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とある夜の街に住む少年の話
Q11. その檻は君の揺籃にして君の監獄
しおりを挟む大量の写真……これ、一体、なんだろう……?
「そ、うま、さん……?」
「稔。君はどうしてもご褒美が欲しいか?」
「……………………え?」
「ご褒美、いらないか?」
「う、ううん。ほしい。だって、いっしょがいい……あさ、だれもいないのやだ……」
「そうだな。それに、君は俺から離れたら冬に襲われてしまうからな」
「……! ふゆ、きらい……!」
「じゃあ、何でも言うこと聞けるな?」
「うん……きく……」
聡真さんの手がボクの頭をなでる。
良い子。良い子って。
指先一つ一つ、温かくて、ボクを褒めてくれるみたい。
心地いい。もっとなでて欲しい。もっと褒めて欲しいから……良い子にならなきゃ……聡真さんの言うこと何でも聞かなきゃ……。
「…………なに、したら、いい?」
「この中に、知っている人間がいたら、全員教えてくれ」
「おしえる……」
「思い出せる分だけでいい。名前や性格。何をしたのか……何をされたのか。
君の思い出を全部話して欲しい。包み隠さず、全て……」
「うん、わかった……」
「良い子だ」
ボクは聡真さんにいっぱい話した。
本当に、いっぱい……。
写真を見ながら、聡真さんの腕の中で、ずっと。
その人の名前も、性格も、思い出も、どんな風にボクの体に触れたかさえ……全部。
聡真さんは全部話すボクに良い子だって褒めてくれた。
いっぱい話した分、いっぱい褒めてくれた。
それが嬉しくて、嬉しくて……。
聡真さんに褒められることしか考えられなくて、頭がもっとぼんやりしてくる。
「稔、君は良い子だ」
「…………うん」
「良い子だから、まだ話せるな?」
「…………うん」
「良い返事だ。
じゃあ……君のおとうさんとおかあさんのことも、全部教えて?」
「……おとうさんと、おかあさん……うっ」
言わなくちゃと思って、思い出そうとした瞬間、嫌な思い出が頭の中をぐちゃぐちゃにしていく。
おとうさんの怒鳴り声が、おかあさんの金切り声が、酒瓶やタバコがボクに向かって飛んでくる。
「あぁ、あぁっ……ごめんなさい、ごめんなさい……やだ。いたい、やめて……ごめんなさい。ボクが……ボクが……」
「稔」
ぎゅっと抱きしめられる。
パニックになっていたボクは助かりたい一心で、それだけでしがみついた。
「意識を沈めすぎたな。戻っておいで。
ほら、ここはどこだ?」
「そうま、さん、の、そば……」
「そう、俺の傍は?」
「あたたかい、きもちいい、あんしんする……」
「そう。だから、君は大丈夫だ。誰も君を襲わないよ」
「うん……」
聡真さんに抱きしめられてやっとホッとする。
怖いの嫌だ。痛いのも、寂しいのも、寒いのも全部嫌。やっと普通の子になったのに……逆戻りしたくない。
でも、聡真さん、聡真さんがいれば大丈夫。あたたかくて、きもちよくて、あんしんする。
しあわせになる。
聡真さんの肩に、ボクは顔を擦り付けた。
「そうまさん……」
「素直に甘えられて良い子だ」
「うん……」
「今日はこの辺りにしよう。本当は今日で終わりたかったが、君にとって両親はトラウマそのものだ。ゆっくりやろう」
「うん……」
「それに、何も出来なかったわけじゃない。
稔。気づいているか?」
「……な、に?」
その言葉を不思議に思っていると、ぎゅっと抱きしめていた聡真さんの手が離れる。
「そうまさん……?」
「……稔。見て」
見てと言われた方を見ると、そこには写真でいっぱいの真っ白な画面がある。
全部、人の写真だった。それも1枚1枚、全部違う人だ。
正面からとった写真、遠くからとった写真、家族ととった写真、自分でとった写真……いっぱいある。
いっぱいあるけど……。
……もう何だか、すごくどうでもいい。
そんなものより聡真さんとお話したい。もっと褒められたい。もっとなでられたい。なのに、何なんだろう……。
「そうまさん……もういい?」
「あぁ、大丈夫だ。
確認したかっただけなんだ。稔は良い子だから、万が一もないだろうとは思っていたんだが」
「まんが、いち……?」
「……稔。そういえば、君は俺に出会う前、街で怖い思いをしていなかった?」
「こわいおもい……?」
「あぁ、例えば、女の人を見なかった?」
こわい……? おんなのひと……?
「なんのこと……?」
「……そうか。入念にやったから、最早そうなるか」
「ん?」
「あぁ、気にしないでくれ。稔が本当に良い子だって分かったから」
頭をなでられる。わしゃわしゃって。
よく分からないけど、聡真さんが良い子だって言うなら、もうどうでも良い。
ボクには聡真さんがいればいいから。
それだけでしあわせになれる。
そう、ボクはしあわせなんだ……。
「稔。今日はもう寝ようか?」
「うん……いっしょに、ねてくれる?」
「あぁ、ご褒美だからな」
「ごほうび……」
「稔はとても頑張った」
「……うん」
ボクが頷くと、突然、視界が真っ暗になる。
……気づけば、聡真さんの大きな手が、ボクの両目を塞いでいた。
「そうまさん……? くらいよ……」
「稔。俺の声だけ拾って」
「! うん……」
「力を抜いて、俺に体を委ねて」
目を塞がれたまま、言われた通り、力を抜いて、手足も、体重も、身体の全部、ボクの全て、聡真さんにあげる。
そうしたら良い子だって聡真さんが頭を撫でてくれるから……。
ただこうしてるとだんだん……ねむたくなってくる……。
「それでいいんだ。稔。今日は疲れたろう」
疲れた? うん、つかれた。聡真さんがいうならそうだろう。
つかれたって分かると、からだがずっしりおもたくなる。
いしきが遠くなっていく。ねむくて、ねめくて……でも、聡真さんの声だけははっきりきこえた。
「俺の質問に答えて」
「……うん」
「目は何を感じる?」
「……そうまさんのて」
「耳は何を感じる?」
「…………そうまさんのこえ……」
「鼻は何を感じる?」
「…………そうまさんの、におい……」
「指先は何を感じる?」
「………………そうま、さん……」
「今、君は誰と話している?」
「……………………そ……まさ、ん」
ぜんぶ、そうまさん……。
ボク、いま、ぜんぶ、そうまさんにつつまれてる……。
「温かい?」
「……う、ん」
「気持ちが良い?」
「……うん……」
「安心する……?」
「うん……」
「 …………幸せ?」
そのしつもんのこたえはもちろん……。
「しあわせ……」
ボクのこたえに、そうまさんがわらったのがわかった。
あたまにそうまさんのてのひらをかんじる。
しあわせ……しあわせ……そうまさんといるのはしあわせ……そうまさんにぜんぶあげてもしあわせ……。
ボクのしあわせはそうまさんだ……。
「良い子だな、稔。本当に良い子だ。
俺が何も言わなくても、ちゃんと分かっている。俺が君に強いた思考の檻を君は居心地の良い揺籃だと感じているんだろう。自分から強く思い込んで、より檻を堅牢なものにしている。
君は偉いな。とても偉い……。
君は俺の理想だ。だからこそ、囚われてくれ。俺の檻に。
そのまま一生閉じ込めて大事にしてやるから……。
さぁ、おやすみ。良い子。
……目覚めたら、君は正気に戻る。この時間のことは忘れてしまうだろう。でも、稔ならちゃんと心の底で理解しているから大丈夫だ。
何があっても、君は、俺から離れることは出来ない、と……」
ひたいに、やわらかい、かんしょくと、ちゅ、っていうおとがする。
なんだろう……とっても、あまい……
「愛しているよ、稔」
ボクは、そこでぜんぶ、てばなした。
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