですよぉ。
 ハァ……ハァ……本当に、よくお似合いでぇ……食べちゃいたいくらいにぃ……最高に可愛いですねぇ……」

 鏡に映る女の子はすごくキレイ。とってもカワイイ。でも、自分なんだよな……。
 自分じゃなくて他人だったら、キレイだって素直に褒められるのに、自分となると戸惑うしかない。

「え、えっと……こういう着物、男の子とかでも着るの?」
「はぁい! 男のはみんな着ます!」
「そ、そうなんだ……。ボク、世間知らずだから知らなかった……」

 世界って広い……。
 男の子でもこういうの着るんだ。
 ちょっと恥ずかしいけど、店員さんも何だか満足そうだし、似合ってるらしいし、これでいいのかも……?
 いや、やっぱり良くない気がする……。

「お客様ぁ、じゃあお連れ様もお待ちですし、外に行きましょうか。
 あ、歩く時はちょっと内股意識して、歩幅狭くして歩いてくださいねぇ」
「は、はい」
「あ、忘れてました。これが本日のお客様のお履き物ですねぇ」
「…………あの、このぞうりもなんか、女の子が履いてそうな可愛いぞうりなんですけど? ま、間違っていませんか?」
「いいえ、(私の趣味とセンスは)何にも間違っておりません!」
「そ、そうなんだ……」
「出来たら、後でお写真撮っていいですか? 超可愛いんで私のスマホに ……じゅるりっ……」

 何だか不安になってきた……これで本当に大丈夫なのかなぁ……とりあえず聡真さんと合流する為に、お店の入口に戻る。
 そこにはボクを待っていたらしい聡真さんの背が見えた。けど……その格好は。

「聡真さんも着物だ……!」

 駆け寄ると、聡真さんが振り返った。
 シンプルな黒い着物。足元だけ葉っぱの模様があって聡真さんに似合ってた。

「すごくかっこいい……! 僕もそっちの方が良かったかな……?」
「…………」
「ん? 聡真さん?」

 一向に反応がなくて聡真さんの目を見る。
 聡真さんはボクをびっくりした目で見ていた。

「…………稔か? その格好、どうした?」
「!」

 そうだった。聡真さんの着物姿で忘れちゃってたけど、今、ボク、女の子みたいな格好になってたんだった。
 急に恥ずかしくなってくる。かぁ、って顔が熱くなる。

「や、やっぱり、変だよね。店員さんが男の子も着るって言ってたけど、どう見ても女の子用だよね……」
「…………」

 聡真さんはすっかり黙り込んじゃった。
 やっぱり変だったんだ。この格好。
 着替え直しとか……出来るのかなぁ……。

「聡真さん、ボク、着替え……」
「いや、そんな時間はないな」
「え?」

 腕時計を見ながら聡真さんはすごく冷静に、ボクの格好なんて何とも思っていないのか、そう言った。

「君が嫌でないなら、そのまま行こうか」
「え、えぇ!?」
「……嫌か?」

 聡真さんの目がボクを見る。そこには真っ赤になっている可愛い女の子がいた……とてもボクとは思えない。
 でも……。

「聡真さん……この格好、似合ってる?」

 恥ずかしくてつい俯いて、もじもじしながら聞く。けれど、ボクは知ってる。聡真さんなら、からかったりしないで、真面目に答えてくれるって……。
 そう思っていると、聡真さんの腕が伸びて、その手がボクの頭に触れたのが視界の隅に見えた。

「あぁ、似合ってる」

 撫でるその指が優しい。そっか、じゃあボクは……。

「このままで良いや。聡真さんが似合うって言ってくれるなら」
「……分かった」

 聡真さんの手に引かれ、大股で歩かないようにそっと足を出して外に出る。
 外は相変わらず人がいっぱい。聡真さんが着ているような着物姿の人もいるし、よくよく見たらボクと似たような格好してる着物姿の人もいる。
 ……それがちょっと心強い。

「稔。行こうか」
「うん」

 聡真さんの後を着いていくように、歩き出す。
 何だか段々と楽しくなってきたかも……。
 そんな時、呉服屋の方からメガネの店員さんの「しゃしんー!しゃしん!! しゃしーん! ワタシのオカズがー!」という声が聞こえた気がした。

「聡真さん、呉服屋さんから店員さんの声が聞こえない?」
「気のせいだ」
「そ、そっか……」

 聡真さんがそういうならそうなのかも。
 ボクは店員さんから写真撮らせて欲しいというお願いもすっかり忘れて、鎌倉の街に聡真さんと一緒に入っていった。










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