君の為の不幸だったと貴方は言う

春目

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とある夜の街に住む少年の話

Q4. ボクの昔話

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 ボクのおかあさんとおとうさんには、元々お互いに好きな人がいた。
 その好きな人との生活はとってもしあわせだったんだって。
 でも、ある日、2人ともちょっと遊びたくなっちゃって2人で遊んだ。
 ……そしたら、ボクが生まれちゃった。
 事故だって、本気じゃなかったって、2人は言ってた。
 でも、生まれちゃったせいで、おかあさんとおとうさんのしあわせはなくなった。
 2人は好きな人に嫌われちゃって、それまでの人生も壊れちゃって、不幸になっちゃった。
 2人はボクのせいだって怒った。いつまでも、いつまでも、ずっと。ボクさえいなければ、しあわせだったって。
 だから、毎日ボクを叩くのも、ボクを打つのも、当然の話で……。
 ボクは生まれたら本当にダメな子だったんだ。
 だから、ボクは2人の前からいなくなることにした。
 最初は部屋の隅で息すらしないように頑張って隠れながら2人の傍にいたけど。2人はボクが視界に入るだけでイライラして不幸になるみたい。
 じゃあ、いなくなった方が2人のためになるってある時ボクは気づいて、2人がいるおうちから出て行った。
 でも、ボクみたいな子が行く場所なんてないから、ずっと迷子みたいにふらふらするしかなかった。
 だけど、ボクは運が良かった。
 ずっとアテもなく歩いていたら、いつの間にか夜の街に着いていた。
 夜の街はキラキラしていて何処も明るくて見ているだけで凄く楽しかった。
 そんなとき、おじさんに声をかけられた。

「君、カワイイ子だね? おじさんが奢るからイイコトしようよ」

 イイコトが何か分からなかったけど、誰かに話しかけられるなんて初めてでびっくりした。ボクは生まれてからずっと自分は捨てられたゴミと同じようなものだと思っていたから。
 びっくりしているボクをおじさんはホテルに連れて行った。そして、おじさんはボクの身体を、好き勝手した。
 おじさんの言うイイコトは、ボクにとってあんまり楽しいものじゃなかった。
 痛いことばかりでおじさんの言う気持ちがいいとかよく分からなかった。
 恥ずかしいし、汚いし、身体が辛いし、本当に全然楽しくなかった。
 でも、おじさんが気持ちいいって言ってくれたから……ボクと出会ってしあわせそうだったから。
 何だかそれも悪くないことのように思えた。
 むしろ、おかあさんもおとうさんもボクには向けたことない嬉しそうな顔をおじさんがしていたから、ボクにもこういうことが出来るんだと思って嬉しかった。
 そこで気づいた。

 ボクの居場所はここだって。

 ボクは毎日のように夜の街に行った。
 すると、何日かに1回、おじさんみたいにボクを誘ってくれる人がいる。
 みんなボクの身体を欲しがった。よく分からないけど、その人達から見ると、ボクはとってもカワイイんだって。えろい?気持ちになるとかも言ってた。
 だから、ボクはボクの身体をみんなにあげた。
 身体をあげて、ボクが我慢して頑張れば、みんなボクにかまってくれる。
 たまにボクに乱暴したり変なクスリを飲ませてくる人もいるけど、そう言うのは逃げちゃえばいいし、そういう人達以外はみんな優しい。ボクのおかあさんやおとうさんに比べればずっとずっと……。
 だから、夜の街が大好き。
 そこにいれば寂しいと思うことも悲しいと思うこともない。ボクの手を取ってぬくもりをくれる、そんな産まれちゃいけなかったボクを好いてくれる人がいっぱいいる。
 ボクの居場所。
 ずっといたい、出来ればずっと。
 身体一つでこんなにしあわせになるのだから。

 ……でも。

 みんな、ボクを欲しがるのは最初だけ。最後はみんな、お別れしてしまう。
 最初に出会ったおじさんは何日か一緒にいたけど、結局、新しい子を見つけたとかでお別れしちゃった。他の人も段々と会わなくなったり、他の子のところに行ったりして、二度と会うことはなかった。
 他の子の方に行くのはまだ良い。ボクみたいな生まれたらいけなかった子より望まれて生まれた他の子の方がずっと偉いから、その子がしあわせになるのは当然だ。
 でも、理由もなく段々と会わなくなってお別れするのは辛い。
 まるでボクを忘れていくみたいに、みんな何処かに行ってしまう。そして、最後にはボクなんて最初からいなかったみたいに……おかあさんやおとうさんみたいに無視するんだ。






「でも、それは結局、ボクが元々いらない子だから……仕方がないんだと思う。
 ボクはお酒とかタバコとかそういうのと変わらない。一晩で飲みきって、一瞬で吸っちゃって、終わり。
 本当に寂しいけれど……」
「………………」
「今日、お兄さんに会えて良かった。
 ボク、良い子って初めて言われた。
 身体をあげるぐらいしか出来ないボクだけど、お兄さんにとってボクは要らない子でもカワイイ子でもなく、良い子なんだ。
 褒められることもあんまりないから嬉しかった。
 良かった……ありがとう」

 ボクは笑顔を作る。これでありがとうって伝わるかな?
 上手く出来たつもりだけど、目の前にいる、ボクの笑顔を見た男の人の顔はボクの予想とは全く違う顔になった。
 何だか傷ついているような、そんな複雑な顔だった。

「何かダメなことを言った?」
「いや……違う。君の問題じゃない」
「?」

 ボクが首を傾げると、男の人はボクから空の方へその目を向けた。
 ボクもつられて空を見る。
 ビルとビルの隙間にあるこの場所から見える空はびっくりするほど小さい。空の色だってよく分からないぐらいに。
 そんな空を男の人はじっと見上げていた。そして、突然。

「君が望むなら……。
 俺が君を幸せにしようか……?」

「……え?」

 突然のその問いに、ボクは頭が真っ白になった。どういうことだが飲み込めなくて、つい手を胸の前で握りこんでしまう。
 でも、男の人は話し続けた。

「とはいえ、君が俺と約束出来るならだが……」
「やくそく?」
「そう。でも、君は良い子だ。君ならきっと出来るだろう」

 男の人の目が空からボクへ移る。
 その目にはもう空なんかなくて、ボクしかいなかった。

「一切、俺に嘘を吐かないこと」

 その約束はとても簡単そうで、けれど、何故か嫌な予感がして。

「たったこれだけだ。これさえ守れるのなら、君の為に俺は何でもしよう」

 でも、その提案は断れないほどボクにとって夢みたいな話で。
 ボクはただただ呆然と見上げて、目の前に座るその人を見つめるしかなかった。
 だから……。
 遠くから聞こえるおまわりさんの車の音も、塀越しに落ちる明かりに赤色が混ざったことも、さっき、目の前に降ってきたあの女の人のことも……あのビルの屋上にいたあの人のことも……みんな頭の中からどっかに行っちゃった。




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